『フォルトゥナータ』（2017年、原題：Fortunata）は、セルジオ・カステリット監督のイタリアドラマ。ローマの郊外に住む若い母親が美容院開業を目指す物語。ジャスミン・トリンカが主演でカンヌ映画祭ある視点部門最優秀女優賞受賞。ハンナ・シグラが脇役で出演。過剰なメロドラマながら力強い女性像を描く。
基本情報
- 邦題：フォルトゥナータ
- 原題：Fortunata
- 英題：Lucky
- 公開年：2017年
- 製作国：イタリア
- 上映時間：103分
あらすじ
ローマの労働者階級地区トルピニャッターラに住むフォルトゥナータ（ジャスミン・トリンカ）は、8歳の娘バルバラ（ニコール・センタンニ）と暮らすシングルマザーです。暴力的な元夫フランコ（エドアルド・ペッシェ）との離婚手続き中の彼女は、裕福な顧客の自宅を訪れながら美容師として働き、自身の美容院を開く夢を追いかけます。娘の行動問題を診る心理学者パトリツィオ（ステファノ・アコルシ）との恋愛が始まるが、彼との情熱的な週末の間に、フォルトゥナータの友人でタトゥーアーティストのキッカーノ（アレッサンドロ・ボルギ）に預けたバルバラが窓から転落し負傷。裁判所はバルバラの親権をフランコに委ね、フォルトゥナータは追い詰められます。キッカーノの母ロッテ（ハンナ・シグラ）は、アルツハイマー病に苦しむ元女優で、ソフォクレスの「アンティゴネ」を引用しながら過去の栄光に浸ります。フォルトゥナータの過去のトラウマが浮上し、彼女の夢と愛が試される中、物語は劇的な結末へ向かいます。
女優の活躍
ハンナ・シグラは、キッカーノの母ロッテ役で脇役ながら印象的な演技を見せました。ロッテはアルツハイマー病に侵された元舞台女優で、過去の栄光を断片的に思い出し、劇中の「アンティゴネ」の引用や写真にサインして窓から投げる行為で、失われたアイデンティティを表現。シグラの演技は、限られた出番の中で深い哀愁と壊れゆく精神を繊細に伝え、批評家から「無駄遣い」と惜しまれつつも、彼女の存在感が映画に重みを加えました。シグラのドイツ訛りのイタリア語と、ファスビンダー作品で培った抑制された表現力は、ロッテの孤独な内面を際立たせます。
主演のジャスミン・トリンカは、フォルトゥナータ役でカンヌ映画祭ある視点部門最優秀女優賞を受賞。彼女の演技は、労働者階級の女性のたくましさと脆さを力強く描き、批評家から「卓越した演技」と絶賛されました。特に、元夫の暴力や娘の負傷に直面するシーンでは、感情の爆発と静かな決意をバランスよく表現。トリンカの自然体な魅力と、シグラの重厚な演技が、映画のメロドラマ的トーンを支えました。
女優の衣装・メイクアップ・ヘアスタイル
フォルトゥナータの衣装、メイク、ヘアスタイルは、彼女の労働者階級の背景と夢への執念を反映。衣装デザイナーのマッシモ・カンターニ・パリーニは、フォルトゥナータにカジュアルで実用的な衣装を採用。タイトなジーンズ、シンプルなタンクトップ、薄手のジャケットが中心で、ローマの暑い夏に高ヒールで駆け回る姿は、彼女のエネルギッシュな性格を強調。メイクは、汗ばんだ肌と薄い口紅で、過労とストレスを表現。ヘアスタイルは、ブリーチしたブロンドのロングヘアで、時に乱雑に束ねられ、彼女の慌ただしい生活を象徴します。
