1977年6月18日、松竹配給で公開された日本映画『江戸川乱歩の陰獣』は、推理文学の巨匠・江戸川乱歩の同名小説を原作としたサスペンス作品。監督は加藤泰氏が務め、あおい輝彦氏と香山美子氏が主演を飾りました。カラー、ビスタサイズ、116分の上映時間で、変態性欲と殺人事件を軸に、妖艶な幻想世界を描き出しています。乱歩の復活作を映画化した本作は、陰影の効いた映像美と心理描写が特徴的。
基本情報
- 原題：江戸川乱歩の陰獣
- 公開年：1977年
- 製作国：日本国
- 上映時間：118分
- ジャンル：サスペンス
見どころ
江戸川乱歩の倒錯的エロティシズムの世界を、ローアングルを基調とする加藤泰一流の様式美で表現。香山美子が劣情を押し隠した乱歩的ヒロインを大胆な“艶技”で熱演。
女優の活躍
本作における女優たちの活躍は、物語の妖美さとサスペンスを支える重要な要素となっています。特に、香山美子さんは小山田静子役を演じ、主人公の寒川光一郎に助けを求める謎めいた美女として登場します。彼女の繊細な表情演技は、脅迫に怯える妻の内面的な葛藤を巧みに表現し、観客を物語に引き込む力があります。香山さんは当時、銭形警部の妻役などで知られていましたが、本作では妖艶な魅力を見せ、和装姿でスクリーンを魅了しました。彼女の演技は、乱歩作品のエロティックな要素を体現し、男優陣との緊張感ある対峙が作品のハイライトとなっています。
また、加賀まりこさんは増田芙美子役で、複雑な人間関係を織りなす女性として活躍します。彼女のクールでミステリアスな佇まいは、物語の謎を深め、心理的な深みを加えています。加賀さんの演技は、静かな存在感で周囲を支配するような迫力があり、乱歩の幻想世界を現実的に接地させる役割を果たしました。さらに、野際陽子さんは重要な脇役として、洗練された大人の女性像を披露。彼女の落ち着いた演技は、物語の緊張を高め、女優陣全体のバランスを整えています。
田口久美さんもヘレン・クリスティ役で登場し、異国情緒を漂わせるキャラクターを魅力的に演じました。女優たちは、単なる美しさだけでなく、乱歩の心理描写を体現する演技力で作品を支え、特に香山美子さんの妖艶さと加賀まりこさんの冷徹さが、男優中心の推理劇に女性の視点を加え、作品の多層性を高めています。これらの活躍により、本作は単なるミステリーを超えた人間ドラマとして評価されています。（約650文字）
女優の衣装・化粧・髪型
本作の女優たちの衣装、化粧、髪型は、1977年の日本映画らしい洗練された美意識を反映し、乱歩の妖艶な世界観を視覚的に強調しています。まず、香山美子さん演じる小山田静子は、主に和装を基調とした衣装で登場します。絹のような光沢を放つ着物は、淡いピンクや青を基調とし、裾の長い振袖スタイルが彼女の優雅さを際立たせます。この衣装は、脅迫される妻の繊細さと、秘められた情熱を象徴しており、歩くたびに揺れる袖がエロティックなニュアンスを加えています。化粧は、薄化粧を基調に、唇に鮮やかな紅を施し、目元を軽く強調した大人の色気を演出。髪型は、伝統的な日本髪をアレンジしたアップスタイルで、艶やかな黒髪をまとめ、簪で飾ることで上品さを保ちつつ、謎めいた魅力を醸し出しています。このビジュアルは、観客を釘付けにし、物語の幻想性を高めました。
加賀まりこさん演じる増田芙美子は、モダンな洋装を中心に衣装が選ばれています。タイトなドレスやブラウスにスカートの組み合わせが、彼女のクールなキャラクターにマッチ。色調は黒や紺のシックなもので、アクセサリーは控えめながらも洗練されたものを着用し、ミステリアスな雰囲気を強調します。化粧は、ナチュラルメイクにシャープなアイラインを加え、知的な印象を与えます。髪型は、ショートカットやボブを基調としたウェーブヘアで、当時のトレンドを反映しつつ、冷徹な視線を際立たせるスタイルです。この装いは、物語の現代的な側面を体現しています。
