『バーガンディー公爵』は、ピーター・ストリックランド監督による2014年のイギリス・ハンガリー合作のエロティック・ロマンス映画。蝶の研究者であるシンシアとエヴリンによるサディスティックな関係性を軸に、愛と支配、性的欲望の複雑さを描く。全編女性キャストで構成され、1970年代のヨーロッパのカルト映画に影響を受けた独特の映像美と音楽が特徴。
基本情報
- 邦題：バーガンディー公爵
- 原題：The Duke of Burgundy
- 公開年：2014年
- 製作国：英国、ハンガリー
- 上映時間：104分
女優の活躍
本作『バーガンディー公爵』の主演を務めるシドセ・バベット・クヌッセン（シンシア役）とキアラ・ダンナ（エヴリン役）は、共に卓越した演技で映画の深みを引き立てています。
シドセ・バベット・クヌッセンは、デンマーク出身の女優で、テレビシリーズ『ボーゲン』での政治家役で国際的に知られています。本作では、年上の蝶学者シンシアとして、支配的な役割を演じつつも、内面的な脆さと葛藤を見事に表現。彼女の表情と仕草は、言葉以上にキャラクターの感情を伝え、特に終盤の感情的な崩壊シーンでは圧倒的な存在感を示します。クヌッセンは、抑えた演技でシンシアの複雑な心理を繊細に描き出し、批評家から高い評価を受けました。彼女の演技は、映画のテーマである愛と犠牲のバランスを象徴するもので、観客に深い印象を与えます。
キアラ・ダンナは、イタリア出身の若手女優で、エヴリン役として本作で注目を集めました。彼女はシンシアの若い恋人であり、従順な役割を担うキャラクターを演じますが、その裏に強い意志と欲望を秘めています。ダンナの演技は、エヴリンの表面的な従順さと、支配的な関係を求める内面的な情熱を見事に両立させています。特に、繰り返されるロールプレイのシーンでの微妙な表情の変化や、感情的な爆発の場面での迫力は、彼女の演技力の高さを証明しています。クヌッセンとダンナの化学反応は、映画の中心的な愛の物語を支え、観客を引き込む重要な要素となっています。両女優とも、身体的な表現や視線だけで感情を伝えるシーンが多く、その繊細さが本作の芸術性を高めています。
脇役では、モニカ・スウィンがドクター・フラクシニ役で出演。彼女は1970年代のジェス・フランコ監督作品で知られ、30年ぶりの映画出演となりました。スウィンの存在感は、映画のレトロな雰囲気とリンクし、作品に深みを加えています。
その他、少数の女性キャストが脇役として登場し、全員が物語の独特な世界観を支える役割を果たしています。批評家は特に、クヌッセンとダンナのデュオが映画の成功の鍵であると称賛し、彼女たちの演技が映画の感情的な核心を担っていると評価しています。
女優の衣装・化粧・髪型
『バーガンディー公爵』の衣装、化粧、髪型は、映画の視覚的魅力とテーマ性を強調する重要な要素です。衣装デザインは、1970年代のヨーロッパ映画、特にジェス・フランコやルイス・ブニュエルの作品を彷彿とさせるレトロで官能的なスタイルが特徴です。
シンシア（シドセ・バベット・クヌッセン）の衣装は、ダークトーンのベルベットやシルクのドレス、タイトなコルセット、ガーターストッキングなど、支配的な女性像を強調するものが多く、彼女のキャラクターの威厳と脆さを同時に表現しています。特に、黒や深緑のドレスに合わせたロンググローブは、彼女の厳格な外見と内面の葛藤を象徴するアイテムとして機能します。シンシアの髪型は、クラシックなアップスタイルや緩やかなウェーブで、洗練された大人の女性像を演出。化粧は控えめながら、赤みを帯びた口紅や濃いアイラインで、彼女の強さと官能性を際立たせています。
エヴリン（キアラ・ダンナ）の衣装は、シンシアとは対照的に、シンプルで従順なメイド服や薄手の白いブラウスが中心です。これらの衣装は、彼女の役割である「従順なメイド」を強調しつつ、徐々にその裏に隠された強い欲望を暗示するデザインに変化していきます。物語が進むにつれ、エヴリンの衣装はより大胆になり、黒いランジェリーやレースのガウンなどが登場し、彼女の内面的な変貌を視覚的に表現します。エヴリンの髪型は、緩やかなカールやポニーテールで若々しさを保ちつつ、時に乱れたスタイルで彼女の感情の揺れを表現。化粧はナチュラルで、淡いピンクの口紅や軽いアイメイクが中心ですが、特定のシーンではダークなアイシャドウが用いられ、彼女の情熱的な一面を強調します。
映画全体の衣装デザインは、色彩と素材感にこだわり、秋の森を思わせるアースカラーを基調としています。化粧と髪型も、時代設定が曖昧な本作の世界観に合わせ、古典的でありながら現代的な要素を融合。衣装チームは、キャラクターの心理的変化を反映するように細部まで計算し、視覚的に物語を補完しています。特に、蝶のモチーフが衣装やアクセサリーに取り入れられ、映画のレピドプテロロジー（蝶の研究）テーマとリンクしています。これらの要素は、映画の官能的かつ詩的な雰囲気を強化し、視覚的な美しさを際立たせる役割を果たしています。
あらすじ
『バーガンディー公爵』は、ヨーロッパのどこかにある古い屋敷を舞台に、蝶の研究者であるシンシア（シドセ・バベット・クヌッセン）とその若い恋人で弟子のエヴリン（キアラ・ダンナ）の関係を描きます。物語は、エヴリンがシンシアのメイドとして働き、厳格なルールと高い清潔基準を課されるシーンから始まります。エヴリンが家事を完璧にこなせなかった場合、シンシアは彼女を罰しますが、これは二人が合意の上で行うサディスティックなロールプレイの一部であることが明らかになります。エヴリンはシンシアに詳細な指示を書き、特定のシーンを繰り返すよう求め、支配と従順の関係を深めていきます。
