『真夏の誘惑』(原題:제인의 썸머/JANE’S SUMMER)は、2020年製作の韓国映画で、ソン・ウンジュ監督による官能ドラマ。ダンサーのジェインがスランプに陥り、バンコクで出会った男性たちとの刹那的な情事を描く。ソ・ナヨン主演、90分、R15+指定。女性視点の繊細な演出が特徴。
基本情報
- 邦題:真夏の誘惑
- 原題:제인의 썸머
- 英題:JANE’S SUMMER / Summer Sway
- 公開年:2020年
- 製作国:韓国
- 上映時間:89分
- ジャンル:恋愛
見どころ
自分を見失い、自暴自棄となった男女が激しく求めあうさまを美しくかつ切なく描出。しなやかな肉体と美貌を持つソ・ナヨン、キム・ハリムが魅せる官能世界に引き込まれる。
女優の活躍
本作の主人公シム・ジェインを演じるソ・ナヨンは、韓国でダンサーとしても活動する女優であり、本作ではその実力を存分に発揮しています。ジェインはダンスカンパニーで主役の座を夢見るも、オーディションでの落選が続き、精神的・肉体的に追い詰められた女性という複雑な役どころです。ソ・ナヨンは、ジェインの内面的な葛藤や衝動的な行動を、表情や体の動きを通じて繊細に表現。特にダンスシーンでは、プロのダンサーとしてのしなやかさと情熱が見事に映し出されており、物語の感情的な高ぶりを視覚的に強調しています。彼女の演技は、観客にジェインの孤独や欲望を強く印象づけ、映画のエロティックな雰囲気の中にも深い人間ドラマを感じさせます。
また、ソ・ナヨンは本作で初めて主演を務め、女性監督ソン・ウンジュとのコラボレーションにより、男性目線ではない女性の視点から描かれたキャラクター造形に貢献。観客からは「ダンサーとしてのリアリティが際立つ」「感情の揺れを体現した演技が素晴らしい」と評価されています。ただし、一部レビューでは「ジェインの行動原理が不明瞭」との意見もあり、彼女の演技の解釈は観る者によって分かれるようです。
女優の衣装・化粧・髪型
ソ・ナヨン演じるジェインの衣装は、彼女の職業や心理状態を反映したものが多く、物語の舞台であるソウルとバンコクのコントラストを強調しています。ソウルでのシーンでは、ダンサーらしい動きやすいレギンスやタンクトップ、シンプルなTシャツといったカジュアルな衣装が中心。色調はモノトーンやダークカラーで、ジェインの閉塞感やスランプを象徴しています。化粧はナチュラルで、汗や疲れを感じさせる薄いメイクが彼女の苦悩を際立たせます。髪型は、ダンス練習に適したポニーテールや無造作なまとめ髪で、飾らない現実的な女性像を表現。
一方、バンコクに舞台が移ると、ジェインの衣装は一変。開放的なリゾート地にふさわしく、軽やかなワンピースやオフショルダーのトップス、鮮やかな色(特に赤やイエロー)が登場します。これらはジェインの心の解放や新たな出会いへの期待を視覚的に示すもの。化粧もソウル時代より華やかで、リップやアイラインが強調され、彼女の女性らしさが引き立ちます。髪型はロングヘアを下ろしたナチュラルなスタイルや、ゆるく巻いたウェーブヘアで、バンコクの陽気な雰囲気と調和。こうした変化は、ジェインの心理的変遷を衣装とメイクで巧みに表現した演出の一環です。
特に、ジェインとサマーの情熱的なシーンでは、シースルーのトップスやボディラインを強調するドレスが登場し、官能的なムードを高めます。ただし、過度に露出する衣装は避けられ、女性監督ならではの抑制されたエロティシズムが感じられます。
あらすじ
ダンサーのシム・ジェイン(ソ・ナヨン)は、ダンスカンパニーで主役の座を目指すが、オーディションの落選が続き、スランプに陥っていた。母親からの批判や周囲の期待に耐えきれず、自暴自棄になったジェインは、親友イ・ジウ(キム・ハリム)が滞在するバンコクへ逃げるように旅立つ。そこでジウを通じて、売れっ子歌手のレインフォール(ペク・スンホン)とその親友で作曲家のサマー(イ・ヘジュン)という魅力的な男性二人と出会う。四人はバンコクの楽園のような環境で意気投合し、夜のクラブやビーチで過ごすうちに親密な関係を築く。
