山内マリコの同名小説を原作に、東京で異なる階層に生きる二人の女性、華子と美紀が交錯し、結婚や人生の選択を通じて自分らしい生き方を見出す人間ドラマ。主演を務める門脇麦と水原希子は異なる背景をもつ二人の女性を鮮やかに演じ分ける。2021年公開、124分。
基本情報
- 原題:あのこは貴族
- 公開年:2021年
- 製作国:日本
- 上映時間:124分
- ジャンル:ドラマ、青春
- 配給:東京テアトルバンダイナムコアーツ
- 公式サイト:anokohakizoku-movie.com
見どころ
20代後半から30代にかけて息苦しさを抱える女性たちが軽やかに変化していく姿を、岨手由貴子監督が最後の青春譚として紡いでいく。門脇麦と水原希子がヒロインを好演。
あらすじ
映画「あのこは貴族」は、東京に生まれ育った裕福な家庭の箱入り娘・榛原華子(門脇麦)と、富山から上京し自力で生きる時岡美紀(水原希子)の人生が交錯する物語です。華子は、名門女子校を卒業し、「結婚=幸せ」と信じて育ちましたが、20代後半で恋人に振られ、初めて人生の岐路に立ちます。親族や友人の紹介でお見合いを重ね、弁護士の青木幸一郎(高良健吾)と出会い、婚約に至ります。
一方、美紀は猛勉強の末に慶應義塾大学に入学するも、学費が続かず中退。夜の世界で働きながら、都会での生き方に疑問を抱き、幸一郎と腐れ縁の関係を続けています。異なる背景を持つ二人が幸一郎を通じて出会い、それぞれの価値観や人生観がぶつかり合いながらも、新たな世界が開けていきます。
華子は結婚を控え、自身の人生を見つめ直し、美紀は自分の生きる意味を模索する中で、互いに影響を与え合い、自立への一歩を踏み出します。都会の階層社会や女性の生き方を描き、シスターフッド(女性同士の絆)をテーマにした感動作です。
女優の活躍
本作の主演を務める門脇麦と水原希子は、異なる背景を持つ二人の女性を鮮やかに演じ分け、観客に強い印象を与えました。
門脇麦は、華子役で上流階級の女性の気品と内面の葛藤を見事に表現。彼女の繊細な演技は、華子の箱入り娘としての育ちや、結婚に対するプレッシャー、そして自己発見の過程を丁寧に描き出しました。特に、感情を抑えながらも揺れ動く心を表現するシーンでは、門脇の持ち味である静かな迫力が光ります。
一方、水原希子は美紀役で、都会での孤独や自立への苦悩を体現。自由奔放に見える外見とは裏腹に、経済的・精神的な不安を抱える女性の複雑な心情を自然体で演じ、観客に共感を呼びました。二人の対照的なキャラクターが交錯するシーンでは、互いの演技が化学反応を起こし、物語に深みを加えています。
また、脇を固める石橋静河は、華子の友人・逸子役で、現代的な自立した女性像を力強く演じ、物語のテーマである女性の連帯を象徴する存在感を示しました。両主演女優の演技は、監督の岨手由貴子が求めるリアルで生き生きとした人物像を見事に具現化し、映画の成功に大きく貢献しました。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の衣装、化粧、髪型は、キャラクターの階層や個性を反映し、物語のテーマを視覚的に表現する重要な要素となっています。
華子(門脇麦)は、上流階級の女性として、控えめながら高級感のあるファッションが特徴です。彼女の衣装は、シンプルなデザインのワンピースやカーディガンに、ハイブランドのジュエリーやバッグを合わせたスタイルが多く、例えばアニエス・ベーのカーディガンやヴァンクリーフ&アーペルのフリヴォルネックレスが登場します。これらは、華子の「品の良さ」と経済的余裕をさりげなく示す一方、彼女の保守的な価値観や閉塞感を象徴しています。
化粧はナチュラルで、薄いファンデーションと淡いリップカラーを基調とし、上品さを強調。髪型は、清楚なストレートヘアやゆるやかなウェーブで、華子の箱入り娘らしい雰囲気を演出しています。
