[PR]お買い物なら楽天市場

四方田犬彦・斉藤綾子『映画女優 若尾文子』

『映画女優 若尾文子』(四方田犬彦・斉藤綾子著、みすず書房、2003年初版、2016年新装版)は、日本映画史における伝説的女優、若尾文子(1933年11月8日生まれ)のキャリアと魅力を深く掘り下げた評論集。大映の看板女優として1950~60年代の日本映画黄金期を牽引し、特に増村保造監督との名コンビで知られる若尾の映画人生を、2人の映画研究者が学術的かつ情熱的に分析。また、若尾本人へのインタビューや詳細なフィルモグラフィーも収録されています。

スポンサーリンク

概要

本書は、若尾文子が大映専属女優として活躍した時代を中心に、彼女の演技スタイル、役柄の変遷、監督との関係性を考察。溝口健二、川島雄三、吉村公三郎といった巨匠との仕事も取り上げつつ、特に増村保造との20本のコラボレーションに焦点を当て、若尾が体現した「欲望と自立」を軸に、彼女を日本映画史の頂点に位置づけます。160本以上の出演作から、若尾の多面的な魅力(可憐な少女、魔性の女、激情の人妻など)を浮き彫りにし、高度成長期の新しい女性像を提示した意義を論じます。さらに、若尾自身の声や詳細な資料が、研究書としての価値を高めています。

スポンサーリンク

目次

以下は本書の構成です(新装版に基づく)。

第一部:欲望と民主主義(四方田犬彦)

  • 監督と女優
  • 増村保造の日本映画批判
  • スター、若尾文子
  • 『青空娘』から『妻は告白する』まで
  • 増村保造の女優観
  • 後期の作品
  • 欲望と民主主義

第二部:女優は抵抗する(斉藤綾子)

  • 不穏な瞬間
  • 文子は告白する
  • スターから女優へ
  • 若尾文子の重力
  • 愛を身体化する『清作の妻

第三部:若尾文子インタビュー

「自分以外の人間になりたい」(2002年9月26日、於:プリンスホテル、四方田・斉藤による)。

付録

  • 若尾文子全出演作フィルモグラフィー(159本、解説付き)
    年譜

感想

本書は、若尾文子のファンだけでなく、日本映画史やジェンダー研究に関心のある読者にとっても刺激的な一冊です。四方田犬彦の論文は、増村保造の映画哲学と若尾の演技を「欲望と民主主義」という枠組みで捉え、若尾が伝統的な女性像を打破した点を高く評価。斉藤綾子の論文は、女性視聴者の視点から若尾の「抵抗するヒロイン」を分析し、男性監督の視線を超えた彼女の普遍的魅力を強調します。インタビューでは、若尾のさっぱりとした性格とプロ意識(「過去の作品は振り返らない」「嫌な役は断る術を学んだ」)が垣間見え、彼女の人間的魅力に触れられます。

ただし、初版では事実誤認や誤字(例:『妻は告白する』の内容誤り、『男はつらいよ 純情篇』の役柄誤記)が散見され、読者に若干の失望を与えた点が指摘されています。新装版では一部訂正されたものの、完全ではないとの声も。学術書としての意気込みは素晴らしいが、細部の詰めの甘さが惜しまれます。それでも、若尾の映画を観た後に読むと、彼女の演技の深さや時代背景がより鮮明になり、未見の作品への好奇心を掻き立てられます。特に『妻は告白する』『清作の妻』『しとやかな獣』などの分析は、映画鑑賞のガイドとして秀逸です。

解説

若尾文子のキャリアと意義

若尾文子は1951年に大映の第5期ニューフェイスとしてデビューし、翌年の『死の街を脱れて』で銀幕デビュー。『十代の性典』(1953年)のヒットで「性典女優」と揶揄されつつ知名度を上げ、溝口健二の『祇園囃子』(1953年)で演技力を確立。増村保造との初タッグ『青空娘』(1957年)を皮切りに、『妻は告白する』(1961年)、『刺青』(1966年)、『赤い天使』(1966年)など、女性の主体性と官能性を描いた作品で独自の地位を築きました。川島雄三の『しとやかな獣』(1962年)では狡猾な悪女を、吉村公三郎の『清作の妻』(1965年)では愛に狂う人妻を演じ、多彩な役柄で観客を魅了。250本以上の出演作は、昭和の日本映画史そのものを体現しています。

本書の学術的アプローチ

四方田犬彦は、若尾を「個人の欲望と民主主義の結合」と位置づけ、増村作品の前半(『青空娘』など青春もの)と後半(『卍』『刺青』など谷崎文学、『清作の妻』など戦争・家族もの)に分けて論じます。彼女の演技が、高度成長期の日本社会における女性の自己決定を映し出したと分析。斉藤綾子は、若尾のヒロインが男性の視線を内包しつつ、女性観客にも共感を呼ぶ「若尾文子的問題」を提起。特に『清作の妻』での身体を通じた愛の表現を、若尾の演技の頂点と評します。

インタビューとフィルモグラフィーの価値

若尾のインタビューは、彼女の率直さとプロ意識を浮き彫りに。増村との「以心伝心」の関係や、小津安二郎への憧れ(「お嫁さんになりたいと思った」)、市 tensors:市川雷蔵との親交(「京都祇園のうどん」がきっかけ)など、貴重なエピソードが満載です。フィルモグラフィーは159本の出演作を詳細に解説し、研究者やファンにとって不可欠な資料。『若尾文子映画祭』(2015年、2020年など)での再評価や、4K復元版上映(『刺青』『青空娘』など)の背景も、本書の意義を裏付けます。

文化的インパクト

若尾は、伝統的な日本女性像(従順・犠牲的)を打ち破り、欲望に忠実で自立したヒロインを演じることで、フェミニズムの先駆けとも言える存在でした。増村のモダンな演出と若尾の妖艶な美貌は、戦後日本の価値観の変遷を映し出し、現代の観客にも新鮮な衝撃を与えます。Xでの投稿も、若尾の「生命の火が輝く」演技や「女優らしくない女優」としての魅力を称賛し、91歳(2024年時点)を迎えた今なお愛され続けていることを示しています。

結論

『映画女優 若尾文子』は、若尾の映画人生を多角的に照らし出す名著であり、彼女の代表作(特に増村作品)を観る前後のガイドとして最適です。学術的な厳密さに欠ける部分はあるものの、若尾の魅力と日本映画の黄金期を再発見する喜びに満ちています。興味を持った読者は、『妻は告白する』や『しとやかな獣』を鑑賞し、本書でその背景を深掘りすることをお勧めします。

レビュー 作品の感想や女優への思い

タイトルとURLをコピーしました