ラ・メゾン 小説家と娼婦

『ラ・メゾン 小説家と娼婦』（原題：La Maison）は、2022年に製作されたフランス・ベルギー合作の映画で、作家エマ・ベッケルの実体験に基づく同名小説を映画化した作品。以下に、見どころ、女優陣の活躍、あらすじ、解説、キャスト、スタッフについてまとめています。

原作は身分を隠して娼婦として活動した女性作家、エマ・ベッケルの自伝小説。アンダーグラウンドで生きる女性たちのリアルな姿を圧倒的なリアリティで映し出す。

『ラ・メゾン 小説家と娼婦』（原題：La Maison、英題：The House）は、2022年に製作されたフランス・ベルギー合作の映画で、作家エマ・ベッケルの実体験に基づく同名小説を映画化した作品です。以下に、あらすじ、解説、女優陣の活躍、キャスト、スタッフについて、丁寧にまとめます。

あらすじ

フランス出身の27歳の小説家エマ（アナ・ジラルド）は、作家としての好奇心と野心に駆られ、娼婦たちの裏側を知るため、ベルリンの高級娼館「ラ・メゾン」に娼婦として潜入することを決意します。当初は2週間の取材のつもりでしたが、そこで出会う女性たちの本音や過激な日常に魅了され、2年間もその世界に身を置くことになります。

エマは、最初の娼館「カルセール」で暴力的な客に遭遇し、すぐに辞めるものの、半年後に「ラ・メゾン」に再挑戦。そこで、多様な客や同僚の娼婦たちと接しながら、彼女たちの孤独、悩み、そして自分たちの身体やセクシュアリティをコントロールする姿を観察し、ノートに記録していきます。エマ自身も、仕事とプライベートの境界や自身の欲望に向き合い、精神的・感情的な変容を経験。友人ステファン（ヤニック・レニエ）や妹マドレーヌ（ジーナ・ヒメネス）との関係も揺れ動きながら、彼女は小説家として新たな視点を得ていきます。物語は、女性の自由とセクシュアリティをテーマに、刺激的かつ内省的な展開で進みます。

解説

『ラ・メゾン 小説家と娼婦』は、エマ・ベッケルの自伝的小説を基に、セックスワークの世界を女性の視点から描いた作品で、フェミニズムやセクシュアリティの議論を呼び起こしました。2019年にフランスで発表された原作小説は、その大胆な取材方法から賛否両論を巻き起こし、フェミニストからの批判を受けつつも、世界16カ国でベストセラーとなりました。映画は、原作者の希望により、女性監督アニッサ・ボンヌフォンがメガホンを取り、女性の主体性と欲望を強調した視点で描かれています。

本作の特徴は、性的なシーンが頻出するR18+指定の作品でありながら、エロティシズムを強調するのではなく、セックスワーカーの日常や感情、仕事とプライベートの境界に焦点を当てている点です。監督のボンヌフォンは、インタビューで「この映画の真のテーマは女性のセクシュアリティと欲望であり、女性が自分の身体をコントロールする権利を問う作品」と語っています。

物語は、ドイツで売春が合法化された2002年以降のベルリンを舞台に、フランスでは違法だった売春の対比を通じて、セックスワークの社会的背景も浮き彫りにします。エマが娼館で働く中で直面する多様な客や同僚との交流は、職業としてのセックスワークの複雑さと、そこで働く女性たちの人間性をリアルに描写。観客に、単なる職業体験記を超えた、自己探求と女性の自由についての深い考察を促します。

また、映画はエマの内面的な葛藤や成長にも焦点を当て、彼女が当初の目的（小説のための取材）を超えて、自身の欲望やアイデンティティと向き合う姿を描きます。娼館での経験は、彼女の人間関係や自己認識に影響を与え、観客に「自由」と「選択」の意味を問いかけます。ただし、物語の起承転結が曖昧で、結末が明確でない点が一部の観客には物足りなく感じられる場合もあるようです。

