売春防止法は、1956年(昭和31年)5月24日に制定された法律。この法律は、売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗を乱すものであることに鑑み、売春を助長する行為等を処罰するとともに、性行または環境に照らして売春を行うおそれのある女性の補導処分等に関する措置等を講ずることによって、売春の防止を図ることを目的としています。
売春行為そのものは罰せられませんが、勧誘、周旋、場所提供、管理売春などの行為が罰則の対象となります。施行は1957年で、1958年から本格的に適用されました。
違反事例
売春防止法の違反事例は、主に売春の勧誘、周旋、場所提供、管理などの行為が対象となります。以下に、主な事例を挙げて説明します。これらの事例は、警察の摘発や裁判記録から見られるもので、社会的な背景や時代的な変化を反映しています。事例を通じて、法律の適用範囲や罰則の実際を理解できます。
児童買春関連の事例
17歳の児童に売春をさせた事例があります。被告人が17歳の児童と売春の契約を結び、売春をあっせんしていたケースです。この事例では、売春防止法違反に加え、児童買春・児童ポルノ禁止法の違反も併せて適用され、被告人は懲役刑を受けました。児童を対象とした売春あっせんは、特に厳しく処罰されます。こうした事例は、未成年者の保護を重視した法律の趣旨を体現しています。
別の事例として、12歳のタイ人少女が国内で性的サービスを強いられた事件があります。このケースでは、人身売買罪が初適用され、売春防止法違反として摘発されました。加害者は少女を売春目的で買い取り、強制的に働かせていたため、懲役10年以上の判決が出ました。この事例は、国際的な人身売買と売春の結びつきを示しており、法律の国際的適用を議論するきっかけとなりました。
街頭売春(立ちんぼ)関連の事例
新宿・歌舞伎町の大久保公園付近で、売春の客待ちをしていた女性4人が逮捕された事例があります。2025年7月に発生し、8月29日に1人が略式起訴されました。この事例では、売春防止法の客待ち行為に対する規定が適用され、女性たちは罰金刑を受けました。逮捕後、パトロールが強化され、周辺の治安が改善されたとされています。立ちんぼは、売春の勧誘に該当するため、頻繁に摘発されます。令和5年の警察白書によると、売春防止法違反の検挙件数は437件に上り、その多くが街頭売春関連です。
同様に、歌舞伎町でホストクラブに勤務する江川誉が、2023年に売春防止法違反で逮捕された事例があります。江川は客の女性を売春に誘導し、周旋行為を行っていました。このケースでは、ホストクラブの営業形態が売春助長につながるとして、業界全体の規制強化が議論されました。江川は懲役2年、執行猶予4年の判決を受けました。
風俗店関連の事例
デリヘル店の元責任者ら23人が、2024年に売春防止法違反で逮捕された事例があります。逮捕容疑は、4月から5月にかけて、30代から50代の男性客8人に、20代の女性8人を都内のホテルに売春目的で派遣したものです。この事例は、警視庁史上最多の逮捕者数となり、罰則として懲役3年以上の判決が出ました。デリヘル店は性風俗特殊営業として許可されていますが、売春行為を伴うと違法となります。この事例は、風俗業界のグレーゾーンを浮き彫りにしました。
マッサージ店経営者が、従業員の女性を不特定の客に売春周旋した事例もあります。令和4年7月までに、経営者が売春防止法違反(周旋)で逮捕されました。このケースでは、店内での売春場所提供が問題視され、経営者は懲役1年6月、罰金50万円の判決を受けました。こうした事例は、偽装店舗の増加を示しており、警察の定期的な捜査が続けられています。
ホストクラブ関連の事例
歌舞伎町のホストクラブで、2023年に13人が逮捕された事例があります。現役ホストが、客の女性を売春に誘導し、自分から売春を提案させる形で周旋していました。この事例では、売春防止法の管理売春罪が適用され、ホストたちは懲役2年から4年の判決を受けました。ホスト業界の売掛金問題と売春の関連が指摘され、社会的な注目を集めました。
別のホストクラブ経営者が、2003年に15歳から17歳の少女を売春目的で売買した事件があります。2004年1月に児童買春罪で逮捕されましたが、売春防止法違反も併せて適用されました。この事例は、人身売買罪の制定につながるきっかけとなり、経営者は懲役5年の判決を受けました。
その他の事例
1959年から2003年にかけての統計では、売春防止法違反の検挙件数が2万2199件から2411件に減少していますが、2018年から2022年の統計では、毎年数百件の検挙が続いています。これらの事例は、主にインターネットを介した売春あっせんが増加傾向にあります。例えば、SNSで売春を勧誘したケースでは、20代の男性が2025年に逮捕され、罰金30万円の略式起訴となりました。
これらの違反事例から、売春防止法は売春行為そのものではなく、周囲の助長行為を対象としていることがわかります。罰則は、勧誘で6月以下の懲役または1万円以下の罰金、周旋で3年以下の懲役または10万円以下の罰金、管理売春で7年以下の懲役および30万円以下の罰金などです。事例の多くは、経済的な困窮や業界の慣習が背景にあり、社会的な支援の必要性を示しています。全体として、法律の施行以来、検挙件数は減少傾向ですが、形態の変化に対応した改正が求められています。
