『Pearl パール』は、ティ・ウェストが監督・製作・編集、ウェストとミア・ゴスが共同脚本を手がけた2022年の米国ホラー映画。ウエスト監督の映画『X』シリーズの第2弾で、『X』(2022年)の前日譚にあたります。ミアが再び主人公を演じ、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=パーロらが脇を固めます。映画スターになりたい熱望が高じて、1918年にテキサス州の一家の屋敷で暴力的な行為に及んだ、パールという少女のオリジナル・ストーリー。
基本情報
- 邦題:Pearl パール
- 原題:Pearl
- 公開年:2023年
- 製作国:米国
- 上映時間:102分
- ジャンル:ホラー、スリラー、ドラマ
- 配給:ハピネットファントム・スタジオ
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見どころ
パールの若き日を描き、夢見る少女だったパールがいかにしてシリアルキラーへと変貌したかが明らかに。ミア・ゴスが無邪気さと残酷さをもつシリアルキラーを演じます。
ファム・ファタル
パールの母親を演じるタンディ・ライトは、『X エックス』(2022年)で親密さのコーディネーターを務め、1作目の撮影が終わる頃にルース役のオファーを受けました。ティ・ウェストによると、彼女はこの役作りのために急遽ドイツ語を学び、ドイツ人スタッフ2人を騙すほど説得力のあるアクセントになったそうです。
女優の活躍
主演のミア・ゴスは、本作でパール役を演じるだけでなく、脚本とエグゼクティブ・プロデューサーとしても参加し、多才ぶりを発揮しています。『X エックス』では老いたパールと若きマキシーンの二役を演じ分けた彼女ですが、本作では若かりしパールの純粋さと狂気を絶妙に表現。特に、感情が爆発するワンカットの独白シーンや、ラストカットの不気味な笑顔は、観客に強烈なインパクトを与え、「アカデミー賞級の怪演」と評されるほどの圧倒的な演技力を見せつけました。X上のレビューでも、彼女の演技は「悲哀に満ちた狂気」「圧倒的」と絶賛されており、映画の成功の大きな要因となっています。
ミア・ゴスは、パールの内面の葛藤や無垢さと残酷さの両極端な感情を体現し、観客を引き込む力強いパフォーマンスを披露。彼女の演技は、単なるホラー映画の主人公を超え、複雑な人間性を描き出すことに成功しています。共演のタンディ・ライト(ルース役)も、厳格で支配的な母を演じ、物語の緊張感を高める重要な役割を果たしました。
女優の衣装・化粧・髪型
パールの衣装は、1918年の時代背景を反映しつつ、彼女の内面的な変化を象徴するデザインが施されています。物語の冒頭では、シンプルで地味な農場の作業着やエプロンを着用し、抑圧された生活を視覚的に表現。赤いリボンや青いドレスなど、彼女が憧れる華やかな世界を象徴するアイテムが随所に登場します。特に、オーディションシーンでの赤いドレスは、彼女の情熱と狂気を強調する鮮やかな色彩で、テクニカラー映画のようなヴィヴィッドな美しさが際立ちます。これらの衣装は、パールの内なる欲望と外の世界への憧れを視覚的に表現する重要な要素です。
化粧は、農場での生活ではほぼスッピンに近いナチュラルな状態で、彼女の若さと純粋さを強調。一方、町やオーディションでは、赤い口紅やチークを施し、スターを夢見る女性らしい華やかさを演出しています。髪型は、シンプルな三つ編みやポニーテールが基本ですが、オーディションではゆるやかなウェーブを加えたスタイルで、彼女の変身願望を表現。ミア・ゴスのラストカットの不気味な笑顔とともに、化粧と髪型が彼女の狂気を際立たせる効果的な演出となっています。
感想
