『リオ・ダス・モルテス』(1971年、原題:Rio das Mortes)は、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督のドイツ製TV映画。冴えない若者たちが宝探しの夢に突き進むコメディ。ハンナ・シグラがヒロインを演じ、彼女の恋愛と現実の葛藤を描写。新ドイツ映画の初期作品で、軽快な実験性が魅力。
基本情報
- 邦題:リオ・ダス・モルテス
- 原題:Rio das Mortes
- 公開年:1970年
- 製作国:西ドイツ
- 上映時間:84分
あらすじ
1970年代の西ドイツ。ミヒャエル(ミヒャエル・ケーニヒ)とギュンター(ギュンター・カウフマン)は、単調な仕事に就く冴えない若者で、ブラジルのリオ・ダス・モルテス川に隠されたインカの宝を探すという突飛な夢に取り憑かれています。ミヒャエルの恋人ハンナ(ハンナ・シグラ)は、彼らの計画を馬鹿らしいと思いつつも、ミヒャエルとの結婚を望み、渋々協力します。二人は資金集めのため奔走し、ハンナの友人カトリン(カトリン・シャーケ)や知人たちに助けを求めますが、計画は一向に進まず、仲間内の喧嘩や無意味な行動が続きます。ハンナはミヒャエルの無謀な冒険心に振り回されながらも、彼への愛と自身の現実的な願望の間で葛藤。物語は、彼らの夢と現実のギャップをユーモラスに描き、曖昧な結末で締めくくられます。
女優の活躍
ハンナ・シグラはヒロインのハンナ役で、恋人の無謀な夢に付き合いながらも結婚を望む女性を演じました。彼女の演技は、ファスビンダーの初期作品特有の即興的で軽妙なトーンに適合しつつ、キャラクターの内面の苛立ちと愛情を繊細に表現。シグラの「疲れた目」(Letterboxdレビュー)は、ミヒャエルの幼稚な冒険心に対する諦めと愛の複雑な感情を伝え、観客に強い印象を与えます。 特に、ミヒャエルとギュンターの計画を冷ややかに見つめるシーンや、資金集めの会話での微妙な表情は、彼女の抑制された演技が光ります。シグラはこの時期、ファスビンダーの「アクション・シアター」出身の俳優として、彼の低予算かつ実験的なスタイルに適応しており、本作でもその自然体な魅力が際立ちます。批評家からは「シグラの顔は映画の宝」(Letterboxd)と称賛され、彼女の存在感が映画の中心を支えました。ただし、物語の軽薄さゆえに、彼女の演技の深みが十分に活かされていないとの指摘も一部にあります(IMDbレビュー)。
女優の衣装・化粧・髪型
ハンナ・シグラ演じるハンナの衣装、メイク、ヘアスタイルは、1970年代の西ドイツの若者の日常と、映画の低予算かつカジュアルな雰囲気を反映しています。衣装は、シンプルなブラウス、ハイウエストのスカート、またはカジュアルなセーターで、労働者階級の女性の現実感を強調。色調は控えめなベージュやグレーで、派手さを避けたデザインがハンナの地味で現実的な性格を表現します。ダンスシーンでは、やや華やかなドレスが登場し、シグラの自然な美貌が引き立ちます。メイクは最小限で、薄い口紅とナチュラルなアイメイクが中心。彼女の青い瞳とブロンドの髪が、控えめなメイクでも際立つよう工夫されました。ヘアスタイルは、肩までの長さのブロンドヘアをゆるくウェーブさせ、時にポニーテールや無造作に下ろしたスタイルで、1970年代の若者の気取らない雰囲気を表現。低予算ゆえに凝った衣装やメイクはなく、シグラの自然体な魅力に頼ったビジュアルが、映画の即興性を補強しました。
解説
『リオ・ダス・モルテス』は、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの新ドイツ映画の初期作品で、1969年に設立された彼の製作会社「アンチテアター」の一環として制作されたTV映画。ヌーヴェルヴァーグ、とくにジャン=リュック・ゴダール監督、アンナ・カリーナ主演の『はなればなれに』(1964年)に影響を受けた軽快なコメディで、若者の無目的な夢と社会の停滞を描きます。物語は、資本主義社会の単調さと、第三世界への逃避願望をユーモラスに風刺。リオ・ダス・モルテス川がブラジル(ミナスジェライス州)にあるにもかかわらず、登場人物が「ペルー」と誤認する点は、彼らの無知と夢の虚構性を強調します(Letterboxd)。
映画の映像は、8mmまたは16mmカメラによる粗い質感が特徴で、ファスビンダーの低予算スタイルを反映(IMDbレビュー)。 撮影監督ミヒャエル・バルハウスのダイナミックなカメラワークと、既存のポップソングの使用が、映画に活気を与えます。物語は「意図的な中途半端さ」(Letterboxd)で終わり、ファスビンダーの「夢と終焉の逆説」を体現。批評家からは「愉快だが忘れがち」(Letterboxd)と評価され、ファスビンダーのファン向けの作品と見なされます。 『マリア・ブラウンの結婚』など後期の重厚な作品と比べると軽量ですが、若者の疎外感やハンナの現実との葛藤は、ファスビンダーの一貫したテーマである「個人と社会の断絶」を予告します。興行的にはテレビ放映向けの小規模な作品で、商業的成功は限定的でした。
キャスト
- ハンナ・シグラ(ハンナ):ミヒャエルの恋人。夢に振り回される現実的な女性。
- ミヒャエル・ケーニヒ(ミヒャエル):宝探しに取り憑かれた青年。
- ギュンター・カウフマン(ギュンター):ミヒャエルの友人で共謀者。
- カトリン・シャーケ(カトリン):ハンナの友人。
- ハリー・ベア(ハンナのダンスパートナー):脇役。
- イングリッド・カーフェン:脇役。
- ウーリ・ロンメル:脇役。
- ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(ハンナのダンスパートナー):カメオ出演。
- カルラ・エゲラー、マリウス・アイヒャー、フランツ・マロン:脇役。
ファスビンダーの常連俳優が揃い、低予算ながらアンサンブルの即興性が映画の軽快さを支えました。
スタッフ
- 監督・脚本:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー。新ドイツ映画の旗手で、実験的なコメディを演出。
- 撮影:ディートリヒ・ローマン、ミヒャエル・バルハウス。粗い映像ながらダイナミックな動き。
- 編集:テア・アイムケ。ファスビンダーの即興性を整理。
- 音楽:既存のポップソングを使用(詳細不明)。映画の軽快さを強化。
- 製作:アンチテアター、ヴェストデッチャー・ルントフンク(WDR)。テレビ映画として制作。
- 美術・衣装:詳細不明。低予算ゆえに簡素なデザイン。スタッフはファスビンダーの初期の協力者で、低予算ながら彼のビジョンを具現化しました。
総括
『リオ・ダス・モルテス』は、ファスビンダーの新ドイツ映画の初期を代表する軽快なコメディです。ハンナ・シグラの自然体な演技は、恋愛と現実の葛藤を表現し、映画の中心を支えます。シンプルな衣装とメイクは、1970年代の若者の日常を反映。粗い映像と即興性が、若者の夢と疎外感をユーモラスに描き、ファスビンダーの実験精神を示しました。




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