一方、美紀(水原希子)の衣装は、カジュアルで実用的なものが多く、都会での生活感を反映。デニムやTシャツ、斜めがけのバッグといった動きやすいスタイルが目立ち、彼女の自転車移動のシーンではその自由さが強調されます。
化粧は、華子より少し濃いめで、アイラインやリップにアクセントを置き、都会的で自立した女性像を表現。髪型はラフなポニーテールやハーフアップで、飾らない美紀の性格を反映しています。
逸子(石橋静河)は、モダンで洗練されたスタイルで、シャツやスラックスを着こなし、精神的・経済的自立を象徴。衣装や化粧は、キャラクターの社会的立場や内面を視覚的に伝え、観客に階層の違いを印象付けました。
美術や衣装デザインは、監督の細やかな演出意図を反映し、映画全体のリアリティを高めています。
解説
「あのこは貴族」は、山内マリコの同名小説を基に、現代日本の階層社会と女性の生き方を描いた作品です。監督の岨手由貴子は、原作の持つ閉塞感や女性同士の連帯を丁寧に映像化し、都会に生きる二人の女性の対比を通じて、社会構造やジェンダー規範に問いを投げかけます。
華子と美紀の異なる背景は、東京という都市が持つ多様な「世界」を象徴しており、移動手段(華子のタクシーと美紀の自転車)や生活スタイル(アフタヌーンティーと居酒屋)の描写を通じて、階層の分断が視覚的に表現されています。
物語の中心には、結婚やキャリアといった女性の選択肢をめぐる葛藤があり、特に華子の「結婚=幸せ」という価値観が揺らぐ過程は、現代女性の自立への模索を象徴しています。
また、逸子というキャラクターを通じて、女性同士が競い合うのではなく、互いを認め合う「シスターフッド」の重要性が強調されます。映像美も特筆すべき点で、撮影監督の佐々木靖之による東京の風景は、華子の高級感ある世界と美紀の雑多な都会を対比的に捉え、物語のテーマを深めています。音楽や編集も繊細で、渡邊琢磨の音楽は感情的なシーンに寄り添い、堀善介の編集はテンポよく物語を進めます。
本作は、2021年の日本映画として高い評価を受け、女性監督と女優陣のタッグによる新しいシスターフッド映画の形を示しました。観客は、華子と美紀の成長を通じて、自分の人生を選択する勇気や、異なる背景を持つ人々との繋がりの大切さを感じ取ることができるでしょう。
キャスト
- 門脇麦(榛原華子):東京生まれの箱入り娘。結婚を人生の目標としていたが、人生の岐路で新たな価値観を見出す。
- 水原希子(時岡美紀):富山出身で上京し、大学中退後に都会で自立を目指す女性。自由奔放に見えて内面に葛藤を抱える。
- 高良健吾(青木幸一郎):華子の婚約者で、美紀の大学の同期。両者を繋ぐ弁護士。
- 石橋静河(平田逸子):華子の友人で、精神的・経済的に自立した女性。シスターフッドを象徴する存在。
- 山下リオ:華子の友人役で、華子の周囲の社交界を彩る。
- 佐戸井けん太:華子の父親役。伝統的な価値観を持つ上流階級の家長。
- 篠原ゆき子:華子の姉役。家族の期待を背負う存在。
ほかに、石橋けい、山中崇、冨田恵子、南出凌嘉、山下容莉枝、遠山俊也、上川周作、岡まゆみ、奥瀬繁、並樹史朗、瑛蓮、師岡広明、小林リュージュ、好井まさお、嶺豪一、クノ真季子、高田里穂、中澤梓佐、安倍萌生、高橋ひとみ、津嘉山正種、銀粉蝶たちが脇役として物語を支える多彩なキャスト。
スタッフ
- 監督・脚本:岨手由貴子(「グッド・ストライプス」で新藤兼人賞受賞。原作のスピリットを映像化)
- 原作:山内マリコ(小説「あのこは貴族」、集英社文庫刊)
- 撮影:佐々木靖之(「PARKS」「ジオラマボーイ パノラマガール」など)
- 照明:後閑健太
- 編集:堀善介(「本気のしるし」「洗骨」など)
- 音楽:渡邊琢磨(「美しい星」など)
- 製作:「あのこは貴族」製作委員会(バンダイナムコアーツ、東京テアトル、集英社、カラーバード)
- 制作:東京テアトル
- 制作協力:キリシマ1945
- 配給:東京テアトル、バンダイナムコアーツ
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