日本のピンク映画は、1960年代から始まり、独自の文化的・商業的地位を築いたエロティック映画のジャンル。
低予算で製作され、成人向けの性的内容を特徴としながらも、芸術性や社会批評を織り交ぜた作品も多く、日本映画史において重要な位置を占めています。
以下にその歴史、特徴、代表作を簡潔にまとめます。
起源と背景(1960年代)
開始
ピンク映画は1962年頃に誕生。大蔵映画などの独立系製作会社が、成人向けの短編映画を製作し、専用の「成人映画館」で上映したのが始まり。2025年現在、大蔵映画はR-15+版に注力して活動(映像事業)。
社会的背景
- TVの普及で映画産業が衰退し、低予算で収益を上げる必要があった。
- 性的解放の機運と、検閲の緩和(ただし、おもに刑法175条により性器描写は依然として禁止)。
名称
「ピンク映画」という呼称は、性的(ピンク=エロティック)な内容を暗示。1960年代後期に一般化。
特徴
上映形式
- 60〜70分の短編で、3本立て上映が一般的。
- 専用映画館(ピンク映画館)で上映され、観客は主に成人男性。
内容
- 性的シーンが必須(通常、10分ごとに挿入される「サービスシーン」)。
- ジャンルは多岐にわたり、恋愛、犯罪、ホラー、SF、社会派ドラマまで含む。
予算と製作
- 低予算(数百万円)で、数日〜1週間で撮影。
- 若手監督や俳優の登竜門として機能。
検閲
- 日本では性器描写が禁止(「ボカシ」やモザイク処理)。
- 日本映画倫理機構(映倫)や自主規制団体が審査。
芸術性
- 一部作品は実験的で、商業性と芸術性のバランスを追求。
- 社会問題(階級、性差別、疎外感)を扱う作品も多い。
歴史的展開
1960年代:黄金期
- 背景…ピンク映画は大手映画会社が避けたニッチ市場を埋め、独自の観客層を獲得。
- 代表作…若松孝二の『壁の中の秘事』(1965年)はカンヌ国際映画祭で上映され、ピンク映画の国際的注目を集めた。小林悟の『肉体の市場』(1962年)はピンク映画の草分け。
- 監督…若松孝二、足立正生など、後の日本映画界の巨匠がピンク映画でキャリアをスタート。
1970年代:多様化と競争
- 背景…ポルノビデオ(AV)の登場やテレビの影響で、ピンク映画は競争に直面。
- 特徴…過激な内容(SM、暴力)や実験映画が増加。日活ロマンポルノ(1971年〜1988年)がピンク映画と並行して人気を博す。
- 日活ロマンポルノとの違い…日活は大手スタジオ製作で予算や設備が充実。ピンク映画は独立系で、より自由だが制約も多い。
- 代表作…若松孝二の『犯された白衣』(1967年)は政治的メッセージを込めた過激な作品。小沼勝の『情事の履歴書』(1973年)はドラマ性の高いピンク映画。
1980年代〜1990年代:衰退とニッチ化
- 背景…VHSやAVの普及でピンク映画館が減少。観客も減少し、製作本数が縮小。
- 特徴…一部の監督は芸術性を追求し、国際映画祭での評価を狙う。滝田洋二郎(後の『おくりびと』監督)は痴漢電車シリーズをはじめとするピンク映画でキャリアを積んだ。
2000年代〜現在:復興と現代化
- 背景…デジタル技術で製作コストが低下。ピンク映画館は減少したが、DVDや配信で新たな市場が開拓。
- 特徴…若手監督がピンク映画を「伝統」として再評価。フェミニスト視点の作品も登場。
- 再評価…国際的にはピンク映画の回顧展が欧米で開催。国内の再評価は『OP PICTURES』プロジェクトで若手監督によるピンク映画の継続。
文化的意義
- 若手育成…ピンク映画は商業映画の制約が少ないため、若手監督の実験場となった。たとえば黒沢清、塚本晋也。
- 社会批評…性を通じて階級、権力、疎外などのテーマを探求。たとえば若松孝二の作品は1960年代の反体制運動とリンク。
- 女性表現…初期は男性視点が支配的だったが、近年は女性の主体性を描く作品も増加。
- 国際的評価…ピンク映画は「日本独自のB級映画」として、海外でカルト的な人気。とくに若松孝二や大島渚(『愛のコリーダ』はピンク映画の影響を受ける)が注目。
代表的な監督と作品
- 若松孝二…『胎児が密猟する時』(1966年)ではシュールな映像と政治性を融合。ピンク映画の枠を超えた実験性で知られる。
- 小沼勝…『情婦』(1972年)はドラマとエロティシズムのバランス。後に『愛のコリーダ』の助監督も務める。
現代の課題と展望
- 映画館の減少…ピンク映画館は全国で数軒(例:上野オークラ劇場)に縮小。
- 配信時代…Netflixやアマゾンでは配信されないが、専門プラットフォームやDVDで存続。
- 倫理的議論…#MeToo以降、性的描写の倫理や同意が注目され、製作現場も変化。
- 新たな可能性…ピンク映画のDIY精神は、インディーズ映画やYouTubeクリエイターに影響を与えている。
ピンク映画を観るには
- 映画館…東京の上野オークラ劇場や大阪のシネマジャック&ベティなど、限られた劇場で上映。
- 配信・DVD…大蔵映画やENKプロモーションがDVDを販売。一部作品はVimeoや専用サイトで配信。
- 映画祭…ピンク映画特集が東京や海外の映画祭で開催されることも。
まとめ
ピンク映画は、低予算ながらも自由な表現で日本映画に独自の足跡を残しました。性的描写を核としつつ、芸術性や社会批評を追求する作品群は、国内外でカルト的な支持を受けています。現代では若手や女性監督による新たな解釈も生まれ、伝統と革新が共存するジャンルとして進化を続けています。
特定の監督、作品、または現代のピンク映画の動向についてさらに詳しく知りたい場合、教えてください。ウェブ情報を検索して最新情報を補足することも可能です。
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