ここではデニムとジーンズのおすすめ本を紹介しています。
デニム、ジーンズはアメリカのゴールドラッシュ時に炭坑夫の作業着に使われましたが、今や世界中でもっとも多く着用される衣料品となり、また、オークションにも頻繁に出品され落札されるヴィンテージ文化の代表アイテムでもあります。
面白いと思った本は是非、リンク先のオンラインストアもチェックしてみてください(^^)
ブルー・ジーンズの文化史
- 著者:出石尚三
- 監修・協力:リーバイ・ストラウス・ジャパン
- 出版社:NTT出版
- 出版年:2009年
概要
ジーンズの歴史をリーヴァイ・ストラウス社の製品に絞って記したもの。ジーンズを愛する人が楽しく書いたのだなと感じる一冊です。
著者の出石尚三は服飾評論家で、ファッション・デザイン、ファッション・コンサルティングの経歴をもちます。また、リーヴァイ・ストラウスとブルー・ジーンズをこよなく愛し、類書を多く書いています。
発見
1906年
ジーンズといえばリーバイス。ジーンズの代名詞になってきたリーバイス社もジーンズ史上でいつも輝いていた訳ではありません。
著者が述べるように、1906年のサンフランシスコ大地震で被害を受け、それ以前の同社の記録類や資料類一切が焼失しました。そのため、著者自身も資料収集に苦労したらしく、サンフランシスコ市のリーバイス本社だけでなく、同市立図書館にも通ったそうです。もう少し調査を進めようとすると必ず1906年が足かせになってしまうそうです…。
それでも、ジーンズ生地の強さのように、著者は「何から何まですべてが簡単に分かってしまったら、かえって拍子抜けするではないか」(280頁)と延べ、ジーンズへの好奇心と愛で本書を書き終えました。
ブルー・ジーンズ? ジーンズとデニム?
ジーンズを調べている時に混乱するジーンズとデニムの違い。これを丁寧に著者が述べていますので簡単にまとめます。
本書では青いジーンズを「ブルー・ジーンズ」と呼んでいます。この呼称は著者いわく不思議なものです。ブルー・ジーンズの材料生地はブルー・デニムであって、ブルー・ジーンではありません。ジーン(Jean)は中世ヨーロッパで服の裏地に使われていました。そのため著者はジーンといえば「オフ・ホワイト」を連想するそうです。
次いで、ジーンとデニムの違いを引用しますと「決定的な違いは《裏白》の有無」です(271頁)。
ブルー・デニムを裏返すと白色、ブルー・ジーンは裏返しても青色です。これは綾織の経糸と横糸の構成による違いで、デニムは横糸に白色の晒糸を使うため、裏地にそれが出るわけです。ジーンは経緯ともに青色の意糸を使うので裏も当然ブルー。
それではジーンズという製品名が使われたのはいつ頃か、なぜ私たちは今、表地が青色で裏地が白色のデニム・ズボンをジーンズを呼んでいるのか、色々と疑問が出てきますが、それらは本書から探ってみて下さい(^^)
目次
- 人はなぜブルー・ジーンズを穿くのか―まえがきに代えて
- なぜL・ストラウスはジーンズを採用したのか―L・ストラウスとブルー・ジーンズ
- ジーンズ以前にジーンズがあった話―M・トゥエインとブルー・ジーンズ
- なぜクロスビーはジーンズを愛用したのか―B・クロスビーとブルー・ジーンズ
- なぜ子供がジーンズを穿いたのか―E・ヘミングウェイとブルー・ジーンズ
- 誰が最初に西部劇でジーンズを穿いたのか―J・ウエインとブルー・ジーンズ
- 血と汗と涙のしみ込んだジーンズたち―J・スタンベックとブルー・ジーンズ
- なぜビートはジーンズを穿いたのか―J・ケルアックとブルー・ジーンズ
- 西から東へ進んだブルー・ジーンズ―R・チャンドラーとブルー・ジーンズ
- 戦争と平和とジーンズ―C・チャップリンとブルー・ジーンズ
- 1947年、ジーンズに何が起きたのか―M・ブランドとブルー・ジーンズ
- ジーパンからジーンズへ―白洲次郎とブルー・ジーンズ
- なぜクーパーのジーンズは美しいのか―G・クーパーとブルー・ジーン
- なぜ女はジーンズを穿いたのか―M・モンローとブルー・ジーンズ
- なぜヨーロッパでジーンズが流行ったのか―B・バルドーとブルー・ジーンズ
- アップダイクとプレスリー―J・アップダイクとブルー・ジーンズ
- モッズはなぜジーンズを穿いたのか―D・ボウイとブルー・ジーンズ
- サブ・カルチュアからメイン・カルチュアへ―A・ウォーホールとジーンズ
- J・カーターとB・ディラン―大統領とブルー・ジーンズ
- なぜ80年代のスパイはジーンズを愛したのか―B・フリーマントルとブルー・ジーンズ
- 誰がブルー・ジーンズをデザインしたのか―C・クラインとブルー・ジーンズ
- なぜJ・レノンはジーンズを穿いたのか―J・レノンとブルー・ジーンズ
- 人はなぜそれをブルー・ジーンズと呼ぶのか
- サンフランシスコ大地震とブルー・ジーンズ―あとがきに代えて
501XXは誰が作ったのか?
