デヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』は、TVシリーズ『ツイン・ピークス』の前日譚。ワシントン州の町で起きたテレサ・バンクス殺人事件と、ローラ・パーマーの最期の7日間を描く。暗い心理描写と超自然的要素が交錯し、謎に満ちたサイコスリラー。
基本情報
- 邦題:ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間
- 原題:TWIN PEAKS: FIRE WALK WITH ME
- 公開年:1992年
- 製作国:米国
- 上映時間:135分
- ジャンル:サスペンス
- 配給:KADOKAWA
見どころ
謎が連鎖するTVドラマ「ツイン・ピークス」。その出発点となったローラ・パーマー殺害に焦点を当てる。キーファー・サザーランドとデヴィッド・ボウイが捜査官役で出演。
女優の活躍
本作の中心となる女優は、ローラ・パーマー役を演じたシェリル・リーです。彼女はTVシリーズ『ツイン・ピークス』で既にローラを演じており、その複雑なキャラクター像を映画でさらに深く掘り下げました。シェリル・リーは、ローラの美しさと内面的な葛藤、恐怖や絶望を見事に体現し、観客に強い印象を与えました。特に、彼女の感情的な演技は、ドラッグやセックスに溺れるローラの破滅的な生活と、彼女を追い詰める超自然的な存在「ボブ」への恐怖をリアルに表現。批評家からは、彼女の演技が映画の暗いトーンを支える核であると高く評価されています。
また、テレサ・バンクス役のパメラ・ギドリーも重要な役割を果たしました。彼女は物語の冒頭で殺害される被害者として登場し、短い出番ながらもミステリアスな存在感を示しました。ローラの友人ドナ・ヘイワード役には、TVシリーズのララ・フリン・ボイルに代わりモイラ・ケリーがキャスティングされ、新鮮な解釈でキャラクターを演じました。モイラ・ケリーは、ドナの純粋さとローラへの友情を繊細に表現し、物語に深みを加えています。
女優の衣装・化粧・髪型
ローラ・パーマーを演じたシェリル・リーの衣装は、彼女の二面性を強調するデザインが特徴です。高校生らしい清楚なセーターやスカートを着る場面では、明るい色合い(ピンクや白など)が用いられ、彼女の「学園の女王」としての外見を際立たせます。一方で、夜の場面では、黒や赤を基調とした大胆なドレスやタイトな衣装が登場し、彼女の堕落した生活や内面の闇を象徴しています。化粧は、昼間はナチュラルで若々しい印象を与える薄化粧ですが、夜のシーンでは濃いアイラインや赤いリップが強調され、彼女の不安定な精神状態を視覚的に表現。髪型は、緩やかなウェーブのかかった金髪が基本で、シーンに応じて乱れたり、整えられたりすることで、彼女の心理的動揺を反映しています。
ドナ・ヘイワード(モイラ・ケリー)の衣装は、ローラとは対照的にシンプルで控えめなものが多く、彼女の純粋さを強調。カジュアルなシャツやジーンズが多く、化粧も最小限で自然体な印象を与えます。髪型はストレートまたは軽く巻いたスタイルで、親しみやすい雰囲気を演出しています。テレサ・バンクス(パメラ・ギドリー)は、短い出番ながらも、労働者階級の生活を反映したカジュアルな服装(例:チェック柄のシャツ)が特徴で、化粧は薄く、髪はラフにまとめられています。これにより、彼女の漂流者的な背景が表現されています。
あらすじ
物語は、ワシントン州の田舎町ディア・メドウで起きたテレサ・バンクス(パメラ・ギドリー)の殺人事件から始まります。FBI特別捜査官チェスター・デズモンド(クリス・アイザック)とサム・スタンリー(キーファー・サザーランド)が捜査に当たりますが、デズモンドは謎の失踪を遂げます。1年後、隣町ツイン・ピークスに移り、物語はローラ・パーマー(シェリル・リー)の最期の7日間に焦点を当てます。ローラは高校生として人気者ですが、裏ではコカイン依存や複数の男性との関係に溺れ、精神的に追い詰められています。彼女は「ボブ」という正体不明の存在に長年悩まされており、秘密の日記帳にその恐怖を記しています。ある日、日記のページが破り取られる事件が発生し、ローラは「ボブ」の関与を直感。彼女の生活は、家族や友人、恋人との関係を通じてさらに混乱し、超自然的な恐怖と現実の葛藤が交錯する中、運命的な結末へと突き進みます。
