『サブスタンス』(原題:The Substance)は、衰えゆくセレブリティのエリザベス・スパークルが、若返りの黒市薬「サブスタンス」を使用し、若い自分を生み出すボディホラー。美の基準と加齢の恐怖を描く風刺作で、デミ・ムーアの迫真の演技が光る。
プロフィール
- 邦題:サブスタンス
- 原題:The Substance
- 公開年:2024年
- 製作国・地域:イギリス、フランス
- 上映時間:140分
- ジャンル:ホラー
- 配給:ギャガ
女優の活躍
本作は、デミ・ムーアとマーガレット・クアリーの二人の女優が、互いに補完し合う形で輝かしい活躍を見せています。
デミ・ムーアは、主人公エリザベス・スパークル役を演じ、加齢による喪失感と絶望を深く体現。長年ハリウッドで活躍してきた彼女のキャリア最高峰の演技として高く評価され、2025年のゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞しました。ムーアは、肉体的な変容を厭わず、痛みと脆弱性を露わにし、観客の心を強く揺さぶります。
一方、マーガレット・クアリーは、エリザベスの若いバージョンであるスー役を担い、完璧な美しさの裏側に潜む冷徹さと孤独を繊細に表現。ダンサーとしてのバックグラウンドを活かした激しい振り付けのシーンでは、肉体的な限界に挑み、監督のコラリー・ファルジャから絶賛されました。二人は一人の人物の二面性を演じるため、互いの演技が化学反応を起こし、物語の核心である「美の代償」を鮮やかに描き出しています。この共演は、加齢と若さの対立を象徴し、女性のアイデンティティを探求する点で、映画史に残る名演として語り継がれています。
女優の衣装・化粧・髪型
本作のビジュアルデザインは、物語のテーマである美の変容を強調するよう、細部まで緻密に工夫されています。デミ・ムーア演じるエリザベスは、物語序盤で典型的なハリウッドの衰えゆくスターとして描かれ、衣装はゆったりとしたカーディガンやくたびれたスウェットが中心。化粧は薄く、シワやくすみを強調したナチュラルメイクで、加齢の現実を無慈悲に映し出します。髪型は肩まで伸びたくすんだブロンドのボブカットで、乱れやすく、彼女の内面的混乱を象徴します。これに対し、薬の効果で生まれるスー(マーガレット・クアリー)は、完璧な若さとセクシャリティを体現。衣装は光沢のあるラテックス製のフィットしたドレスや、露出度の高いトップスが多く、ボディラインを強調したデザインです。化粧は大胆で、赤いリップとスモーキーなアイメイクが特徴的。髪型は滑らかなロングウェーブのブロンドで、常に完璧にセットされ、美の理想像を具現化します。物語が進むにつれ、二人の衣装とメイクは融合・崩壊し、グロテスクな変形を視覚的に表現。衣装デザイナーのパスカル・ファヴロは、ネオンカラーのアクセントを加え、ホラー要素を増幅させました。この変遷は、単なるファッションではなく、女性の自己認識の崩壊を象徴する強力なツールとなっています。
あらすじ
かつて人気のフィットネス番組『ザ・クラス』をホストし、ハリウッドの華やかな世界で輝いていたエリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、50歳を過ぎた頃、容赦ない加齢の波に直面します。彼女の長年のパートナーであり、プロデューサーのハーヴェイ(デニス・クエイド)は、視聴率の低下を理由に、冷徹に彼女を解雇。エリザベスは、街の片隅で孤独に暮らす日々を送ります。そんな中、彼女は謎の黒市薬「サブスタンス」を手に入れます。この薬は、使用者を完璧な若いバージョンに再生させるという、奇跡のような効果を謳っています。半信半疑ながら注射を打ったエリザベスは、背中から新しい自分――20代の美女スー(マーガレット・クアリー)が生まれるのを目撃します。スーは即座にハリウッドの寵児となり、エリザベスの代わりに番組を引き継ぎ、爆発的な人気を博します。しかし、この再生には厳格なルールがあります。一週間ごとに交代で「活性」状態を保たねばならず、違反すれば取り返しのつかない代償が生じます。最初は喜びに満ちたスーの成功を喜ぶエリザベスですが、徐々に嫉妬と喪失感が募り、二人は互いの存在を脅かす存在へと変貌。美の追求がもたらすグロテスクな変容と、自己破壊の連鎖が、物語を息をのむホラーへと導きます。最終的に、エリザベスとスーは融合した究極の姿で、残酷な真実と対峙するのです。
解説
