『殺しのストッキング』(原題:夜驚魂)は1982年公開の香港サスペンス・スリラー映画。レオン・ポーチ監督、張艾嘉(シルヴィア・チャン)、艾迪、鄭則仕(ケント・チェン)、任達華(サイモン・ヤム)、金燕玲(エレイン・ジン)らが出演。狂った女装の殺人鬼が、白いストッキングをはいた女性をつけ回し殺害するあらすじ。第2回香港電影金像奨で撮影賞と編集賞を受賞。
殺しのストッキング
- 原題:夜驚魂
- 英題:He Lives by Night
- 公開年:1982年
- 製作国:香港
- 上映時間:90分
- ジャンル:ホラー
- 製作会社:シネマシティ
- 配給会社:ゴールデン・プリンセス・アミューズメント社、メガスター・ビデオ配給、日活ほか。
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ファム・ファタル
女性は被害者ばかりなのでピックアップしにくいですが、辛うじて主演女優に注目できます。
『殺しのストッキング』では、シルビア・チャン(張艾嘉)が主演女優として圧倒的な存在感を発揮しています。彼女は被害者の一人でありながら、事件の謎に迫る重要な役割を担う女性を演じ、恐怖と勇気を両立させた繊細な演技で観客を引き込みます。シルビアは1970年代から香港映画界で活躍し、本作ではそのキャリアの円熟期を示すパフォーマンスを見せています。彼女の感情表現は、恐怖に怯えるシーンから犯人への対峙まで幅広く、特にクライマックスの緊迫した場面では観客の心を掴みます。また、助演女優として登場する他の女性キャストも、猟奇的な事件の被害者や関係者として物語に深みを加えており、当時の香港映画らしいダイナミックな女性像を描いています。シルビアの演技は、本作が単なるホラー映画にとどまらず、心理ドラマとしての側面を持つ要因となっています。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の衣装は、1980年代初頭の香港の都市的な雰囲気を反映しています。シルビア・チャン演じるキャラクターは、都会的な女性として洗練された装いを見せます。彼女の衣装は、タイトなスカートやブラウス、ハイヒールといった当時のトレンドを取り入れ、女性らしさと同時に事件に巻き込まれる脆弱さを表現。夜のシーンでは、ダークトーンのドレスやコートが登場し、緊張感を高める効果を上げています。
メイクアップは、ナチュラルでありながらもドラマチックな要素が加えられています。シルビアのメイクは、普段のシーンでは薄化粧で清潔感を強調し、恐怖のシーンでは汗や涙で崩れることでリアリティを演出。アイメイクは、大きく見開く目元を強調するためにマスカラとアイライナーが使用され、感情の揺れを視覚的に表現しています。
ヘアスタイルは、シルビアがセミロングのゆるいウェーブヘアを採用。1980年代の香港映画らしい華やかさを持ちつつ、事件の混乱を反映して乱れる場面も多く、キャラクターの心理状態を象徴しています。
助演女優たちも、同様に当時の流行を取り入れたヘアスタイルで、個々のキャラクター性を際立たせています。
感想
つい2018年の愛媛県今治市の事件や、60年代のボストン絞殺魔事件を想像してしまいますが…。
『殺しのストッキング』は、狂った女装の殺人鬼が、白いストッキングをはいた女性をつけ回し殺害するあらすじ。ダリオ・アルジェントのカラフルなホラー映画やデ・パルマの『殺しのドレス』の影響を受けていそう。サイモン・ヤム、ケント・チェン、シルヴィア・チャンの演技が素晴らしい。コメディとホラーの融合はとくに好きではありませんが、『He Lives By Night』は楽しめました。
あらすじ
『殺しのストッキング』は、香港の夜を舞台に、ストッキングを使った猟奇的な連続殺人事件を描くサスペンスホラーです。物語は、若い女性たちが次々と殺害される事件から始まります。犯人は被害者の首をストッキングで絞め、現場に不気味な痕跡を残します。シルビア・チャン演じる主人公は、被害者の一人として事件に巻き込まれながらも、犯人の正体を追う決意をします。警察の捜査が進む中、犯人の異常な心理や動機が徐々に明らかになり、主人公は自らの命を危険に晒しながら真相に迫ります。夜の香港の暗い路地や高層ビルが舞台となり、緊張感あふれる展開が続きます。クライマックスでは、主人公と犯人の直接対決が描かれ、予想外の結末が観客を驚かせます。
解説
ある男が精神病院を退院後、女装した夜のストーカーとなり、白い網タイツをはいた女性を襲います。その殺人事件のひとつが、深夜のトークラジオ司会者の家の前で発生。二人の捜査官が彼女に注目したことから、彼女は事件に巻き込まれていきます。シルヴィアは自分の番組で犯人に反論し、やがて自分が囮になることを許します。
『殺しのストッキング』は、1980年代の香港映画が持つ独特のエネルギーと実験精神を体現した作品。当時の香港映画は、アクションやカンフーだけでなく、ホラーやサスペンスのジャンルでも国際的な注目を集めていました。本作は、イタリアのジャッロ映画(猟奇サスペンス)の影響を受けつつ、香港の都市文化や社会不安を背景に独自のスタイルを確立しています。ストッキングという日常的なアイテムを凶器として用いる設定は、観客に身近な恐怖を与え、心理的な不安を煽ります。監督のレオン・ポーチは、低予算ながら効果的な演出で緊張感を維持。暗い照明や不協和音のサウンドトラックを活用し、観客の恐怖心を刺激します。また、シルビア・チャンの演技は、単なる被害者役を超え、主体的に事件に立ち向かう女性像を描き、当時の女性観にも一石を投じています。本作は、商業的な成功を収め、香港ホラー映画のカルトクラシックとして現在も評価されています。
キャスト
- シルビア・チャン(張艾嘉):主人公シッシー役。事件に巻き込まれる女性で、犯人を追う決意をする。
- ケント・チェン(鄭則士):捜査を担当する刑事。事件の鍵を握る。
- サイモン・ヤム(任達華):老虎仔役。謎めいた人物。犯人との関連が疑われる。
- メルビン・ウォン(黄錦燊):警察の上司。チームを指揮する。
助演として、複数の若手女優が被害者や脇役として登場し、物語に彩りを添えています。
スタッフ
- 監督:レオン・ポーチ(鮑起鳴)
- 脚本:レオン・ポーチ
- 共同脚本家製作:ショウ・ブラザーズ(邵氏兄弟)
- 撮影:アーサー・ウォン(黄岳泰)
- 音楽:クリス・バビダ
- 編集:チェン・キーホウ
製作は香港映画界の巨頭、ショウ・ブラザーズが担当。撮影のアーサー・ウォンは、暗い都市の雰囲気を巧みに捉え、音楽のクリス・バビダは不気味な音響で緊張感を高めています。
総括
『殺しのストッキング』は、1982年の香港映画として、サスペンスホラーの傑作であり、シルビア・チャンの演技や当時の香港の都市文化を反映した衣装・メイクが魅力です。猟奇的なストーリーと心理的な緊張感は、現代の観客にも新鮮に映るでしょう。ショウ・ブラザーズの製作による高いクオリティと、レオン・ポーチの演出が融合した本作は、香港映画史に残る一作です。
レビュー 作品の感想や女優への思い