キャサリン・ヘプバーン（Katharine Hepburn）は米国の女優。映画、舞台、テレビで活躍し、アカデミー賞主演女優賞を4回受賞した唯一の俳優です。身長170cm以上の長身と個性的なスタイルで知られ、20世紀の自立した女性像を象徴します。
主な作品に『勝利の朝』（1933年）、『アフリカの女王』（1951年）、『招かれざる客』（1967年）、『冬のライオン』（1968年）、『黄昏』（1981年）などがあります。AFIの「映画スターベスト100」女優部門で1位に選ばれました。
プロフィール
- 名前：キャサリン・ヘプバーン（Katharine Hepburn）
- 本名：キャサリン・ホートン・ヘプバーン（Katharine Houghton Hepburn）
- 生年月日：1907年5月12日
- 出生地：アメリカ合衆国コネチカット州ハートフォード
- 没年月日：2003年6月29日（96歳没）
- 死没地：アメリカ合衆国コネティカット州オールドセイブルック
- 職業：女優
- ジャンル：映画、舞台
- 活動期間：1928年 – 1994年
- 配偶者：ラドロウ・オグデン・スミス（1928年 – 1934年）
- 著名な家族：キャサリン・マーサ・ホートン・ヘプバーン（母、活動家）
- キャサリン・ホートン（姪、女優）
生い立ち・教育
キャサリン・ヘプバーン（Katharine Hepburn）は、コネチカット州ハートフォードで生まれました。本名はキャサリン・ホートン・ヘプバーンです。父親のトーマス・ノーヴァル・ヘプバーンはバージニア州出身の医師で、母親のキャサリン・マーサ・ホートンは婦人参政権論者で、マーガレット・サンガーと共に産児制限運動に携わった自由主義的な環境で育ちました。この家庭は進歩的で、ヘプバーンは活発な少女として知られ、髪を短く切り、自身をジミーと称していました。兄トムと特に仲が良く、6人兄妹の長女として、幼少期から演じることに熱中していました。14歳の時に兄トムが他界し、報道では自殺や事故が噂されましたが、真相は不明のままです。この出来事は彼女の人生に影を落とし、家族の喪失感が内面的な強さを生んだ要因となりました。
教育面では、ブリンマー大学で心理学を専攻しました。大学時代は演劇に興味を持ち、21歳でサマーストック劇『The Czarina』や『ゆりかご泥棒』で初舞台を踏みました。卒業後、ニューハートフォードで発声練習に励み、フランシス・ロビンソン＝ダフのもとで訓練を積みました。ニューヨークに移り、10本以上の舞台に出演した後、1932年にRKOの『愛の嗚咽』で映画デビューしました。
デビュー当時、ハリウッドに興味がなく、舞台中心のキャリアを望んでいましたが、冗談で高額ギャラを要求したところ受け入れられ、出演を決意しました。このような背景から、彼女は自由で自立した精神を幼少期から身につけ、大学での心理学勉強が後の深い役柄表現に寄与しました。母親の活動家としての影響は、ヘプバーンの公の場での控えめな姿勢やプライバシー重視に反映されています。大学生活では、心理学を通じて人間心理を深く理解し、演技に活かしたエピソードが知られています。ブリンマー大学のイヤーブックには、卒業写真が掲載され、若き日の活発さがうかがえます。こうした生い立ちは、彼女を知的で独立した女優として形成した基盤となりました。
経歴
ヘプバーンのキャリアは1928年に舞台で始まり、1932年の映画デビュー『愛の嗚咽』で注目されました。当初は舞台女優として週給100ドルの安定を望んでいましたが、RKOに1500ドルを要求したのがきっかけでハリウッド入りしました。1930年代初頭は『勝利の朝』（1933年）でアカデミー賞主演女優賞を受賞し、ブレイクしました。『若草物語』（1933年）ではジョー役を演じ、ヴェネツィア国際映画祭女優賞を受賞しました。しかし、1930年代中期までは「ボックスオフィス・ポイズン」と呼ばれ、興行的に苦戦しました。スクリューボール・コメディの『赤ちゃん教育』（1938年）、『素晴らしき休日』（1938年）でケーリー・グラントと共演し、アクロバティックな演技とマシンガン・トークで再評価されました。これらの作品は、後年コメディのスタンダードとなりました。
