ルース・ウェアのミステリー小説『第10客室の女』は、旅行ジャーナリストのローラ・ブラックロック、通称ローが主人公。豪華クルーズ船で起きた謎の事件を追う心理サスペンス。現実と妄想の狭間で真相を探る緊張感あふれる物語です。
強盗被害後の不安定な精神状態で船に乗り込んだローは、隣室から女性が海に投げ込まれるのを目撃するが、誰も信じてくれません…。
基本情報
- 邦題:第10客室の女
- 原題:The Woman in Cabin Ten
- 著者:Ruth Ware
- 原書出版年:2017年
- 原書出版社:Gallery Books
出版状況
小説『第10客室の女』はイギリスの作家ルース・ウェアによる第二作目の長編小説で、原題は『The Woman in Cabin 10』。2016年6月30日にアメリカの出版社Scout Pressからハードカバー版が最初に発売されました。イギリスでは同年7月19日にGallery Booksから出版され、世界中でベストセラーとなりました。累計発行部数は数百万部を超え、40以上の言語に翻訳されています。
日本ではアカデミー出版から天馬龍行氏の翻訳により、上巻と下巻の二冊として2020年に刊行されました。上巻のISBNは978-4860365301で、旅行雑誌の記者ローが豪華客船で事件に巻き込まれる冒険を描いた内容が魅力です。
ルース・ウェアはデビュー作『In a Dark, Dark Wood』で注目を集め、本作でさらに人気を確立しました。彼女の作品は心理スリラーとして評価が高く、ニューヨーク・タイムズのベストセラーランキングに複数回入選しています。また、2025年にはNetflixで映画化され(第10客室の女)、キーラ・ナイトレイが主演を務めました。監督はサイモン・ストーンで、脚本はジョー・シュラップネルとアナ・ウォーターハウスが担当。映画版は原作のエッセンスを保ちつつ、現代的な要素を加えており、公開直後に視聴者から注目を集めました。
原作の出版後、複数の賞にノミネートされ、グッドリード賞のミステリー部門で高い評価を受けています。日本語版の読者レビューでは、緊張感のあるプロットが好評で、書店やオンラインで安定した売れ行きを示しています。ルース・ウェアの他の作品も日本で翻訳されており、シリーズ的な人気を博しています。本作の出版は、女性作家によるミステリーのブームを象徴する一冊として位置づけられています。
あらすじ
物語はロンドン在住の旅行ジャーナリスト、ローラ・ブラックロック、通称ローが自宅で強盗被害に遭う場面から始まります。32歳のローは、精神的に不安定になりながらも、仕事のチャンスとして豪華クルーズ船『オーロラ・ボレアリス号』の処女航海に招待されます。
この船はわずか10室の客室しかなく、富裕層向けの贅沢な旅を提供するものです。船主はリチャード・ブルマー卿で、妻のアンネは末期がんを患っています。ローは船上で他の乗客やクルーと出会い、隣室の10号室にいる若い女性からマスカラを借りるという出来事があります。
その夜、ローは隣室から叫び声と水しぶきの音を聞き、ベランダから女性が海に投げ込まれるのを目撃します。慌てて船のセキュリティに連絡しますが、10号室は空室で、乗客は全員無事だと告げられます。血痕のような跡も消えており、ローの証言は彼女の不安障害や飲酒、睡眠不足による幻覚だと片付けられます。
ローは自分の正気を疑いながらも、事件の真相を追います。
船上の乗客たち、例えば元恋人のベンや他のジャーナリストたちに相談しますが、信用されません。次第に脅迫めいたメッセージが届き、ローの部屋が荒らされる事件が発生します。彼女は船のスタッフや乗客の秘密を探り、ブルマー卿の妻アンネの病状や財産相続が絡んでいることに気づきます。
実は10号室の女性はキャリーという名前の女性で、ブルマー卿の愛人で、アンネの身代わりとして雇われていたのです。アンネはすでに殺されており、キャリーが彼女に成り代わって船に乗っていました。ローはキャリーと出会い、真相を聞き出しますが、ブルマー卿の陰謀に巻き込まれ、船の奥深くに監禁されます。脱出を試みるローは、海に飛び込み、命からがら陸にたどり着き、事件を公表します。
物語はローの視点で語られ、メールや記事の挿入で緊張を高めています。クライマックスでは、ブルマー卿の計画が崩壊し、正義が果たされます。映画版では一部プロットが変わり、アンネの殺害シーンやローの脱出が強調されていますが、原作の核心は変わりません。
解説
小説『第10客室の女』は心理スリラーとして、主人公の不安定な精神状態を巧みに描き、読者の疑念を煽る構造が特徴です。ルース・ウェアはアガサ・クリスティの伝統的な密室ミステリーを現代的にアレンジし、クルーズ船という閉鎖空間でサスペンスを展開します。
テーマは「信用と現実の境界」で、ローの証言が周囲から否定される過程が、ガスライティングの恐怖を象徴します。これは現代社会のメンタルヘルス問題や、女性の声が軽視される状況を反映しています。
プロットは二重構造で、ローの内面的な葛藤と外部の陰謀が並行し、予想外のひねりが連続します。例えば、10号室の女性の正体が明らかになる中盤の転換点は、読者を驚かせます。文体は簡潔で、短い章立てがテンポを良くしています。
批評家からは、キャラクターの深みと緊張感が高く評価され、ニューヨーク・タイムズやガーディアンで好評を博しました。一方で、一部のレビューではローの行動が非現実的だと指摘されています。映画版では視覚的な要素が加わり、ヨットの豪華さと北欧の風景が雰囲気を高めていますが、原作の心理描写がやや薄れているとの意見もあります。
本作はウェアの作風を確立した一冊で、後の作品『The Death of Mrs. Westaway』などに影響を与えています。社会的な文脈では、#MeToo運動後の女性のエンパワーメントを予見する内容で、主人公が自力で真相を暴く姿が象徴的です。全体として、娯楽性と深みを兼ね備えたミステリーの傑作です。
女性の活躍
小説『第10客室の女』では女性キャラクターが物語の中心を担い、彼女たちの活躍がプロットを駆動します。
主人公のロー・ブラックロックは、強盗被害後のPTSDを抱えながらも、ジャーナリストとしての使命感で事件を追います。彼女は周囲の疑念に屈せず、証拠を集め、監禁から脱出する勇気を示します。これは女性のレジリエンスを象徴し、男性中心の船上で孤立しながらも自立的に行動する姿が印象的です。
アンネ・ブルマーは末期がん患者として描かれますが、夫の陰謀に気づき、遺産を慈善に寄付する決断を下します。彼女の遺言は物語の鍵となり、死後も影響力を発揮します。
キャリーは複雑な立場で登場し、ブルマー卿の愛人として雇われますが、家族のためと信じて行動します。次第に良心の呵責を感じ、ローと協力して真相を暴く過程で、犠牲的な活躍を見せます。映画版ではキャリーの役割が強調され、ローとの連帯がより明確です。
他の女性キャラクター、例えば船上の女性ジャーナリストやスタッフも、ローへの支援や疑念を通じて物語を豊かにします。
全体として、女性たちは男性の権力や欺瞞に対して抵抗し、互いに支え合う姿が描かれます。これはウェアのフェミニズム的な視点を示し、伝統的なミステリーで女性が被害者役に留まらない点を革新しています。ローの最終的な勝利は、女性の声が社会を変える力を強調します。
読者レビューでは、この女性中心の展開が共感を呼び、現代のエンパワーメントテーマとして評価されています。本作を通じて、ウェアは女性の内面的強さを描き、ミステリーのジャンルを進化させました。



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