女優陣の活躍

『ラ・メゾン 小説家と娼婦』の女優陣は、過激な役柄に体当たりで挑み、作品のリアリティと感情の深みを支えています。

アナ・ジラルド（エマ役）

主演のアナ・ジラルドは、フランス映画界で注目の若手女優であり、本作では主人公エマを演じ、その演技力が特に際立っています。ジラルドは、小栗康平監督の『FOUJITA』（2015年）やセドリック・クラピッシュ監督の『パリのどこかで、あなたと』（2019年）で日本でも知られ、ファッションモデルとしても活躍中。『ラ・メゾン 小説家と娼婦』では、パリの老舗キャバレー「クレイジーホース」で2ヶ月間のトレーニングを受け、セックスワーカーの所作や雰囲気を体現。R18+指定の性的シーンにも果敢に挑戦し、好奇心旺盛な作家から内面的な葛藤を抱える女性への変化を繊細に表現しました。観客や批評家からは、彼女の「女優魂」と体当たりの演技が高く評価されており、特に感情の揺れや微妙な表情の変化が作品の核心を支えています。

オーレ・アッティカ

オーレ・アッティカは、エマの同僚の娼婦役で出演し、セックスワーカーの日常的な一面と個性を演じ分けました。彼女の演じるキャラクターは、エマに娼館のルールや客との接し方を教える存在として登場し、物語にリアリティを加えています。アッティカは『サム・サフィ』（2018年）などでの演技経験を生かし、プロフェッショナルな姿勢と人間味を兼ね備えた役柄を見事に演じました。

ロッシ・デ・パルマ

スペイン出身のロッシ・デ・パルマは、娼館のマネージャー役で独特の存在感を発揮。ペドロ・アルモドバル監督作品（『パラレル・マザーズ』など）で知られる彼女は、コミカルさと威厳を併せ持つキャラクターを演じ、娼館の運営側としての複雑な立場を表現しました。デ・パルマの演技は、物語にユーモアと深みを加え、観客に娼館の人間模様を印象付けます。

ジーナ・ヒメネス

エマの妹マドレーヌ役を演じたジーナ・ヒメネスは、エマの選択に戸惑いながらも家族としての絆を示す役柄を担当。彼女の演技は、エマの外部からの視点を補完し、物語に感情的な層を加えました。ヒメネスの抑制された演技は、姉妹関係の緊張感を効果的に伝えています。

女優陣は、それぞれの役柄でセックスワークの多面性を表現し、単なる職業の描写を超えて、女性の主体性や感情の複雑さを浮き彫りにしました。特にジラルドの体当たりの演技は、批評家から「作品の魂」と称されるほどのインパクトを残しています。

キャスト

• エマ：アナ・ジラルド
• 同僚の娼婦：オーレ・アッティカ
• 娼館のマネージャー：ロッシ・デ・パルマ
• ステファン（エマの友人）：ヤニック・レニエ
• マドレーヌ（エマの妹）：ジーナ・ヒメネス
• その他：フィリップ・リボット、ニキータ・ベルッチ

スタッフ

• 監督：アニッサ・ボンヌフォン。ドキュメンタリー『ワンダー・ボーイ』（2019年）や『Nadia』（2021年）で知られる気鋭の女性監督。原作者エマ・ベッケルの強い希望により本作の監督に抜擢され、初の劇映画で女性の視点からセックスワークを描いた。フェミニズムの要素を取り入れた演出が評価されている。
• 脚本：アニッサ・ボンヌフォン、ディア・スティーム
• 原作：エマ・ベッケル（『La Maison』）
• 製作：RADAR FILMS、REZO PRODUCTIONS、UMEDIA、CARL HIRSCHMANN、STELLA MARIS PICTURES
• 配給（日本）：シンカ
• 字幕翻訳：安本熙生

補足

『ラ・メゾン 小説家と娼婦』は、2023年12月29日に日本で公開され、新宿バルト9やヒューマントラストシネマ渋谷などで上映されました。平均評価はFilmarksで3.4点（388件のレビュー）と、賛否両論ながらも話題性のある作品として受け入れられています。 また、性的シーンの表現において、日本での配給時に一部修正が施された点が議論を呼び、配給側の対応に批判的な声も上がっています。

総括

『ラ・メゾン 小説家と娼婦』は、セックスワークを女性の視点から描き、単なる職業体験記を超えて、女性の自由、セクシュアリティ、自己探求をテーマにした挑戦的な作品です。アナ・ジラルドをはじめとする女優陣の体当たりの演技と、アニッサ・ボンヌフォンの繊細な演出が、原作の衝撃性をスクリーンに映し出しました。賛否両論を呼んだ原作同様、映画も観客に深い議論を投げかけ、現代社会における女性の主体性について考えさせる一作となっています。