1940年の『フィラデルフィア物語』でジョージ・キューカー監督と出会い、親友になりました。キューカーとの合作は彼女の代表作を生み、ヒットを連発しました。1942年の『女性No.1』ではテス・ハーディング役でアカデミー賞候補となりました。1951年の『アフリカの女王』でヒューム・ボゴートと共演し、冒険的な役柄で候補になりました。1955年の『旅情』ではイタリア・ヴェネツィアで撮影中、目が細菌感染し失明寸前になりましたが、完治せず残りました。1960年代に入り、スペンサー・トレイシーと9作品で共演しました。結婚せずパートナーとして20年以上を過ごし、トレイシーの癌看病で5年間休養しました。1967年の『招かれざる客』でアカデミー賞受賞、1968年の『冬のライオン』で再受賞しました。カンヌ女優賞（1962年『夜への長い旅路』）も獲得しました。
1970年代はテレビ映画に進出、『Love Among the Ruins』（1975年）でエミー賞受賞しました。1981年の『黄昏』で4度目のアカデミー賞受賞、ヘンリー・フォンダと共演しました（ジェーン・フォンダの熱意で出演）。晩年は1994年の『突然の炎』まで活動し、AFIの偉大なる女優50名で1位（1999年）となりました。彼女のキャリアは、舞台から映画への移行、初期の失敗を乗り越えた復活劇で、知的で自立した役柄が特徴です。トレイシーとの関係は、敬虔なカトリックのため結婚せずとも深く、葬儀不参加で家族に配慮しました。ハリウッドでの苦戦期は、個性的スタイルが原因でしたが、キューカーとの出会いが転機となりました。晩年のテレビ出演は、ミニシリーズで新境地を開きました。全体として、彼女の経歴は長寿で多様なジャンルにわたり、演技の深みを示します。
服飾・美容
ヘプバーンは、黄金時代のスターながら実用性を重視したパンツスタイルを好み、それがトレンドを生みました。身長170cm以上の長身と細長い肢体が特徴で、当時の小柄な男優が尻込みした逸話もあります。常にパンツを着用し、着飾らず自然体で過ごしましたため、現代女性のライフスタイルの基盤となったと評されます。晩年のバーバラ・ウォルターズのインタビューで「スカートを履かないの？」と聞かれ、「あなたのお葬式用にとってあるのよ」とユーモアで返しました。1973年のアカデミー賞では、黒のシンプルなパンツスーツで登場し、茶目っ気あるコメントで笑いを誘いました。このスタイルは、彼女の自立心を象徴し、公の場での控えめな美容観を反映します。
髪は短く切り、ジミーと称した少女時代から一貫したボーイッシュな美しさを保ちました。メイクも最小限で、知的で個性的な外見が役柄にマッチしました。パンツスタイルの採用は、活動的な生活に適した実用性から来ており、映画撮影でのアクロバットシーンでも動きやすい服装を選びました。こうした美容観は、プライバシーを重視する性格と連動し、ハリウッドの華美なスター像を拒否しました。彼女の影響は、後年の女優にパンツスーツの普及を促し、フェミニンなイメージを変えました。晩年までこのスタイルを貫き、96歳での逝去まで自然な美を保ちました。彼女はナチュラルメイクを基本とし、健康的な生活を重視し、年齢を重ねても若々しさを保ちました。こうした姿勢は、フェミニズムの象徴となり、後世の女性に影響を与えています。
私生活
ヘプバーンはプライバシーを強く重視し、公の場を避けました。結婚は一度きりで、ブリンマー大学時代に出会ったラドロウ・オグデン・スミスと1928年に結婚、1934年に離婚しましたが、元夫とは癌死まで友人として交流しました。ハワード・ヒューズとのロマンスが噂されましたが、1991年の自伝『Me-キャサリン・ヘプバーン自伝』で詳細を明かし、大ベストセラーになりました。スペンサー・トレイシーとは9作品共演、結婚せず20年以上パートナーでした。トレイシーのカトリック信仰で離婚不可のためで、ロサンゼルス中心の生活を送りました。1960年代にトレイシーの健康悪化で看病し、1968年の死を看取りましたが、葬儀不参加で家族配慮しました。
姪のキャサリン・ホートンが『招かれざる客』で娘役デビューしました。ヘンリー・フォンダとは共演なしですが、娘ジェーン・フォンダが『黄昏』でプロデュースし、ヘプバーンを説得して出演しました。公の授賞式は1973年のアカデミー賞のみ出席、ローレンス・ウェインガーテンにタルバーグ賞贈呈しました。彼女の私生活は、独立心強く、家族やパートナーへの献身が特徴です。自伝の出版は、私生活を語らないイメージを崩し、画期的でした。トレイシーとの関係は、深い絆を示し、互いのキャリアを尊重しました。ヒューズとのエピソードは、自伝で包み隠さず語られ、彼女の率直さを表します。全体として、プライベートを盾にキャリアを守り、晩年まで自立した生活を維持しました。子供はおらず、母性をキャリアと両立できないと見なし、独身を貫きました。晩年は絵画や読書を楽しむ生活を送りました。
