ドミナトリクス（ドム）とは、BDSMの活動で支配的な役割を担う女性のこと。BDSMの実践は女性支配、またはフェムドムと呼ばれます。ドミナトリクスは性的指向を問いませんが、必ずしも服従相手の性別を限定するものではありません。
ドミナトリクスは服従者に肉体的苦痛を与えることでよく知られていますが、すべてのケースで行われるわけではありません。言葉による屈辱や屈辱的な仕事を課すなど、エロティックな屈辱が用いられる場合もあります。支配者はまた、他の形態の隷属も利用します。多くのBDSMやその他のさまざまな性的関係に共通する支配の実践もまた、広く行われています。ドミナトリクスという用語は、プロではないBDSM場面ではほとんど使われていないため、ドミナトリクスは一般的に有料のプロ（プロドム）です。
用語と語源
ドミナトリクス（Dominatrix）はラテン語のdominator（支配者、領主）の女性形であり、もともとは性的な意味以外で使われていました。
英語での使用は少なくとも1561年にさかのぼります。サドマゾヒズムにおける女性支配者という、一般的な現代的意味での使用は1961年に記録。当初は、ブルース・ロジャーのパルプ・ペーパーバック『The Bizarre Lovemakers』（邦題：『猟奇的なラブメイカーたち』）のケース・スタディーのひとつとして、報酬に見合った罰を与える女性を表現するために作られた造語でした。1968年のマイロン・コスロフのタイトル『Dominatrix』（ボンデージ・コミック作家エリック・スタントンが挿画を担当）により、この用語はほどなく取り上げられていき、ショーン・コステロ監督の映画『Dominatrix Without Mercy』（1976年）の後、より一般的に知られるようになりました。
ドム（domme）という用語は、スラングのdom（dominantの略）の擬似フランス語の女性形の造語でしょう。支配的な役割にある女性がドム、ドミナトリクス、フェムドム、ドミナントを使用することは、おもに個人的な好みとローカルなBDSM場面の慣習によって選択されます。ミストレスまたは支配的なミストレスという言葉も使われることがあります。女性支配（フェムドムとも）は、支配的なパートナーが女性であるBDSM活動。しかし、ミストレスという言葉はメディアではよく使われますが、既婚男性と不倫関係にある女性という意味での愛人と混同される可能性があり、パートナーの浮気という否定的な意味合いをもつ言葉であるため、BDSMコミュニティのメンバーはこの言葉を避けることが多いです。BDSMコミュニティとポリアモリー・コミュニティの間には、倫理的な行動が最大の関心事であるため、このような関係はすべて不賛成の元となります。
ドミナトリクスという言葉は使われませんでしたが、オーストリアの作家レーオポルト・フォン・ザッハー＝マーゾッホが1870年に発表した小説『毛皮を着たヴィーナス』に、女性支配者と男性服従者の関係の典型的な例が描かれています。マゾヒズムという言葉は、後に1886年にリヒャルト・フォン・クラフト・エビングが発表した法医学的研究書『性の精神病理』のなかで、マゾッホの名前から派生しました。
歴史
ドミナトリクスの歴史は、古代メソポタミアの女神イナンナ（アッカド語ではイシュタル）の儀式にまでさかのぼると主張されています。「イナンナへの讃歌」で構成される古代の楔形文字テキストは、強力で性的な女性が支配的な振る舞いを見せ、神々や男性に服従を強いるという原型の例として挙げられています。イナンナの儀式にはカルト関係者の女装や、「苦痛と恍惚に満ちた儀式は、イニシエーションと変性意識の旅をもたらし、罰、呻き、恍惚、嘆き、歌、参加者は泣きと悲しみで疲れ果てていた」とBDSM歴史家のアン・O・ノミスは記しています。
フィリスとアリストテレスという架空の物語が12世紀以降に人気を博し、多くの版を得ましたが、これは、最も偉大な哲学者の男性の知性を誘惑し、支配した支配的な女性の物語です。物語のなかで、フィリスはアリストテレスを地面にひざまずかせ、無理やり背中に乗って彼を鞭打ち、言葉で辱めます。
この職業は、売春宿のなかで専門的に行われるようになったようですが、その後、独自の路線を歩むようになりました。遡ること1590年代には、エロティックな場でのFlaug’dが記録されています。この職業は、大英博物館のメゾチント「The Cully Flaug’d」（1674～1702年頃）のような当時のエロチックな版画や、鞭打ちの学校や行われた行為を記録した禁書の記述に登場します。
