『ふたりの人魚』(2000年)は上海の蘇州河を舞台に、失われた恋を求める男たちの物語。ビデオグラファーが人魚役の女性メイメイと恋に落ちますが、彼女は姿を消します。回想では、バイク便のマルダーが誘拐された恋人ムーダンを探し続け、河に身を投げた彼女と再会するも、再び悲劇が訪れます。アイデンティティの曖昧さと都市の孤独を描いたドラマ。
基本情報
- 邦題:ふたりの人魚
- 原題:蘇州河
- 英題:SUZHOU RIVER
- 公開年:2000年
- 製作国・地域:中国・ドイツ・日本
- 上映時間:83分
- ジャンル:ドラマ
女優の活躍
『ふたりの人魚』で主演を務める周迅は、二役を演じ分け、卓越した演技力を発揮します。ムーダンとメイメイという似て非なるキャラクターを、視聴者が最後まで区別しにくいほど巧みに体現します。この演技により、パリ映画祭で最優秀女優賞を受賞し、中国映画メディア賞で最優秀女優賞にノミネートされました。
周迅の存在は、物語のミステリーを支える核心であり、彼女の微妙な表情や仕草が、愛と喪失のテーマを深く表現します。ムーダン役では、無垢で純粋な少女の内面的な葛藤を、繊細に描き出します。一方、メイメイ役では、ミステリアスで魅力的な大人の女性を、自信たっぷりに演じます。この二役の対比が、映画の魅力の大きな部分を占めます。
周迅の演技は、単なる役柄の演じ分けを超え、キャラクターの心理的な深みを加え、観客に強い印象を残します。特に、物語の転換点での感情の爆発や、静かな内省のシーンで、その才能が光ります。本作は、周迅のキャリアにおいて重要な転機となり、国際的に注目を集めました。
彼女の活躍は、監督のルー・イエのビジョンを具現化し、映画の芸術性を高めています。周迅は、身体的な表現も豊かで、動き一つ一つに意味を持たせます。このようなパフォーマンスが、映画の叙情的な雰囲気を支えています。周迅の演技は、批評家からも高く評価され、映画の成功に大きく寄与します。彼女の存在感は、画面を支配し、物語の流れを自然に導きます。
周迅の活躍は、本作のテーマであるアイデンティティの探求を、視覚的に強化します。こうした点で、周迅は本作の魂とも言える存在です。
女優の衣装・化粧・髪型
周迅が演じるメイメイは、バーで人魚のパフォーマンスをする役柄です。衣装は、水槽内で泳ぐための人魚の尾びれを模したものを使用し、派手なデザインが特徴です。金髪のウィッグを着用し、神秘的な雰囲気を演出します。化粧は、ステージ映えするよう目元を強調したメイクで、唇は淡い色調に仕上げます。髪型は、金髪ウィッグを長く流したスタイルで、水中での動きを考慮したものです。
一方、ムーダン役では、10代の少女らしいシンプルな衣装を着用します。日常的なワンピースやスカートが中心で、無垢さを表します。化粧はナチュラルメイクで、肌の透明感を活かした薄化粧です。髪型は、黒髪をストレートに下ろした自然なスタイルで、少女らしい純粋さを強調します。
この対比的な衣装と化粧、髪型が、二役の違いを視覚的に際立たせます。メイメイの衣装は、バーでのパフォーマンスシーンで特に印象的で、金髪ウィッグが物語のファンタジー要素を加えます。ムーダンの衣装は、上海の街中を反映した現実的なもので、バイクでの移動シーンに適します。化粧は、両役とも役柄の感情を反映し、メイメイは魅惑的に、ムーダンは素朴に仕上げます。髪型も、ムーダンはポニーテール風のシンプルさで、若さを表現します。これらの要素が、周迅の演技を支え、キャラクターの深みを増します。
全体として、衣装・化粧・髪型は、映画の都市的な雰囲気を視覚化します。監督の意図により、衣装は上海の下町の現実を反映しつつ、幻想的なタッチを加えています。周迅の外見の変化が、アイデンティティのテーマを強調します。このような細部が、映画の芸術性を高めています。
あらすじ
物語は、上海の蘇州河沿いを漂うビデオグラファーの視点から始まります。
彼は、バー「ハッピー・タバーン」で人魚役のパフォーマー、メイメイと出会い、恋に落ちます。メイメイは、金髪のウィッグを着けた人魚として水槽内で泳ぎ、観客を魅了します。しかし、彼女は突然姿を消し、ビデオグラファーを苦しめます。