出演作品
映画
- 愛の嗚咽（1932年、シドニー・フェアフィールド）
- 勝利の朝（1933年、エヴァ・ラヴレース）
- 若草物語（1933年、ジョー・マーチ）
- 乙女よ嘆くな（1935年、アリス・アダムス）
- 赤ちゃん教育（1938年、スーザン・ヴァンス）
- 素晴らしき休日（1938年、リンダ・シートン）
- フィラデルフィア物語（1940年、トレイシー・ロード）
- 女性No.1（1942年、テス・ハーディング）
- 愛の調べ（1947年、クララ・シューマン）
- アダム氏とマダム（1949年、アマンダ・ボナー）
- アフリカの女王（1951年、ローズ・セイヤー）
- 旅情（1955年、ジェーン・ハドソン）
- 雨を降らす男（1956年、リジー・カリー）
- 去年の夏 突然に（1959年、ヴァイオレット・ヴェナブル）
- 夜への長い旅路（1962年、メアリー・タイロン）
- 招かれざる客（1967年、クリスティーナ・ドレイトン）
- 冬のライオン（1968年、アリエノール・ダキテーヌ）
- 黄昏（1981年、エセル・セイヤー）
- 突然の炎（1994年、ジニー）
舞台
- These Days（1928年、デビュー作）
- The Warrior’s Husband（1932年、アンティオペー）
- The Lake（1933年、ステラ・サーミントン）
- The Philadelphia Story（1939年、トレイシー・ロード）
- As You Like It（1950年、ロザリンド）
- The Millionairess（1952年、エピファニア）
- Coco（1969年、ココ・シャネル）
- A Matter of Gravity（1976年、デュボア夫人）
- The West Side Waltz（1981年、マーガレット・メアリー・エルドリッジ）
テレビ
- The Glass Menagerie（1973年、アマンダ・ウィングフィールド）
- Love Among the Ruins（1975年、ジェシカ・メドリコット）
- The Corn Is Green（1979年、ミス・リリー・モファット）
- Mrs. Delafield Wants to Marry（1986年、マーガレット・デラフィールド）
- Laura Lansing Slept Here（1988年、ローラ・ランシング）
- This Can’t Be Love（1994年、マリオン・ベネット）
- One Christmas（1994年、コルネリア・ベスト）
受賞歴
キャサリン・ヘプバーンは、映画、舞台、テレビでの活躍により、数多くの賞を受賞またはノミネートされました。特にアカデミー賞では史上最多の4回主演女優賞を受賞し、12回のノミネートを記録しています。以下に、主な受賞歴をカテゴリ別に詳述します。各項目では、年、賞のカテゴリ、関連作品、結果を記載します。これらの情報は、彼女のキャリアの多様性を示すものです。
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アカデミー賞
ヘプバーンはアカデミー賞で4回の受賞を果たし、史上唯一の記録保持者です。主に主演女優賞部門で活躍しました。
- 1934年（第6回）：主演女優賞 – 『勝利の朝』（Morning Glory） – 受賞
- 1936年（第8回）：主演女優賞 – 『乙女よ嘆くな』（Alice Adams） – ノミネート
- 1941年（第13回）：主演女優賞 – 『フィラデルフィア物語』（The Philadelphia Story） – ノミネート
- 1943年（第15回）：主演女優賞 – 『女性No.1』（Woman of the Year） – ノミネート
- 1952年（第24回）：主演女優賞 – 『アフリカの女王』（The African Queen） – ノミネート
- 1956年（第28回）：主演女優賞 – 『旅情』（Summertime） – ノミネート
- 1957年（第29回）：主演女優賞 – 『雨を降らす男』（The Rainmaker） – ノミネート