大きな夢を抱く少女の、血にまみれたオリジナル・ストーリー。悪意をほのめかした後、一連の状況や出来事がパールを暗い道へと導きます。『X』を観たことがない人にとっても、本作自体が1本の映画として十分楽しめます(^^)
また、精神的・感情的に崩壊し、身近な人々に壊滅的な影響を与える女性を描いた魅力的な人物研究ともいえます。鍵を握るのはミア・ゴスの演技 。ある瞬間、彼女は同情的なキャラクターとして登場し、次の瞬間には不気味さを通り越し、恐ろしい暴力の瞬間に笑いが挟まれる場面がいくつか。彼女の演技は圧巻。
おそらくこの映画で最高の瞬間は、別世界のようなモノローグです。ティ・ウェストはこの作品に独特の生き生きとした烙印を押し、まさに地獄を演出しました。ヴィヴィッドな色彩とレトロで時代がかった雰囲気が、視覚的にうまく作用しています。音楽も素晴らしい。全体のトーンを完璧に整えています。
あらすじ
1918年、テキサスの人里離れた農場で暮らすパール(ミア・ゴス)は、スクリーンで輝くスターに憧れる若き女性です。厳格な母ルース(タンディ・ライト)と病気の父(マシュー・サンダーランド)の世話をしながら、夫ハワード(アリステア・シーウェル)が戦争へ出征中の孤独な日々を送っています。農場の家畜たちを相手にミュージカルショーの真似事をするのが、彼女のささやかな楽しみです。しかし、厳しい母の支配と閉鎖的な環境に鬱屈した気持ちを抱えていました。
ある日、父親の薬を買いに町へ出かけたパールは、母に隠れて映画館で映画を鑑賞し、映写技師(デヴィッド・コレンスウェット)と出会います。この出会いをきっかけに、彼女の外の世界への憧れはさらに強まります。町で開催される巡回ショーのオーディションを知ったパールは、スターになる夢を追い求め、参加を決意します。しかし、母ルースは「お前は一生農場から出られない」と冷たく突き放し、彼女の夢を否定します。抑圧された環境と母の支配に耐えきれなくなったパールは、次第に心のバランスを崩し、内に秘めた残酷な衝動が目覚め始めます。彼女の純粋な夢は歪み、無垢さと残虐さを併せ持つシリアルキラーへと変貌していく過程が描かれます。
解説
『Pearl パール』は、2022年に公開された『X エックス』の前日譚であり、A24初の三部作の一作として注目を集めました(完結編『MaXXXine』は現在製作中)。監督のタイ・ウェストは、1970年代を舞台にした『X エックス』で登場した殺人鬼パールの若き日を、1918年のテキサスを舞台に描き出します。本作は、ホラー映画の枠を超え、抑圧された環境下での人間の心理や狂気の芽生えを掘り下げた心理ドラマとしての側面も強く、批評家からも高い評価を受けています。特に、色彩豊かなビジュアルとレトロな雰囲気は、往年のテクニカラー映画や『オズの魔法使』を彷彿とさせ、ホラーとダークファンタジーの融合が特徴です。
物語は、第一次世界大戦末期という時代背景を反映し、閉鎖的な農場生活や女性への抑圧、ショービジネスの光と影を描きます。パールの夢と現実のギャップ、親子関係の軋轢、そして孤独感が、彼女を破滅へと導く要因として丁寧に描かれています。特に、ミア・ゴスによる長編ワンカットの独白シーンは、感情の爆発と狂気の臨界点を表現し、観客に強烈な印象を与えます。このシーンは、彼女の演技力と監督の演出力が結集したハイライトとして、多くのレビューで賞賛されています。
また、A24のホラー作品らしい実験的で芸術的なアプローチが随所に見られ、監督タイ・ウェストはディズニー映画の明るいビジュアルを参考にしつつ、ダークなテーマを織り交ぜることで、独特の緊張感と美しさを生み出しています。マーティン・スコセッシ監督が「ワイルドで魅力的」と絶賛したように、本作はホラー映画の枠を超えた映画史へのオマージュとも言える作品です。
トリビア
『X エックス』(2022年)の劇場上映の最後に予告編が上映された地域がありました。
