『ボンテージ』（原題：Whore）はケン・ラッセル監督による米国のエロティックな風刺ドラマ。ロサンゼルスの売春婦リズの過酷な生活を描く。テレサ・ラッセル主演、NC-17指定。サンダンス映画祭で初公開、賛否両論を受けた。
基本情報
- 邦題：ボンテージ
- 原題：Whore
- 公開年：1991年
- 製作国：米国
- 上映時間：85分
- 撮影期間：1990年9月4日～23日、ロサンゼルスにて。
女優の活躍
『ボンテージ』で主演を務めたテレサ・ラッセル（Theresa Russell）は、売春婦リズ役として卓越した演技を見せています。彼女は本作で、複雑で感情的なキャラクターを体現し、過酷な生活の中でユーモアと悲しみを巧みに表現。リズが第四の壁を破り、観客に直接語りかける擬似ドキュメンタリー形式のシーンでは、彼女の率直で力強い演技が際立ちます。批評家の一部は、脚本の弱さを補うほどのテレサの演技力を高く評価し、特にロジャー・イーバートは「素晴らしい技術と勇気を持つ女優」と称賛しました。 彼女の演技は、売春という職業の過酷さと人間性を浮き彫りにし、映画のテーマである「プリティ・ウーマン」とは対極の現実的な視点に貢献しています。共演のジンジャー・リン・アレン（Ginger Lynn Allen）は、ポルノスターとしての経験を活かし、短い出演ながら印象的な存在感を示しました。彼女の役は、リズの同僚として登場し、ストリートでの過酷な現実を補強する役割を果たしています。
女優の衣装・化粧・髪型
テレサ・ラッセル演じるリズの衣装は、ストリート売春婦の現実感を強調しつつ、ケン・ラッセル監督の誇張されたスタイルを反映しています。彼女は主に派手なミニスカート、タイトなトップス、網タイツといった、90年代初頭の売春婦のステレオタイプ的な衣装を着用。色使いは赤やピンクなど派手で、職業柄の性的魅力を強調するデザインが目立ちます。しかし、批評家からは「現実のストリート売春婦にしてはあまりにも完璧すぎる」との指摘があり、彼女の肌やメイクは無垢で、歯並びも美しく、過酷な生活の痕跡が少ないとされました。 メイクは濃いアイシャドウと鮮やかなリップで、売春婦としての派手さを演出しつつ、彼女の若々しさと美貌を強調。髪型はルーズなウェーブのかかったブロンドヘアで、時に乱雑に、時に整えられており、リズの不安定な精神状態を暗示しています。ジンジャー・リン・アレンの衣装も同様に露出度の高いものが多く、彼女のポルノスターとしての背景を活かしたセクシーな装いが特徴です。全体的に、衣装とメイクは映画の風刺的でキャンプなトーンを補強しつつ、監督の過剰な美学を反映しています。
あらすじ
『ボンテージ』は、ロサンゼルスのストリート売春婦リズ（テレサ・ラッセル）の過酷な生活を追う物語です。映画は擬似ドキュメンタリー形式で進行し、リズが観客に直接語りかけるモノローグを通じて、彼女の人生や売春婦としての経験を語ります。物語は、彼女がダウンタウンのトンネル近くで客引きをするシーンから始まり、客の一人がアナルセックスを要求するも、彼女はこれを拒否。過去にバンに乗った際に複数の男に強姦され、暴行を受けた経験を回想します。リズは暴力的で支配的なピンプ、ブレイク（ベンジャミン・ムートン）から逃れようとしますが、彼の脅威に常に晒されています。物語は、彼女がストリップクラブで過去を振り返り、小さな町で育ち、暴力的な夫チャーリーとの結婚を経て売春に足を踏み入れた経緯を明かします。映画は、売春の過酷さと危険性を描きつつ、リズの人間性やユーモアを強調し、観客に彼女の内面に迫る機会を提供します。ラスタ（アントニオ・ファーガス）という謎の人物が時折現れ、彼女を助ける存在として登場。物語は、リズの生活の断片を通じて、売春という職業の現実と社会の偽善を風刺的に描きます。
解説
『ボンテージ』は、ケン・ラッセル監督が1990年の『プリティ・ウーマン』への反発として製作した作品で、売春を美化せず、その過酷な現実を赤裸々に描くことを目指しました。原作は、ロンドンのタクシー運転手デヴィッド・ハインズが売春婦の話を基に書いた一人芝居『Bondage』。ラッセルはイギリスでの資金調達に失敗し、舞台をロサンゼルスに移して低予算で撮影。映画は、売春婦の生活を風刺的かつキャンプなスタイルで描き、擬似ドキュメンタリー形式を採用することで観客との直接的な対話を試みます。 しかし、批評家の反応は賛否両論で、シカゴ・トリビューンのマーク・カロは「テーマの焦点が欠如している」と批判し、エンパイア誌は「価値がほとんどない」と酷評。一方で、テレサ・ラッセルの演技や、売春の現実を直視する姿勢は一部で高く評価されました。 NC-17指定を受けたことや、アイルランドでの上映禁止も話題となり、映画の過激な内容が議論を呼びました。低予算（200万～400万ドルと推定）ゆえに、監督自らがカメラマン（「アルフ」名義）を務めるなど、制作の制約も見られます。 映画は商業的には成功せず、興行収入は約100万ドルにとどまりましたが、カルト的な支持を集め、後のブルーレイ発売で再評価されました。
キャスト
- テレサ・ラッセル（リズ）：主人公の売春婦。観客に直接語りかけるモノローグで、彼女の過酷な人生を体現。
- ベンジャミン・ムートン（ブレイク）：リズを支配する暴力的なピンプ。
- アントニオ・ファーガス（ラスタ）：リズを助ける謎の人物。
- ジャック・ナンス（親切な通行人）：通りすがりにリズを気遣う役。
- ダニー・トレホ（タトゥーアーティスト）：短い出演ながら印象的なカメオ。
- ジンジャー・リン・アレン（負傷した少女）：ポルノスターとしての経験を活かし、リズの同僚役。
- エリザベス・モアヘッド（ケイティ）：脇役として登場。
- ジョン・ディール（浮浪者）：ストリートの雰囲気を補強。
- ケン・ラッセル（ウェイター）：監督自身がカメオ出演。
– その他：ダニエル・クイン、サンジェイ・チャンダニ、ジェイソン・ソウシアー、アマンダ・グッドウィンなど。
スタッフ
- 監督・脚本・カメラマン：ケン・ラッセル（カメラマンとして「アルフ」名義）。独特の風刺的スタイルで知られる英国人監督。
- 脚本：デボラ・ダルトン（ラッセルと共同）。ラジオ番組の売春に関する経験を活かし、原作を脚色。
- 原作：デヴィッド・ハインズ（一人芝居『Bondage』）。
- 製作：ロナルド・S・カーン、ダン・アイルランド。
- 配給：トリマーク・ピクチャーズ（米国）、ヴィドマーク・エンターテインメント（VHS）。
- 音楽：マイケル・ギブス。映画の暗いトーンを補強するスコアを提供。
まとめ
本作は、ケン・ラッセルの過激なスタイルとテレサ・ラッセルの力強い演技により、売春の現実を直視する作品として一定の評価を得ました。しかし、誇張された演出やテーマの曖昧さが批判され、商業的成功には至りませんでした。衣装やメイクは映画の風刺的なトーンを強調しつつ、リズのキャラクターに非現実的な美しさを付与。低予算ながらも、ラッセルの個性が随所に現れるカルト映画として、特定のファンに愛されています。
レビュー 作品の感想や女優への思い