『ヨーロッパの幻想美術 世紀末デカダンスとファム・ファタール(宿命の女)』は、評論家・作家である海野弘氏が監修・解説を務めた美術書。
この本は、19世紀末から20世紀初頭にかけてのヨーロッパ幻想美術をテーマに、世紀末デカダンスの美学とファム・ファタル(宿命の女、男性を魅了し破滅に導く魔性の女性)をキーワードとして探求します。象徴主義からシュルレアリスムまでの美術運動を歴史的に紐解き、図像学(イコノロジー)の視点から分析。闇と驚異、夢と幻がゆらめく幻想美術の世界を、約400点のフルカラー図版を交えて紹介しています。
魅力
本書の魅力は、単なる美術史の解説にとどまらず、ファム・ファタルという象徴的な女性像を通じて、19世紀末のデカダンス文化や芸術の変遷を多角的に考察している点です。
ラファエル前派、アール・ヌーヴォー、アール・デコの要素も取り入れ、当時の美術の流れを総合的に捉えています。海野氏の幅広い知識(美術、文学、都市論など)が活かされ、専門家から一般読者まで楽しめる内容となっています。
ページをめくるごとに薔薇とドクロの遊び心あるデザインが登場するなど、視覚的な工夫も満載で、芸術書としてのエンターテイメント性が高いです。
全体として、幻想美術の成り立ちと広がりを、ファム・ファタールの図像学を通じて明らかにする一冊です。この本は、美術の専門書としてだけでなく、文化史やジェンダー論の観点からも価値があります。読者は、ヨーロッパ美術の暗部と美しさを同時に味わえるでしょう。
出版状況
本書は、2017年4月21日にパイ インターナショナルから刊行されました。ISBNは978-4-7562-4841-1 C0071で、仕様はB5判変型(257×186mm)、400ページ、フルカラー、ソフトカバーです。定価は本体3,800円+税(税込4,180円)。
海野弘氏が解説・監修を担当し、出版社のパイ インターナショナルは美術書やデザイン書を得意とする専門出版社です。初版発行以降、再版されており、2025年11月現在も新品・中古ともに流通しています。Amazon、楽天ブックス、紀伊國屋書店などのオンライン書店で入手可能で、新品価格は定価通り、中古は状態により2,000円~3,500円程度です。電子書籍版の情報は確認されていませんが、物理本の需要が高く、図版のクオリティを活かした紙媒体が主流です。
出版背景として、海野弘氏は1939年生まれの評論家で、早稲田大学ロシア文学科卒業後、平凡社で『太陽』編集長を務め、独立後には美術、映画、音楽、文学、都市論などの分野で活躍。著書多数で、本書は彼の幻想美術への深い洞察を反映したものです。発売当時は、世紀末美術ブームやファム・ファタールテーマの人気を受け、美術ファンから好評を博しました。現在も、美術館の展覧会やオンラインコミュニティで引用され、根強い支持があります。絶版の兆しはなく、書店在庫も安定しています。海外版の情報は未確認ですが、英語圏での類似テーマ書と比較して、ヨーロッパ美術の専門性が高いです。
あらすじ
本書は物語形式の小説ではなく、美術史の解説書ですが、内容の流れを「あらすじ」としてまとめると以下の通りです。
前半部は作家ごとに、後半部はテーマごとに分けられ、幻想美術の歴史を時系列で追います。
導入部では、19世紀末の世紀末デカダンスの文脈を説明し、ラファエル前派の影響から象徴主義の台頭を概観。ギュスターヴ・モローやオディロン・ルドンなどの作品を例に、ファム・ファタールの起源を探ります。
次に、アール・ヌーヴォーのアルフォンス・ミュシャやオーブリー・ビアズリーの挿絵を通じて、デカダンスの視覚表現を分析。20世紀初頭のシュルレアリスムに移行し、サルバドール・ダリやマックス・エルンストの作品で、夢と無意識のテーマを深掘りします。
