パトライクス事件(Crime of Patraix)は、スペインのバレンシア市パトライクス地区で2017年に発生した殺人事件で、メディアや世間の注目を集めました。
この事件は、被害者の妻であるマリア・ヘスス・モレノ・カント(通称「マヘ」)とその愛人サルバドール・ロドリゴ・ラピエドラが関与した、計画的な殺人として知られています。以下に、この事件の詳細を説明します。
事件の概要
犯罪の発生
- 日時:2017年8月16日
- 場所:スペイン、バレンシア市パトライクス地区のカラモチャ通り18番地にあるガレージ
- 被害者:アントニオ・ナバーロ・セルダン(35歳、ノベルダ出身のエンジニア)
- 状況:アントニオは自宅近くのガレージで、7か所の刺し傷を負った状態で発見されました。遺体はうつ伏せで、即死だったとされています。警察は当初、強盗の可能性を検討しましたが、被害者の所持品が奪われていないことから、この仮説はすぐに棄却されました。
容疑者
マリア・ヘスス・モレノ・カント(通称:マヘ)
- 1990年9月6日生まれ、ノベルダ出身の看護師。
- アントニオの妻で、結婚してわずか1年ほどだった。
- メディアでは「パトライクスの黒い未亡人(La viuda negra de Patraix)」と呼ばれ、事件の主犯として注目されました。
- マヘは厳格なカトリック家庭で育ち、バルセロナで医療の勉強を終えた後、バレンシアで生活を始めました。彼女は自由奔放な性格で、結婚生活に不満を抱いていたとされています。
サルバドール・ロドリゴ・ラピエドラ
- 1970年生まれ、マヘの職場の同僚(看護師)。
- マヘの愛人で、事件の実行犯として告発されました。
- サルバはマヘから強い影響を受け、彼女の指示に従って犯罪を実行したとされています。
事件の背景
動機
警察と検察は、動機が金銭的であると推定しました。アントニオは複数の生命保険と事故保険に加入しており、死亡時にはマヘがその保険金(および遺産や未亡人年金)を受け取る立場にありました。
関係性
マヘは結婚生活に不満を抱き、複数の男性と関係を持っていました。サルバはその中の一人で、彼女に強い感情を抱いていました。検察によると、マヘはサルバを操作し、アントニオの殺害を計画させたとされています。
計画
マヘとサルバは数か月前からアントニオの殺害について話し合っていました。マヘは夫が自分を虐待していると主張し、サルバに殺害を依頼したとされています。警察の捜査では、マヘがサルバに詳細な指示(ガレージの場所やアントニオの行動パターンなど)を与えていたことが明らかになりました。
犯罪の実行
2017年8月16日朝、アントニオが仕事のためにガレージに向かった際、サルバが待ち伏せし、15cmの刃物で8回刺しました。この攻撃によりアントニオは即死しました。
その後、サルバは血まみれの服を着替え、凶器を自分の所有する土地の浄化槽に捨てました。その後、マヘの姉の家(姉は休暇中で不在)でマヘと会い、犯行の詳細を話したとされています。一方、マヘは別の男性に性的なメッセージを送り、当夜の約束を取り付けていました。
警察の捜査
初期の疑惑
警察はマヘの態度に不審を抱きました。夫の死後、彼女は取り乱した様子を見せつつも、携帯電話を頻繁に操作し、冷静な一面を見せていました。盗難の痕跡がないことや、犯罪の異常な暴力性から、警察は身近な人物による犯行を疑いました。
決定的な証拠
2017年11月8日、警察はマヘとサルバの電話での会話を傍受。この会話で二人が犯行について話している内容が記録され、逮捕の決め手となりました。
逮捕
2018年1月、マヘとサルバは逮捕され、バレンシアのピカセント刑務所に収監されました。
裁判
裁判開始
2020年10月、バレンシア地方裁判所で裁判が始まりました。51人の証人と14人の専門家(警察官、鑑識医、精神科医、心理学者など)が召喚され、50以上の証拠(主に電話の盗聴記録)が提出されました。
検察の主張
検察はマヘに22年の禁固刑、サルバに18年の禁固刑を求刑。マヘが主犯で、サルバを操って殺害を実行させたと主張しました。
弁護側の主張
マヘの弁護側は、彼女が計画に関与しておらず、サルバが独自に犯行を決意したと主張。サルバの弁護側も、マヘの影響力を強調し、彼が操られた「操り人形」だったと主張しました。
評決
2020年、陪審員はマヘを殺人教唆で有罪とし、22年の禁固刑を言い渡しました。サルバは実行犯として17年の禁固刑を受けました。サルバは判決を不服として控訴しましたが、2022年1月27日、最高裁で判決が確定しました。
その後の展開
マヘの獄中生活
マヘはピカセント刑務所に収監されていましたが、2023年5月、妊娠が判明したためアリカンテのフォントカレント刑務所の母子ユニットへ移送されました。彼女は別の受刑者(「シュケル川の犯罪」で服役中のダビドという男性)との関係で妊娠し、2023年7月13日にアリカンテの病院で出産しました。その後、彼女はこの男性と関係を解消したと報じられています。
メディアの注目
この事件はスペイン国内外で大きな話題となり、テレビ番組「Equipo de Investigación」(ラ・セクスタ)やバレンシアの地元局À Puntの「L’hora fosca」で取り上げられました。2025年には、Netflixがこの事件を基にした映画『ヴューダ・ネグラ 黒蜘蛛の企み』を公開し、カルメン・マチ、トリスタン・ウジョア、イバナ・バケーロが出演。また、Atresmediaもドキュメンタリー『Maje』を2025年3月に放送予定です。
事件の社会的影響
メディアの関心
「パトライクスの黒い未亡人」という呼び名や、マヘの奔放な私生活(複数の恋愛関係や獄中での妊娠)がメディアで大きく取り上げられ、事件は「血と性と嘘」に満ちたセンセーショナルな物語として報道されました。マヘの弁護側は、この呼称に性差別的な要素があると批判しました。
トゥルー・クライムの人気
この事件は、スペインでトゥルー・クライム(実話に基づく犯罪ジャンル)の人気が高まる中で、視聴者の好奇心を強く刺激しました。Netflixの『El caso Asunta』や『El cuerpo en llamas』と並び、スペインの犯罪史における重要なケースとして扱われています。
まとめ
パトライクスの犯罪は、計画的な殺人、金銭的動機、複雑な人間関係が絡み合った事件で、スペインの犯罪史に残る衝撃的なケースです。マヘとサルバの関係、警察の迅速な捜査、メディアの過熱報道、そしてその後の文化的影響(映画やドキュメンタリーの制作)により、この事件は単なる犯罪を超えて社会現象となりました。
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