2022年製作のアメリカ映画『ナニー』は、移民女性の苦悩を描くサイコロジカルホラー。セネガル出身のアイシャがニューヨークでナニーとして働き、息子を呼び寄せる夢を追いながら、奇妙な現象に直面。主演のアナ・ディオプが圧倒的な存在感を発揮。Amazon Prime Videoで配信。
基本情報
- 邦題:ナニー
- 原題:Nanny
- 公開年:2022年
- 製作国:米国
- 上映時間:97分
- ジャンル:ホラー
あらすじ
セネガル出身のアイシャは、ニューヨークで裕福な夫婦に雇われた不法就労のナニーとして働き始めます。彼女の目標は、西アフリカに残してきた幼い息子をアメリカに呼び寄せることです。雇い主であるアッパーイーストサイドの特権階級の夫婦、エイミーとアダムの家で、娘ローズの世話をしながら、アイシャは懸命に貯金をします。しかし、雇い主の家庭内の緊張や微妙な力関係、そしてアイシャ自身の孤立感が徐々に彼女を追い詰めます。さらに、不可解な幻覚や悪夢がアイシャを襲い始め、現実と幻想の境界が曖昧になっていきます。これらの現象は、西アフリカの民間伝承に登場する水の精霊「マミワタ」やクモのトリックスター「アナンシ」と結びつき、アイシャの精神と現実を揺さぶります。彼女のアメリカンドリームは、次第に恐怖と悲劇に飲み込まれていきます。物語は、移民としての苦悩、母子の絆、そして文化的なアイデンティティを軸に展開し、衝撃的な結末へと向かいます。
解説
『ナニー』(原題:Nanny)は、2022年のサンダンス映画祭でグランド・ジュリー賞を受賞した作品で、監督ニキヤトゥ・ジュースの長編デビュー作です。本作は、サイコロジカルホラーと社会派ドラマを融合させ、移民女性の視点からアメリカ社会の階級格差や人種差別、文化的疎外感を鋭く描き出します。物語の中心には、セネガル出身のアイシャが抱える母としての切実な願いと、異国での孤独や不安が織り交ぜられ、ホラー要素は彼女の心理的な葛藤を象徴的に表現しています。特に、西アフリカの民間伝承である「マミワタ」や「アナンシ」を取り入れることで、アイシャの文化的背景とアメリカ社会での疎外感が交錯する独特な雰囲気を生み出しています。これらの神話的要素は、単なるホラー演出を超え、移民としてのアイデンティティやトラウマを視覚化する役割を果たします。映画は、ブラムハウス・プロダクションズが製作に関与し、ホラー映画の枠組みを借りつつも、深い社会的メッセージを内包しています。視覚的な美しさ、音楽の効果的な使用、そして主演のアナ・ディオプの迫真の演技が、物語の感情的な重みを増幅させ、観客に強い印象を残します。ただし、一部のレビューでは、物語の抽象性や結末の急展開が賛否両論を呼んでおり、説明不足と感じる観客もいるようです。それでも、移民経験や母子の絆をテーマにした本作は、現代社会の課題を映し出す力作として評価されています。
女優の活躍
本作の主演を務めるアナ・ディオプは、アイシャ役として圧倒的な存在感を発揮しています。セネガル出身の移民女性という複雑な役どころを、繊細かつ力強く演じ切り、観客に深い感情移入を促します。ディオプは、アイシャの内に秘めた強さと脆弱性を巧みに表現し、特に幻覚や悪夢に悩まされるシーンでは、恐怖と混乱を見事に体現しています。彼女の演技は、物語の感情的な核となり、アイシャの母としての切実な願いや異国での孤立感を観客に強く訴えかけます。ディオプは、DCドラマ『タイタンズ』のスターガール役で知られていますが、本作ではそれまでのアクションやスーパーヒーロー役とは異なる、深い内面の演技に挑戦し、新たな一面を見せました。彼女の演技は、サンダンス映画祭での受賞や批評家の称賛にもつながり、国際的な注目を集めました。
また、ミシェル・モナハンもエイミー役として重要な役割を果たし、特権階級の母親としての複雑な感情を巧みに表現しています。モナハンは、表面的には親しみやすいが、内に秘めた不安定さや支配的な一面を持つキャラクターを説得力を持って演じ、アイシャとの緊張感ある関係性を際立たせています。
女優の衣装・化粧・髪型
アナ・ディオプ演じるアイシャの衣装は、彼女の移民としての背景とナニーとしての立場を反映した、シンプルかつ実際的にデザインされています。アイシャの衣装は、カジュアルなブラウスやスカート、動きやすいパンツなど、ナニーの仕事に適した控えめなものが中心です。色彩は落ち着いたアースカラーやモノトーンが多く、彼女の控えめな性格や経済的状況を象徴しています。特に、セネガル文化を反映した鮮やかな柄のスカーフやアクセサリーが時折登場し、アイシャのルーツをさりげなく表現しています。これらの衣装は、物語が進むにつれて彼女の精神的混乱を反映するように、やや乱れたり暗い色調に変化する場面も見られます。化粧は非常にナチュラルで、アイシャの日常的な生活感を強調。ほとんどメイクを施さない素顔に近い状態で、彼女の疲労や感情の揺れを自然に表現しています。髪型は、シンプルなポニーテールや編み込みが多く、ナニーとしての実用性を優先しつつ、セネガル出身のアイシャらしいアフリカンスタイルの要素が取り入れられています。
一方、ミシェル・モナハン演じるエイミーの衣装は、ニューヨークの上流階級を象徴する洗練されたスタイルです。タイトなドレスや高級感のあるコート、デザイナーブランドを思わせるアクセサリーが特徴で、彼女の社会的地位を強調します。エイミーの化粧は、完璧に整ったベースメイクに控えめなリップとアイメイクを施し、洗練された美しさを演出。髪型は、緩やかなウェーブのかかったロングヘアやエレガントなアップスタイルで、特権階級の女性らしい雰囲気を醸し出しています。これらの対比的な衣装・化粧・髪型は、アイシャとエイミーの社会的立場や文化的背景の違いを視覚的に強調し、物語のテーマを補強しています。
キャスト
- アナ・ディオプ(アイシャ):セネガル出身のナニーで、息子をアメリカに呼び寄せる夢を抱く主人公。
- ミシェル・モナハン(エイミー):アイシャの雇い主で、裕福だが家庭内に問題を抱える母親。
- シンカ・ウォールズ(アダム):エイミーの夫で、仕事に忙殺されるフォトジャーナリスト。
- モーガン・スペクター(ジェシー):エイミーとアダムの友人で、物語に絡む重要な脇役。
- ローズ・デッカー(ローズ):アイシャが世話をするエイミーとアダムの娘。
- レスリー・アガムズ(キャスリーン):アイシャの友人で、彼女を支える存在。
スタッフ
- 監督:ニキヤトゥ・ジュース(Nikyatu Jusu):サンダンス受賞の長編デビュー作で、独自の視点を提示。
- 脚本:ニキヤトゥ・ジュース:文化的要素とホラーを融合した脚本を執筆。
- 製作:ニッキア・ムールテリー、ダニエラ・タプリン・ランバーグ:ブラムハウス・プロダクションズが関与。
- 撮影:リナ・ヤン:幻想的かつ現実的な映像美で物語を支える。
- 音楽:バリサ・ナビ、タナール・アイズ:西アフリカの要素を取り入れた音楽で雰囲気を演出。
- 編集:ロバート・ミード:緊張感と感情の流れを巧みに構築。
レビュー 作品の感想や女優への思い