『いのちの停車場』(2021年)は、62歳の医師・白石咲和子が救急医から在宅医療に転身し、金沢でさまざまな患者と向き合う姿を描く。老老介護や終末期医療の問題に直面しながら、父の積極的安楽死を巡り葛藤する姿を通じて、現代日本の医療制度の課題を浮き彫りにする。
基本情報
- 原題:いのちの停車場
- 公開年:2021年
- 製作国・地域:日本
- 上映時間:119分
- ジャンル:ドラマ
- 配給:東映
女優の活躍
本作では、ベテラン女優の吉永小百合が主演を務め、自身初の医師役に挑戦しています。62歳の白石咲和子を演じる彼女の演技は、救急医療の現場から在宅医療への転身という大きな変化の中で、患者や家族の痛みに寄り添う医師としての葛藤を深く表現しています。特に、終末期の患者との対話シーンでは、静かな眼差しと細やかな表情の変化で、内面的な苦悩を観客に伝え、圧倒的な存在感を発揮なさいます。吉永の長年にわたるキャリアが活き、単なる医療ドラマを超えた人間ドラマを支えています。
また、広瀬すずが演じる看護師の星野麻世は、若々しいエネルギーと優しさを兼ね備えたキャラクターです。咲和子を支える存在として、患者の日常的なケアを丁寧にこなす姿が印象的で、共演の吉永との母娘のような絆を描くシーンでは、涙を誘うほどの自然な演技を見せています。広瀬の活躍は、物語の希望の象徴として機能し、若い世代の視点から在宅医療の現場を照らし出しています。
さらに、南野陽子が事務員の玉置亮子役、小池栄子が宮嶋友里恵役、石田ゆり子が寺田智恵子役として出演しており、それぞれの役柄で女性らしい強さと繊細さを発揮しています。小池の妻役は、夫の病と向き合う家族の苦しみを力強く体現し、石田のオリジナルキャラクターは、咲和子の過去を象徴するような静かな深みを加えています。これらの女優陣の活躍により、本作は女性の視点から描かれる医療のリアリティが強調され、観る者の心に深く響きます。全体として、女優たちの演技は、原作のテーマである「いのちの尊厳」を多角的に表現し、映画の感動を高めています。
女優の衣装・化粧・髪型
吉永小百合の白石咲和子役の衣装は、医師らしい白衣を基調としつつ、在宅医療の現場に適したシンプルで実用的なデザインが採用されています。白衣の下には、淡いグレーのブラウスと膝丈のスカートを合わせ、62歳の落ち着いた大人の女性らしさを表現。外出時の私服では、ベージュのコートやカーディガンを羽織り、金沢の風情ある街並みに溶け込む柔らかなシルエットが特徴です。化粧はナチュラルメイクで、薄いファンデーションと淡いピンクのリップが、疲労と優しさを同時に表しています。髪型は、肩にかかるボブスタイルに軽くウェーブを入れ、機能性を重視したまとめ髪が多く、医師としてのプロフェッショナルさを強調しています。
広瀬すずの星野麻世役の衣装は、看護師らしい白いユニフォームが中心ですが、休憩シーンではカジュアルなデニムパンツと白いTシャツを着用し、29歳の若々しさを際立たせています。化粧は軽やかなツヤ肌メイクで、ピンクのチークとグロスが明るい性格を反映。髪型は、ポニーテールやハーフアップが多く、動きやすさを考慮した実用的なスタイルが、現場の活発さを演出しています。
南野陽子の玉置亮子役は、事務員らしいオフィスカジュアルで、淡いブルーのブラウスと黒のパンツを合わせ、穏やかな印象を与えます。化粧は控えめなベージュ系で、髪型はストレートのミディアムヘアを自然に下ろし、親しみやすさを加えています。小池栄子の宮嶋友里恵役は、家庭的なエプロンドレスやシンプルなワンピースが多く、化粧はマットなファンデーションで現実味を出し、髪型はショートボブで力強さを表現。石田ゆり子の寺田智恵子役は、エレガントなシルクのブラウスとロングスカートが特徴で、化粧は上品なスモーキーアイ、髪型はゆるいウェーブのロングヘアが、ミステリアスな魅力を放っています。これらの衣装・化粧・髪型は、各女優のキャラクター性を視覚的に支え、物語のリアリティを高めています。
あらすじ
東京の救急救命センターで長年勤務を続けてきた62歳の医師、白石咲和子は、ある医療ミスの責任を問われ、退職を余儀なくされます。故郷である金沢の実家に戻った咲和子は、地元の小さな「まほろば診療所」で在宅医療の医師として新たな一歩を踏み出します。救急医療の現場とは大きく異なる在宅医療の世界に、最初は戸惑いを隠せない咲和子ですが、次第にさまざまな患者たちの人生に深く関わっていきます。
