映画「アナイアレイション 全滅領域」(2017年)は、米国製作のSFスリラー。謎の領域「シマー」に挑む女性科学者たちの探検を描く。ナタリー・ポートマン主演、アレックス・ガーランド監督。視覚的で哲学的な物語が展開し、人間の本質と変容を問う。
基本情報
- 邦題:アナイアレイション 全滅領域
- 原題:Annihilation
- 公開年:2017年
- 製作国:米国
- 上映時間:115分
- ジャンル:SF
見どころ
『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランドがナタリー・ポートマン主演で贈るディストピアムービー。謎の領域“エリアX”の異様にして魅惑的な世界が観る者を圧倒する。
あらすじ
生物学者のレナ(ナタリー・ポートマン)は、夫ケイン(オスカー・アイザック)が謎の任務から心身に異変をきたして帰還したことを知る。ケインの状態を探るため、レナは彼が探索した「エリアX」へ向かう。このエリアは、隕石の衝突後に形成された「シマー」と呼ばれる光の膜に覆われた異常地帯で、進入した者はほぼ帰還しない。レナは、心理学者ヴェントレス博士(ジェニファー・ジェイソン・リー)、地質学者のキャス(トゥヴァ・ノヴォトニー)、物理学者のジョシー(テッサ・トンプソン)、救急医療隊員のアーニャ(ジーナ・ロドリゲス)とともに、5人の女性科学者チームとしてシマーに突入する。
エリアX内部では、動植物が異様な変異を遂げ、時間の感覚が歪む。チームは互いの精神的な不安定さやシマーの影響に直面しながら、中心にある灯台を目指す。やがて、レナはシマーの起源と自身の内面の真実に向き合うことになる。物語は、科学的探求と哲学的問いを織り交ぜ、人間のアイデンティティや破壊と再生の本質を描く。
解説
「アナイアレイション -全滅領域-」は、ジェフ・ヴァンダーミアの小説「サザーン・リーチ」三部作の第一部「全滅領域」を原作とするSF映画で、アレックス・ガーランド監督の2作目(「エクス・マキナ」に続く)。本作は、従来のSF映画とは異なり、視覚的な美しさと哲学的な深みを融合させ、観客に解釈の余地を残す作品として高い評価を受けた。
テーマと哲学
本作の核心は「自己破壊」と「変容」だ。シマーは、生物の遺伝子を再構築し、予測不可能な進化を促す存在として描かれる。これは、人間が持つ自滅的衝動や、変化への恐怖と適応の葛藤を象徴する。レナの個人的な喪失感や夫との関係も、シマーの影響下で内省的に掘り下げられ、個人のアイデンティティが外部の力によって再定義される過程が描かれる。
視覚と音響
映画の視覚的表現は圧倒的だ。シマーの虹色に輝く光景や、変異した動植物の不気味な美しさは、観客に異世界への没入感を与える。特に、結晶化した木々や人間と植物が融合した姿は、CGIと実景撮影の絶妙なバランスで実現された。音響面では、ベン・ソールズベリーとジェフ・バロウのスコアが、静謐な旋律から不協和音へと変化し、緊張感を高める。クライマックスの抽象的なシーンでは、音と映像が一体となり、観客に強烈な印象を残す。
ジェンダーと科学
本作は、ほぼ全編にわたり女性科学者が主人公であり、ジェンダーに関するステレオタイプを打破する。彼女たちは単なる「ヒーロー」ではなく、恐怖や脆弱性を抱えつつも、知的好奇心と使命感で前進する。ガーランドは、科学者としての専門性を強調し、女性キャラクターに深みを与えた。
公開と評価
米国ではパラマウント・ピクチャーズが配給したが、予算(約4000万ドル)に対し興行収入は控えめ(約4300万ドル)だった。一部地域ではNetflixで配信され、カルト的な人気を博した。批評家からは、視覚美や哲学的テーマが絶賛される一方、難解さが一般受けしないとの指摘もあった。
女優の活躍
本作は、女性キャストのアンサンブル演技が際立つ作品だ。各女優が異なる背景と専門性を持つキャラクターに命を吹き込み、チームのダイナミクスをリアルに描いた。
ナタリー・ポートマン(レナ役)
主人公レナを演じたナタリー・ポートマンは、生物学者としての知性と、夫の喪失による感情的揺れを繊細に表現。彼女の抑制された演技は、シマーの影響で徐々に変貌するレナの内面を浮き彫りにする。特に、灯台での抽象的なシーンでは、身体表現と表情だけで複雑な感情を伝え、キャリア屈指のパフォーマンスを見せた。
