『We Were Liars』はE. Lockhartによる2014年のYA小説。裕福なシンクレア家の少女キャデンスが、プライベートアイランドでの夏の事故と秘密をめぐる心理サスペンス。衝撃の結末が話題。
あらすじ
『We Were Liars』は、アメリカの裕福なシンクレア家を中心に展開する心理サスペンス小説。主人公は、シンクレア家の長女であるキャデンス・シンクレア・イーストマン(愛称:キャディ)。シンクレア家は毎年夏、マサチューセッツ州沖にあるプライベートアイランド「ビーチウッド島」で休暇を過ごします。キャデンスは、いとこのジョニーとミレン、そしてジョニーの母の恋人の甥であるガット・パティルと共に「ライアーズ(嘘つき)」と呼ばれる親密な4人組を形成しています。彼らは自由奔放で、島での夏を心から楽しんでいます。
物語は、キャデンスが15歳の夏(「サマー・フィフティーン」)に起きた重大な事故を中心に進みます。この夏、キャデンスとガットは恋に落ち、互いに強い絆を築きます。しかし、キャデンスは水中で頭部を強打し、重傷を負います。この事故により、彼女は夏の記憶の大部分を失い、激しい偏頭痛に悩まされるようになります。さらに、事故後、ジョニーやミレンからの連絡が途絶え、キャデンスは孤立感を深めます。翌年の夏(サマー・シックスティーン)は、母の意向で父とヨーロッパ旅行を強いられ、ビーチウッド島には戻れません。
2年後の17歳の夏(サマー・セブンティーン)、キャデンスは再びビーチウッド島に戻ります。彼女は失われた記憶を取り戻そうと、ライアーズの仲間たちと過ごす中で、家族の秘密や事故の真相に迫っていきます。シンクレア家は一見完璧に見えますが、内部では遺産をめぐる姉妹間の対立や、祖父ハリス・シンクレアの支配的な態度が緊張を生んでいます。キャデンスは、ガットとの再会を通じて過去の愛を思い出しつつ、断片的な記憶を頼りに真相を追い求めます。物語は、キャデンスの視点で詩的かつ断片的に語られ、読者は彼女と共に謎を解き明かす過程を体験します。
解説
『We Were Liars』は、E. Lockhartによる2014年刊行の若者向け小説(YA小説)で、心理サスペンスと家族ドラマの要素を巧みに融合させた作品です。本作は、TikTokでのバイラル人気や2025年6月にAmazon Primeで公開予定のドラマシリーズ化により、さらなる注目を集めています。本書の魅力は、予測不能なプロット、独特の文体、そして社会的テーマの探求にあります。
プロットと構造
本作の最大の特徴は、衝撃的な結末にあります。物語はキャデンスの視点で語られ、彼女の記憶喪失と偏頭痛が物語の進行に緊張感を与えます。Lockhartは、物語を5つのパートに分け、意図的に断片的な叙述を用いることで、読者にキャデンスの混乱した精神状態を体感させます。この構造は、ジリアン・フリンの『ゴーン・ガール』やレベッカ・ステッドの『When You Reach Me』に影響を受けたもので、細かな伏線が結末で一気に収束する設計が施されています。結末の「ひっくり返し」は、読者に再読を促すほどのインパクトがあり、初読では見逃していた手がかりに気付く楽しみを提供します。
文体と表現
Lockhartの文体は詩的で、しばしばメタファーや誇張表現に満ちています。キャデンスは自分の感情を劇的に描写し、たとえば恋心を「胸を撃たれた」「血が流れる」と表現します。この「紫の散文(purple prose)」は、キャデンスの感受性や不安定な精神を反映する一方、読者によっては過剰と感じられる場合もあります。 しかし、この文体は物語のゴシック的な雰囲気や、シンクレア家の偽りの完璧さを強調する効果があります。キャデンスが作家志望である設定も、彼女の独特な語り口を自然に裏付けています。
テーマ
本作は、特権階級の家族の裏側を描き、富や地位がもたらす道徳的腐敗や家族間の亀裂を批判的に探ります。シンクレア家は「古い金持ちの民主党員」として、表向きは理想的なアメリカのエリート家族ですが、内部では貪欲さや差別意識が露呈します。特に、ガットがインド系アメリカ人で、シンクレア家の白人中心の文化に異物として扱われる点は、階級と人種の問題を浮き彫りにします。ガットは、シンクレア家の特権的な世界に疑問を投げかけ、キャデンスに新たな視点を与える存在です。
また、記憶と真実のテーマも重要です。キャデンスの記憶喪失は、家族が隠そうとする不都合な真実を象徴しており、彼女が真相に近づく過程は、自己発見と向き合う旅でもあります。物語は、衝動的な行動が引き起こす悲劇的な結果を通じて、「今を生きる」ことの危険性も問いかけます。
キャラクター
キャデンスは、傷つきやすく複雑な主人公として描かれます。彼女の視点は信頼できない語り手(unreliable narrator)としての役割を果たし、読者を物語の深部に引き込みます。ガットは、シンクレア家の価値観に反抗するアウトサイダーとして、物語に社会的緊張をもたらします。ジョニーとミレンは、ライアーズの一員としてキャデンスと強い絆で結ばれていますが、彼ら自身の秘密も物語の鍵となります。シンクレア家の大人たちは、遺産や地位に執着する姿を通じて、特権階級の虚栄心を体現しています。
社会的影響と評価
『We Were Liars』は、2014年のニューヨーク・タイムズ・ベストセラーリストに13週ランクインし、Goodreads Choice Award for Best Young Adult Fictionを受賞するなど、高い評価を受けました。 批評家からは、プロットの巧妙さやキャデンスの声の鮮やかさが称賛される一方、特権階級の悩みを共感しにくいとの批判もあります。 TikTokでの人気により、新たな世代の読者にリーチし、現代のYA文学の代表作の一つとなりました。
シリーズとしての位置づけ
本作は、「We Were Liars」シリーズの1作目で、続編『Family of Liars』(前日譚)と『We Fell Apart』(2025年11月刊行予定)が存在します。『We Fell Apart』は、シンクレア家とは異なる新しいキャラクター、マチルダを中心に、別の海辺の舞台で展開しますが、Lockhartの特徴であるゴシックな雰囲気や家族の秘密は引き継がれています。
結論
『We Were Liars』は、心理サスペンスの枠組みを通じて、特権階級の虚構、愛と喪失、記憶の脆さを描く力作です。読者を驚かせる結末と、詩的な文体が織りなす独特の世界観は、一度読んだだけでは満足できない中毒性を持っています。2025年のドラマ化を機に、さらに多くの読者がこの「嘘つき」たちの物語に引き込まれることでしょう。
レビュー 作品の感想や女優への思い