18世紀には、女性の「バーチ・ディシプリン」たちが、講義集や演劇集という仮面をかぶった『ファッショナブル・レクチャーズ』（1761年頃）という本で、自分たちのサービスを宣伝していました。この本には57人の女性の名前が掲載されており、女優や花魁もいます。彼女たちは白樺しつけの空想に応え、部屋に鞭と九尾の猫を置き、講義のためにギニー金貨を客に請求していました。
19世紀は、ノミスが「家庭教師の黄金時代」と特徴づける時代。1840年代までに20軒以上の施設が存在したと記録されており、それらはすべてフラジェレーションによって支えられ、売春宿とは異なる「しつけの家」として知られていました。有名な「ドミナトリクス家庭教師」には、チャルマーズ夫人、ノヨー夫人、ハートフォード・ストリートとロンドン・ストリートのジョーンズ夫人、テレサ・バークリー夫人、ヨーク・スクエアのベッシー・バージェス、バートン・クレセントのパイリー夫人などがいました。これら「ドミナトリクス家庭教師」で最も有名なのは、ロンドン中心部メリルボーン地区のシャーロット・ストリートで店を開いていたテレサ・バークリー。彼女は、男性客を懲らしめ罰するために、鞭、杖、白樺などの器具を使ったと記録されています。また、バークリー・ホースという特別に設計された鞭打ち機や、男性客を床から吊り上げるための滑車吊りシステムも使用。このような歴史的な体罰や吊り革の使用は、支配のロールプレイの場において、現代のプロの支配者の実践と非常に密接に結びついています。
レザーのカチューシャ、爪、尻尾の鞭、ラテックス・ラバーなどの「ビザール・スタイル」（と呼ばれるようになった）は20世紀になってから、最初は商業的なフェティッシュ写真のなかに生まれ、ドミナトリクスによって取り入れられました。20世紀半ば、ドミナトリクスたちは非常に控えめでアンダーグラウンドなやり方で活動していたため、歴史的記録から追跡することは困難。ロンドン、ニューヨーク、ハーグ、ハンブルクのヘルベルト通りでドミナント・ビジネスを営んでいた女性たちの写真が数枚残っていますが、主にセピア色や白黒の写真、雑誌記事のスキャン、コピーや再コピーによるもの。
ロンドンのドリーン嬢は、アトムエイジで有名なジョン・サトクリフと知り合いで、その顧客には英国の一流政治家や実業家が含まれていたそうです。ニューヨークでは、1950年代にドミナトリクスのアン・ローランスがアンダーグラウンドの知人間で知られていましたが、1960年代初頭にモニーク・フォン・クリーフが現れ、1965年12月22日に彼女の自宅が警察の手入れを受け、全国的な大ニュースとなりました。フォン・クリーフは1970年代にハーグに「苦痛の家」を設立し、弁護士、大使、外交官、政治家などが訪れるドミナトリクスの世界的な中心地となりました。ドメニカ・ニーホフはハンブルクでドミナトリクスとして働き、1970年代からドイツのTVトークショーに出演し、セックスワーカーの権利のキャンペーンを行いました。ニューヨークで最も有名なBDSMスタジオのひとつであるパンドラの箱の創設者兼支配人であるミストレス・レイヴンは、ニック・ブルームフィールドの1996年のドキュメンタリー「Fetishes」に登場しました。
プロの支配者
ドミナトリクスという用語は、ほとんどの場合、服従者とのBDSM行為に従事するために報酬を得ている女性のプロの支配者（または「プロドム」）の意味。プロのドミナトリクスは、官能的でエロティックな交流があるにもかかわらず、娼婦ではないという人もいます。予約やロールプレイは「セッション」と呼ばれ、多くの場合、ダンジョンという専門的な設備が整ったプロ専用のプレイ・スペースで行われます。技術的な接続性の現代、セッションはまた、手紙や電話、または電子メール、オンラインチャット、OnlyFansのようなプラットフォームを使ってリモートで行われることもあります。 女性のプロの支配者のクライアントのほとんどは男性。
女性支配に従事する女性は通常、「ドミナトリクス」「ミストレス」「レディ」「マダム」「ヘリン」（ドイツ語で「ミストレス」の意）または「女神」という用語で宣伝し、自分自身を称します。アンドリュー・ウィルソンの説によると、ドイツのドミナトリクスに関する研究のなかで、ドミナトリクスが名前を選ぶ傾向は、階級・女性らしさ・神秘性がアイデンティティの重要な要素であるという雰囲気を作り出し、維持することを目的としています。