ジェインは、作曲のスランプから放蕩生活を送るサマーと自分に共通点を感じ、衝動的に肉体関係を結ぶ。二人は互いの孤独を埋めるように激しく求め合うが、刹那的な関係は長続きしない。一方、レインフォールはジェインに真剣な好意を寄せるが、彼女とサマーの関係を目撃し、ショックを受ける。この出来事をきっかけに、四人の関係は複雑に絡み合い、ジェインは自分の欲望と向き合うことになる。バンコクでのひと夏の情事を通じて、ジェインは自分自身を見つめ直し、未来への一歩を踏み出すのか、それとも彷徨い続けるのか—物語は曖昧な余韻を残して終わる。
解説
『真夏の誘惑』は、韓国の女性監督ソン・ウンジュが手掛けた初の長編映画であり、女性の欲望と自由をテーマにした官能ドラマとして位置づけられます。男性監督によるエロティック映画とは異なり、女性の視点から描かれたジェインの行動や感情は、単なる肉体関係を超えた内面的な探求として描かれています。バンコクという異国情緒あふれる舞台は、ジェインの抑圧された日常からの解放を象徴し、色彩豊かな映像美とともに観客を引き込みます。
本作は、韓国映画特有の重厚な社会派ドラマやアクションとは異なり、インディペンデント映画の枠組みで作られた低予算作品です。そのため、キャストは比較的知名度の低い俳優で構成され、ストーリーも大規模な展開よりも個々の感情の機微に焦点を当てています。レビューでは「エロティックだが下品ではない」「女性監督ならではの繊細な演出」と評価される一方、「ストーリーが曖昧」「ジェインの動機が分かりにくい」との批判も。Filmarksでの平均スコア2.4点(74件)からも、観客の反応が分かれる作品であることが伺えます。
ソン・ウンジュ監督は、ジェインの物語を通じて、現代の若い女性が直面するプレッシャーや、自己実現と欲望の間で揺れる心情を描こうとしたと語っています。特に、ダンサーという職業を通じて、肉体と精神の結びつきを強調し、ジェインの身体性が物語の中心に据えられています。この点は、ソ・ナヨンのダンス経験が活かされた演出ともリンクしており、映画の独自性を高めています。
キャスト
- ソ・ナヨン(シム・ジェイン役):主人公のダンサー。スランプに苦しむ女性の複雑な心情を体現。
- イ・ヘジュン(サマー役):ミュージカル俳優としても活躍。作曲家の放蕩な魅力と脆さを表現。
- キム・ハリム(イ・ジウ役):ジェインの親友で、バンコクでの自由な生活を象徴するキャラクター。
- ペク・スンホン(レインフォール役):人気歌手役。ジェインへの純粋な愛情と葛藤を演じる。
スタッフ
- 監督・脚本:ソン・ウンジュ:本作が長編デビュー作。女性の視点からエロティシズムと人間ドラマを描く。
- 製作:KIDARIENT CORP. & THE FRIDAY PICTURES:インディペンデント映画らしい小規模な制作体制。
- 配給(日本):クロックワークス:2021年9月3日に日本でDVD発売および配信開始。
- 撮影・編集:詳細な情報は公開されていないが、バンコクの色彩豊かな映像が特徴。
総括
『真夏の誘惑』は、ソン・ウンジュ監督の繊細な演出とソ・ナヨンのリアルな演技が光る、女性の欲望と解放を描いた作品です。バンコクのエキゾチックな舞台と、ジェインの衣装やメイクの変化が、物語の感情的な起伏を視覚的に補完。ストーリーの曖昧さやキャラクターの動機に対する批判もあるものの、インディペンデント映画としての独自性と、女性視点のエロティシズムは一定の評価を受けています。韓国映画の新たな一面を感じたい観客におすすめの一作です。
レビュー 作品の感想や女優への思い