『パッション』(1982年)は、ジャン=リュック・ゴダール監督のフランス・スイス合作映画。映画製作と労働、愛をテーマに、名画の再現と現実が交錯。ハンナ・シグラとイザベル・ユペールが主演。カンヌ国際映画祭で技術賞受賞。ゴダールのヌーヴェルヴァーグ後の実験的スタイルが際立つ作品。
基本情報
- 邦題:パッション
- 原題:PASSION
- 公開年:1982年
- 製作国:スイス、フランス
- 上映時間:88分
- ジャンル:ドラマ
あらすじ
スイスで映画監督ジェルジー(イェジー・ラジヴィオヴィッチ)は、ゴヤやルノワールの名画をタブロー・ヴィヴァン(生きた絵画)として再現する映画「パッション」を撮影中ですが、ストーリーがなく、照明の不備を理由に撮影が滞ります。製作費が膨らむ中、プロデューサーのラズロー(ラズロー・サボー)は苛立ち、ジェルジーは芸術と現実の間で葛藤します。一方、ジェルジーが滞在するホテルの経営者ハンナ(ハンナ・シグラ)は、夫ミシェル(ミシェル・ピコリ)の経営する工場で働くイザベル(イザベル・ユペール)と出会います。イザベルは労働組合活動が原因で解雇され、ストライキを組織しようと奮闘。ジェルジーはハンナとイザベルの両方に惹かれ、愛と労働の交錯を模索します。映画製作の混乱、工場の抗争、ホテルの人間関係が絡み合い、芸術と現実の境界が曖昧になる中、物語は未完のまま漂います。
女優の活躍
ハンナ・シグラは、ホテル経営者のハンナ役で、複雑な感情を抱える女性を演じました。ゴダール作品初出演の彼女は、ファスビンダー作品での情熱的な演技とは異なり、抑制された表現で、夫との冷めた関係やジェルジーへの微妙な惹かれを体現。批評家は「シグラの静かな威厳が映画に深みを加える」(Web:4)と評価。特に、ジェルジーとテスト映像を見ながら愛と仕事について語るシーンでは、彼女の落ち着いた声と鋭い眼差しが、芸術と現実の葛藤を象徴します。一方、シグラの出番は限られ、物語の断片性ゆえに感情の深堀りが不足との批判も(Web:9)。
イザベル・ユペールは、工場労働者のイザベル役で、吃音を抱える純粋な女性を演じました。彼女の演技は「ほぼ見分けられないほど自然」(Web:6)と絶賛され、労働者の闘志と恋愛への憧れを繊細に表現。解雇後のストライキ組織のシーンや、ジェルジーとの親密な場面での無垢な情熱は、ユペールの若さと演技力の証明。両女優の対比的な演技は、映画のテーマである「愛と労働」の二面性を強調し、ゴダールの実験的意図を支えました。
女優の衣装・化粧・髪型
ハンナ・シグラ演じるハンナの衣装は、1980年代初頭のヨーロッパの洗練された女性を反映。衣装デザイナーは、ゆったりしたシルクのブラウスやタイトなスカート、落ち着いた色調のコートを採用し、ホテルの経営者としての優雅さを表現。ホテルのシーンでは、ダークグリーンのドレスやカーディガンが登場し、シグラの気品を引き立てます。メイクは控えめで、薄い口紅とナチュラルなアイメイクが中心。ブロンドの髪は、肩までの長さをゆるいウェーブまたはシンプルなアップスタイルでまとめ、知的で落ち着いた印象を与えました。ジェルジーとの親密なシーンでは、柔らかい照明下で彼女の青い瞳が際立ち、微妙な感情を強調。
イザベル・ユペール演じるイザベルの衣装は、労働者階級の現実感を反映。工場でのシーンでは、くすんだ色の作業服やシンプルなセーターが中心で、彼女の質素な生活を表現。ストライキのシーンでは、薄手のジャケットとスカーフが登場し、闘志を象徴します。メイクはほぼ皆無で、汗ばんだ肌と無造作な眉が、労働者の過酷さを強調。ヘアスタイルは、赤みがかったショートヘアを乱雑に下ろし、吃音と相まって彼女の不安定さを視覚化。タブロー・ヴィヴァンのシーンでは、裸体や薄いドレスのエキストラが登場し、ゴダールの美的意図を反映しましたが、シグラとユペールの衣装は現実世界の地味さを保ち、芸術との対比を際立たせました(Web:8)。
解説
『パッション』は、ジャン=リュック・ゴダールがヌーヴェルヴァーグ後の「第二の波」で製作した作品で、映画製作、芸術、労働、愛の交錯を探求します。1963年の『軽蔑』に似た「映画内映画」の構造を持ち、ゴダールは物語性を拒否し、名画のタブロー・ヴィヴァン(ゴヤ、ルノワール、ドラクロワなど)を再現することで、芸術の純粋さと現実の混沌を対比。撮影監督ラウル・クタールの鮮やかな映像美は、1982年カンヌ映画祭で技術賞を受賞(Web:7)。映画は、ポーランドの連帯運動や労働者の闘争を背景に、ジェルジーの芸術的葛藤とハンナ、イザベル・ユペールの現実的な闘いを並行させ、「人生にストーリーはない」とするゴダールの哲学を反映(Web:8)。
音楽はモーツァルトやベートーヴェンのクラシックを使用し、芸術の高尚さを強調する一方、断片的な会話と音の不協和が現実の混乱を表現。批評家からは「映像は息をのむほど美しいが、物語の欠如が観客を選ぶ」(Web:6)と賛否両論。興行的には失敗に終わり(Web:9)、Rotten Tomatoesでは評価が分かれる(Web:6)。ゴダールの「映画は感情を撮るもの」(Web:8)という言葉通り、純粋な感情と視覚的実験が本作の核心です。
キャスト
- ハンナ・シグラ(ハンナ):ホテル経営者。ジェルジーに惹かれる女性。
- イザベル・ユペール(イザベル):工場労働者。吃音を抱え、ストライキを組織。
- イェジー・ラジヴィオヴィッチ(ジェルジー):ポーランド人監督。芸術と現実の間で葛藤。
- ミシェル・ピコリ(ミシェル):工場経営者。ハンナの夫。
- ラズロー・サボー(ラズロー):プロデューサー。物語の欠如に苛立つ。
- ジャン=フランソワ・ステヴァナン:撮影スタッフ。
豪華な国際キャストが、ゴダールの複雑なテーマを体現しました。
スタッフ
- 監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール。ヌーヴェルヴァーグの革新者。
- 脚本:ジャン=クロード・カリエール(クレジットなし)。
- 撮影:ラウル・クタール。鮮やかな映像でカンヌ技術賞受賞。
- 編集:ゴダール、アンヌ=マリー・ミエヴィル。断片的なスタイルを構築。
- 音楽:モーツァルト、ベートーヴェン他。クラシック曲で芸術性を強調。
- 製作:アルマン・バルボー、マルティーヌ・マリニャック。
- 衣装・メイク:詳細不明。シンプルなデザインで現実感を表現。
スタッフはゴダールの実験的ビジョンを支え、映像美を際立たせました。
総括
『パッション』は、ゴダールの芸術と現実の葛藤を描いた実験的傑作。ハンナ・シグラとイザベル・ユペールの対比的な演技が、愛と労働のテーマを深化。衣装とメイクは、現実と芸術の対比を視覚化し、クタールの撮影が美しさを際立たせます。物語の欠如が議論を呼ぶも、ゴダールの哲学と映像美が映画史に残る一作です。




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