後半では、ファム・ファタールの図像学に焦点を当て、神話や文学の女性像(サロメ、ユディト、メデューサなど)を美術史的に検証。例えば、オスカー・ワイルドの『サロメ』を基にしたビアズリーのイラストや、グスタフ・クリムトの『ユディト』を挙げ、女性の魔性がどのように描かれたかを解説。デカダンスの美学として、エロスと死の融合を強調します。
全体を通じて、約400点のフルカラー図版が挿入され、各章で作品の詳細な解釈を提供。結論部では、幻想美術の現代的意義をまとめ、シュルレアリスムの遺産を振り返ります。この構造により、読者は美術の歴史を追いながら、ファム・ファタルの進化を体感できます。海野氏のユーモアある文体が、専門的な内容をアクセスしやすくしています。
登場女性
本書に登場する「女性」は、ファム・ファタルとして描かれた神話・文学・美術の象徴的な人物たちです。これらは実在の女性ではなく、芸術家による解釈されたイメージで、男性を魅了し破滅させる魔性の存在として表現されます。主な例を挙げます。
サロメ
新約聖書由来の踊り子。オスカー・ワイルドの戯曲を基に、ビアズリーのグロテスクなイラストやモローの神秘的な絵画で描かれ、首切りとエロティシズムの象徴。
ユディト
旧約聖書のアッシリア将軍を誘惑し斬首した女性。クリムトの作品で、金箔と官能的な表情が特徴。強さと残虐性のファム・ファタール典型。
メデューサ
ギリシャ神話のゴルゴン。フランツ・フォン・シュトゥックの絵画で、蛇髪と石化の視線が恐怖と美を融合。
キルケ
ホメロスの『オデュッセイア』から。フェリシアン・ロップスの作品で、男性を動物に変える魔女として、変容のテーマ。
クレオパトラ
エジプト女王。エドガー・アラン・ポーの影響を受けたデカダンス美術で、贅沢と死の魅力。
カルメン
プロスペル・メリメの小説由来。情熱的ジプシー女性として、ムンクや他の画家で描かれ、マゾヒズム的な魅力。
ナジャ
アンドレ・ブルトンの超現実主義小説から。シュルレアリスムの文脈で、予測不能な魔性。
小括
これらの女性は、モロー、ルドン、クリムト、クノップフ、ミュシャ、ビアズリー、シュトゥック、エルンスト、ダリなどの芸術家により多様な解釈。ファム・ファタールは「悪女」の象徴として、世紀末のジェンダー観を反映しています。
メリット
この本を読むメリットは多岐にわたり、美術愛好家から一般読者までおすすめです。
まず、幻想美術の知識が深まる点。世紀末デカダンスやシュルレアリスムの歴史を、ファム・ファタールという切り口で学べ、専門書として信頼性が高いです。海野弘氏の解説は、絵画の具象を読み解く力が養われ、美術館訪問時の視点が変わります。レビューでは「図版が豊富でじっくり鑑賞できる」「遊び心あるデザインがワクワクする」と絶賛され、視覚的な楽しみが大きいです。
次に、文化史的な洞察。19-20世紀のヨーロッパ美術の流れ(ラファエル前派からアール・デコまで)を理解し、デカダンスのエロスと死の美学を体感。ファム・ファタールの分析を通じて、ジェンダー論や文学とのつながりを知り、現代のポップカルチャー(映画、マンガ)との関連も見えてきます。
読者からは「当時の美術の流れがよく分かる」「納得の本」との声が多く、教養向上に役立ちます。また、大型サイズのフルカラー図版(約400点)は、コレクション価値が高く、リラックスした読書に最適。ストレス解消やインスピレーション源として機能します。美術初心者も、海野氏の読みやすい文体で入りやすく、上級者には深い分析が魅力。
全体として、芸術の暗部と美しさを味わい、創造性を刺激する一冊です。



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