プロの支配者には、クライアントに最低年齢制限を設けているところもあります。顧客からの人気リクエストは、緊縛、スパンキング、コックとボールの拷問を含むダンジョンプレイ、またはフード、ガスマスク、尿道音を使用した医療プレイ。小さなペニスへの屈辱など、言葉によるエロティックな屈辱も人気があります。顔面騎乗、手コキ、フェラチオなどの性的接触行為に従事するプロの支配者もいますが、これを否定する者もいます。他のBDSMの活動には、足フェティシズム、尻崇拝、乳房フェティシズム、女性器フェティシズムなど様々な身体フェティシズム、からかいと拒否、乳房拷問、杖打ち、鞭打ちなどの体罰、オーガズムの拒否、および顔面平手打ち、毛抜き、性器への熱いワックスの滴下、唾吐き、ゴールデンシャワー、強制貞操、コックとボールの拷問、女性器拷問などが含まれます。
ドミナトリクスは自分の職業をエスコートとは異なると考えていて、縛りやイジメや「ハッピーエンド」を行わないことも珍しくありません。一般的に、プロのドミナトリクスは客と性交渉をもたず、客と裸にならず、客に触らせません。カナダのドミナトリクスであるテリー＝ジーン・ベッドフォードは、カナダの売春宿に関する法律の無効を求めてオンタリオ州高等裁判所に提訴した3人の女性のうちの1人。この2つの用語が一般大衆に誤解され混同されることが多いため、メディアに対して売春婦ではなくドミナトリクスとしての職業を明確に区別するよう求めました。
とはいえ、現在ではプロのドミナトリクスはセックスワーカーであると一般的に受け入れられており、セッション中に行われる行為の多くは、参加者にとって等しく性的なものであると解釈されています。
ドミナトリクスはさまざまな背景をもちますが、かなりの数が高学歴であることを示しています。2012年に発表された米国のドミナトリクスに関する調査では、調査したサンプルの39％が何らかの大学院の訓練を受けていることが示されました。1985年の調査では、BDSMサブカルチャーの参加者の約30％が女性であることが示唆されました。1994年の報告によると、BDSMサブカルチャーに参加する女性の約4分の1は職業的に参加していました。1995年のインターネット・ディスカッション・グループのメッセージ研究では、異性愛者の男性によるメッセージの71％に対し、異性愛者の女性によるメッセージの11％で、支配的・主導的役割の嗜好が表明されました。
オンラインや、女性支配を専門とするコンタクト雑誌・フェティッシュ雑誌など、エロティック・サービスの広告を掲載する印刷出版物で、プロの支配者がサービスを宣伝しているのを見かけます。プロの支配サービスを積極的に提供している女性の正確な数は不明です。ほとんどのプロの女性支配者は、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンなどの大都市で活動しており、ロサンゼルスでは200人もの女性が支配者として働いています。
プロの支配者は、安全にBDSM行為を安全に遂行するために高度な知識と能力を誇りや差別化としています。複雑なBDSMの実践を行う技術的能力がサービスへの誇りであり個性でもあるわけです。複雑なBDSM行為には、クライアントのフェチや欲望に対する心理的洞察力、日本の縛り、ヘッドシザース、その他の緊縛、吊り、拷問ロールプレイ、体罰などがあります。
ダニエル・リンデマンは、社会学的な観点から、前衛芸術家に匹敵するような方法で、多くのプロドムたちが経済的な成功基準から距離を置きながら、専門的な知識と専門的なスキルを強調する「袂を分かった純潔体制」を述べています。
ドミナトリクスのなかには、金銭的な支配、あるいはフィンドム（financial domination）を実践する者もいます。フィンドムとは、ドミナトリクスの指示によって金銭や贈り物を送ることで興奮するフェチへの支配。場合によっては、ドミナトリクスが服従者から経済的支配権を与えられたり、「脅迫」シナリオが演じられたりします。この場合、多くは、支配者と服従者が物理的に会うことはありません。やりとりはインターネットを使って行ない、サービスを宣伝するのもインターネットでです。もともと、フィンドムは伝統的なドミナトリクスが提供するニッチなサービスでしたが、経験の浅いオンライン実践者に人気が出てきたのです。
