『THE IDOL／ジ・アイドル』は、2023年のHBOドラマとして、音楽業界の搾取とセクシュアリティの闇をテーマに据えた野心作。サム・レヴィンソン、アベル・テスファイ（The Weeknd）、レザ・ファヒームの共同クリエイションで、『Euphoria』の系譜を継ぎ、華やかなビジュアルと過激な内容で注目を集めた。ポップスターのジョセリンが、精神崩壊後の復帰を目指す中、ナイトクラブオーナーのテドロスと出会い、情熱を再燃させる。音楽業界の闇とセクシュアリティの探求を描くものの、過度な露骨さで物議を醸し、批評家から酷評されて1シーズンで終了。
基本情報
- 邦題：THE IDOL／ジ・アイドル
- 原題：THE IDOL
- 公開日：2023年06月05日
- 製作国・地域：アメリカ
- 再生時間：54分
- ジャンル：ドラマ
女優の活躍
本作の女優陣は、音楽業界の苛烈な現実を体現し、複雑な心理描写を通じて作品の深みを加えています。特に主人公ジョセリンを演じるリリー＝ローズ・デップは、華やかなポップアイドルの表層と、内面的な脆弱さの狭間で揺れるキャラクターを、繊細な表情とボディランゲージで表現。精神崩壊後の復帰をめぐる葛藤を、静かな視線や微かな震えで伝え、観客に強い共感を呼び起こします。ダンスシーンや歌唱パートでは、セクシーさと脆さを融合させたパフォーマンスが光り、クライマックスの感情爆発では、絶望と決意の狭間をリアルに描き出します。デップの演技は、批評家から「唯一の救い」と評され、低予算の制約を超えた存在感を発揮。彼女のキャリアにおいても、ヨーロッパ映画からハリウッドへの橋渡しとして重要な一作となりました。
スザンナ・ソンは、ジョセリンのダンサー兼親友のクロエ役で、忠誠心と嫉妬の微妙なバランスを自然に体現。グループダンスのシンクロニシティを保ちつつ、プライベートシーンでの感情の揺らぎを、即興的なジェスチャーで強調し、友情の複雑さを深めます。インディ・ミュージシャンとしてのバックグラウンドが活き、歌とダンスのシーンで説得力を加えています。トロイ・シヴァンのザンダー役は、音楽プロデューサーとしてジョセリンを支えるが、過去のトラウマに囚われる姿を、繊細な声色で表現。オーストラリア出身の彼の多才さが、ドラマチックな対話シーンで際立ち、LGBTQ+の視点から業界の闇を照らします。
メラニー・リバードのヘレナ役は、マネージャーとしてジョセリンを守る強靭な女性像を、冷静なトーンと鋭い視線で描き、権力構造の象徴となります。彼女の演技は、セリフの少ないシーンでも存在感を放ち、緊張感を維持。エリザベス・バークリーのデボラ役は、母親らしい温かさと過保護さを、ユーモアを交えて演じ分け、家族のダイナミクスを豊かにします。アン・ヘシェのロレッタ役（遺作）は、短い出演ながら、ミステリアスな魅力を発揮し、物語に深みを加えました。これらの女優たちは、男優中心の脚本の中で、互いの化学反応を活かし、女性の視点からエンパワーメントを主張。全体として、女優たちの活躍は、作品の論争を越え、演技のクオリティで観客を魅了し、将来のキャリアに繋がる基盤を築きました。批評では、デップの「成熟した変貌」が特に称賛され、インディドラマの新たな可能性を示しています。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の衣装デザインは、ポップスターのセクシュアルでダークな世界観を反映し、ナターシャ・ニューマン＝トーマスによる洗練されたスタイルが特徴です。リリー＝ローズ・デップのジョセリンは、露出度の高いカットアウトトップやマイクロミニスカートを基調に、Y2K風のセクシーさを強調。