『カルメンという名の女』(原題:Prénom Carmen)は、1983年に公開されたジャン=リュック・ゴダール監督のフランス映画。プロスペル・メリメの小説『カルメン』を基に、オペラ版のパブリックドメイン化を背景に制作。ビゼの楽曲ではなくベートーヴェンの弦楽四重奏曲を使用する異色の解釈で、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞しました。上映時間は85分。
基本情報
- 邦題:カルメンという名の女
- 原題:Prénom Carmen
- 公開年:1983年
- 製作国・地域:フランス、スイス
- 上映時間:85分
- ジャンル:ドラマ
カルメンという名の女 / サウンドトラック付き厳選映画シーン
女優の活躍
映画『カルメンという名の女』の主人公カルメン役を演じたマルーシュカ・デートメルスは、当時20歳のオランダ出身の新人女優でした。元々はイザベル・アジャーニがキャスティングされていましたが、撮影開始後すぐに降板したため、デートメルスが抜擢されました。彼女は演技学校を卒業したばかりで、映画経験がほとんどなく、ゴダール監督のオーディションでヌードシーンを自然にこなしたことが起用の決め手となりました。これにより、デートメルスは一躍注目を集め、ゴダール作品の伝統的な「新発見女優」として位置づけられました。過去にゴダールはアンナ・カリーナやジュリエット・ベルト、アンヌ・ヴィアゼムスキーを見出しており、デートメルスは1980年代のゴダール神話を更新する存在となりました。
デートメルスの演技は、カルメンというキャラクターの官能性とメランコリックな側面を体現しており、批評家から「魅惑的な優雅さ」と評価されています。彼女は映画の中心人物として、銀行強盗のシーンや恋愛描写で大胆に活躍し、ヌードシーンを長時間にわたってこなすことで、物語のテーマである自由と破壊を象徴的に表現しました。この役柄を通じて、デートメルスは国際的に知られるようになり、以後のキャリアではヨーロッパ映画を中心に活躍を続けました。例えば、後の作品ではイタリアやフランスの監督と協力し、ドラマチックな役を演じています。
もう一人の主要女優であるミリアム・ルーセルは、クレール役を務めました。彼女は弦楽四重奏団のメンバーとして登場し、ジョゼフの潜在的な恋人候補を演じています。ルーセルは本作でゴダール監督と初共演し、音楽的なシーンでの繊細な演技が注目されました。彼女の活躍は、物語の音楽的要素を支える役割が大きく、カルメンの激しさとは対照的な落ち着いた存在感を示しています。以後、ルーセルはフランス映画界で活躍を続け、ゴダール作品にも再登場しています。
他の女性キャストとして、クリスティーヌ・ビニエが「助けてと叫ぶ太った女」役で短く出演していますが、主な活躍はデートメルスとルーセルに集中しています。これらの女優たちは、ゴダールの実験的な演出のもとで、伝統的なカルメン像を現代的に再解釈する活躍を見せました。全体として、本作は女優たちの身体性と感情表現を重視した作品であり、彼女たちのパフォーマンスが映画の革新的な魅力を高めています。
女優の衣装・化粧・髪型
マルーシュカ・デートメルスのカルメン役では、衣装がシンプルで現代的なものが多く、銀行強盗シーンではカジュアルな服を着用していますが、物語の進行とともにヌードシーンが増え、衣装が最小限になるのが特徴です。これにより、キャラクターの自由奔放さと官能性を強調しています。化粧はナチュラルメイクが基調で、目元を軽く強調したものが多く、唇は自然な色合いを保ち、全体的に洗練された印象を与えています。髪型はロングヘアーを自然に下ろしたスタイルが主流で、時には軽くウェーブがかかり、野性的な魅力を演出しています。この髪型は、カルメンの神秘性と日常性を融合させたものです。
ミリアム・ルーセルのクレール役の衣装は、弦楽四重奏団のメンバーらしい上品なブラウスやスカートが中心で、落ち着いた色調のものが使用されています。化粧は控えめで、ファンデーションを薄く塗り、眉とまつ毛を自然に整えたスタイルです。髪型はミディアムレングスのストレートヘアーが多く、演奏シーンで後ろに束ねることもあり、知的なイメージを強めています。これにより、カルメンの激情とは対比的な役割を視覚的に表現しています。
他の女性キャストの衣装・化粧・髪型については詳細が少ないですが、全体としてゴダール監督のスタイルにより、リアリズムを重視した自然なものが採用されています。衣装は日常着が基調で、化粧は最小限、髪型はキャラクターの個性を反映したシンプルなものが目立ちます。これらの要素は、映画のテーマである現実とフィクションの境界を曖昧にするために意図的に控えめに設計されています。
あらすじ
映画は、カルメンという若い美しい女性が、映画を撮るための資金を伯父に依頼するところから始まります。カルメン(マルーシュカ・デートメルス)は声優で自己紹介をし、市街地と海のショットを背景に自分の名前を否定します。一方、弦楽四重奏団がベートーヴェンの後期四重奏曲をリハーサルしています。風変わりな伯父ジャン(ジャン=リュック・ゴダール)は精神病院に住み、カルメンに海辺のアパートを貸します。
