『女帝キャサリン』(1997年)は、ロシアの女帝エカチェリーナ2世の波乱に満ちた生涯を描いた歴史ドラマ。キャサリン・ゼタ=ジョーンズ主演で、ドイツ出身の少女がロシア宮廷で権力を握る過程を描写。豪華な衣装と舞台が特徴だが、歴史的深さに欠けるとの評価もある。監督はマーヴィン・J・チョムスキー。
基本情報
- 邦題:女帝キャサリン
- 原題:CATHERINE THE GREAT
- 公開年:1997年
- 製作国:独国
- 上映時間:104分
- ジャンル:ドラマ
女優の活躍
本作の主演を務めるキャサリン・ゼタ=ジョーンズは、1969年9月25日生まれのウェールズ出身の女優で、本作公開当時はまだハリウッドでの大ブレイク前。1997年の『女帝キャサリン』は、彼女のキャリア初期における重要な作品の一つであり、翌1998年の『マスク・オブ・ゾロ』で世界的な名声を得る直前の出演作として注目されました。ゼタ=ジョーンズは、15歳でロシア皇帝に嫁ぐドイツ貴族の少女から、権謀術数を駆使してロシアの女帝となるエカチェリーナ2世を演じ、その若々しい魅力と堂々とした演技で存在感を示した。彼女の演技は、野心と脆弱さを併せ持つ複雑な女性像を表現しており、特に宮廷での緊張感ある場面で力を発揮。
しかし、一部の批評では、彼女の演じるエカチェリーナが「ヒステリック」に映る場面が多く、歴史上の大物女帝の威厳や知性を十分に描ききれていないとの指摘もあります。それでも、ゼタ=ジョーンズの美貌と情感豊かな演技は、視覚的な魅力として本作の中心を担い、観客を引きつけました。彼女はこの後、『シカゴ』(2002年)でアカデミー助演女優賞を受賞するなど、国際的なスターへと成長していきます。本作は、彼女の若さと潜在能力が垣間見える貴重な一作といえるでしょう。
脇を固める女優では、ジャンヌ・モローがエリザベータ女帝役で出演し、貫禄ある演技で宮廷の重厚感を加えています。モローの存在感は、若きゼタ=ジョーンズとの対比を際立たせ、物語に深みを添えました。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の衣装は、18世紀のロシア宮廷を再現した豪華なデザインが特徴で、特にキャサリン・ゼタ=ジョーンズの衣装は視覚的な見どころの一つ。彼女が演じるエカチェリーナは、物語の進行とともに少女から女帝へと変貌しますが、衣装もその変化を反映しています。初期のシーンでは、ドイツ貴族の娘として控えめながらも上品なドレスを着用。淡い色調のシルクやレースが用いられ、若々しさと純粋さを強調しています。宮廷に入ると、重厚なベルベットや金糸の刺繍が施された豪華なガウンが登場し、権力の象徴として彼女の威厳を際立たせます。特に、戴冠式の場面では、宝石がちりばめられたローブと王冠が印象的で、女帝としての華やかさを表現。
化粧は、18世紀のヨーロッパ貴族のスタイルを踏襲し、白粉で肌を明るく見せ、頬に赤みを加えたメイクが施されています。目の周りは控えめなアイラインで引き締め、唇は自然な色味で上品に仕上げられています。物語後半では、権力を握るに従い、より大胆なメイクが採用され、彼女の威厳と自信を強調。
髪型は、初期にはシンプルな編み込みやゆるやかなカールで若さを表現。宮廷では、高く結い上げたアップスタイルや精巧なウィッグが登場し、装飾品やリボンで豪華さを加味。これらの髪型は、当時のロシア宮廷の流行を反映しつつ、ゼタ=ジョーンズの美貌を引き立てる役割を果たしています。全体として、衣装・化粧・髪型は本作の視覚的魅力の核であり、歴史劇としての雰囲気を高めていますが、ストーリーの薄さを補うための装飾に終始したとの批判もあります。
あらすじ
1744年、ドイツのポンメルン出身の15歳の少女ゾフィー(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)は、ロシア皇帝ピョートル3世の妃として迎えられるため、ロシア宮廷にやってくる。ゾフィーはエカチェリーナと名を変え、異国の地で厳しい宮廷生活に適応しようとしますが、夫ピョートルの冷淡さと精神不安定さに苦しむ。さらに、権力欲の強いエリザベータ女帝(ジャンヌ・モロー)の監視下で、彼女は孤立無援の立場に置かれます。