赤いクロップトップに花柄レザースカート、またはメタリックピンクのランジェリー風ワンピースが、音楽ビデオ撮影シーンで映え、業界の「セクシーさ」のプレッシャーを視覚化します。マリリン・モンロー風のシルクローブは、ベッドルームシーンで官能性を加え、カスタムメイドのレース素材が肌の質感を際立たせます。パーティーシーンでは、シースルーのクラブドレスやビキニトップにシフォンパンツを合わせ、動きやすさと挑発性を両立。全体的に、ダークでスレジーなトーンが、キャラクターの内面的混乱を象徴します。
化粧面では、シャネルビューティーを中心としたスモーキーなルックが基調で、デップのジョセリンは、ウィングドアイライナーとヌードリップでフェミニンな魅力を強調。スモーキーアイはグラフィックに描かれ、汗や涙で崩れる様子が心理的な脆さを表現します。チークは控えめなブロンズでヘルシーさを保ち、リップライナーを活かしたマット仕上げが、親密なシーンで官能性を高めます。防水仕様のアイシャドウが、ダンス中の耐久性を確保し、リアルな輝きを追求。スザンナ・ソンのクロエは、ボールドなリップとメタリックアイでダンサーらしいエネルギーを出し、汗で光るハイライトがパフォーマンスの激しさを強調。トロイ・シヴァンのザンダーは、ナチュラルメイクに近いクリア肌で、プロデューサーとしてのプロフェッショナリズムを表します。
髪型は、ジョセリンのロングウェーブヘアがシグネチャーで、ルーズなカールがベッドヘッド風に乱れ、復帰の不安定さを象徴。アップスタイルのポニーテールはビデオ撮影で機能性を加え、ヘアアクセサリーのチェーンがロック要素を注入します。クロエ役のソンは、ストレートのボブカットでシャープさを出し、ダンス中に揺れるバングがダイナミズムを演出。ザンダー役のシヴァンは、ミディアムレングスのナチュラルウェーブで、親しみやすさを保ちます。全体のヘアメイクは、音楽業界の華やかさと闇のコントラストを巧みに融合し、低予算ながら高級感を演出。女優たちのルックは、SNS映えする一方で、物語のテーマを視覚的に強化し、観客の没入を深めています。
あらすじ
物語は、ポップスターのジョセリン（リリー＝ローズ・デップ）が、精神崩壊によるツアー中断から復帰を目指すシーンから始まります。豪邸でアルバムカバーのフォトシュートを行い、マネージャーのヘレナ（メラニー・リバード）や親友のクロエ（スザンナ・ソン）と戦略を練ります。業界のプレッシャーの中、彼女は「アメリカで最もセクシーなポップスター」として再起を誓い、過激なイメージチェンジを計画。しかし、ナイトクラブのオーナー、テドロス（アベル・テスファイ）と出会い、情熱的な関係に落ちます。テドロスは、カルト的な魅力でジョセリンを誘惑し、彼女の創造性を刺激しますが、徐々に支配的な影を落とします。
第1話「ポップタルトとラットテール」では、ジョセリンの日常が描かれ、ダンサーたちとのリハーサルや、元恋人ザンダー（トロイ・シヴァン）との再会が挿入。クラブシーンでテドロスと出会い、官能的なダンスが展開し、関係の始まりを予感させます。第2話では、テドロスの影響でジョセリンの音楽が変化し、ビデオ撮影で過激な衣装をまとい、業界の搾取が露呈。クロエの嫉妬やヘレナの懸念が表面化します。中盤、テドロスの過去が明らかになり、ジョセリンの母親デボラ（エリザベス・バークリー）の死の秘密が絡み、心理的な緊張が高まります。ザンダーのトラウマ告白が、友情の試練を加えます。
