『恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(1989年、米国)はジャズピアニスト兄弟と女性シンガーの恋と葛藤を描くロマンチックなドラマ。ミシェル・ファイファーの歌声とブリッジス兄弟の熱演が光る。
基本情報
- 邦題:恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ
- 原題:THE FABULOUS BAKER BOYS
- 公開年:1989年
- 製作国:米国
- 上映時間:109分
- ジャンル:ドラマ
あらすじ
シアトルのナイトクラブで演奏するジャズピアニストの兄弟、フランク・ベイカー(ボー・ブリッジス)とジャック・ベイカー(ジェフ・ブリッジス)は、「ザ・ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」として活動しているが、かつての人気はなくなり、安いラウンジでの演奏で生計を立てていた。弟のジャックは過去の栄光を忘れられず、酒に溺れる日々を送っている。兄のフランクはそんな弟を心配し、グループの再起を図るため、女性ボーカリストを加えることを提案する。
オーディションに遅刻して現れたスージー・ダイヤモンド(ミシェル・ファイファー)は、ガムを噛み、気障で蓮っ葉な態度を見せるが、歌い始めるとその歌声に兄弟は魅了される。特にジャックは彼女の才能に惹かれ、即座に採用を決定。新生「ベイカー・ボーイズ」はスージーの魅力的な歌声とパフォーマンスで人気を取り戻し、観客を魅了していく。
しかし、ジャックとスージーの間に芽生えた恋心は、兄弟間の関係やグループの結束に複雑な影響を及ぼす。スージーの自己主張が強まるにつれ、フランクとの意見の対立が表面化し、ジャックもまた自分の音楽への情熱と人生の方向性に悩む。やがて、スージーはジャックの複雑な心情を理解できず彼を「負け犬」と罵り、グループを去る。ベイカー・ボーイズは解散の危機に瀕し、兄弟も疎遠になるが、ジャックは音楽への情熱を失わず、自分にとって本当に大切なものを見つけ出していく。
女優の活躍
本作のヒロイン、スージー・ダイヤモンドを演じたミシェル・ファイファーは、この映画で圧倒的な存在感を示しました。彼女は女優としてだけでなく、歌手としても才能を発揮し、吹き替えなしで全曲を歌い上げています。特に、ピアノの上で「メイキン・ウーピー」を歌うシーンは、彼女の妖艶な魅力と歌唱力が際立つ名場面として広く知られています。
ファイファーは、撮影開始の2ヶ月前からボイストレーナーのサリー・スティーヴンスのもとで1日10時間の猛特訓を行い、録音テープを持ち帰って復習するなど、徹底した準備を行いました。この努力により、彼女はジャズのスタンダードナンバーを情感豊かに歌いこなし、批評家からも高い評価を受けました。
彼女の演技は、スージーの強気で自立した性格と、内に秘めた脆さを絶妙に表現し、物語に深みを加えています。ファイファーのパフォーマンスはアカデミー賞助演女優賞にノミネートされるなど、彼女のキャリアにおける重要な一歩となりました。
女優の衣装・化粧・髪型
ミシェル・ファイファー演じるスージー・ダイヤモンドの衣装、化粧、髪型は、彼女のキャラクターを象徴する重要な要素です。スージーの衣装は、シアトルのナイトクラブという舞台にふさわしく、セクシーで華やかなデザインが特徴です。特に、赤いスパンコールのドレスを着てピアノの上で歌う「メイキン・ウーピー」のシーンは印象的で、身体にフィットしたドレスが彼女の動きと歌声を際立たせ、観客を魅了します。初期のオーディションシーンでは、カジュアルで少し無造作な服装が彼女の蓮っ葉な性格を反映し、物語が進むにつれて洗練されたステージ衣装へと変化していく様子が、彼女の成長やグループの成功を視覚的に表現しています。
化粧は、ナイトクラブの照明の下で映えるよう、鮮やかなリップカラーやスモーキーなアイメイクが施され、彼女の顔立ちの美しさを強調。スージーの強気な性格を反映しつつ、どこか憂いを帯びた表情を引き立てるメイクが施されています。髪型は、ブロンドのゆるやかなウェーブが特徴で、1980年代後半のトレンドを取り入れつつ、彼女の自由奔放なキャラクターにマッチしたスタイルです。ステージ上では、髪を下ろしたナチュラルなスタイルや、軽くアップにしたヘアスタイルが登場し、シーンごとに異なる魅力を放っています。これらの要素は、スージーの個性と物語の雰囲気を視覚的に補強し、観客に強い印象を与えました。
解説
『恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』は、監督・脚本のスティーヴ・クローヴスのデビュー作であり、彼の繊細なストーリーテリングとキャラクター描写が光る作品です。本作は、音楽と恋愛を通じて人生の悲哀と再生を描いた都会派のラブストーリーであり、1980年代後半のアメリカ映画の洗練された雰囲気を体現しています。クローヴスは、ピアノデュオのフェランテ&テイチャーに着想を得てこの物語を創作し、兄弟間の絆や葛藤、そして音楽への情熱を丁寧に描き出しました。ジャズやスタンダードナンバーをアレンジしたデイヴ・グルーシンの音楽は、シアトルのナイトクラブの雰囲気を完璧に再現し、物語に深い情感を与えています。特に、ミシェル・ファイファーの歌唱シーンは、映画の情感を高める重要な要素であり、彼女の努力と才能が作品の成功に大きく貢献しました。
本作は、単なる恋愛物語にとどまらず、自己実現や人間関係の複雑さを描いた作品でもあります。ジャックの音楽への情熱とスージーの自立心、フランクの現実的な視点が交錯し、それぞれのキャラクターが抱える葛藤が丁寧に描かれています。批評家からは、ブリッジス兄弟のリアルな兄弟関係を活かした演技や、ミシェル・ファイファーの多面的な魅力が高く評価され、映画はアカデミー賞の複数部門にノミネートされました。現代でも色褪せることなく、音楽と人間ドラマの融合を楽しめる名作として愛されています。
キャスト
- ミシェル・ファイファー(スージー・ダイヤモンド):新加入の女性ボーカリスト。歌声と魅力でグループを再興させるが、恋愛と葛藤の中心人物。
- ジェフ・ブリッジス(ジャック・ベイカー):弟のピアニスト。天才肌だが自堕落で、音楽とスージーへの情熱に揺れる。
- ボー・ブリッジス(フランク・ベイカー):兄のピアニスト。現実的でグループのマネジメントを担うが、弟との関係に悩む。
- エリー・ラーブ(ニーナ):ジャックの近隣に住む少女で、彼に心を開く存在。
- ジェニファー・ティリー(モニカ):オーディションに参加する歌手の一人。
- ザンダー・バークレイ(ロイド):脇役として登場。
- デイキン・マシューズ(チャーリー):脇役として登場。
- ケン・ラーナー(レイ):脇役として登場。
- アルバート・ホール(ヘンリー):脇役として登場。
スタッフ
- 監督・脚本:スティーヴ・クローヴス(デビュー作で、後の「ハリー・ポッター」シリーズ脚本家)
- 製作:ポーラ・ワインスタイン、マーク・ローゼンバーグ
- エグゼクティブプロデューサー:シドニー・ポラック
- 撮影:ミハエル・バルハウス
- 音楽:デイヴ・グルーシン(ジャズとスタンダードナンバーのアレンジを担当)
- 編集:ウィリアム・スタインカンプ
- 美術:ジェフリー・タウンゼント
- 衣装:リサ・ジェンセン
レビュー 作品の感想や女優への思い