『ゾンビ・ストリッパーズ』は2008年にアメリカ合衆国で公開されたホラー・コメディ映画。監督・脚本をジェイ・リー氏が務め、エルム街の悪夢シリーズでお馴染みのロバート・イングランド氏と、ポルノスターとして名高いジェナ・ジェイムソン氏が主演を飾りました。
軍のゾンビウイルスがストリップクラブに感染を広げ、ゾンビ化したストリッパーたちが超人的なパフォーマンスで客を魅了する中、社会の混乱を描いた風刺作です。劇作家イオネスコの戯曲『犀』を基調とし、盲目的な社会体制の受容をテーマに据え、低予算ながらもグロテスクな特殊効果とユーモアが融合したB級映画の傑作として評価されています。製作国はアメリカ、上映時間は94分、配給はソニー・ピクチャーズ エンタテインメントです。
基本情報
- 邦題：ゾンビ・ストリッパーズ
- 原題：Zombie Strippers
- 公開年：2008年
- 製作国・地域：アメリカ合衆国
- 上映時間：94分
- 配給：ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
概要
近未来のアメリカで、軍の再活性化ウイルスが漏洩し、ネブラスカ州のストリップクラブ「ライノス」に感染。人気ストリッパーのキャットがゾンビ化し、人間離れしたダンスで大盛況を博す。嫉妬した他のストリッパーたちが次々とゾンビとなり、客の感染も広がる中、特殊部隊が突入。ホラーとコメディが交錯する風刺的作品。
女優の活躍
本作の魅力は、何と言っても女優陣のダイナミックな活躍にあります。
特に主演のジェナ・ジェイムソンが演じるキャット役は、映画の中心を成す存在です。ポルノ業界の女王として知られる彼女は、本作で女優デビューを果たし、ゾンビ化後の人間離れしたストリップシーンで圧巻のパフォーマンスを披露しました。生身の人間では不可能なアクロバティックな動きや、死体のようなしなやかな肢体を駆使したダンスは、観客を魅了し、映画のエンターテイメント性を高めています。ジェナ氏の演技は、単なるヌードシーンに留まらず、ゾンビとしての冷徹さと、元人間の残滓を織り交ぜた微妙な表情変化が光り、批評家からも「意外な演技力」と称賛されました。
また、シャムロン・ムーアが演じるジェニー役は、キャットに対するライバル心を燃やし、ゾンビ化の連鎖を象徴する重要な役割を果たします。彼女の嫉妬深い視線と、ゾンビダンスオフでの激しい競演は、物語の緊張感を高めました。
さらに、ロクシー・セイントのゴス系ストリッパー、リリス役は、ゾンビ化を積極的に望む異端児として描かれ、彼女のロック調の歌唱シーンが映画に独自のアクセントを加えています。ロクシー氏は本作のサウンドトラック曲も手がけ、多才ぶりを発揮。ペニー・ドレイク氏のソックス役や、ウィットニー・アンダーソン氏のガイア役も、ゾンビ化の過程でそれぞれの個性を活かした活躍を見せ、女優陣全体がホラーコメディの軽快さを支えています。これらの女優たちは、低予算映画ながらも全裸に近い大胆な演技を厭わず、ゾンビメイクの下で肉体美と恐怖を融合させた点で、観客に強烈な印象を残しました。批評レビューでは、ジェナ氏の「セクシーでグロテスクな変貌」が特に高く評価され、映画の風刺性を体現する存在として語られています。こうした活躍は、単なるB級エンタメを超え、女性のオブジェクト化に対するメタ的なコメントとしても機能しています。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の女優たちの衣装、化粧、髪型は、ストリップクラブの妖艶さとゾンビホラーのグロテスクさを融合させた独特のスタイルです。まず、衣装面では、キャット役のジェナ・ジェイムソン氏が着用するものは、クラブのステージ映えを意識した露出度の高いビキニやボディスーツが中心です。初期の人間時代は、光沢のあるラテックス素材の赤いマイクロビキニが用いられ、ヒップラインを強調したデザインが彼女のボディラインを際立たせます。ゾンビ化後は、この衣装が血しぶきや裂傷で汚れ、部分的に剥がれた状態となり、肉体の腐敗を暗示するラバーの破片がアクセサリーのように垂れ下がる工夫が施されています。ジェニー役のシャムロン・ムーア氏の衣装は、キャットより控えめな青いシースルーのベビードールで、嫉妬の象徴として地味さを強調しつつ、ダンスオフ時には脱ぎ捨てて全裸に近い状態で競演します。リリス役のロクシー・セイント氏は、ゴスファッションを反映した黒いレザーのコルセットと網タイツを着用し、ゾンビ化後は鎖や棘付きのベルトが追加され、パンクロックの反骨精神を表現。ソックス役のペニー・ドレイク氏は、スポーツウェア風のショーツとタンクトップでカジュアルさを出し、ガイア役のウィットニー・アンダーソン氏は花柄のランジェリーで無垢さを演出します。これらの衣装は、キャノン氏のデザインによるもので、低予算ながらも実用性と視覚効果を両立させています。
