映画『彼女について私が知っている二、三の事柄』(1966年、ジャン=リュック・ゴダール監督)は、1960年代のパリの都市文化や消費社会を背景に、主婦ジュリエット・ジャンソン(マリナ・ヴラディ)の日常を描いた作品で、そのファッションは当時のフランスの流行と社会状況を反映しています。以下に、映画に登場するファッションの特徴を詳しく解説します。
1960年代のフレンチ・シックなスタイル
シンプルで実用的な日常着
ジュリエットが暮らすパリ郊外の団地での生活は、中産階級の主婦らしい実用性を重視した服装が中心。彼女の衣装には、膝丈のスカートやワンピース、カーディガン、セーターなどが多く登場します。これらは、1960年代のフランスの主婦が日常的に着るような、機能的かつ女性らしいスタイルを象徴しています。
色使いの鮮やかさ
映画では、赤、青、白、緑といった鮮やかな色が強調されており、ジュリエットの服にもこれらのカラーが取り入れられています。とくに赤と青は、ゴダールが視覚的に都市パリを表現する重要な要素として機能し、彼女のワンピースやスカーフに頻繁に登場します。例えば、ジュリエットが着る青いセーターや赤いドレスは、60年代のポップな色彩感覚を反映しています。
モダンでミニマルなデザイン
当時のフランスのファッションは、クチュールからプレタポルテ(既製服)への移行が進んでおり、ジュリエットの服はシンプルながら洗練されたデザインが特徴。ボディラインを強調しすぎないAラインのドレスや、動きやすいニットウェアは、現代的な女性像を表現しています。
消費文化とファッションの関連性
ブティックでのショッピング
ジュリエットが売春で得たお金でブティック「VOGUE」(ヴォーグ)を訪れ、ワンピースを購入する場面があります。この場面は、1960年代の消費文化とファッションの密接な関係を示しています。彼女が選ぶ服は、流行を取り入れたカジュアルなアイテムで、資本主義社会における「見せるためのファッション」を象徴しています。
ブランドアイテムの風刺
映画には「Trans World Airlines」や「Pax Am」のロゴ入りバッグを頭にかぶった女性が登場するシーンがあり、ブランド品や消費社会への皮肉が込められています。こうした小道具としてのファッションは、ゴダールが当時の物質主義を批判する意図を強調しています。
ヘアスタイルとアクセサリー
ナチュラルなヘアスタイル
ジュリエットの髪型は、60年代らしいボリュームのあるショートボブや軽くウェーブのかかったスタイル。美容院を訪れるシーンでは、当時の女性が外見を整えることの重要性が描かれ、ヘアスタイルもファッションの一部として丁寧に扱われています。
控えめなアクセサリー
ジュリエットは派手な装飾品を避け、シンプルなスカーフや小さなイヤリングを着用。これらは、日常的な生活の中でさりげなくおしゃれを楽しむ主婦の現実的な選択を反映しています。
映画全体の視覚的文脈とファッション
色彩と都市の対比
ゴダールは、ジュリエットのファッションをパリの都市再開発や団地の無機質な風景と対比させています。例えば、彼女のカラフルな服は、コンクリートの団地や建設現場の冷たい色調と対照的で、個人のアイデンティティや欲望が都市の画一化に抗う姿を象徴しています。
ドキュメンタリー・タッチとリアリティ
映画のドキュメンタリー・タッチな演出により、ジュリエットのファッションは作為的ではなく、当時の一般的な女性の服装に近いものとして描かれています。これは、ゴダールがリアルな社会問題(主婦の売春など)をファッションを通じて表現する手法の一環です。
当時のファッション・トレンドとの関連
ミニスカートの影響
1960年代はマリー・クワントのミニスカートが流行した時期で、ジュリエットのスカート丈もやや短め(膝上程度)なものが登場。これは、若々しさや自由を表現する当時のトレンドを反映しています。
フレンチ・ヌーヴェル・ヴァーグの影響
ゴダールを含むヌーヴェル・ヴァーグの監督たちは、映画の中でファッションをキャラクターの個性や社会背景を表現する道具として活用しました。ジュリエットの服は、アンナ・カリーナが『気狂いピエロ』などで着たような、カジュアルかつシックなスタイルと共通点があります。
まとめ
『彼女について私が知っている二、三の事柄』のファッションは、1960年代のフランスの日常的な女性像と消費社会の影響を巧みに反映しています。ジュリエットのシンプルでカラフルな服装は、団地生活の現実と、物質的な欲望や流行を追い求める姿を対比させ、ゴダールの社会批判を視覚的に補強しています。特に、赤や青の鮮やかな色使いや、ブティックでのショッピングシーンは、当時のパリの都市文化とファッションの結びつきを象徴する重要な要素です。
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