ところで、ドミナトリクスであることを認識しながらも有料サービスを提供しない女性は、ドミナトリクスと区別するために、「ライフスタイル・ドミナトリクス」やミストレスということがあります。BDSMを意味するために「ライフスタイル」という用語を使うことには、BDSMコミュニティで論争になることがあり、この用語を嫌うドミナトリクスもいます。ライフスタイル・ドミナトリクスのなかには、従順な顧客との有料セッションに加え、無報酬のレクリエーション・セッションに従事したり、自分自身の私生活や人間関係のなかで権力交換を取り入れたりすることもあります。しかし、ライフスタイル・ドミナトリクスという言葉は、プライベートで支配的な女性に関する一般的な用法から外れており、「プロフェッショナル」という意味合いが強くなっています。ナタリー・ルガンドは2023年の著書で、厳格な区別は人為的だと述べています（A Psychodynamic Approach to Female Domination in BDSM Relationships: Sexuality Between Pleasure and Work）。
著名なドミナトリクス
カトリーヌ・ロブ＝グレはライフスタイル・ドミナトリクスです。1930年9月24日に仏国パリに生まれ、その後仏国で最も有名なライフスタイル・ドミナトリクスとなりました。彼女は作家、女優でもあり、ヌーヴォー・ロマンの先駆者でサディストのアラン・ロブ＝グリエの未亡人でもあります。彼女は現在、従順な伴侶である51歳の南アフリカ人女性、ベヴァリー・シャルパンティエと暮らしています。これほど有名なドミナトリクスでありながら、彼女は儀式に対する支払いを受け入れたことがありません。誰かがお金を払えば、その人が主導権を握ることになるので私は自由でいたいというのが彼女の立場です。関係者全員が、彼女は自分の喜びのためだけにやっていることを知っていることが重要なわけです。
カトリーヌは私の秘密の花園。私は身も心も彼女に捧げています。カトリーヌは、いつでも好きなときに好きなことを好きなようにします。https://www.vanityfair.com/news/2014/01/Catherine-robbe-grillet-interview
また、彼女は「セックス肯定派のフェミニスト」であり「男女を問わず、それが自由な選択であるならば、娼婦として働く権利を支持するタイプのフェミニスト」であると容認しています。
イメージ
ドミナトリクスは象徴的な女性の原型です。大衆文化では、ドミナトリクスの概念やイメージは一般的に強く支配的で性的な女性としての役割を果たし、この役割を示すために使う特殊な衣服や小道具と結びついています。ドミナトリクスの役割は、性的フェティシズムのイメージと関連していますが、前者は関係性を重視し、後者はフェティシストの欲望を重視する点が異なります。
20世紀にドミナトリクスのイメージは多くのアーティストの作品によって発展しました。
- シャルル・ガイエット…コスチューム・デザイナーで写真家
- アーヴィング・クロー…出版者で映画監督
- エリック・スタントン、ジーン・ビルブリュー…フェティッシュ雑誌『エキゾチック』向けにに絵を描いたイラストレーター
など。
ドミナトリクスに関連する衣装の一つにカチューシャがあります。1950年代に『アトムエイジ』誌とフェティッシュ・ファッション・デザイナーのジョン・サトクリフとのつながりによって、黒革の女性用カチューシャは支配的なフェティッシュ文化に入りました。主流文化への登場は『アベンジャーズ』のような1960年代の人気TV番組や、『キャットウーマン』のようなコミックのスーパーヒロインたちの強い女性主人公がカチューシャを着用したことに端を発します。カチューシャは「キックアス」な動きやアクションができる女性の自立を象徴し、完全に自由な動きを可能にしました。同時に、ワンピース型のカチューシャは性的な女性フォルムを際立たせて誇張し、女性の身体へ視覚的にアクセスできるようにすると同時に、物理的な侵入を妨害しました。「見れるが触れない」というメッセージは「イジメと拒否」として知られるBDSMの慣習を利用したものです。
もう一つの一般的なイメージは、革製や光沢のあるPVC製の太ももまであるブーツを履いたドミナトリクスの姿です。これらは長い間フェティシズム的な地位を占めており、非常に高いピンヒールとともにキンキーブーツということもあります。魚網のストッキング（網タイツ）、縫い目のあるメリヤス・ストッキング（フルファッション・ストッキング）、ガーターベルト（サスペンダー）も、エロティックな意味合いで脚の形や長さを強調するために、ドミナトリクスの表現や服装に使われています。
