『越後つついし親不知』は、1964年に公開された日本映画です。水上勉の同名小説を原作に、今井正が監督を務めました。雪深い越後地方の寒村を舞台に、出稼ぎに出た夫の留守中に妻が同郷の男に犯され、妊娠する悲劇を描きます。
佐久間良子が主人公のおしん役を演じ、物語の中心を担っています。三國連太郎、小沢昭一らが共演します。上映時間は112分、モノクロ、シネマスコープで、製作会社は東映東京撮影所、配給は東映です。
基本情報
- 越後つついし親不知
- 公開年:1964年
- 製作国・地域:日本
- 上映時間:112分
女優の活躍
『越後つついし親不知』では、佐久間良子が主人公のおしん役を演じ、物語の中心を担っています。おしんは夫の留吉が出稼ぎに出ている間に、権助に犯され、妊娠してしまう純真な妻として描かれます。佐久間良子の活躍は、犯されるシーンや妊娠の苦悩、夫との対峙で特に目立ち、体を張った演技が光ります。田んぼに顔を押し付けられる場面や、死顔に蟻が這うシーンを本人が演じ、過酷な撮影に耐えました。
彼女の演技は、純粋さと哀しみを表現し、観客に強い印象を与えます。佐久間良子は本作で、超お嬢様女優から暗い役柄へ移行し、東映のセックスアピール路線を体現しました。北林谷栄は留吉の老母役で、姑としておしんの苦しみを傍観する立場から、家族の絆を支えます。彼女の活躍は、越後の厳しい生活を象徴する演技で、物語に深みを加えます。
五月藤江は伊助の母役、清川虹子はおさと役で、村の女性たちとして脇を固めます。五月藤江の活躍は、シベリア時代の話を引き出すシーンで、権助の過去を語る重要な役割を果たします。清川虹子は村の日常を描く場面で、自然な演技を見せます。
高橋とよは古谷きよ役で、産婆としておしんの妊娠を告げるシーンで活躍し、物語の転機を担います。
沢村貞子は大地主の奥様役で、短いながらも上流階級の女性像を体現します。木村俊恵はおしんの母役で、娘の過去を語るシーンで感情豊かに演じます。
山本緑は卵買いのおばさん役で、村の風俗を反映したコミカルな活躍を見せます。谷本小夜子と相生千恵子は中書島の女役で、出稼ぎの場面を彩ります。北城真記子はおいし役で、村の女性としておしんの苦悩を共有します。
これらの女優たちは、1960年代の東映映画らしいリアリズムを支え、男中心の物語に女性の視点を加えています。佐久間良子は本作が転機となり、以降の文芸映画で活躍を広げました。北林谷栄や沢村貞子のようなベテラン女優は、若手とのコントラストで物語を豊かにします。全体として、女優たちの活躍は、雪国での女性の抑圧と愛をテーマに、ドラマチックに展開します。彼女たちの熱演が、原作の業の深さを視覚化し、名作の評価を高めています。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の女優たちの衣装は、1930年代の越後地方の農村を反映した簡素な和服が中心です。
佐久間良子演じるおしんは、日常着として木綿の着物や作務衣を着用し、雪深い環境に適した厚手の衣類が用いられます。犯されるシーンでは着物が乱れ、泥まみれになる様子が悲劇性を強調します。化粧は素朴で、農村女性らしい薄化粧が施され、目元や唇を控えめにし、自然な肌を活かします。髪型は結い上げスタイルが多く、作業に適したお団子や三つ編みが採用され、風雪に耐える強靭さを象徴します。
北林谷栄演じる留吉の老母は、老婦人らしい地味な着物と頭巾を被り、化粧はほとんどなく、皺を活かしたリアルなメイクです。髪型は白髪を束ねたシンプルなもので、姑の厳しさを表現します。
- 五月藤江演じる伊助の母も同様の衣装で、村の年配女性像を体現します。
- 清川虹子演じるおさとは、村人らしい普段着の着物を着用し、化粧はナチュラル、髪型は緩く結んだスタイルです。
- 高橋とよ演じる古谷きよは、産婆らしい実用的な衣装で、袖をまくり上げた着物が特徴です。化粧は中年の女性らしい控えめなもの、髪型はアップスタイルです。
- 沢村貞子演じる大地主の奥様は、少し華やかな着物を着用し、化粧は上品に、髪型は丁寧に結い上げたものです。
- 木村俊恵演じるおしんの母は、母親らしい温かみのある着物で、化粧は柔らかく、髪型は中年のボブ風です。
- 山本緑演じる卵買いのおばさんは、商売人らしい動きやすい衣装で、化粧は素朴、髪型は頭巾を被ったものです。
- 谷本小夜子と相生千恵子演じる中書島の女たちは、都会的なワンピース風の衣装で、化粧は少し濃く、髪型はウェーブヘアです。
- 北城真記子演じるおいしは、村娘らしい着物で、化粧は若々しく、髪型はポニーテール風です。
全体的に、衣装はモノクロ映像に映える質感を重視し、時代考証が徹底されています。化粧はリアリズムを基調とし、髪型は役柄の生活環境を反映します。これらの要素は、物語の厳しい風土を視覚的に表現し、女優たちの演技を支えています。
あらすじ