化粧については、ゾンビメイクの専門家、パトリック・マギー氏の仕事が光ります。人間時代の女優たちは、ストリップクラブらしい派手なメイクを施され、キャットのジェナ氏はスモーキーなアイシャドウと赤いリップでセクシーさを強調、ジェニーのシャムロン氏はナチュラルメイクで対比を付けます。ゾンビ化後は、青白いファンデーションで死体のような肌色を再現し、目元に黒いクマや血管の浮き出しを追加。唇は血のように赤黒く染め、歯には緑の腐食塗料が塗布され、グロテスクさを増幅します。リリスのロクシー氏は、ゴス風の白塗り顔にゾンビ後には傷跡の液体メイクを重ね、ユニークなビジュアルを生み出しました。全体として、化粧はホラー要素を強化しつつ、ダンス中の汗で溶ける効果がリアリティを加えています。
髪型は、動きやすさとキャラクター性を考慮したものが多く、キャットのジェナ氏はロングヘアをストレートに下ろし、ゾンビ化後は血糊で固められたウェットスタイルに変貌。ジェニーのシャムロン氏はポニーテールで活発さを、リリスのロクシー氏は黒く染めたウェーブヘアに棘付きのヘッドバンドを付け、ゴスらしさを強調します。ゾンビ化の過程で髪は乱れ、部分的に抜け落ちたようなウィッグ加工が施され、恐怖とエロティシズムのバランスを取っています。これらの要素は、女優たちのパフォーマンスを視覚的に支え、映画のキャッチーな魅力を高めています。
あらすじ
物語は、近未来のディストピアアメリカを舞台に幕を開けます。ジョージ・W・ブッシュ大統領が4期目を務め、国会は解散、公衆ヌードは禁止され、アメリカはフランス、イラク、アフガニスタン、イラン、パキスタン、シリア、ベネズエラ、カナダ、アラスカとの戦争に明け暮れる世界です。そんな中、軍は死者を蘇生させる再活性化ケモウイルスを開発し、兵士の再利用を図ります。しかし、実験中の事故で研究所が全滅の危機に陥り、特殊部隊「Zスコード」が派遣されますが、一人の兵士、バイヤードフラフ軍曹が感染し、ネブラスカ州サルト市（サルトル市）の地下ストリップクラブ「ライノス」に逃げ込みます。
クラブでは、人気ストリッパーのキャット（ジェナ・ジェイムソン氏）がステージで妖艶なダンスを披露中。ゾンビ化したバイヤードフラフが乱入し、キャットを襲って殺害しますが、彼女はウイルスにより蘇生。ゾンビストリッパーとなったキャットは、常識外れの柔軟性と耐久力を活かしたパフォーマンスで、客を熱狂させます。クラブ経営者のイアン・エスコ（ロバート・イングランド氏）は、この異常事態を金儲けのチャンスと見て黙認。客足が急増し、大盛況となります。
しかし、他のストリッパーたちは嫉妬の炎を燃やします。控えめなジェニー（シャムロン・ムーア氏）は客離れを恐れ、自らゾンビ化を望み、バイヤードフラフに噛みつかれて変貌。ゴスストリッパーのリリス（ロクシー・セイント氏）は好奇心からキャットに噛まれ、ロック調のゾンビダンスで独自の人気を博します。次々とストリッパーたちがゾンビ化し、プライベートダンス中に客を噛んで感染を広げ、クラブの地下室はゾンビ客で溢れかえります。イアンはゾンビたちを檻に閉じ込めようとしますが、ガイア（ウィットニー・アンダーソン氏）が檻を開放し、ゾンビの大群がクラブを席巻します。
キャットとジェニーはゾンビストリッパーの頂点を賭けたダンスバトルを繰り広げ、残された人間たちは必死の抵抗を続けます。そこへ、遅れて到着したZスコードが突入。銃撃戦とゾンビの襲撃が交錯する中、クラブは血と肉片にまみれた戦場と化します。最終的に、Zスコードはゾンビを殲滅しますが、感染の恐怖は残り、物語は風刺的な余韻を残して幕を閉じます。このあらすじは、ウイルス感染の連鎖を通じて、人間の欲望と社会の崩壊を描き、ホラーシーンとコメディのギャップが絶妙です。
解説
