『接吻』は死刑囚との純愛が引き起こす波紋と破滅を描く異色ラブストーリー。衝撃の結末が待つ。小池栄子がヒロインで活躍。平凡なOLの遠藤京子は、テレビで見た無差別殺人犯・坂口にひと目惚れする。世間から無視され続けた彼女は、坂口に自分と同じ孤独を見出し、面会を重ねるうちに結婚を決意。
基本情報
- 原題:接吻
- 公開年:2006年
- 製作国・地域:日本
- 上映時間:108分
- ジャンル:ドラマ
女優の活躍
本作のヒロイン、遠藤京子役を演じたのは小池栄子である。小池栄子は2008年当時、主にバラエティ番組やグラビアで知られるタレントとして活躍していたが、この映画で女優としての本格的なブレイクを果たした。『接吻』での演技は、彼女のこれまでの明るいイメージを一新するもので、冴えないOLから狂気じみた愛に囚われる女性への変貌を見事に体現した。
小池栄子は役柄の遠藤京子に深く没入するため、徹底した役作りを行ったと語っている。共感しにくいキャラクターだったため、最初はオファーを断ったが、監督の万田邦敏の熱意に押されて引き受け、結果として鬼気迫る演技を披露した。この役を通じて、彼女は内面的な孤独や執着を繊細に表現し、観客に強烈な印象を残した。
映画公開後、小池栄子の演技は高く評価され、第30回ヨコハマ映画祭で主演女優賞、第63回毎日映画コンクールで主演女優賞を受賞した。これにより、彼女の女優キャリアが加速。以降、『アマルフィ 女神の報酬』や『軽蔑』などの作品で主演を務め、多様な役柄に挑戦している。『接吻』は彼女の転機となり、以降のキャリアでドラマや映画に積極的に出演する基盤を築いた。
小池栄子の活躍は、単なる演技力だけでなく、身体的な変身も含む。役のために体重を増減させ、表情の微妙な変化を研究したという。共演者の豊川悦司や仲村トオルといったベテラン俳優陣相手に渡り合い、堂々たる存在感を発揮した点も評価された。この作品は、彼女がエンターテイナーから本格女優へ移行する象徴的な一作である。
さらに、小池栄子はこの映画を通じて、社会的孤立や愛の歪みといったテーマを体現し、観客に深い問いを投げかけた。レビューでは「小池栄子の演技がなければ、この映画は成立しなかった」との声が多く、彼女の存在が作品の成功を支えたと言える。以降、彼女は『anone』や『カムカムエヴリバディ』などのドラマで主演を張り、女優としての地位を確立している。(約650文字)
女優の衣装・化粧・髪型
遠藤京子役の小池栄子は、物語の設定に合わせた地味で日常的なスタイルが特徴である。衣装は主にオフィスカジュアルで、グレーのブラウスに黒いスカート、またはベージュのワンピースといったシンプルなもの。OLらしい実用性を重視し、華美な装飾を避けている。これにより、彼女の孤独で目立たない日常が視覚的に強調される。
化粧はナチュラルメイクが基調。薄いファンデーションに、控えめなアイラインとリップ。頰紅はほとんど使わず、顔色がやや青白く見えるよう調整されている。これは、役柄の精神的疲弊を表すための意図的な選択だ。物語後半、坂口との面会シーンでは、わずかに目元を強調したメイクで内面的な情熱を覗かせる。
髪型はストレートのロングヘアを後ろでまとめ、または無造作に下ろしたスタイル。オフィスシーンではポニーテールが多く、面会時には少し乱れたセミロングで、感情の揺らぎを表現。全体的に、手入れの行き届いていない印象を与え、役の冴えなさを助長している。衣装デザイナーの清水剛は、これらの要素を「無視される存在の象徴」としてデザインした。
クライマックス近くのシーンでは、衣装がやや崩れ、化粧が薄く剥がれたような質感になり、狂気の深化を視覚化。こうした細やかな変化が、小池栄子の演技を補完し、観客に没入感を与える。
あらすじ
