1967年に公開された日本映画「砂糖菓子が壊れるとき」は、今井正監督による作品です。曽野綾子の同名小説を原作とし、主演の若尾文子が売れない女優からスターへと上り詰めるも、愛憎の渦中で心身を病む姿を描きます。
華やかな芸能界の裏側と女性の孤独をテーマに、96分のドラマが展開されます。ヌードシーンやスキャンダルが話題となりました。
基本情報
- 邦題:砂糖菓子が壊れるとき
- 公開年:1967年
- 製作国・地域:日本
- 上映時間:96分
女優の活躍
映画『砂糖菓子が壊れるとき』では、主演の若尾文子が千坂京子という肉体派女優を演じています。若尾文子は、当時大映の看板女優として知られ、数多くの映画で活躍していました。この作品では、売れない新人女優からヌード撮影をきっかけに人気スターへと変貌する役柄を熱演します。彼女の演技は、純粋な心を持ちながらも芸能界の厳しさに翻弄される女性の内面的な葛藤を細やかに表現しています。
若尾文子は、京子の成長過程を体現するために、体当たり的な演技に挑みました。特に、ヌードカレンダーの撮影シーンでは、彼女の大胆さが注目を集め、映画の宣伝にも寄与しました。スターとなった後の京子は、華やかなパーティーや取材シーンで存在感を発揮し、若尾文子の美貌と演技力が光ります。彼女は、京子の孤独や絶望を、表情や仕草で繊細に描き出し、観客に強い印象を残します。
若尾文子の活躍は、この映画に限らず、1960年代の大映映画で顕著です。彼女は「妻は告白する」や「清作の妻」などの作品で、複雑な女性像を演じ、批評家からも高く評価されました。本作では、京子の精神的な崩壊をクライマックスで演じ、感情の爆発を力強く表現しています。この役を通じて、若尾文子は女優としての幅を広げ、以降のキャリアに影響を与えました。
また、共演者との絡みでも若尾文子の活躍が目立ちます。例えば、津川雅彦演じる芸能記者とのシーンでは、京子の野心と脆弱さを巧みに演じ分け、ドラマを深めています。田村高廣との恋愛シーンでは、京子の純粋さを強調し、観客の共感を誘います。若尾文子の演技は、全体を通じて映画の中心となり、物語の推進力となっています。
この映画での若尾文子の活躍は、彼女のキャリアの転機とも言えます。ヌードを披露したことで話題を呼び、肉体派女優としてのイメージを確立しました。以降、彼女は多様な役柄に挑戦し、テレビドラマや舞台でも活躍を続けました。本作は、若尾文子の女優としての成熟を示す重要な作品です。
女優の衣装・化粧・髪型
若尾文子演じる千坂京子の衣装は、映画の進行に合わせて変化し、彼女の成長を象徴しています。序盤の売れない女優時代は、シンプルで地味なワンピースやスカートを着用し、日常的な雰囲気を醸し出します。これらの衣装は、京子の貧しさと純粋さを表しており、淡い色調が用いられています。
ヌード撮影をきっかけにスターになると、衣装は一変して華やかになります。パーティーシーンでは、ゴージャスなイブニングドレスを纏い、宝石をアクセントにしています。これらのドレスは、赤や金色を基調とし、大女優らしい派手さを演出します。若尾文子のスタイルが映えるデザインで、今見ても素敵なものが多いです。
化粧については、京子の変貌を強調するために工夫されています。初期はナチュラルメイクで、薄い口紅と軽いアイメイクが中心です。スターになってからは、濃い目のリップとアイラインで、妖艶さを加えています。特に、取材シーンでは、赤い口紅が京子の自信を象徴し、化粧の変化が内面的な成長を示します。
髪型も物語の鍵となります。序盤はストレートのロングヘアで、無垢さを表現します。人気が出るにつれ、巻き髪やアップスタイルに変わり、洗練されたイメージになります。クライマックスの崩壊シーンでは、乱れた髪型が京子の精神的混乱を視覚的に描き出します。若尾文子の髪は、黒く艶やかで、どのスタイルも彼女の美しさを引き立てます。