老老介護に苦しむ高齢夫婦、脊髄損傷で四肢麻痺となった元IT企業社長、セルフネグレクトに陥った独居老人、末期の膵臓がんを患う官僚、そして小児がんの6歳の女の子など、多様な背景を持つ患者たちと向き合う中で、咲和子は医療の限界と人間の尊厳について考えを深めます。一方で、実家の父である白石達郎が骨折をきっかけに誤嚥性肺炎や脳梗塞を発症し、激しい痛みに耐えかねて「これ以上生きていたくない」と訴えます。元美術教師である父の望む積極的安楽死を巡り、医師として、また娘として咲和子は深刻な葛藤に陥ります。
診療所の仲間たち、看護師の星野麻世や事務員の玉置亮子、院長の仙川徹らの支えを受けながら、咲和子は患者たちの「いのちの停車場」となる選択を迫られます。家族の絆、医療の現場の厳しさ、そして命の終わり方について、静かに問いかける物語は、観る者の心に深く刻まれます。最終的に咲和子が下す決断は、彼女自身の人生を大きく変えるものとなります。
解説
本作「いのちの停車場」は、現役医師であり作家の南杏子による同名小説を原作とした、2021年5月21日に公開された社会派ヒューマンドラマです。監督の成島出は、「八日目の蝉」などの作品で知られるように、繊細な人間心理を描くことに長けており、本作でも在宅医療の現場をリアルに再現しています。脚本の平松恵美子は、原作のエッセンスを損なわず、映像的な展開を加え、観客が感情移入しやすいストーリーを構築しています。
映画のテーマは、現代日本の医療制度が抱える課題、特に在宅医療の重要性と限界、老老介護、終末期医療、そして積極的安楽死の是非です。救急医療の英雄的なイメージとは対照的に、在宅医療の日常的な苦労を描くことで、医療従事者の内面的な葛藤を丁寧に浮き彫りにします。吉永小百合の主演は、女優人生122本目の出演作として、医師役初挑戦ながら、圧巻の演技で高く評価されました。日本アカデミー賞では優秀主演女優賞を受賞し、興行収入11.2億円を記録するヒット作となりました。
原作との違いとして、咲和子の父が元医師から元美術教師に変更され、芸術的な感性を加えることで家族の絆を深めています。また、映画オリジナルキャラクターの寺田智恵子や中川朋子が登場し、咲和子の過去を豊かに描いています。撮影は2020年9月から東映東京撮影所で行われ、新型コロナウイルス感染症の影響下で厳重な対策を講じながら完成。金沢の美しい風景を背景に、静かな感動を呼び起こします。
レビューでは、「涙なしには観られない」「医療の現場のリアルが胸を打つ」との声が多く、家族で観ることをおすすめする意見が目立ちます。一方で、テンポのゆったりした展開が人によっては重く感じられるものの、それが本作のリアリティを支えています。監督の成島出は、インタビューで「いのちの終わりを尊く描きたかった」と語っており、観客に命の尊厳を問いかける意欲作です。この映画は、単なる感動ものではなく、社会問題を考えるきっかけを提供する点で、永く語り継がれる作品となるでしょう。
キャスト
- 白石咲和子(62歳、医師):吉永小百合
- 野呂聖二(医師国家試験浪人中の青年、咲和子の助手):松坂桃李
- 星野麻世(29歳、看護師):広瀬すず
- 玉置亮子(「まほろば診療所」事務員):南野陽子
- 仙川徹(「まほろば診療所」二代目、糖尿病専門医):柳葉敏郎
- 宮嶋友里恵(宮嶋一義の妻):小池栄子
- 宮嶋一義(57歳、末期膵臓癌の官僚):伊勢谷友介
- バー「STATION」の客:みなみらんぼう
- バー「STATION」の客:泉谷しげる
- 寺田智恵子(映画オリジナルキャラクター):石田ゆり子
- 白石達郎(咲和子の父、元美術教師):田中泯
- 並木徳三郎(並木シズの夫):西田敏行
スタッフ
- 監督:成島出
- 脚本:平松恵美子
- 原作:南杏子
- 製作:冨永理生子
- 製作総指揮:岡田裕介
- 製作総指揮:村松秀信
- 製作総指揮:西新
- 音楽:安川午朗
- 主題歌:西田敏行「いのちの停車場」(作詞:小椋佳、作曲:村治佳織)
- 撮影:相馬大輔(J.S.C.)
- 編集:大畑英亮
- 制作会社:東映東京撮影所
- 製作会社:「いのちの停車場」製作委員会
- 配給:東映
- 公開:2021年5月21日
レビュー 作品の感想や女優への思い