野際陽子さんは、大人びたエレガントな衣装で登場。ロングドレスやコートを着こなし、シルクの素材が光を反射する様子が美しいです。化粧は、完璧なベースメイクに深い赤のリップで、成熟した女性像を表現。髪型は、ゆるやかなウェーブのかかったロングヘアを下ろし、またはアップにし、状況に応じて変化させることで、多面的な魅力を示します。田口久美さん演じるヘレン・クリスティは、洋風のドレスで異国情緒を出し、ブロンドのウィッグやカールヘアが特徴的。化粧は、ボリュームのあるまつ毛とピンクのチークで、明るい印象を与えます。
全体として、女優たちの衣装は和洋折衷で、乱歩の時代を超えた幻想を視覚化。化粧と髪型は、1970年代の美学を基に、キャラクターの心理を反映した細やかな配慮が見られ、作品の芸術性を高めています。これらの要素は、照明の陰影と相まって、妖美な幻想世界を構築しています。（約850文字）
あらすじ
物語は、著名な探偵小説家・寒川光一郎（あおい輝彦）の元に、一人の美しい女性・小山田静子（香山美子）が訪ねてくるところから始まります。静子は寒川の熱心なファンだと自己紹介し、夫の小山田六（大友柳太朗）が謎の作家・大江春泥に脅迫されていると訴えます。大江春泥は、寒川のライバルで、怪奇趣味の探偵小説家として知られ、変態的な内容の作品で人気を博しています。静子によると、大江は小山田家の秘密を握り、金銭を要求しているとのこと。寒川は、自身の名誉と好奇心から、この事件に首を突っ込み、大江春泥の行方を追うことになります。
調査を進める寒川は、大江の周辺人物に接触します。まず、市川荒丸（川津祐介）という大江の知人を訪ね、春泥の奇行や過去の噂を聞きます。大江は、常に仮面のような存在で、女性関係のスキャンダルも絶えない人物です。一方、静子の夫・小山田六は、表向きは実業家ですが、裏で大江と関わりがあるようです。寒川は、増田芙美子（加賀まりこ）という女性からも情報を得ます。彼女は大江の元恋人で、春泥の異常な性癖を暴露します。大江は、女性を「陰獣」と呼ぶ変態的な幻想を抱き、実際の犯罪に手を染めている可能性が高いのです。
物語は次第に複雑化し、寒川自身が大江の罠に嵌まる展開となります。ある夜、寒川は大江の隠れ家らしき場所を発見しますが、そこには予想外の光景が広がっていました。大江は、仮面を被ったまま、女性たちを操るような儀式めいた行為に及んでいます。静子もまた、大江との関係が単なる被害者以上のものだったことが明らかになります。殺人事件が発生し、被害者は大江の関係者。寒川は、トリックを解明すべく奔走しますが、自身の内なる欲望も揺さぶられます。
クライマックスでは、大江春泥の正体が暴かれ、驚くべき真相が明らかになります。事件の裏には、嫉妬と復讐の連鎖があり、寒川は自らの限界を痛感します。静子との関係も、幻想と現実の狭間で揺れ動き、最終的に悲劇的な結末を迎えます。本作は、推理の過程で人間の暗部を抉り出し、乱歩らしいグロテスクな美学を展開します。（約750文字）
解説