しかし、シンシアはこの役割に疲れ始め、支配者としての役割に葛藤を感じます。一方、エヴリンはさらに過激な罰を求め、二人の関係に緊張が生じます。エヴリンが新しい罰としてトランクに閉じ込められることを望むと、シンシアは渋々同意しますが、トランクを動かす際に背中を痛め、自身の加齢を実感します。関係はさらに複雑になり、シンシアはエヴリンが別の女性のブーツを磨いたと誤解し、嫉妬と裏切りの感情を抱きます。エヴリンの誕生日には、シンシアが彼女に自分でケーキを焼かせ、足を顔に乗せるという屈辱的な行為を行いますが、エヴリンは安全ワード「ピナストリ」を叫び、シンシアが無視する中、関係は崩壊の危機に瀕します。
最終的に、シンシアはエヴリンの要求に応じきれず、感情的に壊れ、ロールプレイを中断。二人とも性的フェティシズムから距離を置こうとしますが、映画の最後ではエヴリンが再びメイド服で屋敷のドアベルを鳴らし、サイクルが繰り返されることを暗示して終わります。この結末は、二人の関係が完全には解決しない複雑さと、愛と欲望の間の葛藤を象徴しています。
解説
『バーガンディー公爵』は、ピーター・ストリックランド監督が1970年代のヨーロッパのエロティック映画、特にジェス・フランコやルイス・ブニュエルの作品にインスパイアされて制作した作品です。映画は、支配と従順、愛と犠牲、性的欲望と人間関係の複雑さを探求し、伝統的なエロティック映画の枠組みを現代的な視点で再構築しています。全編女性キャストで構成され、男性が一切登場しない設定は、女性の視点から欲望と関係性を描くための意図的な選択であり、ジェンダーの固定観念を打破する試みでもあります。
映画の原題「The Duke of Burgundy」は、蝶の一種「Hamearis lucina（鍵盤模様の蝶）」の英語名であり、蝶の研究が物語の中心テーマとして機能します。蝶は、変態や美、束縛といった象徴的な意味を持ち、シンシアとエヴリンの関係のメタファーとして用いられています。映画の視覚的スタイルは、鮮やかな色彩、柔らかな照明、蝶の標本や自然の映像を多用し、夢のような雰囲気を醸し出します。特に、キャッツ・アイズによるサウンドトラックは、ハープシコードやフルート、オーボエを用いた秋の雰囲気漂う音楽で、映画の感情的なトーンを強化。批評家は、この音楽が映画の独特な世界観に完璧にマッチしていると評価しています。
物語は、表面的にはサディスティックな関係を描いていますが、その核心には、愛する相手のために自己を犠牲にする行為や、性的欲望と感情的な親密さのバランスについての深い問いがあります。シンシアの加齢への不安や、エヴリンの欲望のエスカレーションは、関係性における力の不均衡や、相手の期待に応えるプレッシャーを浮き彫りにします。映画は、性的行為を直接的に描かず、暗示的な映像と対話で官能性を表現し、観客に想像の余地を残します。このアプローチは、ストリックランドの前作『Berberian Sound Studio』でも見られた、視覚と音響によるストーリーテリングの巧妙さを継承しています。
批評家からの評価は非常に高く、Rotten Tomatoesでは94%の支持率を獲得。The A.V. Clubは2015年のベスト映画4位、IndieWireは同年3位にランクインし、2010年代のベスト映画リストにも名を連ねました。ストリックランドは、ハンプトンズ国際映画祭でパイオニアリング・ビジョン賞を受賞し、フィラデルフィア映画祭ではグランド・ジュリー賞を獲得。商業的には、予算100万ドルに対し全世界で約17.5万ドルの興行収入にとどまり、限られた公開規模のため成功とは言えませんでしたが、カルト映画としての地位を確立しています。
キャスト
- シドセ・バベット・クヌッセン – シンシア：蝶学者でエヴリンの恋人。支配的な役割を演じるが、内心では葛藤を抱える。
- キアラ・ダンナ – エヴリン：シンシアの弟子兼恋人。従順なメイド役を演じつつ、強い欲望を秘める。
- モニカ・スウィン – ドクター・フラクシニ：ジェス・フランコ作品のベテラン女優。物語にレトロな雰囲気を加える。
- カタ・バーチ – ドクター・ルリダ：蝶学の講演者として登場。
- エステル・トンパ – ドクター・ヴィリダナ：脇役として物語を補完。
- ジタ・クラシュコ – ドクター・シュラー：講演会のメンバー。
スタッフ
- 監督・脚本：ピーター・ストリックランド
- 製作：アンドリュー・スターク
- 音楽：キャッツ・アイズ（ファリス・バドワンとレイチェル・ゼフィラ）
- 撮影：ニック・ノールトン
- 編集：マティアス・テッシ
- 衣装デザイン：アンドレア・フレシュ
- 美術監督：パキ・スミス
- 製作会社：ルック・フィルムズ、フィルム4
- 配給：プロタゴニスト・ピクチャーズ（英国）、サンダンス・セレクト（米国）、サルツゲーバー（ドイツ）
まとめ
以上、『バーガンディー公爵』の概要、女優の活躍、衣装・化粧・髪型、あらすじ、解説、キャスト、スタッフについて詳述しました。本作は、芸術性と感情的な深みを兼ね備えた作品として、映画愛好家に強く推薦される一作です。
レビュー 作品の感想や女優への思い