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毛皮を着たヴィーナス(小説)

ザッヘル・マゾッホの小説『毛皮を着たヴィーナス』(原題:Venus im Pelz)は、1870年に発表された中編小説。この作品は、マゾヒズムという言葉の語源となったことで広く知られています。

主人公のセヴェリン・フォン・クシエムスキは、毛皮を着たヴィーナス像に象徴される残酷で美しい女性に支配されたいという強い願望を抱きます。療養地で出会った未亡人ワンダ・フォン・ドゥナイェフと恋に落ち、奴隷となる契約を結びますが、関係は極限の屈辱と快楽へとエスカレートします。最終的にセヴェリンは、女性を奴隷か専制君主とするのではなく、平等な伴侶とするべきだと悟ります。性倒錯と権力関係を鋭く描いた古典的な作品です。

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出版状況

小説『毛皮を着たヴィーナス』は、1870年にドイツのシュトゥットガルトにあるコッタ社から出版されました。ザッヘル・マゾッホが構想した大作シリーズ『カインの遺産』(Das Vermächtnis Kains)の第一巻『愛』(Die Liebe)に収録された中編です。ページ数は121から368ページに及びます。

以降、さまざまな言語に翻訳され、世界中で読まれ続けています。日本では明治期から大正期にかけて複数の訳書が登場し、昭和以降も種村季弘氏の訳など優れた版が刊行されました。現在も文庫本や電子書籍で容易に入手可能です。自伝的要素が強く、作者の実体験が反映された点も出版当時から注目を集めました。

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登場女性

主な登場女性は以下の通りです。

  • ワンダ・フォン・ドゥナイェフ:未亡人で物語の中心人物。最初はためらいながらもセヴェリンの提案を受け入れ、毛皮をまとい鞭を振るう支配的な役割を熱心に演じます。セヴェリンを奴隷として扱い、極端な屈辱を与えます。
  • ヴィーナス:夢や像として登場する神話の女神。毛皮を着た姿で主人公たちに影響を与え、理想の残酷な美女の象徴となります。
  • アフリカ人の女性3人:フィレンツェでワンダが雇った召使いたち。セヴェリンを支配し、肉体的・精神的屈辱を与える役割を果たします。

これらの女性たちは、男性の幻想を体現しつつ、物語の権力逆転を駆動します。実在のファニー・ピスターがワンダのモデルとされています。

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あらすじ

物語は枠物語の形式を取ります。語り手が毛皮を着たヴィーナスと夢の中で愛について語り合う場面から始まります。語り手は友人セヴェリン・フォン・クシエムスキを訪ね、ヴィーナスの絵画と原稿『超感覚的人間の告白』を見せられます。

原稿の内容は、セヴェリンが療養地で出会った美しい未亡人ワンダ・フォン・ドゥナイェフに恋をするところから始まります。セヴェリンは彼女に毛皮を着たヴィーナスのような残酷な女性になってほしいと願い、6か月の奴隷契約を提案します。ワンダは当初抵抗しますが、次第にその役割を楽しむようになります。セヴェリンは「グレゴル」という奴隷名を与えられ、毛皮をまとい鞭で打たれる日々を送ります。

二人はフィレンツェへ移り、ワンダはさらに大胆になります。3人のアフリカ人女性を雇い、セヴェリンを徹底的に支配させます。やがてワンダは強い男性アレクシス・パパドポリスと出会い、彼に惹かれます。セヴェリンはワンダの前でアレクシスに鞭打たれ、最大の屈辱を味わいます。これによりセヴェリンのマゾヒスティックな欲望は崩壊し、契約を解消します。

ワンダと別れた後、セヴェリンは女性は男の奴隷か専制君主ではなく、平等な伴侶であるべきだと悟ります。枠物語に戻り、語り手はセヴェリンから教訓を受けます。

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解説

この作品は、性倒錯、特にマゾヒズムの心理を深く掘り下げた先駆的な小説です。セヴェリンの「超感覚性」(suprasensuality)は、通常の感覚を超えた快楽を痛みや屈辱から得る状態を指します。作者ザッヘル・マゾッホ自身の実体験(ファニー・ピスターとの関係など)が強く反映されており、自伝的要素が濃厚です。

テーマの中心は男女の権力関係です。女性を理想化し支配されることを望む男性の幻想を描きつつ、最終的に平等の必要性を主張します。これは当時のジェンダー規範に対する批判でもあります。ジル・ドゥルーズは『マゾヒズム:冷たさと残酷さ』で、サディズムとの違いを契約と儀式の観点から論じ、フロイトもサドマゾヒズムの概念に影響を受けました。

出版後、精神医学者リヒャルト・フォン・クラフト=エビングが1890年の『精神病理学』で「マゾヒズム」という用語を造語し、作者の名を冠しました。文学的にはサド侯爵の系譜に位置づけられ、BDSM文化やフェミニズム議論に大きな影響を与え続けています。幻想と現実の境界、同意の限界、欲望の危険性といった現代的テーマも先取りしています。

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関連情報

映像化

いくつかの映画化作品が存在します。邦題がある場合は邦題を優先します。

  • LA VENUS A LA FOURRURE』(2013年、監督:ロマン・ポランスキー、ワンダ役:エマニュエル・セニエ、トマ役:マチュー・アマルリック)。デイヴィッド・アイヴズの戯曲『Venus in Fur』(2010年)を基にしたメタ作品で、オーディション中の演出家と女優が小説世界に没入します。カンヌ国際映画祭特別上映、セザール賞監督賞受賞。
  • 『毛皮のビーナス』(1969年、監督:マッシモ・ダッラマーノ、ワンダ役:ラウラ・アントネッリ)。イタリア製のエロティック映画で、小説を基にした直接的な翻案。官能的な映像美が特徴です。

その他の関連作として、ジェス・フランコ監督の『Venus in Furs』(1969年、ワンダ役:マリア・ローム)がありますが、超自然的な復讐物語で原作とは大きく異なります。日本未公開または原題表記のものが多いです。

演劇

デイヴィッド・アイヴズの舞台劇『Venus in Fur』(2010年、トニー賞候補)は小説をメタ的に扱った人気作で、2人芝居のブラックコメディ/ドラマ。ポランスキー映画の原作。2017年10月にロンドンのシアター・ロイヤル・ヘイマーケットで上演された舞台ではナタリー・ドーマーが主役のワンダを演じました。彼女はその演技で高い評価を受けました(Venus in Fur)。

Venus in Fur Official Trailer

その他

音楽ではヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲「Venus in Furs」(1967年)が小説から着想を得ており、ルー・リードの歌詞が有名です。

文学・心理学界ではマゾヒズム研究の古典として位置づけられ、ジル・ドゥルーズやフロイトの分析に引用されます。また、現代のBDSMコミュニティやフェミニズム批評で再評価が進んでいます。作者は本作以外にもガリツィア民話や歴史小説を多数執筆しましたが、本作が最も著名です。

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