- 副題:語られなかったリーバイス・ヒストリー
- 著者:青田充弘
- 出版社:立東舎
- 出版年:2018年

青田充弘『501XXは誰が作ったのか?―語られなかったリーバイス・ヒストリー』立東舎、2018年
概要
この本はリーバイスの歴史を述べた本です。著者の言葉では「インダストリアル・ヒストリー」(工業製品史/264頁)。本書は、リーバイ社の個人史と会社史を中心に、背景となるアメリカ史はもちろん、ミシンやボタンなどの関連メーカーにも言及し、広くて深い仕上がり。
感想
執筆期間に驚きました。
2017年、編集の方から声をかけられました。ジーンズに関する文字中心の本。期限は約半年。青田充弘『501XXは誰が作ったのか?―語られなかったリーバイス・ヒストリー』立東舎、2018年、264頁
次いで、資料収集のバイタリティにも驚きました。リーバイ社から資料提供を受けずに、自身や知人の独自ルートで集めたもの。縁故で資料を集めると偏りそうなものですが、リーバイ社の歴史をアメリカ史において丁寧に述べている点がすごいです。
発見
ついミシンの叙述が気になるのですが、リーバイ社とミシンとの関係は2か所で触れられています。
- 第2章:シンガー社やクローバー・アンド・ベーカリー社のところ。
- 第4章:リーバイ社がユニオン・スペシャル社のミシンも導入しはじめたというところ。
ユニオン・スペシャル社は特殊ミシンを軸にミシン多様化を促進したメーカーです。19世紀末の創業以来、世界中で使われました。
このように、本書は、19世紀後半世界のミシンをリードしたシンガー社と、20世紀前半世界のミシンをリードしたユニオン・スペシャル社に触れています。
さらに、1915年のパナマ太平洋博覧会で、リーバイ社、ユニオン・スペシャル社、そしてボタンメーカーのユニバーサルボタン社の3社共同で展示ブースを設けたと伝えます。
想像は掻き立てられます。

リーバイス502ジーンズとロゴ。Levi Strauss & Co. Original Riveted 502TM.
