ナイトウィッチ(Night Witches)は、第二次世界大戦中のソ連空軍に所属した女性のみの航空部隊、第588夜間爆撃航空連隊のニックネーム。ドイツ軍が彼女たちの夜間飛行と爆撃を恐れ、「夜の魔女」と呼んだことに由来します。
1941年に著名な女性パイロットであるマリーナ・ラスコーバの提案により設立され、ポリカルポフPo-2という旧式の複葉機を使用して、夜間に敵陣地を爆撃する任務を担いました。連隊は1942年から1945年にかけて23,672回の出撃を果たし、3,000トン以上の爆弾を投下しました。
また、17の河川渡河点や9つの鉄道を破壊するなどの戦果を挙げ、23人の隊員がソ連邦英雄の称号を受けました。この部隊は、女性の軍事参加の象徴として歴史に残っています。
成立と教育
ナイトウィッチの成立は、第二次世界大戦の初期段階に遡ります。1941年6月にドイツ軍がソ連に侵攻した後、ソ連空軍は深刻な損失を被りました。これに対し、女性パイロットの活用が検討され始めます。著名な航空記録保持者であるマリーナ・ラスコーバが、ヨシフ・スターリンに女性航空連隊の創設を直訴しました。ラスコーバは「ロシアのアメリア・イアハート」と呼ばれるほどの人物で、彼女の影響力とスターリンとのつながりが、女性部隊の承認を後押ししました。1941年10月8日、命令により3つの女性航空連隊が設立され、その一つが第588夜間爆撃航空連隊です。この連隊は、ラスコーバが率いる第122複合航空グループの一部として組織されました。隊員は主に10代後半から20代前半の女性ボランティアで構成され、操縦士、航法士、整備士などが含まれます。スターリンはこの構想を、国際的なプロパガンダ価値が高いとして支持しました。
教育については、連隊の隊員たちはエンゲルス軍事航空学校に集められ、訓練を受けました。この学校はモスクワ近郊に位置し、航空教育の拠点です。訓練はポリカルポフPo-2複葉機を中心に実施されました。この機体は1928年に設計された旧式の訓練機兼作物散布機で、速度が遅く非武装ですが、操縦しやすく低高度飛行に適していました。訓練内容は、夜間飛行、妨害爆撃、精密爆撃の戦術に焦点を当てます。特に、目標近くでエンジンをアイドリング状態にし、滑空しながら爆弾を投下する技法を習得しました。これにより、風の音だけが聞こえる「ステルスモード」を実現し、ドイツ軍を驚かせます。パラシュートは爆弾の重量制限のため1944年まで携行されず、低高度飛行が基本でした。また、隊員の一部は航空経験がなく、他の分野から再教育を受けました。連隊の指揮官はイェヴドキヤ・ベルシャンスカヤ少佐で、彼女の指導の下、厳しい訓練が続けられました。この教育プロセスは、女性の軍事能力を証明する重要なステップとなりました。連隊は1942年6月に南部戦線の第4空軍に配属され、実戦投入の準備を整えました。
活動歴
ナイトウィッチの活動は、1942年から1945年にかけての東部戦線で主に展開されました。連隊は1942年6月に初の実戦投入となり、ミウス川、北ドネツ川、ドン川、サル川の渡河点やスタヴロポリ平原の道路を爆撃しました。これが彼女たちの「洗礼」となります。1942年8月から12月にかけては、コーカサス戦線でヴラジカフカス防衛に参加し、ジゴラ、モズドク、プロフラドニィを爆撃しました。1943年1月にはテレク川での敵陣地突破に貢献し、クバン川とスタヴロポリ地域の作戦に従事します。3月から9月にはクバン橋頭堡の突破とノヴォロシースク解放を支援しました。また、4月から7月にかけてはクバン上空での航空戦役に参加します。