メイメイは、ビデオグラファーに別の恋物語を語ります。それは、バイク便のマルダーと少女ムーダンの話です。マルダーは、酒類密輸業者の娘ムーダンを、父親の愛人の家に送り届ける仕事を引き受けます。バイクでの短い時間に、二人は恋に落ちます。
しかし、マルダーは元恋人のシャオ・ホンと犯罪者のラオ・Bに巻き込まれ、ムーダンを誘拐する計画に加担します。ムーダンは倉庫に監禁され、身代金が支払われますが、計画は崩壊します。シャオ・ホンが殺され、マルダーはムーダンを別の場所に移そうとします。ムーダンは、自身の価値の低さに絶望し、蘇州河に身を投げます。マルダーは逮捕され、刑務所に収監されますが、ムーダンの遺体は見つかりません。
数年後、出所したマルダーは、上海に戻り、ムーダンを探し続けます。偶然、ハッピー・タバーンでメイメイと出会い、彼女をムーダンと思い込みます。マルダーはメイメイに自分の過去を語り、二人は関係を持ちます。メイメイは最初は否定的ですが、徐々にマルダーに惹かれます。しかし、マルダーはバーのオーナーに殴られ、郊外へ向かいます。そこで、本物のムーダンをコンビニで発見し、再会します。二人は幸せを掴みますが、すぐに蘇州河で死体となって発見されます。
メイメイは動揺し、ビデオグラファーと最後の夜を過ごします。彼女は手紙を残し、「本当に愛しているなら、私を探して」と言い、姿を消します。ビデオグラファーは、マルダーから貰ったウォッカを飲み、追うことを諦めます。この物語は、現実と幻想、アイデンティティの曖昧さを描き、繰り返す悲劇を強調します。蘇州河は、恋人たちの運命の象徴として機能します。あらすじは、ナレーターの推測と事実が混在し、謎めいた雰囲気を生み出します。
解説
『ふたりの人魚』は、2000年に公開されたルー・イエ監督の作品で、中国の第六世代監督の特徴を体現します。上海の蘇州河沿いの荒廃した都市景観を背景に、グリッティな現実を描きます。高層ビルではなく、工場や倉庫の混沌とした風景が、現代中国の暗部を象徴します。
物語は、ヒッチコックの『めまい』に影響を受け、執着的な愛とアイデンティティの混乱をテーマにします。水のモチーフと二重の女性像が、幻想と現実の境を曖昧にします。また、『裏窓』の盗撮的な視点が、ビデオグラファーの役割に反映されます。ウォン・カーウァイの影響も見られ、手持ちカメラの使用が、都市のロマンチシズムを表現します。ナラティブは複雑で、ドキュメンタリー風の映像とフィクションが融合します。これにより、中国の検閲を回避し、政治的な批判を暗示します。
失業、犯罪、警察の腐敗などの社会問題を、ギャングロマンスを通じて描きます。ナレーターの主観性が、物語の不確実性を高め、観客に解釈を委ねます。ポストモダン的な要素として、ダブルガンガー(二重身)のトロープが用いられ、キェシロフスキーやリンチの作品を思わせます。音楽は、ジョルグ・レンベルグが担当し、叙情的な雰囲気を加えます。撮影のワン・ユーは、自然光の手持ちカメラで、第五世代映画とは異なるスタイルを確立します。
本作は、中国政府の許可なく製作されたため、監督に2年間の映画製作禁止処分が下されました。国際的に高評価を受け、ロッテルダム映画祭でタイガー賞を受賞します。批評家からは、大気感とナラティブの遊び心が称賛されますが、一部でプロットが陳腐と指摘されます。
全体として、愛と喪失の普遍性を、上海の都市伝説風に語り、観客に深い余韻を残します。この映画は、中国映画の新しい波を象徴し、インディペンデントな表現の可能性を示します。テーマの深さと視覚的な革新が、永続的な魅力を生み出します。解説では、社会的な文脈を考慮し、検閲下のクリエイティビティを評価します。本作は、都市の孤独と人間関係の脆さを、詩的に描きます。
キャスト
- 周迅:ムーダン / メイメイ
- 賈宏声:マルダー
- 張明芳:ビデオグラファー(ナレーター)
- 華仲凱:ラオ・B
- 奈安:シャオ・ホン
- 姚安濂:ハッピー・タバーンのオーナー
スタッフ
- 監督:ルー・イエ
- 脚本:ルー・イエ
- 製作:フィリップ・ボバー、奈安
- 撮影:ワン・ユー
- 編集:カール・リードル
- 音楽:ジョルグ・レンベルグ



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