Eric Stanton from Leg Show
また、タイトな革製のコルセットも、ドミナトリクスに人気のある服装のひとつ。手袋は、長いオペラ手袋であれ、指のない手袋であれ、女性的な役割を強調するアクセサリーとして使われることが多く、首のコルセットも着用されることがあります。
ドミナトリクスは、フェティッシュ・ファッションの素材から作られた衣服を頻繁に着用します。たとえば、PVC製の衣服、ラテックス製の衣服、レザー・サブカルチャーの衣服など。レザーブーツや尖った帽子など、ドミナトリクスの服装の要素が、ナチス・シック、とく黒いSS将校の制服から引き出される場合もあります。この制服は、アンダーグラウンドのゲイやBDSMライフスタイル・グループによって広く採用され、制服フェチを満足させるためにフェティシズム化されています。
ドミナトリクスはしばしば、動物の世界における支配的な姿勢に匹敵するような、強く支配的なボディランゲージを用います。彼女が振り回す小道具は、20世紀初頭のブルーノ・ザックの作品に描かれているように、鞭や乗馬鞭など、ドミナトリクスとしての彼女の役割を意味します。
ドミナトリクスのキャラクターで、もう一つよく描かれる特徴は、タバコや大麻製品などの喫煙姿。タバコの喫煙は世界的に急速に減少していますが、BDSMの文献やメディアでは、喫煙のネガティブなイメージがドミナトリクスに関連する悪女（ファム・ファタル）のステレオタイプを強化するために、描写が増えています。
プロフェッショナルな支配の実践者は、その役割に関連する従来のイメージから服装を決めることもあれば、それをアレンジして独自のスタイルを作り出すこともあります。従来の期待に応えることと、支配的で独立した自己表現への欲求との間には、潜在的な葛藤があります。現代のドミナトリクスには、女神、女性スーパーヒロイン、ファム・ファタル、巫女、女帝、女王、家庭教師、KGBの諜報員など、さまざまな強い女性の原型を利用する者もいるのです。
文学
ドミナトリクスにまつわるテーマは、10世紀以降の文学に登場します。カノネス・フロスウィーダは手稿『マリア』で、主人公にドミナトリクスという言葉を使っています。彼女は、自分に恋する男たちには手に負えない女性として描かれています。ドミナトリクスとは異なりますが「手に入らない女性」というテーマは中世文学でも徹底的に使われてきました。中世の「手に入りそうで入らない女」をめぐるテーマは、社会階級や社会構造の問題に関係し、騎士道精神が男女関係の主要な部分を占めていました。
中世のこの傾向には例外もあります。セルバンテスの『ドン・キホーテ』（1605年）では、セラドンがガラテアに幽閉されています。セラドンは「ミストレス…ガラテアは私をこんなにも束縛する」。1648年に出版されたロバート・ヘリックの詩集『ヘスペリデス』には、「愛への讃歌」「夢」「愛へ」の3つの詩があり、支配、束縛、規律に対する男性の憧れを露わにしています。ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』では、登場人物のレオポルド・ブルームは、女性に服従し女性から鞭打たれる妄想を何度もしています。
大衆文化
映画やTVでは多くのドミナトリクスが描かれており、ほとんどの場合、プロのドミナトリクスが登場する。 大衆文化におけるドミナトリクスの描写には以下のものがあります。
- 『ユーフォリア/EUPHORIA』は、バービー・フェレイラが演じるキャット・ヘルナンデスがドミナトリクスとして月光を浴びるTV番組。社会的羞恥心のため、彼女は友人や家族からこの部分を隠さなければなりません。
- 『ボンディング 男と女の事情』は、ゾーイ・レビン演じるティファニー・チェスターが、昼は心理学の学生、夜はドミナトリクスのミストレス・メイとして活躍するTV番組。多くの視聴者は、第1季でのドミナトリクスの描写を好ましく思っておらず、しばしば「不正確」だとしていますが、製作チームは、15年間ドミナトリクスとして働いていた女性をコンサルタントとして雇い、第2季の脚本を手伝わせて不正確な部分を修正しました。
- 『Exit to Eden』は、ドミナトリクスを題材にした同名小説を原作とするコメディ映画。ダナ・デラニーが主演。
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