1943年2月、連隊はガーズ称号を受け、第46「タマン」ガーズ夜間爆撃航空連隊に改称されました。これはタマン半島での作戦功績によるものです。11月から1944年5月にかけては、ケルチ・エルチゲン作戦とクリミア攻勢でセヴァストポリ解放を支えました。1944年6月から7月にはプロニャ川沿いの爆撃を行い、ビャウィストク、チェルヴェン、ミンスク、モギレフの占領を援助します。8月にはポーランド上空でアウグストフ、ワルシャワ、オストロレンカからのドイツ軍追放に寄与しました。1945年1月には東プロイセン攻勢、3月にはグディニャとグダニスク攻勢、4月から5月にはヴィスワ・オーデル攻勢に参加します。
連隊の戦術は、Po-2機の特性を活かしたものです。この機体は速度が時速150km程度と遅く、メッサーシュミットBf109やフォッケウルフFw190の失速速度以下だったため、敵戦闘機に撃墜されにくかったです。ただし、1943年にドイツのエースパイロット、ヨゼフ・コチオクが一夜で3~4機を撃墜した事例もあります。各機は350kgの爆弾を搭載し、一夜に複数回の出撃を繰り返しました。最大時、40組の2人乗りクルーが在籍しました。全体で23,672回の出撃、3,000トン以上の爆弾と26,000発の焼夷弾を投下し、17の河川渡河点、9つの鉄道、2つの駅、26の倉庫、12の燃料庫、176の装甲車、86の射撃陣地、11の探照灯を破壊または損傷しました。また、155回の補給投下も行いました。戦死者は32人で、事故、戦闘、結核が原因です。連隊はソ連空軍で最も勲章の多い女性部隊となり、1945年10月15日に解散しました。
メディア一覧
書籍
- 夜の魔女たち:ロシア女性パイロットの驚くべき物語(1990年) – ブルース・マイルズ著。ナイトウィッチの実際の体験談を基にしたノンフィクション。
- ザ・ハントレス 宿命の女たち(2019年) – ケイト・クイン著。ナイトウィッチを題材に含む小説。
- ナイトウィッチ:第二次世界大戦の小説(2017年) – キャスリン・ラスキー著。青年向けのフィクション。
- The Night Witches(2019年) – ガース・エニス著。グラフィックノベルで、女性パイロットの物語。
- 女性の戦争と抵抗:ソ連女性兵士の選ばれた伝記(1998年) – カジミエラ・ヤニナ・コッタム著。ナイトウィッチの伝記を含む。
- Las brujas de la noche. El 46 Regimiento Taman de aviadoras soviéticas en la II Guerra Mundial(2013年) – アルベルト・クルス著。スペイン語の歴史書。
- Гвардейский Таманский авиационный полк(1960年) – アレクサンドル・マギド著。ロシア語の連隊史。
- 死とのダンス:第二次世界大戦のソ連女性飛行士(1994年) – アン・ノグル著。インタビュー集。
- 翼、女性、そして戦争:第二次世界大戦のソ連女性飛行士(1997年) – レイナ・ペニントン著。詳細な歴史研究。
- Нас называли ночными ведьмами(2005年) – イリーナ・ラコボルスカヤ、ナタリヤ・クラフツォワ著。ロシア語の回顧録。
- ソ連邦のヒロインたち:1941-45(2003年) – ヘンリー・サカイダ著。英雄たちの伝記。
映画・ドラマ
- 対独爆撃部隊ナイトウィッチ(1981、連隊員役年) – ソ連映画。原題「V nebe ‘Nochnye vedmy’」。夜の魔女たちの戦いを描く。
- Night Witches(予定、未公開) – 戦闘シーンを基にした映画。
その他のメディア
- Night Witches(2014年) – サバトンの楽曲。アルバム「Heroes」に収録。
- Night Witches(2015年) – ジェイソン・モーニングスターのテーブルトップRPG。女性部隊のドラマを描く。
- Reverse: 1999(2023年、リリヤ役) – ビデオゲーム。ナイトウィッチをモチーフにしたキャラクター登場。


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