『チャドルと生きる』は2000年にイランで製作されたドラマ映画。監督のジャファル・パナヒが、イランの厳しいイスラム社会で生き抜く女性たちの姿を描いています。複数の女性の連鎖する物語を通じて、女性の自由の欠如や社会的な抑圧を鋭く批判します。チャドルをまといながらも、希望を求めて行動する女性たちの苦難が、テヘランの街を舞台に展開します。
基本情報
- 邦題:チャドルと生きる
- 原題:DAYEREH
- 英題:The Circle
- 公開年:2000年
- 製作国・地域:イラン
- 上映時間:90分
- ジャンル:ドラマ
女優の活躍
映画『チャドルと生きる』では、主にアマチュアの女優たちが起用されています。彼女たちの演技は、自然で力強く、監督のジャファル・パナヒのスタイルである長回しを活かしたリアリズムを体現しています。たとえば、ナルゲス役のナルゲス・マミザデーは、故郷への憧れを抱く若い女性を純粋に演じ、観客に希望と絶望の狭間を伝えています。
アレズー役のマルヤム・パルウィン・アルマニは、友人を助けながらも自身の運命に葛藤する姿を、微妙な表情の変化で表現します。彼女の演技は、女性同士の絆を強調するシーンで特に光ります。パリ役のフレシテ・ザドル・オラファイは、妊娠しながら逃亡する女性を熱演し、家族からの拒絶や社会の冷徹さを体当たりで描いています。この役は、プロの女優として唯一の経験者ですが、アマチュアたちと調和した演技が評価されています。
売春婦役のモジュガン・ファラマジは、逮捕されるシーンで絶望的な叫びを上げ、観客に強い印象を残します。彼女の活躍は、女性の社会的スティグマを象徴的に示しています。看護婦役のエルハム・サボクタニは、過去を隠しながら友人を助けられない葛藤を、静かな眼差しで演じています。母親役のファテメ・ナギャビは、娘の運命を嘆くシーンで、伝統的な家族の圧力を体現します。
全体として、女優たちは監督のドキュメンタリー風の手法に適応し、テヘランの街中で撮影されたリアルな演技で、女性の日常的な苦しみを伝えています。彼女たちの活躍は、映画のテーマである女性の連帯と孤立を強調し、国際映画祭で高く評価されました。ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞の原動力となっています。
女優の衣装・化粧・髪型
『チャドルと生きる』の女優たちは、イランのイスラム社会を反映した衣装を着用しています。主に黒いチャドルと呼ばれるヴェールを身にまとい、体全体を覆うスタイルです。これは、女性の外出時の義務的な服装を表しており、抑圧の象徴として機能します。チャドルはシンプルで、地味な色合いが中心です。
化粧については、非常に控えめです。多くのシーンで、女優たちはほとんどメイクを施さず、自然な顔立ちで登場します。これは、厳格な社会規範を反映し、女性の美しさを内面的に描く監督の意図です。わずかに口紅やアイラインを使う場合もありますが、過度な装飾は避けられています。
髪型に関しては、チャドルで頭部を覆うため、髪はほとんど見えません。ヴェールの下に髪を束ね、露出を最小限に抑えています。これにより、女性の個性が外見ではなく行動や表情で表現されます。逃亡中の女性たちは、ヴェールを調整しながら移動し、髪がわずかに覗くシーンで緊張感を高めています。
全体のスタイリングは、現実のイラン女性を忠実に再現し、ファッションではなく生存のための服装として描かれています。これにより、女優たちの外見は物語のリアリティを支えています。
あらすじ
映画『チャドルと生きる』は、テヘランの産院から始まります。ソルマズ・ゴラミという女性が出産し、女の子が生まれたことを知った祖母が落胆します。男の子を期待していた家族のプレッシャーが、女性の運命を象徴します。
次に、刑務所から仮釈放された3人の若い女性、アレズー、ナルゲス、そしてもう一人が登場します。彼女たちは逃亡資金を集めようとしますが、一人が逮捕され、残りの二人はナルゲスの故郷を目指します。アレズーはナルゲスのためにバスチケットを手配しますが、自分は同行せず、理想郷を想像するだけで満足します。ナルゲスはバス停で警察の捜索に遭い、逃げて別の脱獄者パリを探します。
パリは妊娠中で、処刑された夫の子を宿しています。実家に帰るも父親に拒絶され、兄弟に追われます。彼女は病院で元囚人の看護婦エルハムに助けを求めますが、エルハムは自分の過去を隠すため拒否します。パリは夜の街をさまよい、IDなしでホテルに入れません。そこで、娘を捨てようとする母親に出会います。母親は逮捕を逃れますが、パリは売春婦と間違われ逮捕されます。
最後に、売春婦が逮捕され、刑務所の独房に収容されます。そこで、冒頭のソルマズ・ゴラミの名前が呼ばれ、物語が円環を成します。女性たちの運命が連鎖し、社会の閉塞感を描きます。
解説
この映画『チャドルと生きる』は、イランの女性が直面する厳しい現実を、複数のエピソードを通じて描いています。監督のジャファル・パナヒは、ドキュメンタリーのような手法で、テヘランの街を舞台に女性たちの日常を追います。各女性の物語は断片的ですが、連鎖することで全体像を形成します。これにより、女性の自由の欠如が強調されます。
テーマは、女性の抑圧と連帯です。チャドルを着用し、男性なしでは移動できない社会規範が、女性を孤立させます。妊娠、逮捕、家族の拒絶といった出来事が、女性の運命を象徴します。監督は、これを批判的に描き、イラン政府から上映禁止を受けました。それでも、国際的に高評価を得ました。
撮影技法は、手持ちカメラの長回しが特徴です。これにより、女性たちの緊張感がリアルに伝わります。音響も最小限で、街の喧騒が女性の内面的な苦しみを際立たせます。女性たちのタバコを吸う行為は、自由の象徴として繰り返されますが、常に中断されます。
この作品は、女性の視点から社会を問い直します。出生から死まで、女性が差別にさらされる「円環」を示し、観客に変革の必要性を訴えます。低予算で製作されたにもかかわらず、深いメッセージが込められています。
キャスト
- ナルゲス・マミザデー:ナルゲス
- マルヤム・パルウィン・アルマニ:アレズー
- フレシテ・ザドル・オラファイ:パリ
- ファテメ・ナギャビ:母親
- モジュガン・ファラマジ:売春婦
- エルハム・サボクタニ:看護婦
- モニル・アラブ:チケット販売員
- アッバス・アリザデー:パリの父親
- ネガル・ガディアニ
- リアム・キンバー:サヒジ
- アタオラ・モガダス:ハジ
- カディジェ・モラディ
- マルヤム・シャイエガン:パルベネ
- マエデ・タフマセビ:マエデ
スタッフ
- 監督:ジャファル・パナヒ
- 製作:ジャファル・パナヒ
- 脚本:カンブジア・パルトビ
- 撮影:バラム・バダクシャニ
- 美術:イラジュ・ラミンファー
- 編集:ジャファル・パナヒ
- 音楽:アリ・ザフマトケシュ
- 配給:ギャガ



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