『ダークグラス』はダリオ・アルジェントが『ドラキュラ3D』(2012年)以来となる監督・脚本を手がけた2022年のジャイロ映画。
アルジェントがフランコ・フェリーニ、カルロ・ルカレッリと共同で執筆した脚本による『ダークグラス』は、イレーニア・パストレッリが連続殺人未遂犯に襲われ、目を潰されたイタリア人エスコート役を演じます。車で逃走中、彼女は中国人の少年(アンドレア・チャン)と出会い、目が見えない彼女を助けます。アルジェントの娘、アジア・アルジェントが出演し、本作のアソシエイト・プロデューサーも兼任。イタリアとフランスの国際共同製作作品である本作は、2022年2月11日に第72回ベベルリン国際映画祭でプレミア上映されました。イタリアでは2022年2月24日に劇場公開。
ダークグラス
- 邦題:ダークグラス
- 原題:Occhiali neri/Dark Glasses/Black Glasses
- 公開年:2021年
- 製作国:イタリア、フランス
- 上映時間:85分
- ジャンル:ホラー
- 配給:ロングライド
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見どころ
- ホラーの帝王ダリオ・アルジェントが、82歳にして自身のルーツであるジャッロに回帰。
- 盲目のヒロインが殺人鬼に脅かされる“見えない恐怖”をスタイリッシュに描写。
- 犯人が隠れ家で観る映画は『マニアック』(2012年)。
あらすじ
ローマで娼婦ばかりを狙った猟奇的な連続殺人事件が発生。4人目のターゲットにされたディアナもまた殺人鬼に襲われ、車の衝突事故で両目の視力を失ってしまいます。同じ事故で両親を亡くした少年チンとディアナの間に絆が生まれ、一緒に暮らすことになりますが…。
解説
『ダークグラス』(原題:Occhiali neri、英題:Dark Glasses)は、2022年に公開されたイタリア・フランス合作のジャッロ映画で、イタリアン・ホラーの巨匠ダリオ・アルジェント監督が『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』(2012年)以来10年ぶりに手掛けた作品。本作は、アルジェントの原点回帰ともいえるジャッロのスタイルを継承しつつ、彼独特の美学と緊張感を現代に蘇らせた意欲作です。以下、物語の概要、特徴、背景、評価を解説いたします。
物語の概要
『ダークグラス』の舞台はローマ。主人公は高級エスコート嬢のディアナ(イレニア・パストレッリ)で、ある夜、連続殺人鬼に襲われ、逃走中に自動車事故を起こして失明してしまいます。この事故では中国人の親子が巻き込まれ、両親を失った10歳の少年チン(シンユー・チャン)が孤児となります。ディアナは退院後、盲導犬ネレアや歩行訓練士のリータ(アーシア・アルジェント)の助けを借りながら新しい生活を始めますが、殺人鬼の魔の手はなおも彼女を追い続けます。一方、チンも保護施設を脱走し、ディアナの元に身を寄せ、彼女と共に殺人鬼に立ち向かうことになります。物語は、視覚を失った女性と少年の絆、そして彼らが直面する恐怖を描きながら、ジャッロらしいサスペンスとバイオレンスを展開します。
作品の特徴
本作は、ダリオ・アルジェントのジャッロ映画の特徴である鮮烈な映像美、緊張感を高める音楽、そして予測不能なプロットを色濃く反映しています。まず、視覚を失った主人公ディアナの視点が物語の中心となり、視覚情報の欠如を活かした演出が試みられています。例えば、暗闇や音を強調することで、観客にディアナの不安や恐怖を共有させる工夫が見られます。ただし、一部のレビューでは、この「盲目」という要素が十分に掘り下げられていないとの指摘もあります。
音楽面では、当初ダフト・パンクが担当予定だったが彼らの解散により、アルノー・ルボチーニが作曲を担当。電子音を基調とした不穏なサウンドトラックは、アルジェント作品の伝統である不安を煽る雰囲気を効果的に作り出しています。また、鮮血や暴力描写は控えめながらも、アルジェントらしい過激なシーン(例えば蛇の登場や首切りシーン)が随所に挿入され、ジャッロ特有の猟奇性を保持しています。
