『ヒックとドラゴン』の原作絵本(クレシッダ・コーウェル著)とドリームワークス・アニメーションの映画(2010年公開)は、同じ物語を基にしながらも、ストーリー、キャラクター、テーマ、トーンにおいて顕著な違いがあります。以下にその違いを解説します。
ストーリーの構造と展開
原作
- 原作は全12巻の絵本シリーズで、各巻が独立した冒険を描きつつ、ヒックとトゥースレスの成長を軸に進みます。第1巻「伝説の怪物」は、ヒックが小さなドラゴン・トゥースレスと出会い、島を脅かす巨大なドラゴンに立ち向かう物語です。
- 物語はユーモアと風刺に満ち、バイキング社会の誇張された文化(力こそ正義、戦士至上主義)を背景に、ヒックの知恵やドラゴンとの対話が強調されます。
- 各巻で新たな敵(怪物ドラゴン、女海賊、呪われた氷塊など)や舞台(海、迷宮など)が登場し、冒険のバラエティが豊富です。
- ストーリーは比較的エピソード単位で完結し、子ども向けの軽快なテンポが特徴です。
映画
- 映画は原作の第1巻をベースにしていますが、大きくアレンジされています。物語は、ヒックがドラゴン「ナイト・フューリー」(トゥースレス)と出会い、バイキングとドラゴンの敵対関係を変えるために奮闘する、よりドラマチックな一本の物語に集約されています。
- 原作の複数の冒険エピソードは簡略化され、巨大なドラゴン「レッド・デス」との戦いがクライマックスに据えられています。
- 映画は単独の物語として完結する構造で、後の続編(2、3)で世界観が拡張されますが、原作のエピソード群とは異なる独自のストーリーラインを展開します。
主な違い
- 原作はエピソードごとの冒険が中心で、風刺やユーモアが強い。一方、映画は一貫したストーリーアークを持ち、感動的で壮大な展開を重視。
- 原作ではヒックがドラゴン語でトゥースレスと会話するが、映画では非言語的な信頼構築が中心。
キャラクターの設定
ヒック(ヒカップ)
原作
ヒックはバイキングの族長の息子だが、気弱で体格も小さく、戦士としては不向き。特技はドラゴン語を話せることで、知恵とユーモアで困難を乗り越える。やや皮肉屋で、バイキング社会の伝統に疑問を持つ少年として描かれる。
映画
ヒックは同様に非力で気弱だが、より内向的で発明家としての才能が強調される(例:トゥースレスの尾翼を補う装置を設計)。映画では彼の成長が感動的に描かれ、英雄的な側面が強い。
トゥースレス
原作
トゥースレスは小さな「コモン・ドラゴン」で、わがままでやんちゃ。ドラゴン語を話し、ヒックと口喧嘩するようなユーモラスな関係が特徴。見た目は可愛らしく、戦闘力は低い。
映画
トゥースレスは「ナイト・フューリー」という希少で強力なドラゴン。言葉を話さず、猫や犬のような愛らしい仕草でヒックと絆を築く。飛行能力や火力が高く、アクションシーンで活躍。
ストイック(ヒックの父)
原作
バイキングの族長ストイックは、頑固で伝統を重んじるが、コミカルで親しみやすい一面がある。ヒックとの関係は、ユーモアを交えた親子関係として描かれる。
映画
ストイックは厳格で威圧的だが、ヒックへの愛情が深い。映画では親子の和解が感動的なテーマとして強調され、原作よりシリアス。
その他のキャラクター
原作では、ヒックの仲間(フィッシュレッグス、カムカジーなど)や敵(アルビンなど)が個性的で、物語ごとに活躍。映画では、アストリッドやスノットラウトなど、ヒックの同世代のバイキングが主要な脇役として登場し、ロマンスや友情が追加されている。
テーマとトーン
原作
- テーマは、友情、自己肯定感、異なる存在との共生。バイキング社会の「力こそ正義」という価値観への風刺が強く、ヒックの「弱さ」を強さに変える姿が強調される。
- トーンは軽快でユーモラス。コーウェル自身のイラスト(子どもらしいスケッチ風)が物語の気軽さを引き立て、子ども向けの冒険物語として親しみやすい。
- ドラゴンとの対話や知恵による問題解決が中心で、戦闘よりも会話や策略が目立つ。
映画
- テーマは、友情、家族の絆、平和への努力。バイキングとドラゴンの敵対を終わらせ、共存を目指すヒックの行動が、普遍的な「理解と和解」のメッセージを伝える。
- トーンはドラマチックで感動的。アクションシーンや壮大な音楽(ジョン・パウエルのスコア)が物語を盛り上げ、視覚的な迫力が強い。
- 戦闘や飛行シーンが多く、ヒックとトゥースレスの絆は非言語的な信頼や共感で描かれる。
文化的背景と対象年齢
原作
- バイキング文化や北欧神話を背景に、風刺やユーモアを織り交ぜた子ども向けの物語。コーウェルのスコットランドでの幼少期の経験が反映され、島や海の情景が生き生きと描かれる。
- 対象年齢は主に小学生から中学生。ユーモアや軽い文体、イラストが子どもに親しみやすい。
映画
- バイキングとドラゴンの世界を基にしつつ、より普遍的なファンタジーとして再構築。視覚的な美しさやアクションで、子どもから大人まで幅広い層に訴求。
- 対象年齢は家族全員。感動的なストーリーやロマンス要素(ヒックとアストリッド)が大人にも響く。
ビジュアルとメディアの違い
原作
- コーウェル自身によるシンプルでユーモラスなイラストが特徴。テキストとイラストが一体となり、物語の軽快さを補強。
- 文章主体の絵本で、読者の想像力に委ねられる部分が多い。
映画
- 3Dアニメーションによる壮大なビジュアル。ドラゴンの飛行シーンや戦闘シーンは、映画ならではの迫力。
- 音楽や色彩が感情的な効果を高め、物語を視覚的・聴覚的に豊かにする。
その他の違い
- ドラゴン語:原作ではヒックがドラゴン語を話し、トゥースレスとの会話が物語の鍵。映画ではドラゴン語は存在せず、トゥースレスの表情や仕草で感情を表現。
- 敵の設定:原作では怪物ドラゴンやアルビンなど多様な敵が登場し、各巻で異なる試練が描かれる。映画では「レッド・デス」という単一の巨大な敵に焦点を当て、物語を簡潔化。
- ロマンス:原作ではヒックとカムカジー(女バイキング)の友情が中心で、ロマンスはほぼない。映画ではヒックとアストリッドのロマンスが重要なサブプロット。
まとめ
原作『ヒックとドラゴン』は、ユーモアと風刺に満ちた子ども向けの冒険物語で、ヒックの知恵やドラゴンとの対話が中心。映画は、原作のエッセンスを取り入れつつ、ドラマチックなストーリー、視覚的なアクション、感動的なテーマを強調し、幅広い観客向けに再構築されています。原作は軽快で風刺的な絵本として、映画は壮大で心揺さぶるアニメーションとして、それぞれ独自の魅力を発揮。両者を比較することで、原作のユーモラスな世界観と映画の感動的な物語の違いを楽しみながら、ヒックとトゥースレスの絆を異なる視点で味わえます。
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