解説
『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』は、TVシリーズ『ツイン・ピークス』(1990-1991年)の前日譚であり、シリーズの中心的な謎であるローラ・パーマーの死に至る経緯を詳細に描いた作品です。デヴィッド・リンチ監督の特徴であるシュールレアリスムと心理的ホラーが強く反映されており、TVシリーズの軽妙なユーモアや群像劇的要素とは異なり、暗く重いトーンが支配的です。リンチは、ローラの内面的な苦しみやトラウマを強調し、彼女を単なる被害者ではなく、複雑な人間として描き出しました。
映画は、テレサ・バンクス殺人事件の捜査とローラの物語の二部構成で進行し、超自然的な要素(「ボブ」や「ブラック・ロッジ」)と現実の闇(ドラッグ、性的搾取、家庭内問題)が交錯します。リンチの映像美は、暗い森や不気味な照明、象徴的な色彩(赤や黒)を用いて、不穏な雰囲気を構築。音楽はアンジェロ・バダラメンティによるもので、TVシリーズのテーマ曲を基調としつつ、より重厚で哀愁漂うスコアが物語を補完します。特に、エンドロールで流れるケルビーニの「レクイエム ハ短調」は、ローラの悲劇を浄化するような荘厳な響きを持ち、観客に深い余韻を残します。
本作は、1992年のカンヌ国際映画祭で上映された際、観客からブーイングを受けるなど賛否両論を呼びました。TVシリーズのファン向けに作られた複雑な内容や、シリーズ2の未解決の謎を扱わなかった点が批判された一方、日本では高い興行収入を記録し、カルト的な人気を博しました。2014年に公開された削除シーン集『Missing Pieces』は、編集でカットされた1時間30分の映像を補完し、物語の理解を深める重要な資料となっています。
キャスト
- ローラ・パーマー:シェリル・リー – 主人公。人気者の高校生だが、暗い秘密を抱える。
- テレサ・バンクス:パメラ・ギドリー – 物語冒頭の殺人被害者。
- ドナ・ヘイワード:モイラ・ケリー – ローラの親友。TVシリーズからキャスト変更。
- チェスター・デズモンド:クリス・アイザック – FBI捜査官。テレサの事件を調査。
- サム・スタンリー:キーファー・サザーランド – デズモンドのパートナー。
- デイル・クーパー:カイル・マクラクラン – FBI捜査官。TVシリーズの主人公。
- ゴードン・コール:デヴィッド・リンチ – FBI地方捜査主任。
- フィリップ・ジェフリーズ:デヴィッド・ボウイ – 謎のFBI捜査官。
- レイランド・パーマー:レイ・ワイズ – ローラの父親。
- ボビー・ブリッグス:ダナ・アシュブルック – ローラの恋人。
- ロネット・ポラスキー:フィービー・オーガスティン – ローラの友人。
ハリー・ディーン・スタントン、メッチェン・アメック、ヘザー・グラハムなど、TVシリーズからの多くの俳優が出演。
スタッフ
- 監督:デヴィッド・リンチ – 独特のシュールレアリスムで知られる巨匠。TVシリーズの共同制作者。
- 脚本:デヴィッド・リンチ、ロバート・エンゲルス – シリーズのストーリーを基に映画用に再構成。
- 製作:グレッグ・フィーンバーグ
- 製作総指揮:マーク・フロスト、デヴィッド・リンチ
- 音楽:アンジェロ・バダラメンティ – シリーズの象徴的な音楽を担当。
- 撮影:ロン・ガルシア – 不気味で美しい映像を構築。
- 編集:メアリー・スウィーニー – 5時間の初版を2時間15分に短縮。
総括
『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』は、デヴィッド・リンチの作家性を存分に発揮した作品であり、ローラ・パーマーの悲劇的な人生を掘り下げた心理的ホラーとして、TVシリーズのファンに深い感動を与える一方、新規の観客には難解な印象を与えるかもしれません。シェリル・リーの圧倒的な演技、印象的な衣装と音楽、そしてリンチ独特の映像美が融合し、カルト映画としての地位を確立しています。
レビュー 作品の感想や女優への思い