2005年に公開された韓国映画『赤い靴』（原題：분홍신）は、監督キム・ヨンギュンによるサスペンスホラー作品。ハンス・クリスチャン・アンデルセンが1845年に発表した童話「赤い靴」が原作。物語は、地下鉄で奇妙な赤い靴を見つけ持ち帰ったシングルマザー、ソンジェ（キム・ヘス）が、その靴にまつわる怪奇現象に巻き込まれる姿を描きます。娘テス（パク・ヨナ）や友人ミヒ（コ・スヒ）も靴の呪いに影響され、不可解な死や精神の崩壊が進行。過去の事件を調査する中で、靴に隠された恐ろしい秘密が明らかにされます。103分の上映時間で、心理的な恐怖とビジュアル効果を駆使した演出が特徴。韓国のホラー映画ブームを象徴する作品として、国内外で注目を集めました。
赤い靴
- 邦題：赤い靴
- 原題：분홍신
- 英題：THE RED SHOES
- 公開年：2005年
- 上映時間：103分
- 製作国：韓国
- ジャンル：ホラー
- 配給会社：ギャガ
予告編はこちら。
見どころ
怨念のこもった赤い靴に翻弄され、関わった人たちが次々と死んでいきました。正気を失っていく過程と、その死に方が衝撃的。理不尽かつ予想外の展開がより恐ろしさをかき立てます。
あらすじ
地下鉄で赤い靴を見つけたソンジェ。なぜかその靴に魅入られてしまい、こっそり持ち帰ります。娘のテスも靴に夢中になり、やがて親子で奪いあうように…。ある日、ソンジェの後輩ミヒが黙って赤い靴を持ち出し、悲惨な死を遂げたことを知るのですが…。
ファム・ファタル
『赤い靴』では、主要な女優たちがその演技力と存在感で物語を牽引しました。以下に各女優の活躍を詳しくご紹介します。
キム・ヘス（ソンジェ役）
キム・ヘスは、本作でシングルマザー兼デザイナー見習いのソンジェを演じ、圧倒的な演技力を発揮しました。彼女は、日常的な母親としての優しさから、赤い靴の呪いに怯え狂気に近づく心理的変化を見事に表現。感情の起伏を細やかに演じ分け、特に恐怖や絶望に満ちた場面では観客の心を掴みました。キム・ヘスはこれ以前に『美しい季節』（2004年）で高い評価を受けており、『赤い靴』での演技も韓国映画賞で注目され、彼女のキャリアにおける重要な転換点となりました。彼女の自然体かつ深みのある演技は、ホラーというジャンルを超えて共感を呼び、作品のリアリティを高めました。
パク・ヨナ（テス役）
幼い娘テスを演じたパク・ヨナは、赤い靴に魅了されていく子供の純粋さと恐怖心を巧みに表現しました。彼女の無垢な表情と、呪いの影響で徐々に変化する不気味な雰囲気のコントラストが、物語に緊張感をもたらしました。子役ながら感情のコントロールが優れており、母親との関係性や靴への執着を体現するシーンで存在感を示しました。パク・ヨナは本作で注目を集め、その後『猟奇的な彼女』（2001年）の子役経験を活かし、韓国映画界で着実にキャリアを積んでいます。彼女の演技は、ホラー映画における子供の恐怖を強調する重要な要素となりました。
コ・スヒ（ミヒ役）
ソンジェの友人ミヒ役を演じたコ・スヒは、短い登場時間ながら強烈な印象を残しました。赤い靴を持ち去ったことで悲惨な最期を迎えるキャラクターを、好奇心旺盛 yet 無防備な女性として描き、観客に衝撃を与えました。コ・スヒは表情や動作で恐怖と混乱を効果的に表現し、呪いの進行を視覚的に示す役割を果たしました。彼女はこれまで『フォレスト』（2002年）などで脇役として経験を積んでおり、本作での演技は彼女の多才さを証明するものでした。コ・スヒの演技は、物語のサスペンスを加速させるスパイスとなりました。
これら3人の女優は、それぞれ異なる感情や立場を演じ分け、互いに補完し合うことで、『赤い靴』の不気味な世界観を構築しました。彼女たちの演技がなければ、単なるホラー映画に留まらず、心理的ドラマとしての深みも失われていたでしょう。
女優の衣装・化粧・髪型
『赤い靴』では、女優たちの衣装、メイクアップ、ヘアスタイルが物語の雰囲気を強化し、キャラクターの心理状態を視覚的に表現する重要な役割を果たしました。以下に詳細を述べます。
これらの衣装、メイクアップ、ヘアスタイルは、ホラー映画特有のビジュアル効果を最大限に活かし、キャラクターの心理的変化や物語の進行を補完する役割を果たしました。美術監督とメイクチームの緻密な設計が、観客に強い印象を与えています。
キム・ヘス
キム・ヘスが演じるソンジェは、シングルマザーとして現実的な生活を反映したカジュアルな衣装が中心です。ジーンズやシンプルなトップスにコートを合わせたスタイルが基本で、経済的困窮と日常性を示唆します。物語が進むにつれ、赤い靴の影響で精神が不安定になると、服装が乱れ、メイクが薄れていく演出が効果的です。メイクアップでは、初期はナチュラルな肌色と軽いアイメイクが特徴ですが、後半は目の下のクマや青白い肌で恐怖と疲弊を表現。ヘアスタイルは、ゆるいウェーブのロングヘアから、混乱の中で乱れた状態へと変化し、彼女の内面的崩壊を象徴しました。
パク・ヨナ