カルメンと仲間たちは銀行を強盗します。この混乱の中で、彼女は無能な警備員ジョゼフ(ジャック・ボナフェ)と恋に落ちます。四重奏団のリハーサルが強盗シーンと交錯し、団員のクレール(ミリアム・ルーセル)がジョゼフの潜在的な恋人として登場します。彼らはアパートに逃げ込み、カルメンは幼少期の近親相姦を思い浮かべます。彼女は「カルメン・ジョーンズ」を引用し、「私があなたを愛したら、それがあなたの終わりよ」と警告します。
ジョゼフは逮捕され裁判を受けますが、カルメンはギャングのリーダー、フレッド(ヒッポリート・ジラルド)と逃げます。フラッシュバックで、強盗は製造業者かその娘の誘拐資金だったことが明らかになります。偽の映画撮影を装い、伯父が監督します。ジョゼフはクレールの支援で無罪となり、フレッドは伯父を説得してギャングの映画を監督させます。
ジョゼフはホテルでカルメンと再会しますが、疎外され、彼女はホテルの従業員をからかいます。彼は強引に性的関係を迫ります。誘拐当日のホテルレストランで、伯父がビデオで監督し、四重奏団が演奏する中、警察が介入し大混乱となります。銃声が響き、カルメンが倒れ、死亡したと思われます。ジョゼフは逮捕されます。最後に、カルメンはぼんやりと従業員に、無垢な者と有罪者の状態について尋ね、「夜明け」と呼ばれます。
解説
映画『カルメンという名の女』は、プロスペル・メリメの短編小説『カルメン』を原作とし、ジョルジュ・ビゼのオペラ『カルメン』を現代的に再解釈した作品です。しかし、ゴダール監督はビゼの楽曲を使用せず、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を多用することで、伝統的なカルメン像を崩しています。これにより、音楽と映像の関係を実験的に探求し、映画の芸術性を高めています。原題『Prénom Carmen』は「名まえ カルメン」を意味し、カルメンを「Carmen X」と表記することで、未知数や自由を象徴します。これは、マルコムXのように姓を捨てたイメージを連想させ、旧来の束縛から解き放つゴダールの意図を示しています。
脚本はアンヌ=マリー・ミエヴィルが単独で執筆し、ゴダールのパートナーとして初めての試みでした。当初のカルメン役はイザベル・アジャーニでしたが、演出上の意見相違で降板し、マルーシュカ・デートメルスが起用されました。この交代は、映画の制作過程自体を物語に反映させるゴダールのスタイルを表しています。冒頭の精神病院シーンでは、患者が「フランス人の観客はいるか」と叫ぶ台詞があり、観客を直接巻き込むメタ的な要素が特徴です。
音楽面では、ベートーヴェンのほか、トム・ウェイツの挿入歌『Ruby’s Arm』が使用され、ジャズ的な雰囲気を加えています。映像と音響の融合が評価され、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞と技術賞を受賞しました。物語は現実とフィクションの境界を曖昧にし、銀行強盗や誘拐を映画撮影のメタファーとして描きます。これにより、愛、犯罪、芸術のテーマを多層的に探求しています。
批評家からは、ゴダールの1980年代の作風として、官能的な描写と哲学的な深みが指摘されています。特に、ヌードシーンや性的コンテンツが目立ち、カルメンのキャラクターを通じて女性の独立と破壊性を描いています。一方で、物語の断片的構造が難解とされることもあります。本作は、フランスで約39万人の観客を動員し、国際的に評価されました。ゴダールのキャリアにおいて、ヌーヴェルヴァーグの延長線上で実験を続ける重要な位置づけです。
さらに、映画は都市と海の風景を繰り返し挿入し、自然と人工の対比を強調します。四重奏団のシーンは、物語の緊張を緩和する役割を果たし、ベートーヴェンの音楽が感情の深層を表現します。このような構成は、ゴダールの音響実験の集大成と言えます。全体として、本作は伝統的な叙事詩を解体し、現代の混沌を映す鏡として機能しています。視聴者は、カルメンの運命を通じて、愛の破壊性と芸術の可能性を考える機会を得ます。
キャスト
- マルーシュカ・デートメルス:カルメン X
- ジャック・ボナフェ:ジョゼフ
- ミリアム・ルーセル:クレール
- ジャン=リュック・ゴダール:ジャン伯父さん
- ヒッポリート・ジラルド:フレッド
- クリストフ・オダン:シェフ
- ジャック・ヴィルレ:ジャムを食べる男
- クリスティーヌ・ビニエ:助けてと叫ぶ太った女
- ジャン=ピエール・モッキー:精神病院の患者
スタッフ
- 監督:ジャン=リュック・ゴダール
- 脚本:アンヌ=マリー・ミエヴィル
- 製作:アラン・サルド
- 撮影:ラウール・クタール、ジャン=ベルナール・ムヌー
- 編集:ファビエンヌ・アルヴァレス=ジロ、スザンヌ・ラング=ヴィラール
- 音楽:ベートーヴェン、トム・ウェイツ
- 製作会社:サラ・フィルム、JLGフィルム、フィルムA2
- 配給:Parafrance Films




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