「恋のエチュード」は1971年にフランスで公開された映画。
一人のフランス人男性と二人のイギリス人女性をとおした淡い恋の物語。
もつれた恋愛に破壊力満点の名セリフが光ります。
恋のエチュード
- 邦題:恋のエチュード
- 原題:Les Deux anglaises et le continent
- 英題:Two English Girls
- 公開年:1971年
- 上映時間:130分
- 製作国:仏国
- 原作:アンリ=ピエール・ロシェ「二人の英国女性と大陸」(Deux Anglaises et le continent、1958年)
見どころと感想
アイロンの意味
本作の舞台はイギリスの片田舎ですが、イギリス嫌いのトリュフォーの意向を汲んで、フランスの片田舎ノルマンディーで撮影されました。主人公が姉妹から大陸君と呼ばれているのが可笑しくなります。
姉妹と母が鉄製のアイロンで衣服を綺麗している場面が印象的です。女性が集まり作業に集中していると、男性は外から覗くくらいしか何も出来ません。ウロウロする大陸君の反応が絶妙に面白いです。
とかく衣食に関しては女性たちの集まる場所に入りにくいものです。服の買い物、女子会と称した食事…。なお、アイロンと火熨斗について以下で触れていますので、ご参照ください。「近代日本の導入した 洋裁 : 大丸弘「西欧型服装の形成」を読む」
恋の結末:破壊力満点の名セリフ
以下では「恋のエチュード」の恋の障害について、少し考えました。妹が大陸君と肉体関係を結んだ翌日、必殺の台詞が出てきます。
あなたのお陰で愛を知ったわ/目眩のように/戦慄のように/これからは、あなた無しでも生きていける
フランスの映画監督フランソワ・トリュフォーは、彼の生き写しであるジャン=ピエール・レオー扮するダメ男に合わせ、女優ステーシー・テンダーに上記の台詞を言わせました。
彼女は間違っても美人とはいえない女性で、イギリス人でフランス語の達人が必要だという理由だけで採用されました(山田宏一「フランソワ・トリュフォー映画読本」平凡社、2003年)。
トリュフォーは彼女に、出来る限りの衣装と化粧を施して起用しました。ステーシーは後にも先にも目立った作品には出ることはありません。
しかし、古今東西の恋愛史上、そして恋愛映画史上で、男性に対して最も破壊力のある台詞を言う機会を彼女はトリュフォーから与えられました。
あなたのお陰で愛を知った。これからは思い出でだけで生きていける。
愛を教えた男性が、教わった女性から「不要」と捨て去られるのは、悲惨や不幸とは言えないにしても災難であることに間違いありません。女は愛が欲しかっただけで男は不要だったという論理は、それ自体としては完結しています。
しかし、言われた男の側からすればまったく納得がいきません。だから災難としかいいようがないのです。かといって、爆破的な台詞を吐いた女を恨んだところで仕方がありません。
女の側からすれば、愛を教えてもらっただけで幸せだということなのですから。そこに男が未練がましく介入しようとすれば、せっかく女が理解した愛というものを汚すことになります。「恋のエチュード」とは、まさに恋の地獄を教えてくれる映画です。
最後に、私自身はステーシーの口元と、静止時の全身的な姿勢が気に入っています。
次の場面で妹ステーシーの横向く姿勢。少し体をくねらせている点と、スカートの皺でそれが際立たされている点が良いです。皺が布の豊かさを示しています
キャスト
登場人物 | 出演者 |
---|---|
クロード・ロック | ジャン=ピエール・レオー |
アン・ブラウン | キカ・マーカム |
ミュリエル・ブラウン | ステイシー・テンデター |
ブラウン夫人 | シルヴィア・マリオット |
ロック夫人 | マリー・マンサール |
ディウルカ | フィリップ・レオタール |
ルタ | イレーヌ・トゥンク |
フリント氏 | マーク・ピーターソン |
クロードのビジネスエージェント | ジョルジュ・デルリュー |
マダム・ロックの女中 | マリー・イラカネ |
美術商 | マルセル・ベルベール |
ポーター | ジャンヌ・ロブレ |
パルミスト | デヴィッド・マルカム |
カフェの友人 | ソフィー・ベーカー |
タクシー運転手 | ルネ・ガイヤール |
ミュリエル(子供) | アンヌ・ルヴァスロ |
モニーク | アニー・ミラー |
クロードの秘書 | クリスティーヌ・ペレ |
子供 | ギョーム・シフマン |
子供 | マチュー・シフマン |
子供 | エヴァ・トリュフォー |
クラリス | ジョアン・ソフィー |
子供 | ローラ・トリュフォー |
ナレーター(声) | フランソワ・トリュフォー |
スタッフ
監督 | フランソワ・トリュフォー |
原作 | アンリ=ピエール・ロシェ |
翻案 | フランソワ・トリュフォー |
脚本 | ジャン・グリュオー |
衣装デザイン | ギット・マグリーニ |
ヘアスタイル | シモーネ・ナップ |
衣装デザイン助手 | ピエロ・チコレッティ |
衣装スタッフの詳細
- 装飾・小道具…ジャン=クロード・ドルベール
- ヘアスタイル…シモーヌ・ナップ
- 衣装デザイン…ギット・マグリーニ
- 衣装助手…ピエランジェロ・ギコレッティ、ピエロ・チコレッティ
- 衣装提供 : ティレッリ・ローマ
- 衣装協力 : カポーレット・ドルベール
- メイクアップ : マリー=ルイーズ・ジレ
衣装デザインを担当したギット・マグリーニは、1914年にイタリアのリグーリアのゾアーリに生まれたファッション・デザイナー兼女優。1977年にローマで没。
ジャン・リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーらの映画で衣装を多く担当しました。ギット・マグリーニと表記されることもあります。
原作の影響から、3人の日記を読み進める形で映画が進みます。描かれる恋は恋の障害といわれ、かなりチグハグに進展していきます。
監督のトリュフォーは「肉体的な恋を描くのでなく、鯉を肉体的に描きたかった」と述べました。そのための手法として、画面中央から徐々に明るく写すアイリス・インと、画面周辺から徐々に暗くしていくアイリス・アウトとを用いています。
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