1964年に公開された日本映画「悶え」は、結婚初夜に夫の不能を告白された新妻の苦悩を描いた異色メロドラマ。原作は平林たい子の「愛と悲しみの時」で、監督は井上梅次。若尾文子が主演し、満たされない日々の中で若い男性に惹かれつつ、夫婦の絆を模索する姿が印象的です。上映時間は92分で、当時の風俗を反映した作品です。
基本情報
- 原題:悶え
- 公開年:1964年
- 製作国・地域:日本
- 上映時間:92分
女優の活躍
本作の主演女優である若尾文子は、上田千江子役を演じています。彼女は新婚の妻として、夫の不能という衝撃的な告白を受け、深い苦悩を抱えながらも夫婦生活を維持しようと努力する女性を熱演しています。若尾文子は、1951年に大映でデビューして以来、数多くの作品で多彩な役柄をこなしてきましたが、本作では特に女性の内面的な葛藤を繊細に表現しています。
物語の冒頭から、千江子は結婚式の祝福を受けながらも、初夜の出来事にショックを受けます。若尾文子はこのシーンで、喜びから絶望への移行を自然に演じ分け、観客を引き込みます。夫の回復を信じて待つ日々の中で、彼女は友人を通じて出会った若い男性、石川定夫に心惹かれていきます。ここでの活躍は、千江子の感情の揺らぎを微妙な表情や仕草で表しており、若尾文子の演技力の高さが際立っています。
中盤では、箱根への旅行シーンで石川の誘惑に直面します。若尾文子は、誘惑に負けそうになりながらも、夫への忠誠心から逃れる機敏さを示します。この部分では、彼女の身体的な動きと心理描写が融合し、緊張感を生み出しています。クライマックスでは、人工受胎を決意した千江子が石川を誘うものの、夫の介入により事態が急変します。若尾文子はここで、初めての幸福を感じる瞬間を感動的に演じ、物語を締めくくっています。
若尾文子の活躍は、本作のテーマである愛と性の苦悶を体現しており、当時の観客に強い印象を与えました。彼女の美貌と演技が、作品のエロティックな要素を高めています。また、共演の江波杏子は友人みつ子役で、千江子の相談相手として支え、物語に深みを加えています。滝瑛子は神子島しづ子役で、石川の婚約者として嫉妬の対象となり、女優陣の活躍が全体を豊かにしています。藤間紫は白木須磨子役で、伯母として婚約話を進める役割を果たし、脇役ながら存在感を発揮しています。これらの女優たちは、1960年代の日本映画界で活躍したスターたちで、本作でもそれぞれの魅力を存分に発揮しています。
若尾文子は、本作以外にも同年の「卍」や「獣の戯れ」などで活躍し、大映の看板女優として知られています。彼女の演技は、女性の複雑な心理をリアルに描く点で評価が高く、本作はその代表例の一つです。全体として、女優たちの活躍が、物語の感情的な深さを支えています。
女優の衣装・化粧・髪型
本作では、女優たちの衣装・化粧・髪型が、1960年代の日本社会を反映した洗練されたスタイルで描かれています。主演の若尾文子は、新妻千江子として、結婚式シーンでは純白のウェディングドレスを着用しています。このドレスは、当時の上流階級を思わせるエレガントなデザインで、肩を露出したスタイルが彼女の美しさを強調しています。化粧はナチュラルで、目元を優しく引き立てるメイクが施され、髪型はアップスタイルにまとめられ、清楚さを演出しています。
日常シーンでは、若尾文子は鮮やかなワンピースやブラウスを着用し、鮮やかな色使いが目立ちます。例えば、箱根旅行の場面では、軽やかなスカート姿で登場し、動きやすい衣装が彼女の機敏さを表しています。化粧は薄化粧が基調で、唇に赤いリップを施し、女性らしい魅力を加えています。髪型はミディアムヘアを緩く巻いたスタイルが多く、時代を感じさせるボリュームのあるセットです。
江波杏子演じるみつ子は、友人役としてモダンな衣装を纏っています。ブラウスとスカートの組み合わせが主流で、化粧は明るいチークを入れ、髪型はショートカットに近いボブスタイルです。これにより、活発なキャラクターを視覚的に表現しています。滝瑛子はしづ子役で、上品な着物やドレスを着用し、化粧は控えめながら目元を強調したメイク、髪型はストレートのロングヘアで、落ち着いた印象を与えています。