ティ・ウェストとミア・ゴスは、『X』(2022年)の撮影に先立ち、(COVID-19パンデミックのため)ニュージーランドで2週間の隔離が義務づけられている間、FaceTimeを通じて脚本を共同執筆。彼らは、A24がこの映画の製作に同意してくれることだけを願っていました。幸いなことに『X』の撮影が始まる前に、この企画は許可が下りました。
この映画のトーンを準備するために、監督兼共同脚本家のティ・ウェストは、ミア・ゴス(パール)に『ベイビー・ジェーンに何が起こったか』(1962年)と『オズの魔法使い』(1939年)を観るように勧めました。
『X』(2022年)の続編のティーザーが、一部の地域ではクレジットの最後に “MaXXXine “というタイトルで上映。続編は1980年代が舞台となっています。
この脚本は、ミア・ゴスとティ・ウェストが『X』に登場するパールの旧バージョンの役作りのために準備したもので、長編脚本となりました。
キャスト
- パール:ミア・ゴス
- 映写技師:デヴィッド・コレンスウェット
- ルース:タンディ・ライト
- 父親:マシュー・サンダーランド
- ミッツィー:エマ・ジェンキンス=パーロ
- ハワード:アリステア・スウェル
- マーガレット:アメリア・リード
- 女性:ゲイブ・マクドネル
- ピアニスト:ローレン・スチュワート
- 監督:トッド・リッポン
- チケットテイカー:グレース・アチソン
- 泣き女:シャーマン・セロン
スタッフ
- 衣装デザイン:マルゴシア・トゥルザンスカ
- 衣装内訳:タイプア・アダムス
- 衣装:ルーシー・エドワーズ
- セット衣装・背景衣装:サリー・グレイ
- 衣装監督:シラ・ハーネット
- ショッパー:エミリー・アイルランド
- 衣装デザイン助手:デイジー・マルクッツィ
- テーラー:ジュリア・マクファデン
- 縫製:メリッサ・ムント
- セット衣装:ガブリエラ・ロシャ
- セット衣装主任:ジャスミン・ロジャース=スコット
- 縫製:ソフィー・サージェント
- トラック衣装:ホリー・ウィリアムソン
- 特殊衣装製作:フロ・フォックスワージー
- レベッカ・オールド
- 追加メイクアップ・ヘアアーティスト
- 追加メイクアップ:ソフィア・ビュー・ペダーセン
- 補綴モールドメーカー:ブレット・バット
- 補綴スーパーバイザー:ブラッド・カニンガム
- 追加メイクアップ・ヘアスタイル:エイスン・カラン
- メイクアップ効果主任:ジェイソン・ドカティ
- 追加メイク&ヘアアート:コディ・ダイサート
- メイクアップ・ヘアアート:ケイティ・フォックス・ヘイウッド
- 補綴製作助手:ケルシー・ジェメル
- 製作責任者:ロブ・ギリーズ、Weta Workshop
- 追加メイク&ヘアアート:ウェイ・ジャン
- ヘアアート主任:フランキー・カレナ
- 補綴:マイケル・ケンナ
- シリコン・プロステティック技術:マニー・レムス
- シリコン補綴技術者:カサンドラ・ロペス
- メイクアップ・ヘアスタイル:サンキア・リード
- メイクアップ部長:サラ・ルバノ
- 追加メイクアップ効果技術者:ブレア・ライアン
- 追加メイクアップ・ヘアアート:ジェイド・スペンサー
総括
『Pearl パール』は、ミア・ゴスの圧倒的な演技力とタイ・ウェストの洗練された演出が融合した、ホラーと心理ドラマの傑作です。1918年のテキサスを舞台に、抑圧された環境で夢を追い求める少女がシリアルキラーへと変貌する過程を、鮮やかなビジュアルと深い心理描写で描き出します。衣装や化粧、髪型はパールの内面を象徴し、物語のテーマを視覚的に補強。A24の三部作の一作として、映画史へのオマージュと現代的なホラーの融合が評価され、観客に強烈な印象を残します。
レビュー 作品の感想や女優への思い