全体として、衣装・化粧・髪型は、京子の人生のステージを反映し、映画のリアリティを高めています。これらは、1960年代のファッションを反映しつつ、若尾文子の魅力を最大限に活かしたものです。共演者の衣装も、京子の華やかさを引き立てるよう配慮されています。
あらすじ
千坂京子は、売れない新人女優として苦しい生活を送っています。親の入院費を稼ぐため、ヌードカレンダーの撮影に応じます。この大胆な行動がきっかけで、彼女は映画界の注目を集めます。映画「櫛」への出演が決まり、京子は一躍人気スターとなります。しかし、華やかな生活の裏側で、彼女は心の空虚を感じ始めます。
京子は、様々な男性と関係を持ちます。まず、芸能記者の奥村豊と出会い、恋に落ちますが、彼の裏切りを知り失望します。次に、大学教授の天木と親しくなりますが、肉体目的の関係に気づき、傷つきます。ホームラン王の土岐との結婚は、表面的なもので、精神的なつながりがありません。
そんな中、京子は八ヶ岳で作家の五来克己と出会います。五来は京子を支え、真の愛情を示しますが、彼女の心は既に疲弊しています。ナポリ国際映画祭で主演女優賞を受賞した直後、京子は電話中に突然死を迎えます。彼女の死は、芸能界の孤独とプレッシャーを象徴します。
このあらすじは、京子の栄光と転落を描き、純粋な女性が社会の渦に飲み込まれる過程を示します。ヌードシーンやスキャンダルが、物語の転機となります。共演者たちの演技が、京子の人間関係を豊かに描き出します。
映画の後半では、京子の精神的な崩壊が焦点となります。彼女は、愛を求めながらも裏切りに遭い、徐々に不安定になります。五来との出会いが一時的な救いとなりますが、結局は孤独な死に至ります。この結末は、原作のテーマを忠実に再現しています。
解説
『砂糖菓子が壊れるとき』は、曽野綾子の小説を基にした人間ドラマです。監督の今井正は、社会派映画で知られ、この作品でも芸能界の暗部を描きます。主演の若尾文子は、マリリン・モンローを思わせる役柄を演じ、ヌードシーンで話題を呼びました。映画は、女性の性的搾取と精神的な苦痛をテーマにしています。
原作は、売れない女優の成功と崩壊をリアルに描きます。橋田寿賀子の脚色により、ドラマチックな要素が加わり、観客を引き込みます。今井正の演出は、京子の内面を丁寧に追い、1960年代の日本社会を反映します。撮影の中川芳久は、美しい映像で京子の華やかさと孤独を対比させます。
この映画は、当時の大映のスタイルを体現しています。スターシステムを活用し、若尾文子の魅力を前面に押し出します。共演者の津川雅彦や田村高廣は、京子の人間関係を深め、物語の厚みを増します。音楽の渡辺岳夫は、情感豊かなスコアで感情を強調します。
解説として、映画は女性の自立と犠牲を問いかけます。京子の死は、芸能界のプレッシャーを象徴し、社会的なメッセージを含みます。公開当時、ヌードシーンがセンセーショナルに受け止められましたが、今見ると女性の心理描写が秀逸です。この作品は、今井正の復帰作として重要です。
さらに、映画の美術や照明は、京子の生活環境をリアルに再現します。下河原友雄の美術は、華やかなセットでコントラストを付けます。全体として、社会派とメロドラマの融合が魅力です。以降の日本映画に影響を与え、女性像の描き方を変えました。
キャスト
- 千坂京子:若尾文子
- 酒井春江:原知佐子
- 奥村豊:津川雅彦
- 土岐:藤巻潤
- 五来克己:田村高廣
- 工藤:志村喬
- 天木教授:船越英二
- 吾妻:根上淳
- 五来夫人:山岡久乃
- 吾妻夫人:田中三津子
- 石黒監督:成瀬昌彦
- 小川プロデューサー:花布辰男
- ホテルのボーイ:篠田三郎
スタッフ
- 監督:今井正
- 製作:永田雅一
- 企画:藤井浩明、本田延三郎
- 脚色:橋田寿賀子
- 原作:曽野綾子
- 撮影:中川芳久
- 美術:下河原友雄
- 音楽:渡辺岳夫
- 録音:奥村幸雄
- 照明:柴田恒吉
- 編集:鈴木東陽
- スチル:柳沢英雄


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