- 1960年（第32回）：主演女優賞 – 『去年の夏 突然に』（Suddenly, Last Summer） – ノミネート
- 1963年（第35回）：主演女優賞 – 『夜への長い旅路』（Long Day’s Journey Into Night） – ノミネート
- 1968年（第40回）：主演女優賞 – 『招かれざる客』（Guess Who’s Coming to Dinner） – 受賞
- 1969年（第41回）：主演女優賞 – 『冬のライオン』（The Lion in Winter） – 受賞（バーブラ・ストライサンドとのタイ）
- 1982年（第54回）：主演女優賞 – 『黄昏』（On Golden Pond） – 受賞
ゴールデングローブ賞
ヘプバーンはゴールデングローブ賞で8回のノミネートを受けましたが、受賞はありませんでした。主に映画とテレビの部門です。
- 1953年：映画部門 主演女優賞（ミュージカル/コメディ） – 『パットとマイク』（Pat and Mike） – ノミネート
- 1993年：テレビ映画部門 主演女優賞 – 『The Man Upstairs』 – ノミネート
その他のノミネート詳細は多岐にわたり、彼女の幅広いキャリアを反映しています。
英国アカデミー賞（BAFTA）
BAFTAでは2回の受賞と5回のノミネートを記録しました。晩年の活躍が目立ちます。
- 1969年：主演女優賞 – 『招かれざる客』（Guess Who’s Coming to Dinner） – 受賞
- 1983年：主演女優賞 – 『黄昏』（On Golden Pond） – 受賞
エミー賞
テレビ部門で1回の受賞と6回のノミネートを受けました。晩年のテレビ映画出演が評価されました。
- 1974年：スペシャル番組部門 主演女優賞 – 『The Glass Menagerie』 – ノミネート
- 1975年：スペシャル番組部門 主演女優賞 – 『Love Among the Ruins』 – 受賞
- 1979年：スペシャル番組部門 主演女優賞 – 『The Corn Is Green』 – ノミネート
- 1986年：ミニシリーズ/スペシャル部門 主演女優賞 – 『Mrs. Delafield Wants to Marry』 – ノミネート
トニー賞
舞台部門で2回のノミネートを受けました。ミュージカルと演劇の両方で活躍しました。
- 1970年：ミュージカル部門 主演女優賞 – 『Coco』 – ノミネート
- 1982年：演劇部門 主演女優賞 – 『The West Side Waltz』 – ノミネート
全米映画俳優組合賞（SAG）
テレビ部門でノミネートを受け、生涯功労賞も授与されました。
- 1995年：テレビ映画/ミニシリーズ部門 女性俳優賞 – 『One Christmas』 – ノミネート
- 1980年：生涯功労賞 – 受賞
ヴェネツィア国際映画祭
初期のキャリアで受賞しました。
- 1934年：女優賞 – 『若草物語』（Little Women） – 受賞
カンヌ国際映画祭
1960年代の作品で受賞しました。
- 1962年：女優賞 – 『夜への長い旅路』（Long Day’s Journey Into Night） – 受賞
ニューヨーク映画批評家協会賞
- 1940年：主演女優賞 – 『フィラデルフィア物語』（The Philadelphia Story） – 受賞
ピープルズ・チョイス賞
- 1976年：Favorite Motion Picture Actress – 受賞
- 1983年：Favorite Motion Picture Actress – 受賞
カンザスシティ映画批評家協会賞
- 1972年：主演女優賞 – 『The Trojan Women』 – 受賞
その他の賞と栄誉
- 1979年：アメリカン・シアター・ホール・オブ・フェイム 殿堂入り
- 1985年：アメリカン・ヒューマニスト協会 人文芸術賞 – 生涯功労 – 受賞
- 1986年：Council of Fashion Designers of America 生涯功労賞 – 受賞
- 1990年：ケネディ・センター名誉賞 – 受賞
これらの受賞歴は、ヘプバーンの長きにわたる貢献を証明しています。彼女はアカデミー賞のプレゼンターとしても活躍し、1974年のアービング・G・タルバーグ記念賞をローレンス・ウェインガーテンに授与しました。
レビュー 作品の感想や女優への思い