デニム・バイブル
- 編著者:グラハム・マーシュ、ジューン・マーシュ、ポール・トリンカ
- 訳者:田中敦子訳
- 出版社:スペースシャワーネットワーク
- 出版年:2006年
概要
写真中心に、リヴェットやポケットなど、デニムのディテールにこだわった記事から掘り起こし、デニムの歴史を現代にまで展開した精力本です。時代ごとに章立てされ、多くの部分をデニムの写真や着用者の写真で埋めています。章冒頭の時代背景と無数の写真には簡潔な説明がついています。
感想
米国デニムというとリーバイ社のリーバイス・ジーンズを思いがち。もちろん、本書も同社のデニムも多くとりあげリーバイスの歴史をフォローしています。たとえば同社が1915年にパナマ太平洋国際博覧会の製造実演会場で行なったデニムの製造風景が写真で紹介されています。
しかし本書はリーバイ社に振り回されるわけではなく、リーやエロッサーハイネマンなど他のデニム・メーカーも忘れていません。他社の記事も意外に多くて楽しめます。たとえば、エロッサー・ハイネマン社の「キャント・バステム」(CAN’T BUST’EM)商標の詳細。銅製リベットではなくバータックでポケットを補強しているのを強調しています。そんな商品解説の写真資料もあるのでびっくりです。また、エロッサー・ハイネマン社のキャントバステム製造工場の様子も写真つきで説明してくれています。ミシンと縫製工と縫糸がずらりと並んでいる場面は圧巻。
デニムまたはジーンズは衣料品となる前に生地の段階がある訳ですが、これを次のように述べています。デニムの世界が広がりそうでワクワクします。
デニムという言葉は、今日では広く知られているが、かつてはもっぱらアメリカの工場内で使われるだけだった。リーヴァイスが使ったデニム生地は、当初はニューハンプシャー州にあるアモスケイグの巨大工場で製造されていた。だが、1915年以降、リーヴァイ・ストラウス社はノースキャロライナ州のコーンミルズ社からデニムを仕入れるようになる。現在でもコーンミルズ社は世界有数のデニムメーカーである。グラハム・マーシュ、ジューン・マーシュ、ポール・トリンカ編『デニム・バイブル』 田中敦子訳、 スペースシャワーネットワーク、2006年、22頁
この手の本は《文化史》で終わりがちですが、本書はそれで終わっていません。デニム生地の製造工場とデニム・パンツの製造工場の写真と説明があって(23頁、27頁・42頁)、アメリカの大量消費社会を支えた大量生産工場の具体的なイメージを経済史からもわかります。
放浪のデニム
- 副題:グローバル経済に翻弄されるジーンズの世界
- 著者:レイチェル・ルイーズ・スナイダー
- 訳者:矢羽野薫
- 出版社:エクスナレッジ
- 出版年:2009年
概要
本書は普段よく穿くジーンズの行方からグローバル経済を述べたもの。一つの事項からグローバル経済を論じる手法は、最近流行っています。ピエトラ・リボリの『あなたのTシャツはどこから来たのか?』を思い出しますが、 実際にリボリは本書について「1本のブルー・ジーンズに織り込まれた人びとのストーリーがここにあります。レイチェルはそれらを記者の視点と人間味あふれる心でとらえています。お気に入りのジーンズをはくとき、きっと彼らのストーリーを思い出すだろう」 と推薦しています。
発見
重層的に製造される衣料品には「Made in」のラベルが意味の無いものだということを知ります。本書の一番の醍醐味は世界中に蔓延している「Made in China」の製品が中国製ではない点を指摘した点(^^)
感想
本書の著者スナイダーも、ニューヨークやイタリアのデザイナーの事務所を訪ね、旧ソ連アゼルバイジャンの綿畑やカンボジア・中国の衣料品工場では過酷な労働状況を目の当たりにします。
しかし、本書を読んでいると、グローバル経済で指摘されることの多い搾取工場の実態といったルポルタージュよりも、じっくり時間をかけて書いた印象。
もちろん、本書が示すように、梱包前の衣料品には大量の化学物質が使われ、労働者の身体を蝕んでいますし、縫製工場の低賃金労働は依然として搾取問題の中心になっています。しかし、訳者が述べるように、本書は貧困問題、健康問題、環境問題、複雑な関税制度を取り上げるものの、告発や啓蒙のジャーナリズムでは無く、ジーンズ生産に関わる人々の物語に近いもの。
経済学的にいえば労働よりも労働者を扱ったもので、綿畑の労働者、品質選別官、縫製工場で働く女性、ジーンズを愛するデザイナー、ブランド経営を通じて貧困問題に取り組む音楽バンドなどの言質が取られ、悲惨そのものよりも悲惨に立つ人々を活写しています。
- 綿の原産国・アゼルバイジャンの苦悩
- 高級ブランド大国・イタリアの憂鬱
- カンボジアの命運を左右する衣料工場
- 巨人・中国の取り組みと可能性

一番のおすすめは『デニム・バイブル』です。解説がしっかりしているうえ、写真資料が豊富なのでこれは持っておいてください(^^)
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