『サブスタンス』は、フランスの新鋭監督コラリー・ファルジャが、前作『復讐の復讐』(2017年)のスタイリッシュなバイオレンスを進化させたボディホラー作品です。ファルジャ監督は、本作を通じて現代社会の美の基準、加齢の恐怖、そして女性に対する容赦ない視線を、風刺とグロテスクな視覚効果で鋭く抉り出します。物語の核となる「サブスタンス」という薬は、単なるSFガジェットではなく、資本主義下のエンターテイメント産業の寓話として機能。ハリウッドの若さ至上主義を、文字通り「肉体を切り裂く」形で批判し、観客に不快さと共感を同時に喚起します。デミ・ムーアの演技は特に注目され、彼女のキャリアを振り返るメタ的なレイヤーを加え、加齢する女優自身の苦悩を投影。マーガレット・クアリーとのデュアルキャストは、ドッペルゲンガーの古典的モチーフを現代的に再解釈し、自己分裂の心理を体現します。視覚的には、ネオンライトのきらびやかなセットと、血みどろの特殊メイクが融合し、ダヴィッド・クローネンバーグの影響を思わせるボディホラーの傑作。批評家からは「美の呪縛を解体する鮮烈な一撃」と称賛され、2025年のアカデミー賞で作品賞を含む5部門にノミネートされるほどのインパクトを与えました。一方で、エンディングの混沌やショックバリューの過剰さを指摘する声もあり、議論を呼んでいます。ファルジャ監督のインタビューでは、本作を「女性の身体が社会によって消費されるプロセス」のメタファーと位置づけ、自身の90年代の少女時代を反映したと語っています。この作品は、単なるホラー映画を超え、ジェンダーとアイデンティティの深い問いを投げかける、時代を映す鏡として永遠に輝き続けるでしょう。
キャスト
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- デミ・ムーア:エリザベス・スパークル / スー
- マーガレット・クアリー:スー / エリザベス・スパークル
- デニス・クエイド:ハーヴェイ
- エドワード・ハミルトン=クラーク:ナレーター
- ゴア・アブラムス:ガイ
- オスカー・レサージュ:ルイ
- クリスチャン・エリクソン:ジム・スレイド
- ロビン・グリアー:メアリー
- トム・モートン:ペンシル
- ヒューゴ:ボブ
- ディエゴ・ガルシア:ジョー
- ダニエル・ナイト:テリー
- ジョナサン・カーリー:ボブの代理人
- ジゼル・ヘンダコット:ダンサー
- アキル・ウィンゲート:ボディガード
- ヴィンセント・コロンベ:パーティーゲスト
- ビリー・ベントリー:プロデューサー
- レナード・リズデイル:ドクター
- ジョーダン・フォード・シルバー:インタビュアー
- オスカー・セイレム:若いエリザベス
- ヴィヴィアン・ボシナ:ナース
- マシュー・ルレ:メイクアップアーティスト
- ジャナ・ビットネロヴァ:スタイリスト
- オリヴィエ・レイナル:カメラマン
- ティファニー・ホフステッター:アシスタント
- ニコラス・ロワイエ:照明技師
- ネイサン・リッピー:音響技師
- マノン・アリザメンディ:ダンサー
- ヴィルジニー・コトリンスキ:ダンサー
- ブレット・ギレン:セキュリティ
###エキストラ
- シャルロット・マルクワルト
- レア・ヘングル
- ゲエル・レイモンド
- クレール・ルメール
- リラ・ブフフーラ
- オレリアン・ロルグニエ
- イヴァン・セリエ
- フィリップ・シュラー
- クリスチャン・ブーミエ
- マーティン・グラハム
- クリスチャン・ボルドロ
- パトリック・ハメル
- ディディエ・ドンド
- ジャック=イヴ・ドージュ
- ジャン=クロード・マッテイ
- オリヴィエ・ジャルサン
- ジャン=リュック・マニョノ
- シャルロット・マレー
- アーロン・カーン
- ガブリエラ・アーノン
- ナンシー・ジョセフソン
- ラフスィーヌ・アンリッジ
- アンドリュー・エルドリッジ
- デニス・パワーズ
- ブライアン・ジョーンズ
- アンドリュー・カレージ
- マリア・マクルーグ
- アンドリュー・デズモンド
- レベッカ・ラフォン
- ローラ・ピュエシュ
- ライアン・チズデスター
- セシル・ヴォークト
- ヤニック・ゲラン
- ジャン・ミエル
- ポール・デスコワン
- ブノワ・レヴェック
- アルチュール・モリネ
- マノン・サコ
- バスティアン・ジョレル
- ケリー・ホアー
スタッフ
- 監督・脚本:コラリー・ファルジャ
- 製作総指揮:ロビン・グリアー、アレクサンドラ・キム
- 製作:エリック・アルトマイヤー、ニコラス・アルトマイヤー
- 撮影:マキシム・アレグリア
- 美術:ジェローム・ベイ
- 衣装デザイン:パスカル・ファヴロ
- 特殊メイク:ピエール・オディロン
- 編集:イザベル・クロード
- 音楽:ラファエル・ファルジャ
- 音響デザイン:カトリーヌ・デメレ
- プロデューサー:パトリック・ウィルソン
- キャスティング:パスカル・ファヴロ
- 視覚効果:レクイエム VFX
- 脚本協力:ジャン=クリストフ・コメ
- アソシエイトプロデューサー:オリヴィエ・デルボ
レビュー 作品の感想や女優への思い