ハンナ・シグラ演じるロッテの衣装は、かつての女優の華やかさと現在の衰えを対比。ゆったりしたカーディガンや色褪せたドレスが、彼女の過去の栄光とアルツハイマー病による混乱を表現。メイクは薄く、青白い肌と乱れた眉が精神の衰弱を示し、ヘアスタイルは白髪交じりの無造作なボブで、かつての美貌を偲ばせます。ロッテのビジュアルは、シグラの自然体の美と相まって、哀愁を漂わせました。衣装とメイクは、映画のリアリスティックなトーンとメロドラマ的過剰さのバランスを取り、キャラクターの内面を視覚化しました。
解説
『フォルトゥナータ』は、セルジオ・カステリット監督と脚本家マーガレット・マッツァンティーニ夫妻による、労働者階級の女性の闘いを描いたメロドラマです。パゾリーニの『マンマ・ローマ』（1962年）に着想を得て、ローマの郊外を舞台に、女性の自己実現と社会の抑圧をテーマに掲げます。しかし、批評家からは「脚本が散漫で過剰」、「愛の展開が現実離れ」と批判され、物語の焦点がぶれるとの指摘も。カンヌ映画祭ある視点部門で上映され、トリンカの演技が高評価を受けた一方、Rotten Tomatoesでは0%（6レビュー、平均4.3/10）と厳しい評価でした。
映画は、フォルトゥナータの美容院開業という夢を通じて、女性のエンパワーメントを探求。彼女の元夫の暴力や、娘の負傷、恋愛の破綻は、社会的・心理的な障壁を象徴します。ロッテのアルツハイマー病やキッカーノの薬物依存は、周辺キャラクターの悲劇を通じて、労働者階級の過酷な現実を浮き彫りに。ジャン・フィリッポ・コルティチェリの撮影は、冒頭の航空ショットや水族館の幻想的なシーンで視覚的魅力を加え、アルトゥーロ・アンネッキーノの音楽が感情的な高ぶりを強調。しかし、ギリシャ悲劇や心理劇の要素が「半端」とされ、物語のまとまりを欠いたとの声も。イタリアでは興行的に成功したが、国際的には限定的な反響に留まりました。
キャスト
- ジャスミン・トリンカ（フォルトゥナータ）：美容師のシングルマザー。カンヌ最優秀女優賞受賞。
- ステファノ・アコルシ（パトリツィオ）：心理学者でフォルトゥナータの恋人。
- アレッサンドロ・ボルギ（キッカーノ）：フォルトゥナータの友人でタトゥーアーティスト。
- エドアルド・ペッシェ（フランコ）：フォルトゥナータの暴力的な元夫。
- ニコール・センタンニ（バルバラ）：フォルトゥナータの8歳の娘。
- ハンナ・シグラ（ロッテ）：キッカーノの母で元女優。アルツハイマー病に苦しむ。豪華なイタリアキャストにシグラの国際的スター性が加わり、物語に深みを添えました。
スタッフ
- 監督：セルジオ・カステリット。イタリアの名優で監督。
- 脚本：マーガレット・マッツァンティーニ。カステリットの妻で小説家。
- 撮影：ジャン・フィリッポ・コルティチェリ。鮮やかなローマの映像美。
- 編集：キアラ・ヴッロ。メロドラマの感情的な流れを構築。
- 音楽：アルトゥーロ・アンネッキーノ。ポップとドラマチックなスコア。
- 衣装デザイン：マッシモ・カンターニ・パリーニ。労働者階級のリアリティを表現。
- 製作：HTフィルム、インディゴ・フィルム、ライ・チネマ。スタッフは、カステリットのビジョンを支え、イタリア映画の伝統と現代性を融合させました。
総括
『フォルトゥナータ』は、労働者階級の女性の闘いと愛を描いた感情的なメロドラマです。ジャスミン・トリンカの力強い演技とハンナ・シグラの印象的な脇役が、物語に深みを加えます。衣装とメイクは、キャラクターの社会的背景と内面を反映。脚本の過剰さが批判されたものの、ローマのリアルな描写とトリンカの受賞演技が光る作品です。
レビュー 作品の感想や女優への思い