『江戸川乱歩の陰獣』は、江戸川乱歩の1928年に発表された中編小説を基にした映画化作品で、乱歩の作家人生における転機となった一作です。乱歩は、それまでの本格推理から脱却すべく14ヶ月の断筆期間を経て執筆したこの小説で、変態性欲や心理的な闇をテーマに取り入れ、戦前探偵小説の新時代を切り開きました。映画版は、1977年のミステリーブームのさなか公開され、当時の製作費3億5千万円という巨額を投じた大作として注目を集めました。監督の加藤泰氏は、ヤクザ映画の名手として知られていましたが、本作ではローアングルや陰影の濃い照明を駆使し、乱歩の幻想世界を視覚的に再現しています。この手法は、寄りと引きのメリハリが効いており、観客に緊張感を与えます。
物語の核心は、主人公・寒川光一郎の心理描写にあります。彼は本格派作家として大江春泥を批判しますが、事件を通じて自身の内なる「陰獣」性を直視せざるを得なくなります。これは、乱歩が自己嫌悪から生んだテーマで、推理を超えた人間ドラマとして機能します。女優たちの活躍、特に香山美子さんの妖艶な演技は、この心理的な深みを強調。和装の衣装が、伝統と変態のコントラストを象徴します。また、脚本の加藤泰氏と仲倉重郎氏の共同執筆は、原作のエッセンスを損なわず、映画的なテンポを加えています。
文化的には、1970年代の日本映画が、ピンク映画の影響を受けつつ、芸術性を追求した時期に位置づけられます。本作は、成功した乱歩映画化の数少ない例として評価され、後の乱歩作品映画（例: 『八つ墓村』など）に影響を与えました。トリックの妙とアブノーマルな要素が融合し、極彩色の妖美幻想を浮かび上がらせますが、現代の視点からは、女性描写のステレオタイプが指摘されることもあります。それでも、乱歩の不気味な魅力は不変で、心理サスペンスの傑作として今も語り継がれています。スタッフの照明や音楽も、鏑木創氏のスコアが不気味さを増幅。全体として、乱歩の「陰獣」の本質を捉えた秀作です。（約850文字）
キャスト
- あおい輝彦 – 寒川光一郎（主人公の探偵小説家）
- 香山美子 – 小山田静子（謎の美女、脅迫の被害者）
- 大友柳太朗 – 小山田六（静子の夫、実業家）
- 川津祐介 – 市川荒丸（大江春泥の知人）
- 田口久美 – ヘレン・クリスティ（異国風の女性）
- 加賀まりこ – 増田芙美子（大江の元恋人）
- 尾藤イサオ – 青木民蔵（脇役の探偵関係者）
- 任田順好 – 佐々木初代（事件の関係者）
- 若山富三郎 – 本田達雄（重要な脇役）
- 野際陽子 – （女性脇役、洗練されたキャラクター）
- 倍賞美津子 – （追加の女性役）
- 中山仁 – （脇役）
- 仲谷昇 – （脇役）
- 藤岡琢也 – （脇役）
- 菅井きん – （脇役）
- 花柳幻舟 – （特別出演）
- 汐路章 – （脇役）
- 高橋祐次郎 – （脇役）
- 石井トミコ – （脇役）
- 桜町弘子 – （脇役）
豪華キャストが揃い、特にベテラン俳優たちの演技が物語の重厚さを支えています。（約450文字）
スタッフ
- 監督 – 加藤泰（ヤクザ映画の巨匠、乱歩世界を視覚化）
- 脚本 – 加藤泰、仲倉重郎（共同執筆、原作の心理描写を深化）
- 原作 – 江戸川乱歩（『陰獣』、1928年発表）
- 撮影 – 丸山恵司（陰影の美しい映像美を実現）
- 音楽 – 鏑木創（不気味で幻想的なスコア）
- 美術 – （詳細不明だが、幻想的なセットデザイン）
- 照明 – （陰影を活かした照明技法）
- 編集 – （テンポの良いカット割り）
- 録音 – （サウンドデザインで緊張感を高める）
- 製作 – 松竹（巨額投資の大作
- 配給 – 松竹（1977年6月18日公開）
- プロデューサー – （松竹のベテラン陣）
スタッフの連携により、原作のエッセンスを映画として昇華させた作品です。加藤泰監督のビジョンが全体を統括し、乱歩の妖美をスクリーンに投影しています。
レビュー 作品の感想や女優への思い