テス役のパク・ヨナは、子供らしい可愛らしさと不気味さを両立させるデザインが施されました。衣装は、ピンクや淡い色のワンピースが基本で、幼さや無垢さを強調。しかし、赤い靴を履くシーンでは、そのコントラストが異様な雰囲気を醸し出します。メイクアップはほぼ自然に近いものの、靴の影響で目が虚ろになったり、肌に不自然な影が加わることで恐怖が視覚化されました。ヘアスタイルは、緩やかなポニーテールやおさげが中心で、呪いに取り憑かれるにつれ髪が乱れ、顔に張り付く演出が不気味さを増幅させました。
コ・スヒ
ミヒ役のコ・スヒは、若い女性らしいトレンディな衣装で登場します。スカートやブラウスにアクセサリーを合わせたファッションが特徴で、好奇心旺盛な性格を反映。メイクアップは、明るい口紅とアイシャドウで活発さを演出しますが、赤い靴に取り憑かれた後は、血がにじむような特殊メイクや青白い顔色が施され、死の恐怖を強調。ヘアスタイルは、ストレートのロングヘアが基本で、死にゆく場面では血や泥で汚れ、混乱と絶望を視覚的に表現しました。
感想
赤い靴が女性の不幸に関わるアイテムだと予想できましたが、現状のホラーや過去の探索に怖さが伝わらず。靴とホラーが靴と恐怖があまり結びつかない気がしました。赤い靴に憧れて、この靴を履けば強制的または自然的にどこかへ足が向かうような設定の方が、靴のイメージを具体的に出せたかなと思います。
現代的な場面での靴の色は紫がかったピンクですが、当時日本が朝鮮を占領していたと推測される場面で靴の色は赤みがかったピンク。同色にさせた方がインパクトは強かったはず。
解説
『赤い靴』は、2005年の韓国映画界においてホラージャンルの一つの到達点を示す作品として評価されます。その背景とテーマ、映画的特徴について以下に解説します。
背景と文化的文脈
2000年代初頭、韓国映画は『リング』（1998年）の日本映画成功に影響を受け、独自のホラー映画ブームを巻き起こしました。『オールド・ボーイ』（2003年）や『怪談』（2003年）に代表されるように、心理的恐怖や文化的なモチーフを活用した作品が人気を博しました。『赤い靴』もこの流れに乗り、伝統的な呪いの概念と現代的な都市生活を融合させています。赤い靴は、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話『赤い靴』を連想させますが、原作の道徳的教訓とは異なり、韓国独自の超自然的な恐怖を描いた点が特徴です。製作は低予算ながら、視覚効果と演技で高い評価を得、国際的な映画祭でも上映されました。
テーマとメッセージ
本作の中心テーマは、欲望とその代償です。ソンジェが赤い靴に惹かれるのは、経済的困窮からの脱却や自己実現への願望が背景にあります。しかし、その欲望が呪いを引き寄せ、家族や自身を破滅に導きます。テスやミヒも同様に、靴への執着が死へと繋がる構図は、人間の本性や物質主義への警鐘とも解釈できます。また、シングルマザーとしてのソンジェの葛藤は、韓国社会における女性の役割や家族観を反映しており、社会的なメッセージを含んでいます。監督のキム・ヨンギュンは、インタビューで「日常の中にある恐怖を強調したかった」と語っており、超自然的な要素を通じて現実の不安を投影しています。
映画的特徴と演出
『赤い靴』の演出は、心理的恐怖とビジュアル効果の融合が際立っています。暗い地下鉄や薄暗いアパートのセットが、不気味な雰囲気を醸し出し、赤い靴そのものが画面上で異彩を放ちます。カメラワークでは、手持ちカメラやクローズアップを多用し、観客に不安感を与える手法が効果的です。特殊メイクやCGIを控えめに使い、演技と照明で恐怖を表現する点は、低予算映画ならではの工夫です。サウンドデザインも重要で、不協和音や突然の静寂が緊張感を高めています。物語の後半では、フラッシュバックや幻覚シーンが多用され、視覚と聴覚の両面で観客を混乱させ、ポーの影響を受けた心理ホラーとしての側面も見られます。
評価と影響
批評家からは、演技と演出のバランスが評価されつつも、ストーリーの単調さや結末の曖昧さが指摘されました。Filmarksでの平均スコアは2.8点（276件のレビュー）で、賛否両論を呼ぶ作品となりました。しかし、キム・ヘスの演技やビジュアルのインパクトは高く、ホラー映画ファンやアジア映画愛好者の間でカルト的な人気を獲得。『ダーク・ウォーター』（2005年）との類似性が議論される一方、韓国独自の感性が評価され、ホラー映画の多様性を示しました。その後、韓国映画は『新感染 ファイナル・エクスプレス』（2016年）へと進化する中で、『赤い靴』は初期の成功例として歴史に残っています。
キャスト
- スンジェ：キム・ヘス
- インチョル：キム・ソンス
- テス：パク・ヨナ
- ケイコ／テス（成長後）：カン・イェウォン
- イ・デヒョン
- イ・ヨル
- サ・ヒョンジン
- キム・ミヒ：ゴ・スヒ
スタッフ
- 監督：キム・ヨンギュン
- 脚本：キム・ヨンギュン、マ・サンリョル
- 原作：ハンス・クリスチャン・アンデルセン
結論
『赤い靴』は、韓国ホラー映画の黄金期に誕生した傑作であり、女優たちの演技、視覚的演出、社会的テーマが融合した作品です。キム・ヘス、パク・ヨナ、コ・スヒの活躍は、キャラクターに深みを加え、衣装やメイクアップが物語を視覚的に強化しました。監督の意図を反映しつつ、観客に恐怖と考察の余地を提供する本作は、現代ホラー映画の系譜においても重要な位置を占めています。
レビュー 作品の感想や女優への思い