『美しすぎる裸婦』（原題：Странники терпенья）は、2018年製作のロシア映画。著名な写真家アンドレイが聾唖の女性マリーナに魅了され、監禁へと発展する官能スリラー。美しい映像と心理描写が特徴で、芸術と狂気の境界を探る。マジャ・ゾパの迫真の演技が光ります。
基本情報
- 邦題：美しすぎる裸婦
- 原題：Странники терпенья
- 英題：Strangers of Patience
- 公開年：2018年
- 製作国：ロシア
- 上映時間：103分
- ジャンル：スリラー
- 配給：日活
見どころ
主演は少女のような可憐さを持つ女優、マジャ・ゾパ。究極の美を求める芸術家の異常な愛にさらされる“ろうあ者”の女性を熱演し、数々の映画祭で主演女優賞受賞した。
あらすじ
『美しすぎる裸婦』は、ロシアのサンクトペテルブルクを舞台に、芸術と執着の危うい境界を描いたスリラー映画です。主人公のアンドレイ（コンスタンチン・ラヴロネンコ）は、写真家として名声を得たものの、芸術への情熱を失いつつある中年男性です。彼は自身の個展で、聾唖の若い女性マリーナ（マジャ・ゾパ）と出会います。マリーナの純粋で神秘的な美しさに心を奪われたアンドレイは、彼女を写真のモデルとして自宅に招きます。最初は芸術作品のための撮影として始まった関係ですが、アンドレイの執着は次第にエスカレート。マリーナは彼の邸宅に軟禁され、逃げ出そうと試みますが、アンドレイの心理的・肉体的な支配に直面します。物語は、芸術の名の下に行われる行為と、被写体としてのマリーナの葛藤を通じて、倫理と狂気の境界を浮き彫りにします。ラストでは、マリーナがアンドレイを追いかけるシーンが描かれ、ストックホルム症候群的な要素や複雑な心理が示唆されます。
解説
本作は、芸術家と被写体の関係を軸に、支配と服従、倫理と創造の衝突を描いた心理スリラーです。原題「Странники терпенья」（忍耐の放浪者）は、登場人物たちの内面的な葛藤や忍耐を象徴しています。監督・脚本のウラジミール・アレニコフは、芸術の追求が時に破壊的な執着へと変貌する様子を、冷たく美しい映像で表現。ロシア映画らしい重厚な雰囲気と、繊細な心理描写が特徴です。映画は劇場未公開ながら、Amazon PrimeやHuluで配信され、賛否両論を呼びました。一部では「映像美」とマジャ・ゾパの演技が絶賛される一方、過激な内容やストーリーの深みに欠けるとの批判もあります。マリーナが聾唖でないことが判明するシーン（電話に反応する場面）は、物語に新たな解釈を加え、単なる「監禁もの」ではない複層性を持たせています。ロシア文化省の協賛も話題となり、文化的背景や倫理的議論を呼び起こす作品です。
女優の活躍
主演女優のマジャ・ゾパ（Maja Szopa）は、1997年ポーランド生まれの女優で、本作が映画デビュー作です。2020年にワルシャワ演劇アカデミーを卒業し、ポーランドとロシアで舞台女優として活躍。ロシアのテレビドラマにも多数出演しています。本作でのマリーナ役は、彼女のキャリアにおける飛躍のきっかけとなり、2018年のモントリオール世界映画祭で主演女優賞を受賞。さらにロシア国内の映画祭でも同賞を獲得し、国際的に注目されました。マジャ・ゾパは、聾唖の女性という難しい役どころを、表情と仕草だけで感情を表現する迫真の演技で体現。特に、純粋な少女から恐怖と抵抗を経て妖艶な女性へと変化する過程は、観客に強い印象を与えました。彼女の繊細かつ大胆な演技は、作品の重いテーマを支える柱となっています。
女優の衣装・化粧・髪型
マジャ・ゾパ演じるマリーナの衣装は、物語の進行とともに彼女の心理的変化を反映しています。映画冒頭では、薄い緑色の背中の開いたワンピースや、大きな花柄のワンピース、白いワンピースといった、軽やかで少女らしいファッションが登場。これらの衣装は、マリーナの純粋さと無垢さを強調し、観客に彼女の魅力的な外見を印象づけます。特に、緑のワンピースは背中の大胆なデザインが特徴で、彼女の若々しさと繊細な美しさを引き立てます。物語が進むにつれ、衣装は次第に簡素になり、監禁の緊張感を反映。化粧は控えめで、ナチュラルな美しさを活かした薄化粧が中心。マリーナの聾唖という設定上、表情が重要な役割を果たし、透明感のある肌と自然なメイクがその演技を際立たせます。髪型は当初、長いロングヘアで登場し、女性らしさと柔らかさを表現。しかし、物語の後半で髪を短く切られるシーンは、彼女の自由の喪失とアンドレイの支配を象徴する衝撃的な場面として描かれています。この変化は、視覚的にも心理的にも観客に強いインパクトを与えます。
キャスト
- アンドレイ：コンスタンチン・ラヴロネンコ。著名な写真家で、芸術への情熱と執着が交錯する複雑なキャラクター。ラヴロネンコは、ロシア映画界で知られる実力派俳優で、狂気を湛えた演技が光ります。
- マリーナ：マジャ・ゾパ。聾唖（後にそうでないことが判明）の若い女性。ゾパのデビュー作での鮮烈な演技が話題に。
- その他、脇役として少数の登場人物が物語を支えますが、主要な焦点はアンドレイとマリーナの関係に集中しています。
スタッフ
- 監督・脚本：ウラジミール・アレニコフ。ロシア功労芸術家として知られ、本作では原作小説も手掛ける。映像美と心理描写にこだわった演出が特徴。
- 製作：ヴァディム・ゴリャイノフ。ロシア映画界での経験豊富なプロデューサーで、本作の製作を統括。限られた予算の中で高いクオリティを実現。
- 撮影：アリシャー・カミドコジャエフ。サンクトペテルブルクの美しい街並みやアンドレイの邸宅の閉鎖的な雰囲気を巧みに捉えた撮影が、作品の視覚的魅力を高めています。冷たくも美しい映像は、物語の不穏な空気を強調。
- 製作会社：Cinema Fund, Lenfilm, Sputnik, Dagger Film。ロシアの主要な映画製作会社が関与し、特にLenfilmはロシア映画の伝統を支える老舗スタジオとして知られています。
補足
本作は、芸術と倫理の対立をテーマに、観客に深い考察を促す作品です。マリーナが聾唖でないことが明らかになるシーンは、物語の解釈を多層的にし、単なる監禁スリラー以上の深みを与えています。一方で、過激な描写やストーリーの曖昧さが一部で批判されており、視聴者の受け取り方によって評価が分かれます。マジャ・ゾパの演技と映像美は特に評価が高く、ロシア映画の新たな才能を示す作品として注目されています。
レビュー 作品の感想や女優への思い