不眠症(インソムニア)は、睡眠の開始や維持に困難を伴い、日中の生活機能に支障をきたす状態。主な症状として、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠感の欠如が挙げられます。これにより集中力の低下、疲労感、イライラ、気分低下などが生じ、日常生活の質が大きく損なわれます。
慢性化するとうつ病などの精神疾患を悪化させたり、生活習慣病のリスクを高めたりします。日本では成人の約20パーセントが不眠症状を訴え、慢性不眠症の有病率は約10パーセント前後と推定されています。適切な早期対応が重要で、近年は認知行動療法が世界的に第一選択とされています。
特徴
不眠症の特徴は、単なる寝不足とは異なり、睡眠の質や量が不足することで日中の機能が低下する点にあります。夜間はベッドに入ってもなかなか眠れなかったり、途中で目が覚めたり、朝早く目が覚めてしまうことが典型的です。また、眠れたとしても熟睡した感じが得られず、朝起きたときに疲れが残る熟眠感の欠如もよく見られます。
これらの症状が週に3回以上、3か月以上続く場合に慢性不眠症と診断されます。日中には注意力散漫、記憶力低下、作業効率の低下、感情の不安定さなどが現れ、仕事や学業、人間関係に悪影響を及ぼします。重症化すると、運転中の居眠り事故のリスクも高まります。
主な症状の分類
- 入眠困難:ベッドに入ってから30分以上眠れない
- 睡眠維持困難:夜中に何度も目が覚め、再入眠が難しい
- 早朝覚醒:予定より2時間以上早く目が覚め、再眠れない
- 熟眠感欠如:睡眠時間は十分でも疲労が残る
自殺リスク
不眠症は自殺リスクを独立して高める要因として注目されています。研究によると、不眠症状がある人はない人に比べて自殺念慮や自殺企図のリスクが約2倍に上昇します。特に慢性不眠症では、うつ病を併発しやすいためリスクがさらに高まります。
統合失調症患者では、不眠症を有する場合に自殺リスクが約2倍になるとの報告もあります。また、うつ病患者の約90パーセントに不眠がみられ、不眠が持続すると希死念慮が増強されることが知られています。睡眠の乱れは脳内のセロトニン系やストレスホルモンのバランスを崩し、感情調整機能を低下させるためです。
実際の自殺死亡事例の分析でも、不眠症や睡眠障害の記載がある割合が高く、早期介入の重要性が指摘されています。不眠を訴える人は周囲が注意深く見守り、専門医への相談を促すことが自殺予防につながります。
原因
不眠症の原因は多岐にわたり、単一ではなく複数の要因が絡み合うことが多いです。心理的なストレスや不安、過度の心配事が入眠を妨げることが典型的です。仕事や人間関係のプレッシャー、喪失体験などが引き金となります。
生活習慣も大きな要因です。夜遅くのカフェイン摂取、アルコール依存、過度な運動やスクリーンタイム、交代制勤務などが睡眠リズムを乱します。また、加齢によるメラトニン分泌の減少や、更年期のホルモン変動も影響します。
身体的な原因として、慢性疼痛、呼吸器疾患、消化器疾患、心血管疾患などが挙げられます。
まれに解離性同一性障害の合併症になることもあり、精神疾患の併存も多く、うつ病、不安障害、PTSDなどで不眠が90パーセント以上に見られます。遺伝的素因や環境要因も関与します。
療法
不眠症の治療は、まず原因の除去と生活習慣の改善から始めます。世界的なガイドラインでは、認知行動療法(CBT-I)が第一選択とされています。これは睡眠に対する誤った考え方を修正し、適切な行動習慣を身につける方法です。
CBT-Iの主な技法には、睡眠制限療法(就床時間を実際の睡眠時間に近づける)、刺激制御療法(ベッドを睡眠と性行為のみに限定)、認知再構成(不眠への過度な不安を和らげる)があります。4~6回のセッションで効果が現れ、長期的に持続しやすいのが特徴です。薬物療法より脱落率が低く、再発防止にも優れています。
薬物療法は一時的な症状緩和に用いられます。ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、オレキシン受容体拮抗薬などが選択されます。しかし依存性や耐性の問題があるため、短期使用が原則です。CBT-Iと併用すると効果が高まります。
その他、生活指導として規則正しい起床時間、適度な運動、就寝前のリラクゼーション、寝室環境の整備が推奨されます。重症例では専門の睡眠医療機関での治療が必要です。
広がり
不眠症は世界的に増加傾向にあり、日本は特に有病率が高い国の一つです。厚生労働省の調査では、成人の約20パーセントが入眠困難や中途覚醒などの不眠症状を有し、慢性不眠症は約11.8パーセントと報告されています。高齢者ではさらに高く、50パーセント以上が何らかの睡眠問題を抱えています。