藤間紫の須磨子は、伯母役として伝統的な和服を主に着用しています。化粧はマットな仕上がりで、髪型はまとめ髪が中心です。これらの要素は、当時の風俗を反映し、女優たちの活躍をより現実的に見せています。全体的に、衣装はカラフルで、化粧は自然体、髪型は時代を象徴するものが多く、作品の雰囲気を高めています。
あらすじ
新婚初夜、千江子は真新しい褥の中で、今日の一日を振り返ります。多勢の参列者の祝福を受け、五井物産調査課長の上田庄一郎と結ばれたのです。しかし、箱根での思い出の一夜で、庄一郎は千江子に触れようとしません。問い詰めると、交通事故による不能を告白します。ショックを受けた千江子ですが、夫の回復を信じて待つ決心をします。
翌日、ホテルで友人のみつ子に出会い、夫の部下である石川定夫を紹介されます。石川は千江子の美貌に魅了されます。結婚一ヶ月が経ちますが、庄一郎の努力も空しく、二人は満たされない日々に苦悶します。そんな中、千江子はみつ子と石川と箱根旅行へ出かけます。石川が千江子の身体を求めますが、彼女は機敏に逃れ、夫のもとへ帰ります。
庄一郎は二人の心を落ち着かせるため、人工受胎を提案します。一方、石川は伯母の白木須磨子の世話で、神子島しづ子との婚約話が進みます。それを知った千江子は嫉妬を感じます。人工受胎を決意した千江子は、誰の子供でもなく石川の子供を産みたいと思い、石川をホテルに誘います。しかし、気づいた庄一郎が部屋に入り、石川を殴り倒します。そして千江子をベッドに運び、初めて荒々しい感情が燃え上がります。千江子は夫の胸に顔を埋め、幸福の正体をつかみます。
解説
本作「悶え」は、平林たい子の原作「愛と悲しみの時」を基に、舟橋和郎が脚色し、井上梅次が監督した風俗映画です。当時の日本社会でタブーとされた夫婦の性生活の問題を大胆に扱い、異色メロドラマとして注目を集めました。1964年の公開当時、結婚と性のテーマはセンセーショナルで、観客に衝撃を与えました。
物語は新妻の視点から展開し、愛の渇きと性の虚しさを描いています。夫の不能という設定は、交通事故という現実的な要因を加えることで、共感を呼びます。人工受胎の提案は、当時の医療技術を反映し、社会的な議論を喚起する要素です。箱根を舞台にした旅行シーンは、風景の美しさと対比して内面的苦悶を強調しています。
井上梅次の演出は、心理描写に重点を置き、俳優たちの表情を活かしています。特に、クライマックスの夫の感情爆発は、物語の転換点として効果的です。本作は大映の作品らしく、カラー映像で鮮やかに描かれ、風俗ものとしての魅力があります。テーマの深さから、現代でも女性の性や夫婦関係を考える上で参考になる作品です。
また、共演者たちの演技が物語を支えています。若尾文子の千江子は、純粋さと葛藤を体現し、高橋昌也の庄一郎は内面的な苦しみを表現しています。川津祐介の石川は、プレイボーイらしい魅力で三角関係を複雑にします。このように、本作は人間ドラマとして完成度が高く、1960年代の日本映画の代表作の一つです。
キャスト
- 上田千江子:若尾文子
- 上田庄一郎:高橋昌也
- 石川定夫:川津祐介
- 沢木みつ子:江波杏子
- 神子島しづ子:滝瑛子
- 白木須磨子:藤間紫
- 寺田:多々良純
- 山岡:村上不二夫
- 進藤:中田勉
- 日高:豪健司
- 星野:北原隆
- 松尾:竹村洋介
- リエ:紺野ユカ
- マリ:大西恭子
- 和子:田中三津子
- 沼田夫人:響令子
- 宝井夫人:真城千都世
- やす江:平井岐代子
- 弓子:十和田翠
- 宇野朋子:赤沢未知子
- 男:中条静夫
- バーの女:松浦いづみ
スタッフ
- 監督:井上梅次
- 脚色:舟橋和郎
- 原作:平林たい子
- 企画:藤井浩明
- 撮影:渡辺徹
- 美術:後藤岱二郎
- 音楽:三木稔
- 録音:須田武雄
- 照明:安田繁
- 編集:関口章治
- スチル:薫森良民
- 製作:永田雅一


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