『スワンの恋』は1984年公開のフランス・西ドイツ合作映画。マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」より、19世紀末パリの社交界でユダヤ人青年スワンの恋愛を描く文芸ラブロマンス。ジェレミー・アイアンズ主演、フォルカー・シュレンドルフ監督。
基本情報
- 邦題:スワンの恋
- 原題:UN AMOUR DE SWANN
- 公開年:1984年
- 製作国:仏国・西独
- 上映時間:110分
- ジャンル:ドラマ
あらすじ
19世紀末のパリ社交界。裕福なユダヤ人青年シャルル・スワン(ジェレミー・アイアンズ)は、美術や音楽に造詣が深く、社交界の花形として活躍しています。ある日、彼は高級娼婦オデット・ド・クレシー(オルネラ・ムーティ)と馬車で同乗する機会を得ます。彼女の胸に飾られたカトレアの花を直すために触れた瞬間、スワンは激しい恋心にとらわれます。それまで楽しんでいたサロンや音楽会にも興味を失い、オデットの存在が彼の心を支配し始めます。しかし、オデットは高級娼婦としての過去や複雑な人間関係を抱えており、スワンの愛は嫉妬と疑惑に苛まれます。やがて彼はオデットの秘密を知り、恋の苦しみに翻弄されながらも、彼女への執着を断ち切ることができません。物語は、スワンの情熱的な愛と内面的葛藤を通じて、愛の本質と人間の心の複雑さを描き出します。
解説
『スワンの恋』(原題:Un amour de Swann)は、マルセル・プルーストの長編小説『失われた時を求めて』の第1篇「スワン家のほうへ」の第2部を映画化した作品です。プルーストの原作は「意識の流れ」を取り入れた文学的実験として知られ、20世紀文学の最高傑作の一つと評されます。本作は、その膨大な原作からスワンの恋愛に焦点を絞り、19世紀末のパリ社交界の華やかさと人間関係の複雑さを描いています。監督のフォルカー・シュレンドルフは、ニュー・ジャーマン・シネマの旗手として知られ、『ブリキの太鼓』(1979)で国際的な評価を受けた人物です。本作では、原作の心理描写を映像化する難題に挑戦し、豪華なキャストと美術・衣装で時代を再現しています。
映画は、スワンの恋愛を通じ、愛と嫉妬、階級社会やユダヤ人としてのアイデンティティ、さらには同性愛のテーマを背景に描きます。原作の複雑な構成を簡略化しつつ、ピーター・ブルックらによる脚本は文学性を保ちつつ視覚的な美しさを強調。特に、スヴェン・ニクヴィストの撮影による絵画のような映像美や、1984年セザール賞を受賞した美術と衣装デザインは、19世紀末の雰囲気を鮮やかに再現しています。カトレアや菊などの花が象徴的に登場し、物語の情感を深めています。しかし、原作の長大な内省を110分の映画に凝縮したため、一部の批評家からは原作の深みが不足しているとの声もあります。それでも、恋愛映画としてのメロドラマ的魅力や、豪華キャストの演技は高く評価されています。
女優の活躍
本作では、オルネラ・ムーティとファニー・アルダンが主要な女性キャラクターを演じ、それぞれ際立った存在感を示しています。
オルネラ・ムーティ(オデット・ド・クレシー役)
イタリア出身のオルネラ・ムーティは、高級娼婦オデットを魅力的に演じました。彼女の美貌と妖艶な雰囲気は、スワンを虜にするキャラクターにぴったりで、特に馬車でのシーンや社交界での振る舞いでその魅力を発揮しています。ムーティの演技は、計算された誘惑と無垢な愛らしさを両立させ、観客にオデットの複雑な内面を垣間見せます。一部のレビューでは、彼女の演技が原作のオデット像と異なるという意見もありますが、その美しさと存在感は作品の印象を強く残しました。
ファニー・アルダン(ゲルマント公爵夫人役)
フランスを代表する女優ファニー・アルダンは、気品あるゲルマント公爵夫人を演じ、短い登場時間ながらも強い印象を与えました。彼女の優雅で知的な演技は、社交界の洗練された女性像を体現。特に、赤い靴のエピソードでの登場は、原作ファンにも評価される名シーンです。アルダンの存在感は、物語に深みを与え、階級社会の微妙な力学を表現しています。
その他の女優
マリー・クリスティーヌ・バロー(ヴェルデュラン夫人役)やアンヌ・ベネント(クロエ役)も、脇役ながら時代劇らしい風格で物語を支えています。特にバローは、社交界のサロンを主催する女性として、独特の権威と人間味を表現しました。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の衣装デザインはイヴォンヌ・サシノー・ド・ネスルが担当し、1984年セザール賞の衣装デザイン賞を受賞しました。19世紀末のパリ社交界を反映した豪華で精緻な衣装は、映画の視覚的魅力の中心です。
オルネラ・ムーティ(オデット)
オデットの衣装は、高級娼婦らしい華やかさと官能性を強調。淡いパステルカラーのドレスや、胸元を飾るカトレアの花が特徴的で、彼女の魅力を引き立てます。化粧は、ナチュラルでありながら唇や目の強調が施され、誘惑的な印象を強めています。髪型は、ゆるやかなアップスタイルやカールが施されたダウンヘアで、時代感と女性らしさを表現。特にサロンでのシーンでは、複雑な髪飾りが彼女の地位と個性を際立たせます。
ファニー・アルダン(ゲルマント公爵夫人)
アルダンの衣装は、貴族階級の気品を反映した重厚なドレスが中心。深紅や濃紺の生地に、金刺繍やレースが施され、威厳ある美しさを演出。化粧は控えめながら、頬のチークと上品なリップで高貴な印象を強調。髪型は、タイトなアップスタイルに宝飾品をあしらい、洗練された雰囲気を醸し出しています。赤い靴のシーンでは、衣装と靴のコントラストが視覚的に印象的です。
その他の女優
ヴェルデュラン夫人やクロエの衣装も、階級や役割に応じたデザインが施されています。ヴェルデュラン夫人のドレスは、派手さの中にもサロン主催者としての威厳があり、髪型はボリュームのあるアップスタイルで存在感をアピール。化粧は、時代に即した白粉と濃いアイメイクで、社交界の雰囲気を再現しています。
キャスト
- ジェレミー・アイアンズ(シャルル・スワン):主人公のユダヤ人青年。情熱と葛藤を熱演。
- オルネラ・ムーティ(オデット・ド・クレシー):高級娼婦でスワンの恋の相手。
- アラン・ドロン(シャルリュス男爵):貴族の友人として独特の存在感。
- ファニー・アルダン(ゲルマント公爵夫人):気品ある貴族女性。
- マリー・クリスティーヌ・バロー(ヴェルデュラン夫人):サロンの主催者。
- アンヌ・ベネント(クロエ):脇役ながら印象的な演技。
- ジャック・ブーデ(ゲルマント公爵):公爵夫人を支える役。
- ジュフロワ・トリー(フォルシュヴィル子爵):社交界の人物。
スタッフ
- 監督:フォルカー・シュレンドルフ(『ブリキの太鼓』の監督)
- 製作:マルガレット・メネゴス
- 脚本:ピーター・ブルック、ジャン・クロード・カリエール、マリ・エレーヌ・エスティエンヌ
- 撮影:スヴェン・ニクヴィスト(イングマール・ベルイマン作品で知られる名カメラマン)
- 音楽:ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ
- 編集:フランソワーズ・ボノー
- 美術:ジャック・ソルニエ
- 衣装:イヴォンヌ・サシノー・ド・ネスル(セザール賞受賞)
レビュー 作品の感想や女優への思い