『ゾンビ・ストリッパーズ』は、単なるゾンビホラーやエロティックコメディに留まらず、鋭い社会風刺を内包した作品です。監督のジェイ・リー氏は、妹のアンジェラ・リー氏との共同製作で本作を仕上げ、構想は二人の雑談から生まれた冗談めいたアイデアが基盤となっています。リー氏はインタビューで、「暴力的な社会体制を盲目的に受け入れる人間の愚かさ」をテーマに挙げ、劇作家ウジェーヌ・イオネスコの戯曲『犀』をモチーフに据えました。この影響は、クラブ名「ライノス」（Rhinocerosの略）に顕著で、住民が次々と犀に変貌する戯曲のように、ストリッパーたちがゾンビ化の「流行」に追従する様子が、社会の同調圧力を象徴しています。舞台のサルト市（哲学者ジャン＝ポール・サルトルの名にちなむ）は、存在主義的な対話を挿入し、キャットがニーチェの書物を読み解くシーンは、ゾンビ化による「悟り」のメタファーとして機能します。
公開当時、2008年のアメリカではブッシュ政権のイラク戦争が批判の的となっており、本作はニュースモンタージュで大統領の4選や多国間戦争を描き、軍産複合体の暴走を痛烈に風刺。ゾンビウイルスは、死んだ兵士の再利用という軍事実験の寓意として、倫理的破綻を指摘します。また、ストリップクラブを舞台に女性のオブジェクト化を逆手に取り、ゾンビストリッパーの「スーパーパフォーマンス」が客を魅了する描写は、資本主義下の消費文化を揶揄。レビューでは、「女性の商品化に対するコメントが意外に深い」との声が多く、Rotten Tomatoesで38%の支持率ながら、キャンプな魅力がカルト的人気を博しました。
技術面では、低予算（推定100万ドル）ながら、特殊効果とメイクが秀逸。パトリック・マギー氏のゾンビメイクは、Tom Savini氏を彷彿とさせる血みどろのリアリティを備え、デジタルビデオ撮影の粗さを逆手に取ったスプラッター描写がB級の醍醐味を体現。音楽のビリー・ホワイト・エイカー氏は、ロックとホラーサウンドを融合させ、ダンスシーンを盛り上げます。ロバート・イングランド氏のコミカルな経営者役は、フレディ・クルーガーのイメージを崩し、新たなホラーアイコンを確立。ジェナ・ジェイムソン氏の出演は話題を呼び、ポルノからメインストリームへの橋渡しとして意義深い一方、批評家からは「演技の粗さ」が指摘されつつも、その大胆さが映画のエネルギーを生みました。全体として、本作はゾンビジャンルのパロディとして楽しめ、社会批判のレイヤーが加わることで、再視聴価値の高い一作となっています。日本公開時はソニー・ピクチャーズの配給で、ホラー好きの間で口コミを呼びました。
キャスト
- キャット役：ジェナ・ジェイムソン（ポルノスターから女優転身、ゾンビダンスの中心）
- イアン・エスコ役：ロバート・イングランド（クラブ経営者、コミカルなホラー演技）
- ジェニー役：シャムロン・ムーア（ライバルのストリッパー、ダンスバトルで活躍）
- リリス役：ロクシー・セイント（ゴスストリッパー、サウンドトラックも担当）
- パコ役：ジョーイ・メディナ（クラブスタッフ、ユーモラスな脇役）
- ソックス役：ペニー・ドレイク（ストリッパー、ゾンビ化の被害者）
- ガイア役：ウィットニー・アンダーソン（若手ストリッパー、檻開放のきっかけ）
- バイヤードフラフ軍曹役：ティト・オーティズ（感染源の兵士、アクションシーン）
- ブーマー役：シェーン・カリー（Zスコード隊員）
- フェルナンド役：ジノ・ヒネス（Zスコード隊員）
スタッフ
- 監督・脚本・撮影：ジェイ・リー（風刺脚本とホラー演出の才人）
- 製作：アンジェラ・リー（監督の妹、アイデア発案者）
- 製作：ラリー・シャピロ、アンドリュー・ゴロヴ（低予算プロデュース）
- 製作総指揮：マイケル・L・ザンピーノ（プロジェクト統括）
- 音楽：ビリー・ホワイト・エイカー（ロックホラーサウンド）
- 衣装デザイン：キャノン（セクシー＆グロテスク衣装）
- 特殊メイク：パトリック・マギー（ゾンビメイクの達人）
- プロダクションデザイン：サラ・カグラマス（クラブセット構築）
- 編集：ジェイ・リー（監督兼任でテンポ良く）
- 配給：ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント（日本版）
レビュー 作品の感想や女優への思い