『ゲット・アウト』は、ジョーダン・ピール監督の心理ホラー映画。アフリカ系アメリカ人のクリスが白人の恋人ローズの実家で体験する恐怖と人種差別の闇を描く。低予算ながら全米で大ヒットし、アカデミー脚本賞受賞。鋭い社会風刺とサスペンスが融合した話題作。
基本情報
- 邦題：ゲット・アウト
- 原題：Get Out
- 公開年：2017年
- 製作国：米国
- 上映時間：104分
- ジャンル：ホラー、ミステリー、スリラー
- 配給：東宝東和
見どころ
初監督を務めた人気コメディアン、ジョーダン・ピールが人種差別を恐怖に昇華させ、衝撃の物語を演出。トランプ大統領の当選を受けて変更したというエンディングにも注目。
あらすじ
ニューヨークに暮らすアフリカ系アメリカ人の写真家クリス・ワシントン（ダニエル・カルーヤ）は、恋人のローズ・アーミテージ（アリソン・ウィリアムズ）の実家を訪れるため、週末に彼女と共にアラバマ州へ向かいます。クリスは黒人である自分をローズの両親が受け入れるか不安を感じつつも、彼女の「両親はリベラルで問題ない」という言葉を信じて旅立ちます。しかし、ローズの実家に到着すると、過剰な歓迎と不自然な態度に違和感を覚えます。屋敷には黒人の使用人、ウォルター（マーカス・ヘンダーソン）とジョージナ（ベッティ・ガブリエル）がおり、彼らの奇妙な振る舞いがクリスの疑念を深めます。
その夜、庭を猛スピードで走るウォルターや、窓に映る自分の姿をじっと見つめるジョージナを目撃し、クリスは不穏な空気を感じます。翌日、ローズの祖父を讃えるパーティが開催され、白人ばかりの客たちがクリスに異常な関心を示します。特に、フラッシュ撮影をきっかけに黒人の若者が突然正気を取り戻したような反応を見せ、クリスに「出て行け！」と叫ぶ場面は衝撃的です。やがて、クリスはローズの家族が黒人を対象にした恐ろしい秘密を隠していることを知り、命がけの脱出劇が始まります。物語は人種差別を背景に、ホラーとサスペンスが巧みに織り交ぜられた展開で観客を引き込みます。
解説
『ゲット・アウト』は、ホラー映画の枠を超えた社会派スリラーとして高く評価されています。監督のジョーダン・ピールは、アメリカ社会に根深く残る人種差別を巧みに描き出し、観客にその現実を直視させます。映画は、低予算（約500万ドル）ながら全米興行収入1億7600万ドルを記録し、第90回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞にノミネートされ、脚本賞を受賞する快挙を成し遂げました。
本作の特徴は、ホラーとコメディの絶妙なバランスです。ピール自身のコメディアンとしての経験が活かされ、緊張感の中にもユーモアが散りばめられています。特に、クリスの友人ロッド（リル・レル・ハウリー）のコミカルな存在感は、物語の重さを和らげる一方で、警察への不信感など社会問題を浮き彫りにします。また、伏線が緻密に張り巡らされており、フラッシュや紅茶のカップといった細部。観客を驚かせる要素であり、後に明らかになる真相との繋がりが鮮やかに描かれています。
人種差別のテーマは、表面的なリベラルな態度と裏腹に潜む偏見や搾取の構造を暴き出す形で表現され、現代社会への鋭い批判となっています。ピールは、ホラーというジャンルを用いつつ、笑いと恐怖を融合させることで、観客に深い思索を促す作品に仕上げました。
女優の活躍
本作における主要な女優は、アリソン・ウィリアムズ（ローズ・アーミテージ役）とキャサリン・キーナー（ミッシー・アーミテージ役）、ベッティ・ガブリエル（ジョージナ役）です。
アリソン・ウィリアムズ（ローズ・アーミテージ）
ウィリアムズは、愛らしい外見と裏腹に複雑な内面を持つローズを演じ、物語の鍵を握るキャラクターとして強い印象を残します。彼女の演技は、序盤の親しみやすさから終盤の冷酷な本性へと変化する難しい役どころを見事に表現。特に、終盤での感情を排した表情は観客に衝撃を与え、物語のテーマである「偽善的なリベラル」の象徴として機能しました。
キャサリン・キーナー（ミッシー・アーミテージ）
ベテラン女優のキーナーは、ローズの母ミッシー役として、穏やかな微笑みの裏に不気味な威圧感を漂わせる演技を披露。催眠術を使うシーンでは、静かな迫力でクリスを精神的に追い詰め、物語の緊張感を高めます。彼女の抑えた演技は、ホラーの恐怖感を増幅させました。
ベッティ・ガブリエル（ジョージナ）
ガブリエルは使用人のジョージナ役で、限られた出番ながら強烈な存在感を発揮。無表情で不自然な笑顔や、窓を見つめるシーンでの異様な雰囲気は、観客に深い不安を与えます。彼女の演技は、物語の核心に迫る重要な役割を果たしました。
女優の衣装・化粧・髪型
アリソン・ウィリアムズ（ローズ）
ローズの衣装は、カジュアルでありながら洗練された白人女性のイメージを反映。デニムやシンプルなトップスは、親しみやすさと「リベラルな若者」を象徴し、終盤の豹変とのギャップを強調。メイクはナチュラルで、ヘアスタイルはゆるやかなウェーブのロングヘアで、典型的な「白人女性の美」のステレオタイプを体現し、人種差別のテーマとリンクしています。
キャサリン・キーナー（ミッシー）
ミッシーの衣装は、上品で落ち着いたトーンのブラウスやスカートが中心。心理学者としての知的な雰囲気を醸し出し、穏やかさと不気味さを両立。メイクは控えめで、年齢相応の自然体を強調。ヘアスタイルはシンプルなアップスタイルで、威厳と冷徹さを表現しました。
ベッティ・ガブリエル（ジョージナ）
ジョージナの衣装は、クラシックなメイド服で、抑圧された立場を象徴。メイクはほぼスッピンに近く、無機質な表情を強調し、不気味さを増幅。ヘアスタイルはタイトなアップヘアで、感情を抑えた使用人のイメージを強化しました。
キャスト
- クリス・ワシントン：ダニエル・カルーヤ
- ローズ・アーミテージ：アリソン・ウィリアムズ
- ディーン・アーミテージ：ブラッドリー・ウィットフォード
- ミッシー・アーミテージ：キャサリン・キーナー
- ジェレミー・アーミテージ：ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
- ジョージナ：ベッティ・ガブリエル
- ウォルター：マーカス・ヘンダーソン
- ロッド・ウィリアムズ：リル・レル・ハウリー
その他、レイキス・スタンフィールド、スティーヴン・ルートなど。
スタッフ
- 監督・脚本・製作：ジョーダン・ピール（初監督作品）
- 製作：ジェイソン・ブラム（『パラノーマル・アクティビティ』シリーズ）
- 撮影：トビー・オリヴァー
- 編集：グレゴリー・プロトキン
- 音楽：マイケル・エイブルズ
配給：ユニバーサル・ピクチャーズ（米国）、東宝東和（日本）
撮影はアラバマ州で23日間で行われ、低予算ながら高い完成度を実現。
まとめ
『ゲット・アウト』は、人種差別という重いテーマをホラーとコメディの融合で描き、観客に深い印象を与える作品です。女優たちの演技は物語のテーマを強化し、衣装やメイクはキャラクターの背景を象徴的に表現。ピールの鋭い社会風刺とブラムの製作力が生み出した傑作で、現代の名作として語り継がれています。
レビュー 作品の感想や女優への思い