製作背景
『ダークグラス』の脚本は2002年に構想され、ヴィットリオ・チェッキ・ゴーリがプロデューサーを務める予定でしたが、彼の会社が倒産したため長らく実現しませんでした。2021年、アルジェントの娘アーシア・アルジェントが自伝執筆中にこの脚本を再発見し、プロジェクトが再始動。アーシアは本作に出演するだけでなく、アソシエイト・プロデューサーとしても参加しています。アルジェント自身は本作を「運命に刻まれた作家としての旅路の集大成」と述べており、エドガー・アラン・ポーからの影響や自身のホラー哲学を反映した作品として位置付けています。
評価と意義
『ダークグラス』は2022年2月11日、第72回ベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映され、イタリアでは同年2月24日に劇場公開、日本では2023年4月7日に公開されました。批評家の間では賛否が分かれ、アルジェントの往年の傑作(『サスペリア』や『フェノミナ』)と比較すると物足りないとする声や、低予算ゆえの粗さが目立つとの意見もあります。例えば、*Variety*は「完全な成功とは言えないが、アルジェントらしい魅力がある」と評し、*moviefreak.com*は「ファン必見の復帰作」と称賛しました。日本のレビューサイトFilmarksでは、平均3.3点(約3,179件)とまずまずの評価を受け、アルジェントの独特な「節」を楽しむ声や、チープさが逆に魅力との感想が見られます。
本作の意義は、82歳のアルジェントが自身のルーツであるジャッロに立ち返り、現代の観客に新たな恐怖を提供しようとした点にあります。特に、ディアナとチンの関係性には人間的な温かみが描かれ、単なるホラー映画を超えた「信頼」や「絆」のテーマが感じられます。また、盲目というハンディキャップを軸に、視覚以外の感覚を活かしたサスペンスは、ジャッロの枠組みに新たな試みをもたらしています。
結論
『ダークグラス』は、ダリオ・アルジェントのキャリアの集大成として、ジャッロ映画の伝統と彼の独自の美学を現代に継承した作品です。視覚を失った主人公と少年の絆、鮮烈な暴力描写、不穏な音楽が織りなす緊張感は、アルジェントファンにとって見逃せない魅力を持っています。一方で、脚本のご都合主義や演出の粗さに対する批判もあり、評価は分かれます。それでも、ホラーの帝王が再び恐怖の扉を開いた本作は、彼の不屈の創作意欲を示す一作として、映画史にその名を刻むでしょう。
キャスト
登場人物 | 出演者 |
---|---|
ダイアナ | イレーニア・パストレッリ |
リタ | アジア・アルジェント |
マシュー | アンドレア・ゲルペッリ |
アラルディ主任警部 | マリオ・ピレッロ |
バジャーニ警部 | マリア・ロザリア・ルッソ |
バルダッチ警部 | ジェンナーロ・イアッカリーノ |
チン | アンドレア・チャン |
修道女 | パオラ・サンボ |
眼科医 | イヴァン・アロヴィジオ |
子供研究所 | ジュゼッペ・コメータ |
パルディ | ジャンルカ・ジュリアレッリ |
ジェリー | グリエルモ・ファヴィッラ |
エスコート | ビクトリー・イグノト |
マリソル | グラディス・ロブレス |
ホテルポーター | マリオ・スケルボ |
フェング | ティファニー・チュウ |
(不明) | ソロモン・アンドラ |
エクリプス神父 | クリスティアーノ・シモーネ・イアンノーネ |
コンシェルジュ | ダビデ・マリア・プトルティ |
ホテルポーター | ジャンルカ・スクオット |
ドリームキラー | ファブリツィオ・エレウテリ |
エスコートカスタマー | マウリツィオ・ジリターノ |
スタッフ
担当 | 担当者 |
---|---|
衣装デザイン | ルイジ・ボナンノ |
テーラー | グイド・ボンジョルノ |
追加衣装 | アッシア・デレッラバ |
衣装助手 | ヴァネッサ・マンテラッシ |
セット衣装 | コルセッティ・エミディオ・マッティア |
メイク部門責任者 | フィロメナ・コンテ |
ヘア部門責任者 | ミレッラ・コンテ |
レビュー 作品の感想や女優への思い