ジェニファー・ジェイソン・リー(ヴェントレス博士役)
チームのリーダーである心理学者を演じたリーは、冷徹で謎めいた雰囲気を漂わせる。彼女の演技は、ヴェントレスの動機や過去を明かさずとも、観客に強い印象を与える。リーダーシップと自己犠牲の間で揺れる姿は、物語の哲学的テーマを体現した。
テッサ・トンプソン(ジョシー役)
物理学者のジョシーを演じたトンプソンは、静かだが強い意志を持つキャラクターを好演。彼女の繊細な演技は、ジョシーがシマーと一体化する選択をする場面で特に光る。トンプソンは、控えめながらも存在感を発揮した。
ジーナ・ロドリゲス(アーニャ役)
救急医療隊員のアーニャを演じたロドリゲスは、チームの物理的・感情的な支柱として活躍。シマーの影響でパラノイアに陥るシーンでは、激しい感情の爆発をリアルに演じ、観客に緊張感を与えた。
トゥヴァ・ノヴォトニー(キャス役)
地質学者のキャスを演じたノヴォトニーは、過去のトラウマを抱えるキャラクターに深みを与える。レナとの対話シーンでは、静かな共感と哀愁を表現し、チームの人間性を際立たせた。
女優の衣装・化粧・髪型
本作の衣装、化粧、髪型は、キャラクターの現実性とシマーの非現実性を対比させるデザインが特徴だ。
衣装
チームの衣装は、軍用スタイルの実用的な装備で統一されている。カーキ色の戦闘服、ブーツ、バックパックは、科学者たちが危険な探検に臨む姿勢を強調。衣装は動きやすさを優先しつつ、微妙な汚れや摩耗が加えられ、過酷な環境を表現した。終盤、レナがシマーの影響を受ける場面では、衣装の色調が微妙に変化し、視覚的に変容を暗示する。
化粧
化粧はほぼナチュラルで、科学者たちの実務的な姿勢を反映。汗や泥で汚れた顔は、シマーの過酷な環境を強調する。ポートマンは特に、疲労と感情的動揺を表現するため、薄い化粧で目の下のクマや肌の荒れを自然に見せた。ヴェントレス博士役のリーは、鋭い視線を際立たせるため、眉とアイラインをわずかに強調。
髪型
髪型は機能性を重視。ナタリー・ポートマンのレナは、シンプルなポニーテールで、生物学者としての真面目さな印象を与える。トンプソンのジョシーは短めの髪をそのまま下ろし、控えめな性格を反映。ロドリゲスのアーニャはタイトな編み込みで、活動的な役割を表現。リーのヴェントレスは、グレーのショートカットで年齢と威厳を強調。ノヴォトニーのキャスは、乱れたポニーテールでトラウマを抱える不安定さを示唆。
キャスト
- レナ:ナタリー・ポートマン(生物学者、主人公)
- ヴェントレス博士:ジェニファー・ジェイソン・リー(心理学者、チームリーダー)
- ジョシーのジョー:テッサ・トンプソン(物理学者)
- アーニャ:ジーナ・ロドリゲス(救急医療隊員)
- キャス: トゥヴァ・ノヴォトニー(地質学者)
- ケイン:オースカー・アイザック(レナの夫、軍人)
- ロマックス:ベネディクト・ウォン(エリアXの尋問官)
スタッフ
- 監督・脚本:アレックス・ガーランド(「エクス・マキナ」「28日後…」の脚本家)
- 原作:ジェフ・ヴァンダード(「サザーン・リーチ」シリーズ)
- 製作:スコット・ルディン、アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライド、アリック・ライク
- 撮影:ロブ・ハーディー(自然光を活かした幻想的な映像)
- 音楽:ベン・ソールズベリー、ジェフ・バーロー(不協和音と静謐な旋律)
- 編集:バーニー・ピリング(抽象的なシークエンスの構成)
- 視覚効果:アンドリュー・ホワイトハースト(シマーの異世界を再現)
まとめ
「アナイアレイション 全滅領域」は、視覚的にも哲学的にも挑戦的なSF映画。ナタリー・ポートマンを始めとする女優たちの繊細な演技、実用性と象徴性を兼ね備えた衣装・化粧・髪型、ガーランドの独自の演出が、観客に深い思索を促す。本作は、科学と人間の境界を問う作品として、SF映画の新たな地平を開いた。
レビュー 作品の感想や女優への思い