1967年に公開された日本映画「妻二人」は、パトリック・クェンティンのミステリ小説「二人の妻をもつ男」を原作に、新藤兼人が脚色し、増村保造が監督したサスペンス。作家の夢を諦めた男が、貞淑な妻と情熱的な元恋人の間で揺れ動き、脅迫と殺人事件に巻き込まれる様子を描きます。厳しい倫理観を持つ妻と、自由奔放な元恋人の対比が、愛と正義のジレンマを強調します。94分の上映時間で、大映製作の風俗もの。
基本情報
- 邦題:妻二人
- 公開年:1967年
- 製作国・地域:日本
- 上映時間:94分
女優の活躍
この映画では、若尾文子と岡田茉莉子が主要な女優として活躍します。
若尾文子は永井道子役を演じ、気疲れの絶えない愛にすがる妻を美しく体現します。彼女の演技は抑制されていて、増村保造監督のタフでハードボイルドなスタイルを反映します。特に、殺人シーンでは襲われる中で冷静に拳銃を撃ち込む様子がクールに描かれ、彼女の生真面目さを強調します。若尾文子は大映の看板女優として、悪女役を避けつつも、複雑な内面を表現します。
岡田茉莉子は雨宮順子役で、健三の元恋人を演じます。彼女は余裕のある演技を見せ、汚れ役を担当します。健三を支えてきた過去を持ち、逮捕された後もラストで釈放され、笑顔で去る後ろ姿が印象的です。この役で岡田茉莉子は、男のために自らを犠牲にする女性の強さを表現します。彼女はこの時期にフリーとして活動しており、若尾文子との初共演が注目されます。
江波杏子は永井利恵役で、道子の奔放な妹を演じます。感情豊かな演技で、父親と姉を困らせるわがままな性格を説得力を持って描きます。小林との婚約を通じて、物語の緊張を高めます。これらの女優たちは、映画の中盤まで和服姿で登場し、後半の対峙シーンで緊張感を生み出します。若尾文子と岡田茉莉子の共演は、互いの美しさを引き立て、増村保造の人間ドラマを豊かにします。
女優の衣装・化粧・髪型
若尾文子演じる道子は、1960年代の日本女性らしい上品な衣装が多く見られます。主に和服を着用し、落ち着いた色合いの着物が彼女の貞淑さを表します。化粧はナチュラルで、薄い口紅と控えめなアイメイクが特徴です。髪型はアップスタイルが多く、きちんとしたまとめ髪が理性的な性格を強調します。物語が進むにつれ、ストレスを感じるシーンではやや乱れた髪が内面的な葛藤を示します。
岡田茉莉子演じる順子は、より自由奔放なスタイルです。洋服を混ぜた衣装が多く、モダンなドレスやスカートが彼女の情熱的な側面を表します。化粧は少し濃いめで、赤い口紅と強調された目元が魅力的です。髪型はロングヘアをゆるく巻いたものが多く、バーシーンではウェーブがかかったスタイルがセクシーさを加えます。逮捕シーンではシンプルなまとめ髪が、運命の厳しさを演出します。
江波杏子演じる利恵は、若い妹らしい活発な衣装です。ミニスカートやブラウスが多く、化粧は明るいチークとリップが特徴です。髪型はポニーテールやショートボブ風で、わがままさを強調します。これらの衣装・化粧・髪型は、時代背景を反映しつつ、各女優の役柄を視覚的に区別します。全体として、和服と洋服の対比が二人の妻の違いを象徴します。
あらすじ
作家を志していた柴田健三は、愛人の雨宮順子と別れ、婦人雑誌社の社長・永井昇平の娘である永井道子と結婚します。健三は出版社で編集者として働き、道子は事業部を支えます。しかし、ある夜、バーで順子と再会します。順子は今、作家志望の小林章太郎と同居し、健三で果たせなかった夢を追っています。健三が順子の部屋を訪ねると、そこに拳銃があり、それは小林から身を守るためのものだとわかります。
小林は健三と順子の過去を知り、金目当てに道子の妹・永井利恵に近づきます。小林は利恵との結婚を画策し、順子と手を切ります。道子が小林の結婚に反対すると、小林は健三と順子の関係を道子に暴露します。さらに、永井昇平と井上美佐江の情事や井上潤吉の横領を脅迫材料に使います。道子は大阪出張を口実に家を空け、順子のマンションで小林に会います。口止め料を渡しますが、小林に襲われそうになり、拳銃で射殺します。
永井昇平はスキャンダルを恐れ、利恵のアリバイを偽造します。事件時、利恵は健三の部屋にいたことにします。拳銃は順子のものとされ、順子が逮捕されます。健三は拳銃と順子に贈った指輪から、順子が犯人ではないと確信します。健三は小林の脅迫を突き止め、道子に問いただします。道子は事件を告白し、正しく生きるために自首を決意します。健三は道子を見捨てられず、彼女を支えます。順子は釈放され、笑顔で去ります。健三は妻のもとへ戻り、物語は終わります。
解説
この映画は、パトリック・クェンティンのミステリ小説を基にしていますが、スリルやサスペンスよりも、「正しさ」と「愛」のテーマに焦点を当てます。増村保造監督のスタイルが顕著で、画面の登場人物や風景に突き放した感じを与え、画角やアングルが独特です。貧しいセットや大道具が、人間の裏側のドロドロした部分を表現します。新藤兼人の脚本により、愛憎のドラマが展開されます。
オープニングでは、道路標示や横断歩道、マンホール蓋を映し、矢印にタイトルが入るのが印象的です。健三の部屋は本が積まれ、順子の部屋はベッドとピストルが配置され、後の事件を予感させます。ミステリ要素は道子の殺人から増しますが、増村作品らしいタフさが際立ちます。道子の自首決意と健三の支えが核心で、クールな人間ドラマです。
キャストの配置も巧みで、若尾文子と岡田茉莉子の対比が物語を豊かにします。三島雅夫の嫌らしい親爺役や、江波杏子のわがままな妹役が脇を固めます。美術では、倉庫の上の薄汚れた部屋や警察署の古い取調室が、時代感を演出します。全体として、1960年代の大映映画の風俗を反映し、倫理と情熱の葛藤を描きます。
増村保造は、原作のミステリを日本的な文脈に置き換え、女性の強さと男の優柔不断さを強調します。事件の解決より、人物の内面に重点を置き、観客に余韻を残します。この作品は、増村と若尾文子のコンビ作として、クールさと感動を兼ね備えます。94分のコンパクトな構成で、緊張感を保ちます。
キャスト
- 柴田健三:高橋幸治
- 永井道子:若尾文子
- 雨宮順子:岡田茉莉子
- 永井利恵:江波杏子
- 永井昇平:三島雅夫
- 小林章太郎:伊藤孝雄
- 井上潤吉:木村玄
- 井上美佐江:長谷川待子
- 町田警部:早川雄三
- 女中お年:村田扶実子
- バーテン:原田眩
- 記者:仲村隆
- 編集部長:伊東光一
- 昇平の書生:井上大吉
- 昇平の秘書:谷謙一
- 昇平の運転手:小山内淳
スタッフ
- 監督:増村保造
- 企画:三輪孝仁
- 原作:パトリック・クェンティン
- 脚本:新藤兼人
- 撮影:宗川信夫
- 録音:渡辺利一
- 照明:伊藤幸夫
- 美術:下河原友雄
- 編集:中静達治
- 助監督:岡崎明
- 製作主任:沼田芳造
- 現像:東京現像所
- 音楽:山内正
- スチル:大葉博一




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