伏見大和屋酒造の杜氏は、遠く越後杜氏であった。日支事変の始まった昭和十二年、瀬神留吉と佐分権助の二人は、農閑期を利用して出かせぎにきていた。
留吉はおとなしい真面目な働き者で、年が明けると杜氏の大将格である船頭に抜擢されることになっていた。権助は評判の美しい嫁をもち、昇進もする留吉をねたんでいた。留吉より一足先に故郷に帰った権助は、留吉の兄伊助から、シベリア時代に女を抱いた話を聞くと、家への帰り道留吉の嫁おしんに慾情をそそられ、火葬場でおしんを犯した。この時からおしんには夫留吉や姑に言えぬ苦しみができた。一方留吉は、大和屋で年間を通して一番の働き者と表彰されたが、心ない権助の作り話に、おしんがコモ買人佐藤と関係していると聞かされ、痛飲するようになった。
越後では、おしんが、権助の子を身ごもっていた。人の目につくことを恐れたおしんは、日夜子供をおろすことに心をくだいたが、とうとうそのままで夫留吉を迎える日がきた。三月親不知に帰って来た留吉は、佐藤とのことを問い詰めたがおしんの澄んだ目に愚しい疑いを恥じた。夫婦仲は、人がうらやむばかりであった。ある日おしんの妊娠を知った留吉は、大喜びだったが、産婆から妊娠したのは十二月だと知らされた留吉は十二月には、伏見に居り、あの権助が帰郷していたことを思い出した。激しい怒りに身をふるわす留吉。
ついに水田で、おしんに問詰めると泥の中におしんを倒していた。近くの炭小屋の中、美しい白ろうのような死顔をみせるおしんを、留吉はいつまでもいとおしんだ。やがておしんの身体を蟻がむしばむ頃、おしんの死体をかまどの中に入れると、留吉は下山した。折りしも出征兵士として送られる権助を見た留吉は、権助をかき抱くと、谷底へと身を投げた。このあらすじは、男の嫉妬と女の悲劇を、雪深い越後の風景の中で描き、意外な結末で締めくくられます。当時の農村社会の風俗を反映したストーリー展開が特徴です。
解説
『越後つついし親不知』は、水上勉の同名小説を原作とした1964年の東映映画です。今井正監督が手がけ、「武士道残酷物語」の直後作として、ベルリン国際映画祭金熊賞受賞の勢いを活かしました。脚本は八木保太郎が担当し、文芸ものとして位置づけられます。撮影は中尾駿一郎が務め、モノクロの美しい映像で越後の雪景色を捉えました。
公開当時は成人指定を受け、配給収入は2億5400万円を記録しました。企画は岡田茂が主導し、佐久間良子をセックスアピールの強い役柄で起用しました。岡田は佐久間を「不良性感度」の体現者と評価し、東映ポルノ路線の原点となりました。本作は『大奥㊙物語』の企画に影響を与え、同じスタッフで次作を計画しましたが、監督が中島貞夫に交代しました。
物語は昭和12年の日支事変を背景に、出稼ぎ労働者の生活と人間の業を描き、リアリズムとロマンティシズムを融合させます。今井正の持ち味である社会派要素が強く、農村の貧困と女性の抑圧をテーマに据えています。音楽は池野成が担当し、哀愁漂う旋律が雪の風景を強調します。
評価については、キネマ旬報で上位に入り、水上文学の秀作を忠実に映画化した名作とされます。現代では、白黒末期の美しい田園ノワールとして再評価され、ラスト10分の見せ場が印象的です。佐久間良子の体当たりの演技が注目され、三國連太郎の迫真の犯行シーンは、佐久間が「死ぬかもしれない」と感じたほどです。小沢昭一の真面目な夫役も、ラジオパーソナリティとは異なる優れた演技です。
本作は、1960年代の日本映画の転換点を象徴し、女性の悲劇を通じて人間の暗部を探求します。当時の社会では、出稼ぎや戦争の影が色濃く、原作の業の深さを厳しく描いています。全体として、東映の娯楽映画の伝統を継承しつつ、文芸的な深みを加えた作品です。公開当時の反応は好評で、現在ではDVD化され、貴重な機会で上映されます。
キャスト
- 佐分権助:三國連太郎
- おしん:佐久間良子
- 瀬神留吉:小沢昭一
- 九谷育三:田中春男
- 佐藤:佐藤慶
- 伊助:殿山泰司
- 山田:杉義一
- おさと:清川虹子
- おいし:北城真記子
- 留吉の母:北林谷栄
- 伊助の母:五月藤江
- おしんの母:木村俊恵
- 坊ちゃん:石橋蓮司
- 飯屋の親爺:中村是好
- 客の遠藤:東野英治郎
- 古谷きよ:高橋とよ
- 大地主の旦那様:松村達雄
- 大地主の奥様:沢村貞子
- 沖中専造:松本染升
- 近迎えの花婿:明石潮
- 卵買いのおばさん:山本緑
- 中書島の女:谷本小夜子
- 中書島の女:相生千恵子
スタッフ
- 監督:今井正
- 企画:吉野誠一
- 企画:本田延三郎
- 製作:大川博
- 原作:水上勉
- 脚本:八木保太郎
- 撮影:中尾駿一郎
- 美術:森幹男
- 音楽:池野成
- 録音:内田陽造
- 照明:元持秀雄
- 編集:長沢嘉樹
- スチール:遠藤努



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