クライマックスでは、テドロスのカルトグループがジョセリンの家に侵入し、支配と抵抗の攻防戦が繰り広げられます。ジョセリンはテドロスを操るツイストを起こし、復讐の機会に変えます。最終話「Stars Belong to the World」では、ライブパフォーマンスで真実を暴露し、業界の闇を糾弾。テドロスを排除し、独立したアイドルとして再生しますが、名声の代償が残響します。このあらすじは、セックスとパワーの探求を通じて、現代のセレブリティ文化を風刺し、5話の短編ながら衝撃的な展開を凝縮しています。
解説
『THE IDOL／ジ・アイドル』は、2023年のHBOドラマとして、音楽業界の搾取とセクシュアリティの闇をテーマに据えた野心作です。サム・レヴィンソン、アベル・テスファイ（The Weeknd）、レザ・ファヒームの共同クリエイションで、『Euphoria』の系譜を継ぎ、華やかなビジュアルと過激な内容で注目を集めました。カンヌ映画祭でのプレミア上映では5分のスタンディングオベーションを受けましたが、批評家からは脚本の浅さ、性的描写の過剰さ、テスファイの演技の硬さが酷評され、Rotten Tomatoesで19%の低スコアを記録。1シーズンでキャンセルされた背景には、制作中の方向転換（当初のフェミニスト視点から男性ファンタジーへ）が指摘されます。
視覚的には、ネオンライトとスローモーションを多用したスタイリッシュな映像が、ポップカルチャーの幻想を強調。マドンナやブリトニー・スピアーズへのオマージュが散見され、セレブの精神的崩壊を象徴しますが、テーマの深掘りが不足し、「退屈で自己中心的」との声が多数。リリー＝ローズ・デップの演技が唯一の光として、女性のエンパワーメントを試みますが、男優中心のナラティブが逆効果に。サウンドトラックはテスファイの新曲をフィーチャーし、EP形式でリリースされ、音楽面での魅力は認められます。
社会的に、#MeToo後の業界批判を意図しつつ、ヌードの多用が逆説的な搾取を生み、議論を呼んでいます。IMDb4.4点の評価は、娯楽性と批評性のギャップを反映。全体として、野心的だが失敗した実験作として、インディドラマの限界を示し、セレブリティの病理を考えるきっかけを提供します。視聴者には、過激さの裏の空虚さを味わう一作です。
キャスト
- リリー＝ローズ・デップ：ジョセリン役。ポップスターの主人公。精神崩壊後の復帰をめぐる葛藤を体現。
- スザンナ・ソン：クロエ役。ジョセリンのダンサー兼親友。忠誠と嫉妬の複雑さを描く。
- トロイ・シヴァン：ザンダー役。元恋人でプロデューサー。トラウマを抱えた支え役。
- メラニー・リバード：ヘレナ役。マネージャー。ジョセリンを守る強靭な女性。
- エリザベス・バークリー：デボラ役。ジョセリンの母親。家族の秘密を象徴。
- アベル・テスファイ：テドロス役。ナイトクラブオーナー。支配的な恋人役。
その他の脇役に、モーゼス・サムニー（イザック役）、ジェーン・アダムズ（アンドレア役）、スザンナ・サン（クロエ役）、ソフィー・マッド（カルト集団のメンバー「ソフィー」役でデビュー）ら。
スタッフ
- クリエイター：サム・レヴィンソン、アベル・テスファイ、レザ・ファヒーム。共同制作。
- 監督：サム・レヴィンソン。各エピソードを主導。
- 脚本：サム・レヴィンソンら。業界の闇をテーマに構築。
- 製作：HBO Studios。低予算ながらスタイリッシュ。
- 撮影：ネオンとスローモーションのビジュアル重視。
- 音楽：アベル・テスファイ。オリジナルサウンドトラック。
- 編集：テンポの速いカットで緊張感を演出。
- 衣装デザイン：ナターシャ・ニューマン＝トーマス。セクシーでダークなスタイル。
レビュー 作品の感想や女優への思い