メディア一覧
売春防止法を題材としたメディア作品は、法律の歴史的背景や社会問題を反映したものが多くあります。以下に、映画、ドラマ、書籍、小説、ドキュメンタリーなどを挙げて説明します。これらの作品は、売春防止法の制定過程や施行後の影響を描き、娼婦の生活や廃娼運動をテーマにしています。作品の詳細を邦題優先でまとめます。
映画
- 『ブルーボーイ事件』(2025年、トランスジェンダーの売春婦役で主演:河合優実)。この映画は、売春防止法の適用外となるトランスジェンダーの売春を題材に、警察の摘発と性別適合手術の関連を描いています。1980年代の実際の事件を基に、社会的な差別と法律の限界を批判的に扱っています。
- 『赤線玉の井 ぬけられます』(1958年、娼婦役:野川由美子)。売春防止法施行直前の東京・玉の井の売春婦たちの生活を描いた作品です。清水一行の小説を原作とし、漫画家の風俗考証が加わっています。施行後の赤線廃止を予感させる哀歓の物語です。U-NEXTAmazon
- 『娼生』(2014年、姉役:不明)。売春防止法制定前後の台湾を舞台に、姉弟の人生を描いた社会派ヒューマンドラマです。日本統治時代の影響を反映し、売春の冷酷な現実を真摯に表現しています。日本公開は順次行われました。PrimeVideo
- 『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(2025年、娼婦役:複数)。NHK大河ドラマとして放送された作品の映画版で、江戸時代の吉原遊廓を描き、売春防止法の歴史的文脈を間接的に扱っています。明治から現代までの娼婦史を参考にしています。
- 『バッカス・レディ』(2016年、売春婦ソヨン役:ユン・ヨジョン)。高齢者の売春をテーマにした韓国映画ですが、日本公開時に売春防止法との比較議論を呼びました。高齢化社会と移民問題を交え、売春の現実を描いています。PrimeVideoAmazon
ドラマ
- 『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(2025年、蔦重役:横浜流星)。NHK大河ドラマで、江戸時代の遊廓と娼婦の生活を描いています。売春防止法の成立背景となる廃娼運動を間接的に触れ、娼婦の取り分が25%しかない現実を表現しています。1日10人の客を取る娼妓の入院エピソードが印象的です。
- 『母子家庭の光』(2024年、杏役:河合優実)。DVと売春を強いられた少女の物語で、売春防止法の保護規定を背景にしています。12歳から売春を強要された主人公の苦難を描き、社会支援の重要性を訴えます。
書籍・小説
- 『買春する帝国: 日本軍「慰安婦」問題の基底』(2019年、著者:吉見義明)。幕末から売春防止法施行までの日本の性売買史を解明した書籍です。自由を奪う奴隷制的な売春の実態を、研究成果に基づいて詳述しています。
- 『戦前日本の私娼・性風俗産業と大衆社会』(2022年、著者:寺澤優)。売買春と恋愛の近現代史を扱い、売春防止法の成立過程を分析しています。違法売春の存在理由と人々の欲求を考察します。Amazon
- 『近代日本メディア議員列伝 神近市子の猛進』(不明年、著者:不明)。神近市子の生涯を描き、売春防止法の制定に尽力した女性議員の活動を詳述しています。婦人運動家の苦難を、売春防止法の文脈で語ります。
- 『売春防止法と文学 ―川崎長太郎の場合』(不明年、著者:不明)。敗戦後の小田原の売春窟を舞台にした川崎長太郎の作品群を分析します。売春防止法の影響を文学的に読み解いています。
- 『遊廓や売春を肯定するのか!』(2024年、著者:不明)。売春防止法制定後の遊廓史を議論し、女性研究者の視点から廃娼運動を解説します。1956年の法律成立を転機として扱います。
- 『売春に関する年表』(不明年、著者:不明)。売春防止法の歴史を年表形式でまとめた書籍です。日本基督教婦人会の要望書など、法律施行後の動きを記録しています。
- 『廃娼運動・存娼運動・買売春管理の資料集成』(不明年、著者:不明)。戦前から戦後の売春問題を資料で網羅し、売春防止法の戦後編を詳述します。性暴力と買売春の俯瞰が可能です。
- 『日本における買売春の歴史』(2016年、著者:三成美保)。売春防止法の二元構造を解説し、性産業の現行法制を分析します。買売春の禁止と性交類似行為の許可を考察します。
ドキュメンタリー
- 『赤線の成立過程』(不明年、監督:不明)。売春防止法施行までの赤線街の歴史を解説したドキュメンタリーです。全国1176箇所の赤線をボリュームブックレットでまとめています。
- 『売春防止法施行67年目だから、遊廓の雑誌をつくった』(2025年、著者:不明)。売春防止法施行後の遊廓史を雑誌形式で扱った作品です。沖縄県の施行遅れを触れ、昭和33年の影響を議論します。
- 『戦後日本映画女性史考』(2023年、著者:小林憲夫)。売春防止法成立に尽力した女性議員を描き、1953年から1956年の映画界を分析します。売春婦の搾取をテーマにしています。
これらのメディア作品は、売春防止法の社会的影響を多角的に描いています。映画やドラマでは娼婦の人間ドラマが中心で、書籍では歴史的分析が深いです。作品を通じて、法律の目的である売春防止と女性保護の重要性が伝わります。




コメント 足跡・感想・レビューなど