若年層でもストレス社会の影響で増加しており、ビジネスパーソンの約半数が不眠に悩むとのデータもあります。コロナ禍以降はさらに悪化し、テレワークによる生活リズムの乱れが問題となっています。
国際比較でも、日本人の平均睡眠時間は先進国で短く、世界保健機関も睡眠不足を公衆衛生上の課題と位置づけています。経済損失も大きく、労働生産性の低下や医療費増大を招いています。
著名人の罹患や対応
不眠症は芸能界でも多く見られ、松本人志は40年近く不眠症状を抱えていることを公表しています。ダウンタウンの番組で、深田恭子の適応障害休養をきっかけに自身の苦しみを語り、多くの共感を集めました。
霜降り明星のせいやは深刻な不眠を告白し、SNSで「不眠仲間が多い」とつづっています。24時間寝ていない状態で動画を公開し、ファンに心配されることもあります。
女優の森七菜は映画『君は放課後インソムニア』(2023年、伊咲役)で不眠症の高校生を演じつつ、自身も不眠に悩むと明かしています。癒やし音楽を3時間聴くなど試行錯誤を続けています。
高橋ひかるはバラエティー出演後の興奮で入眠が遅く、睡眠時無呼吸症候群の可能性も指摘されています。やす子はスタンフォード式睡眠法を実践し、改善した事例として注目されました。
上原さくらは25歳頃から不眠症で、睡眠薬との付き合いが20年以上続いています。2~3日眠れないと強い眠気に襲われると語っています。
海外ではマイケル・ジャクソンが重度の不眠症で睡眠薬に依存し、2009年にプロポフォール過剰投与で亡くなりました。
マリリン・モンローは慢性的な不眠症や不安障害に悩まされ、精神科医の治療を受けながら、バルビツール酸系薬物に依存。これが彼女の健康とキャリアに影響を与えました。
2005年2月22日の夜、韓国の女優イ・ウンジュは城南・盆唐の自宅アパートで手首を切り、首を吊って自殺。遺族は自殺の原因を重度のうつ病と精神疾患とし、映画『スカーレットレター』でのヌードシーンのせいで不眠症に悩まされていたと語りました。
2017年6月22日、チョア(AOA)は鬱病と不眠症のためAOAを脱退すると発表。薬による治療も試みましたが、精神的な健康状態の改善は見られなかったと述べました。
メディアによる描写
メディアでは不眠症はしばしば心理的な苦痛や精神崩壊の象徴として描かれます。映画『ファイト・クラブ』(1999年、ジャック)は、不眠症の主人公が現実感を失い、分裂人格を生む過程を鮮やかに表現しています。
『ザ・マシニスト』(2004年、トレバー・レズニック)は、1年間眠れない男の極限状態を描き、罪悪感と不眠の悪循環をスリラー調に展開します。クリスチャン・ベールが28キロ減量して演じた迫真の演技が印象的です。
『インソムニア』(2002年、ドーマー刑事、アル・パチーノ)は、白夜のアラスカで不眠に陥った刑事の判断力低下と倫理的葛藤を描いています。クリストファー・ノーラン監督の初期作です。
『贖罪の悪夢』(2024年、タクシー運転手)は、精神科医とタクシー運転手が織りなす緊張感あふれるプロット。
『ホーンティング』(1999年、エレノア・“ネル”・ヴァンス、リリ・テイラー)では、シャーリイ・ジャクソンのホラー小説『山荘奇談』のリメイク。不眠症治療の実験に参加するため、悲劇と不吉な噂により長年無人だったマサチューセッツ州のヒル・ハウスに赴きます。
『アイアンマン3』(2013年、トニー・スターク、ロバート・ダウニー・Jr)では、ニューヨークでの戦いで受けたトラウマに悩まされ、不眠症と不安発作に苦しむトニーが、アイアンマン・スーツの開発に没頭します。
日本ではドラマ『君は放課後インソムニア』で、高校生の不眠症が友情や恋愛と絡み、青春の葛藤として描かれています。近年はストレス社会の象徴として、芸能人の告白番組でも頻繁に取り上げられます。これらの描写は視聴者に不眠の深刻さを伝え、早期相談を促す役割も果たしています。
まとめ
不眠症は誰にでも起こりうる身近な疾患ですが、放置すると心身の健康を大きく損ない、自殺リスクや生活習慣病を高めます。原因を多角的に考え、CBT-Iを中心とした科学的治療を早期に受けることが重要です。生活習慣の見直しと周囲の理解が鍵となります。
日本社会では長時間労働やストレスが背景にあり、個人レベルの努力だけでなく、企業や行政の睡眠支援も必要です。質の良い睡眠は生産性向上や幸福感につながります。眠れない日が続くときは、迷わず専門医に相談してください。適切な対応で多くの人が改善しています。



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