エカチェリーナは、宮廷内の陰謀と権力争いの中で、自身の知恵と魅力を武器に生き延びることを決意。彼女は有力な貴族や軍人を味方につけ、夫との関係が悪化する中で、徐々に自身の影響力を拡大していきます。やがて、ピョートル3世の失政と民衆の不満が高まる中、エカチェリーナはクーデターを計画。1762年、彼女は夫を廃位し、自らロシアの女帝として即位します。
女帝となったエカチェリーナは、啓蒙思想を取り入れ、ロシアの近代化を目指すが、その道のりは困難を極めます。彼女の治世は、野心と情熱、そして妥協に満ちたものでした。本作は、彼女の若き日々から女帝としての確立までを、ドラマチックに描出。
解説
『女帝キャサリン』は、歴史上の実在の人物エカチェリーナ2世(1729-1796)の生涯を基にしたテレビ映画であり、彼女のドイツ貴族出身からロシア女帝への劇的な変貌を描写。エカチェリーナ2世は、ロシア史において啓蒙専制君主として知られ、領土拡大や文化振興に貢献しましたが、その私生活や権力奪取の過程はスキャンダラスな逸話に彩られています。本作は、こうした歴史的背景を基に、若き女性の成長物語と政治劇を融合させようとした意欲作です。
しかし、批評家の間では、本作のストーリー展開や歴史的描写に物足りなさが指摘されています。エカチェリーナの権力掌握に至る複雑な政治的駆け引きや、彼女の知性と統治手腕が十分に描かれておらず、物語が表面的なロマンスや宮廷の陰謀劇に偏っているとの批判があります。また、ピョートル3世やエリザベータ女帝との関係も、深みのある心理描写が不足しており、歴史劇としての重厚感に欠けるとされています。このため、史実を期待する視聴者には物足りなく、むしろ豪華な衣装や舞台を楽しむための作品として評価される傾向にあります。
監督のマーヴィン・J・チョムスキーは、テレビ映画の分野で経験豊富ですが、本作では視覚的魅力に頼りすぎたきらいがあります。一方で、キャサリン・ゼタ=ジョーンズの若々しい演技と、ジャンヌ・モローやオマー・シャリフといったベテラン俳優の存在感は、作品に一定の魅力を与えています。本作は、エカチェリーナ2世の生涯を気軽に楽しみたい観客には適していますが、歴史の深みを求める場合は、他の史料や映像作品(例:2019年のドラマ『エカチェリーナ』)を補完的に参照するとよいでしょう。
キャスト
- エカチェリーナ2世(キャサリン):キャサリン・ゼタ=ジョーンズ。ロシア女帝となるドイツ貴族の少女。野心と知恵で権力を握る。
- エリザベータ女帝:ジャンヌ・モロー。ロシアの先代女帝。権力に執着し、エカチェリーナを監視する。
- ピョートル3世:ポール・マッギャン。エカチェリーナの夫で、ロシア皇帝。精神不安定で失政を重ねる。
- グリゴリー・オルロフ:イアン・リチャードソン。エカチェリーナの愛人であり、クーデターの協力者。
- ポチョムキン:オマー・シャリフ。エカチェリーナの側近で、彼女の治世を支える。
その他、クリストフ・ヴァルツ、ブライアン・ブレスド。脇役として宮廷の貴族や軍人を演じる。
スタッフ
- 監督:マーヴィン・J・チョムスキー。テレビ映画のベテラン監督。『ホロコースト』(1978年)などで知られる。
- 脚本:ジョン・ゴールドスミス。歴史ドラマの脚本に定評がある。
- 撮影:エレマー・ラガリー。ロシア宮廷の豪華な雰囲気を捉えた映像が特徴。
- 音楽:ローレンス・ローゼンタール。劇的なスコアで物語の感情を高める。
- 美術:ロバート・ラフォルス。18世紀の宮廷を再現した豪華なセットを設計。
- 衣装デザイン:バーバラ・レイン。歴史的衣装の再現に注力し、視覚的魅力を引き立てる。
総括
『女帝キャサリン』(1997年)は、キャサリン・ゼタ=ジョーンズの若々しい魅力と豪華な衣装・舞台が光る歴史ドラマですが、ストーリーの深さや歴史的正確性には課題が残ります。エカチェリーナ2世の波乱の生涯を気軽に楽しむには適しており、ゼタ=ジョーンズのキャリア初期の演技を鑑賞する価値がある作品です。
レビュー 作品の感想や女優への思い