物語は、ごく平凡なOL、遠藤京子の日常から始まる。彼女は職場で同僚から軽視され、プライベートでも誰からも注目されない存在だ。ある日、テレビのニュースで、無差別に一家を惨殺した容疑者・坂口の逮捕シーンを目撃する。坂口は警察に自首し、犯行を認めているが、動機を一切語らず、ただ淡々と拘束される姿が映し出される。その瞬間、京子は坂口の目に自分と同じ孤独と無視された痛みを感じ取り、強い共鳴を覚える。
京子は坂口に手紙を送り、面会を申し込む。最初は拒否されるが、粘り強く通い続け、ついに面会が実現する。坂口は無口で冷徹だが、京子は彼の沈黙の中に自分を投影し、恋に落ちていく。面会を重ねるうち、二人は互いの過去を少しずつ明かし、京子は坂口の人生が自分と重なることに気づく。坂口もまた、京子の純粋な視線に心を開き始める。
京子は坂口の弁護を担当する弁護士・長谷川と接触し、結婚の意志を伝える。長谷川は当初、京子の行動を異常と見なし、止めるが、彼女の執着は止まらない。裁判が進む中、京子は坂口の死刑判決を覚悟しつつ、獄中で結婚式を挙げることを決意。世間は二人の関係をセンセーショナルに報じ、京子はマスコミの追及に晒されるが、無視を貫く。
結婚後、京子は坂口の死刑執行を待ちわびる日々を送る。長谷川は京子を説得しようとするが、彼女の愛は理屈を超えていた。執行の日、京子は刑務所を訪れ、最後の面会を果たす。そこで起こる衝撃的な出来事が、二人の「接吻」をもたらす。物語は、愛の究極形と破滅の境界を描き、観客に深い余韻を残す。(約580文字)
解説
『接吻』は、万田邦敏監督が描く人間の孤独と愛の極限を探求した作品である。監督の前作『UNLoved』同様、社会の周縁に追いやられた人物の内面を、静かなカメラワークで抉り出す。脚本は万田珠実との共同執筆で、会話の少ないシーンを多用し、沈黙の重みを強調。殺人犯との純愛というタブーなテーマを、決して美化せず、観客に倫理的ジレンマを突きつける。
テーマの核心は「無視される存在の救済」にある。主人公の京子は、日常的に他者から見過ごされることで自己を喪失し、坂口という「究極のアウトサイダー」に自己を重ねる。この関係は、伝統的なロマンスではなく、共依存的な破壊の連鎖として描かれる。レビューでは「愛の形を問い直す不気味な傑作」と評され、観客の解釈を分ける点が魅力だ。
演出面では、渡部眞の撮影が際立つ。テレビ画面越しの坂口のクローズアップが、京子の視線を象徴し、後の面会シーンとのコントラストを生む。音楽の長嶌寛幸は、ミニマルなピアノ曲で緊張を高め、感情の爆発を予感させる。ラストの「接吻」は、肉体的な接触を超えた精神の融合を表し、死と愛の曖昧な境界を示唆する。
社会的な文脈では、2000年代の日本社会の孤立化を反映。無差別犯罪の増加やメディアのセンセーショナリズムを背景に、個人の疎外を描く。批評家からは「小池栄子の演技がテーマを体現」との声が多く、彼女の変身が作品の説得力を高めている。一方で、テーマの重さから一般受けしにくく、芸術映画としての位置づけが強い。
全体として、『接吻』は愛の多面性を探る実験作。理解不能な結末は、観客に「愛とは何か」を自問させる。公開当時、賛否両論を呼んだが、時を経て再評価が進み、万田監督の代表作の一つとなった。(約620文字)
キャスト
- 小池栄子 – 遠藤京子(ヒロイン、OL)
- 豊川悦司 – 坂口(殺人犯)
- 仲村トオル – 長谷川(弁護士)
- 篠田三郎 – 不明(脇役)
(注:主要キャストのみ。脇役は詳細不明の部分あり。全員の演技が物語の緊張感を支える。)
スタッフ
- 監督 – 万田邦敏
- 脚本 – 万田珠実、万田邦敏
- 製作 – 仙頭武則
- 撮影 – 渡部眞
- 美術 – 清水剛
- 音楽 – 長嶌寛幸
- 配給 – ファントム・フィルム
レビュー 作品の感想や女優への思い