キム・オクビンの『悪女』（2017）における肉体訓練

キム・オクビンが韓国映画『悪女』で演じた女殺し屋スクヒの役作りは、肉体的・精神的に極めて過酷な訓練を伴いました。以下に、彼女の訓練内容を詳細に解説します。

アクション訓練

• 訓練期間：約6か月（1日4～6時間の集中トレーニング）
• 指導者：韓国トップのアクションコーディネーターと武術トレーナー
• 怪我：撮影中に軽い打撲や擦り傷を負ったが、大怪我は回避
• 参考：キム・オクビンは『悪女』以前にも『渇き』（2009年）で身体的な演技に挑戦したが、『悪女』での訓練はそれを上回る過酷さだった。

『悪女』の最大の見せ場であるアクションシーン、特に冒頭の7分にわたる一人称視点（FPS）の長回しや終盤のバイクチェイス・バトルバスでの戦闘は、キム・オクビンの身体能力が不可欠でした。彼女は撮影の約6か月前からアクション訓練を開始し、以下の要素に重点を置きました。

格闘技トレーニング

スクヒの戦闘スタイルは、日本刀や銃、ナイフを用いた近接戦闘が中心。キム・オクビンはテコンドーや柔術の基礎を取り入れた格闘技を学び、素早い動きと正確な打撃を習得。特に、日本刀の扱いでは、振り方や構えをリアルに再現するため、専門の武術指導者と密に連携しました。彼女はインタビューで、「刀の重さに慣れるまで腕が震えた」と語っています。

スタント練習

映画のアクションの約80％を本人が演じたため、ワイヤーアクションや高所での動きも訓練。落下や投げ技の受け身を繰り返し練習し、怪我を最小限に抑える技術を磨きました。バイクチェイスでは、プロのライダーと同等のスピードで走行するシーンを撮影するため、オートバイの操作を一から学び、バランス感覚を養いました。

持久力強化

長時間のアクション撮影に対応するため、毎日2～3時間のランニングやHIIT（高強度インターバルトレーニング）で心肺機能を強化。戦闘シーンの撮影は1日12時間以上になることもあり、疲労困憊の中でも動きを維持する体力が求められました。

武器の扱い

スクヒは多様な武器を使いこなすキャラクターです。キム・オクビンは、以下の武器の扱いを専門家から指導を受けました。

銃器訓練

拳銃やアサルトライフルを使用するシーンでは、反動のコントロールやリロードのスピードを訓練。実際の射撃場で実弾を使用し、銃の重さや音に慣れました。FPS視点のシーンでは、カメラの動きと連動して銃を構えるため、カメラマンとの呼吸を合わせる練習も行いました。

日本刀

日本刀のアクションは、スピードと美しさが要求されるため、剣道の基本動作をベースに訓練。振り下ろしや突きのフォームを繰り返し練習し、敵との距離感を瞬時に判断する技術を習得しました。

肉体改造

スクヒのキャラクターは、華奢ながらも強靭な身体を持つ暗殺者として描かれます。キム・オクビンは、以下の方法で体を鍛えました。

筋力トレーニング

特に上半身とコア（体幹）の強化に注力。プルアップやデッドリフトで腕と背中の筋力を増強し、戦闘中の素早い動きを支えました。トレーナーによると、彼女は撮影前には腕立て伏せを50回連続でこなせるまでに成長したとのこと。

柔軟性向上

アクションシーンでのキックや回転動作に対応するため、ヨガとストレッチで柔軟性を維持。特に、バイクチェイスでの低姿勢や格闘中のハイキックは、柔軟性が不可欠でした。

ダイエット管理

スクヒのスリムで引き締まった体型を表現するため、食事管理も徹底。タンパク質中心の食事で筋肉を維持しつつ、体脂肪を10％台に抑えました。撮影中は、エネルギー補給のためにナッツやプロテインシェイクを常備していたと語っています。

演技訓練と精神面の準備

アクションだけでなく、スクヒの複雑な感情表現も重要な要素でした。キム・オクビンは、役の内面を深く掘り下げるため、以下の訓練を行いました。

感情の掘り下げ

スクヒは復讐心と愛、絶望が交錯するキャラクター。キム・オクビンは、監督と何度も脚本を読み込み、スクヒの過去のトラウマや葛藤を理解。過去の回想シーンでは少女のような純粋さ、復讐シーンでは狂気的な感情を演じ分けるため、演技コーチとワークショップを重ねました。

メンタル強化

撮影は肉体的に過酷で、怪我や疲労が常につきまといました。彼女は瞑想や心理カウンセリングを受け、プレッシャーに耐える精神力を養いました。特に、血まみれで戦う終盤のシーンでは、感情を極限まで高めるため、撮影前に一人で集中する時間を確保したと述べています。

撮影現場でのリハーサル

訓練の成果を最大限に発揮するため、撮影現場でもリハーサルが徹底されました。

長回しシーンの練習

冒頭のFPSシーンは、1テイクで撮影するため、数十人のスタントマンと動きを完璧に同期させる必要がありました。キム・オクビンは、カメラの動きを予測しながら戦うため、事前に何度もリハーサルを行い、タイミングを体に刻み込みました。

バイクチェイスの調整

バイクチェイスは、実際の道路で撮影されたため、車両やカメラドローンとの連携が不可欠。彼女は、スタントコーディネーターと細かく動きを調整し、安全性を確保しつつ迫力ある映像を作り上げました。

成果と評価

キム・オクビンの訓練の成果は、スクヒのリアルで迫力あるアクションと、感情の爆発的な演技に結実しました。カンヌ国際映画祭でのスタンディングオベーションや、国内外の批評家からの絶賛は、彼女の努力の証です。彼女自身、「これほど自分を追い込んだ役は初めてだったが、スクヒを演じられたことが誇り」とインタビューで語っています。